表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DD ダンジョン殺しのダンジョンマスター <第1部>  作者: 穂麦
第2章 ヴァートゥハイル大陸
70/72

第66話 終わり逝く世界 黄金剣

 ダンジョンへ足を踏み入れると、違和感が生じる。

 これはダンジョンが別世界に伸びており、そこに足を踏み入れたため。


 海底においてリシュがダンジョン殺しを過去に行ったとき、その余波を受けたモンスターの体は崩れた。

 これはダンジョンから生まれたモンスターが持つ異世界の法則。

 それがダンジョン殺しの影響でが崩れ去ったため。


 ダンジョン殺しの力はダンジョンの支配権を奪う力。なぜ、この能力はダンジョンの支配権を奪えるのか?

 それはダンジョン殺しの力は、ダンジョンという異世界をリシュが支配権を持つ世界に塗り替えるため。


 このことからダンジョン殺しの力は、1つの世界を別の世界に作り替えているとも言える。


 リシュはこれまでダンジョンのみにしか、ダンジョン殺しの影響を与えることができなかった。


 だが聖霊の力を得たことで状況は変わった。

 彼はルシェ・ファルマーとなり、その力の制約を解かれたのだ。


 今やダンジョン殺しの力は、万物に影響を及ぼす。


「ダンジョン・キル」


 ルシェの言葉と共に広がる違和感。

 その違和感は、世界の何かを変えた。


 まず、ダンジョンに広がっていた”無”による虫食いが消えた。

 

 次にディザスターが呼び出したモンスターたち。

 彼らを守っていた”無”という名の法則が消えて、影のような姿から黒い姿へと変化した。


 無数に存在していた影のモンスターたちは、次々に体を黒い実態へと変化させていく。

 次々に影のモンスターに変化は起こり、最後にディザスターを変化させた。


 ディザスターの姿は変わっていない。

 しかし、ガラスが砕けたような音ともに、何かが砕け散った。


 ”無”とは無い状態。

 有るか無いかを論じるための法則すらない状態。


 ”無”への対応方法は単純だ。

 無いのなら作れば良いだけなのだから。


 しかし、それを行えるのは神のみだ。

 なぜなら、それは無から有を生み出すのと同意義なのだから。


 しかし、ルシェの力で”無”は彼が作り出した世界に上書きされた。

 もう、ディザスターを守っていた”無”の力は存在しない。


「ソーサラー」


 ルシェの言葉と共に、23体のソーサラーが呼び出された。


「陣形魔法を準備」


 指示を出すと、一斉に動き始め、ルシェが思い描く陣形を汲む。


 その間も迫りくる黒いモンスターたち。

 壁として放ったルシェの魔物は、すでに倒されて大半が消え去っている。

 しかし、ルシェの顔に焦りはなく、ただ美しい笑みを浮かべるのみ。


陣形雷魔法サンダー・クラップ


 美しい声が周囲に響くと共に、天より無数の雷撃が降り注ぎ始める。

 天を見上げれば、これまであった石で作られた天井には、膨大な数の魔方陣が刻まれていた。

 

「UGAaaaaaaaaaaaa」

「Gyuuuuuuuuuuuuuuuuuuu」

 

 黒い魔物たちは、悲鳴を上げながら炭となった者から消えていく。

 魔方陣より降り注ぐ雷は、下級の魔物であれば一撃で炭へと変えるほどの威力を持っていた。


 それは禁呪。


 威力故に、また術者の命を貪るが故に禁忌とされた術。



 前世においてリシュは、力を求めて多くを学んでいる。

 多くの魔法体系を学びはしたが、治癒魔導士の制限を越えることはできなかった。


 そんなリシュの考えた物に、人を魔方陣の要所に置き、巨大な魔方陣を作るという陣形魔法がある。

 しかし、人間に対する反動や、魔法発動タイミングの難しさなどがあり断念せざるえなかった。


 転生してからも何度も試した。


 彼が転生後に陣形魔法を試したのには理由がある。

 人間のころでは不可能だった、タイミングや魔力の質という問題は、モンスターを使用することで対処が可能となったからだ。


 しかし、魔力の質やタイミングを合わせることは、当初リシュが想っていたよりも遥かに難しく、神がかった技術が必要だと判明する。

 陣形魔法の実現には、モンスターたちを自分の体の一部であるかのように扱うことが求められたのだ。


 故に諦めざるえなかったのだが──ルシェとなり、状況が変わった。


 念を使った会話により、モンスターを己の手足のごとく使える統率が可能となった。


 この能力は、モンスターという生物を作成し、管理運営するほどの演算能力を持つダンジョン・コアに由来する。

 ルシェとなった今、ダンジョン・コアの演算能力を遠く離れていようと、自在に使えるようになったのだ。


 だからこそ彼は振るえる。


 人外の力を。

 人の身では不可能な力を。

 人が決して踏み入れることのできない領域の力を。


 ルシェの声と共に落ちた雷光。直撃を受けたモンスターは一瞬で炭と化していく。


 脅威は、無数に降り注いぐ雷だけではない。

 落ちるたびに、地を伝わる電撃が数十単位のモンスターを葬り去る。


 それは神のごとき、絶対的な力だった。


 蹂躙、虐殺、破壊、暴力──この状況を表すとすれば、圧倒的な力で一方的に葬り去る言葉のみが当てはまることだろう。


 だが、強大な力も終わりを迎える。

 僅かばかりのモンスターを残し、天井に刻まれていた魔方陣は消え去った。


「GUoooooo」


 ルシェが使ったのは禁呪。

 使用者の命を貪る、自死の魔法。


 魔法が終えると共に、リシュを中心に陣形を組んでいたソーサラー達が倒れていく。

 全身から紫の炎を吹き出しながら崩れ去るソーサラー。

 彼らからは呻き声をあげながら、その役目を終えていく。


「うまくいったか」


 23体のソーサラーが死に絶える中、魔方陣の中心に立つ美しき人は、涼しい顔で何ごともなく立ち続けている。

 ルシェは、禁呪による負荷を全てソーサラーに背負わせることで、己へのダメージを0にしていた。


 本来なら、絶大な威力を持ちながら。対価として命を必要とする禁呪。

 だがルシェは、モンスターを生贄にすることで何度でも使用できる。


「来い」


 しかも、ルシェの能力であれば、生贄となるモンスターを好きなだけ呼び出せる。

 ルシェの言葉と共に、再び呼び出されたソーサラー達。


「……来い」


 ディザスターもまた、モンスターを呼び出す。

 ディザスターは、ゴブリンやコボルトなど低級ではあるが、200のモンスターを呼び出している。


 一方でルシェ側は32のモンスター。

 圧倒的な戦力差ではある。

 だが──


「陣形魔法を準備」


 再び23体のソーサラーが陣形を組む。


「リビングアーマー、構えろ!」


 ソーサラーに陣形魔法の準備を行わせながら、己の前でリビングアーマーに剣を構えさせた。

 そして、陣形魔法の準備を終えたリシュは、再び地獄を顕現させる。


陣形炎魔法フレイム・クラップ


 ディザスターと共に進行する黒いモンスターたち。

 今回、彼らを襲ったのは、地獄のような炎だった。


 石畳には、無数の赤い魔方陣が描かれている。

 魔方陣から天に向かって吹き出る業火。


 ディザスターの呼び出したモンスターは、次々に焼き払われていく。

 死体すら残らない圧倒的な火力。


 200あった敵の数は瞬く間に半分となった。

 だが、恐怖を知らぬ黒いモンスター達はひたすら歩き続る。

 さらに悪いことに、ディザスターは、未だに無傷だ。


(やっぱり効かないか)


 ルシェの力によって、ディザスターの完全な守りは打ち砕かれた。

 ディザスターの守りは、”無”による守り。法則が関わった攻撃を一方的に無かったことにするというもの。


 ルシェの力で、”無”による守りは取り払ったが、ディザスターそのものが持つ守備力が消えたわけではない。


「リビングアーマー、敵を倒せ!」


 ルシェの言葉と共に、リビングアーマーは走り出した。

 未だに足元からは地獄の炎が噴き出している。しかし、どこから炎が噴きでるかは、ルシェの念によってリビングアーマーには伝わっており、彼らが被害に遭うことはない。


「ダンジョン・マスター最上位権限使用。リビングアーマーのクラスをダークアーマーに。レベルを9に!」


 ルシェは、一度のダンジョン殺しで、一度しか使えない最上位権限を使用した。

 すると、唯一ルシェの下に残っていたリビングアーマーは、光を放つと前進を黒い鎧へと変える。


 体も2メートル以上と、元となったリビングアーマーよりも一回り大きい。

 更に金色の細工が鎧のあちこちにされており、その姿には高位の騎士を連想させる高貴さがある。


「ダークアーマーよ。ディザスターを倒せ!」


 リシュの声と共に走り出したダークアーマー。

 その足取りは、リビングアーマーとは比較にならない程に早い。

 右手に持つ上質な剣と、黄金の細工が施された鎧は、騎士の誇りを表しているかのようにも思える。


 ルシェの最高戦力であるダークアーマーは、ディザスターへと剣を振り下ろした。


 剣が激しい音ともにブツかり合う。


 何度もこの場所に響く、ダークアーマーとディザスターの剣音。それは、周囲から聞こえる剣の触れあう音とは、明らかに違っていた。

 その音は重くはあるが、戦場に在るどの音よりも澄渡っている。


 疲れることのない体を持つ、ダークアーマーとディザスターの攻防は、長期戦になると思われた。


 しかし、これは試合ではない。

 ただの殺し合いだ。


 美学など存在しないこの場所で、圧倒的な暴力で殺し合いを終わらそうとする者がいた。

 その者は、左の人差し指に着けた指輪に膨大な魔力を集めている。


 徐々に指輪から放たれる、蒼い光は強さを増していく。

 澄渡すみわたった光の中で、銀色の髪をたなびかせるルシェ・ファルマー。


 蒼い光の中で、彼は指輪を美しい唇に近付けて語りかける。


「ヴァルゴよ」


 彼の指に光るのは、ヴァルゴの指輪。

 かつて1人の勇者に、聖霊が自らを封じて与えたこの世においてもっとも神聖なる神具。


「この戦いを終わらせる……力を貸せ!」


 これまでにない激しい口調での言葉だった。

 彼の言葉と想いに応えるかのように、指輪の蒼き光は、いっそう激しく眩い光を放つ。


『ええ、終わらせましょう…………この戦いを』


 澄渡った声が、辺りに広がった。

 と、同時に激しい蒼い光は、穏やかな黄金の光へと変わる。


 穏やかでありながら、目を開けていられない程の光。

 その中に、影が見える。


 光の中に彼女はいた。


 彼女は、全身に粒子となった黄金の光を纏い目を閉じている。


 金色の髪に青い瞳。薔薇色の唇。

 全身を蒼い鎧に包み込み、背からは黄金の羽根が伸びている。


 彼女は、戦乙女と称するべき強さと神聖さを兼ね備えた姿を持つ天上の存在。


 名はヴァルゴ。

 9の数字を司りし聖霊。


 正義を象徴する黄金剣を振るい、その剣閃は全てを切り裂く。


 ヴァルゴの力は、行使に莫大な魔力を必要とする。

 故に、人だった頃のリシュは己の命を対価としても、不完全な形でしか行使できなかった。


 だが、聖霊にして魔王、ルシェ・ファルマーの膨大な魔力を持ってすれば──ヴァルゴは真の力を行使できる。


「ヴァルゴ」

『リシュ』


 目を合わせることなく交わる想い。

 2人の目は、倒すべき敵に向けられている。


 周囲へと漏れた光が黄金剣に集まっていく。

 黄金剣に集まった光は、強大過ぎるほどの力になるも、そこから更に力を高め続ける。


 圧倒的な力。

 それは正義の名に相応しき、絶対的な断罪の力。

 正義の名の元に、無より出ずるディザスターの存在そのものを消し去るための力。


 やがて黄金剣は光の剣へと変わった。


「ヴァルゴよ」


 美しい声が周囲に響いた。

 天上の歌声のようにも聞こえる声が。


 だが、それは終わりを告げる死神の声。

 全てを滅する乙女に力の行使を命じる声。


「ディザスターを……殺せ!」


 今こそ、戦乙女の剣に収められた絶対の力を解き放つ時。


『はい』


 宝石のような青い瞳が、強い光が宿ったように感じられた。

 瞳に気を取られていると、いつの間にか黄金の羽根が一層大きく広げられ、彼女は飛び去る。

 

 同時にディザスターとダークアーマーの戦いにも変化が起こる。


 これまで激しく斬り合っていた両者。

 しかし、突如としてダークアーマーは守りを捨てた。


 受け入れたのだ。

 ディザスターの剣を。


 ディザスターの振り下ろした剣が、肩口から腹部にまで達すると──ダークアーマーはディザスターを抱きしめて動きを封じた。


 このとき、ヴァルゴはディザスターに向かって真っ直ぐに飛んでいた。

 戦場を滑空するかのように、風のようなスピードで。


 すでに陣形魔法と、モンスターにより障害物は何も無い。

 ルシェからディザスターへと開かれた道を、戦乙女は風となり飛翔していた。


 そして、眼前に動きを封じられたディザスターを捉えると、光の剣に両手を添え──風は光へと変わった。


 剣はいつ振るわれのだろうか?


 ヴァルゴが、ディザスターの遥か後方に姿を現したとき、全てが終わっていた。


 最初、ダークアーマーの背に線が見えた。

 次に、その線から虹色の光が噴きだした。


 ここで、ようやく斬られたという事実に現実が追いつく。


 ダークアーマーの体が、剣線にそって崩れる。

 同時にディザスターの体も、ズレるように地に引きずられていく。


 しかし、どちらの体も大地につくことはなかった。


 何故なら、地面に引きずられる途中で、どちらの体も虹色の光となって消えたからだ。


 終わった。

 全てが終わった。

 そう、何もかもが終わったのだ。


「…………」


 戦いの終わりを、何の感情も示さずに見ていたルシェ。

 彼が白い杖を一振りすると、作り出されたモンスターと共に、ヴァルゴも消えた。


 辺りに残ったのは静寂。

 静寂にしばらく耳を傾けたルシェは振り返る。

 そして通路の奥へと還っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ