表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DD ダンジョン殺しのダンジョンマスター <第1部>  作者: 穂麦
第2章 ヴァートゥハイル大陸
64/72

第60話 命を失いし迷宮

 ダンジョンは、壁自体が光を発していることが多い。

 このため灯りを必要とすることは少ないのだが、この場所は違っていた。


 岩を削って作ったかのような壁には、ところどころ虫食いのような穴があいている。

 その穴が原因なのであろうか? 壁が放つ灯りは通常のダンジョンよりも儚く弱々しい。


「ひどくなってきましたね」

「そうだね」


 ダンジョンの虫食い穴──”無”は、奥へと行くにつれて酷くなっていく。

 空気も心なしか冷たいものになっているように感じられる。


「ティア、大丈夫?」

「大丈夫」


 感知能力が高い妖精。

 ダンジョン・マスターとはいえ、一応は人間であるリシュ。

 ティアが感知能力の高さ故に、このダンジョンが放つ異様さに当てられていないかが気になった。


 弱々しい声での返事だ。

 小さな体は、わずかにだが震えているように感じた。

 しかし彼女は、仲間を探そうと覚悟を持ってリシュと行動を共にしている。

 これ以上の心配は、その覚悟を侮辱する行為になるように感じて、それ以上の言葉を紡ぐことはなかった。

 


 *


 ここまで来るのに、モンスター1匹たりとも出会うことはなかった

 そのせいで、警戒心が空回りしているのだろうか? 

 空気がいっそう冷たくなったように感じる。


「やっぱり、何も出ないね」

「うん……」


 この虫穴だらけのダンジョンに入ってから、モンスターが全く出ない。

 そのことが、どうしようもなく不気味に感じられる。


「どうしました?」

「……いや、なんでもないよ」


 サクヤとティアも、モンスターが全く出ない現状に不気味さを感じているはずだ。

 しかしリシュは、彼女たちよりも一層深い不気味さを感じていた。

 

「死んだダンジョンか……」

「なにか?」

「独り言だよ」


 思わず口から零れた言葉。

 それは拾ったサクヤにリシュは、笑みを返す。


(本当に死んでいるみたいだ)


 ダンジョン・コアが破壊されれば、ダンジョンは消滅する。

 しかし、このダンジョンは別の形で死んでいるように感じられる。


 侵入者を葬るはずのモンスターはおらず、奥へと進む者の足を止めるトラップもない。

 まるで生きる意思を失ったかのようだと、リシュは感じていた。


 *


 更に奥へと進んだ。

 これまでダンジョンのあちこちに開いていた虫食いの穴は、一層大きな物になっている。中には通路を完全に喰い尽す程の物すらあった。


 そのため、道を何度も戻りながら、別の道を進むハメになり、思いのほか時間を浪費している。


「大分、奥に来たね」

「ええ、少し疲れましたね」


 周囲を見回すも、全くモンスターが見当たらない。

 そのため、サクヤとティアは油断をしているようだ。


「…………」


 注意しようとしたが、やめることにした。

 リシュ自身も、無に喰われたダンジョンの光景を見て疲れている。

 油断という形でも、心が休まるのならそれで良いと感じた。


 その分、自分が今は警戒すれば良いと考えたのだが──


「……すごいね」

「なにがでしょうか?」


 虫食い穴でダンジョンがボロボロになっているこの場所。

 そんな異常な環境で油断することができる2人。

 彼女たちの図太さに、本音がわずかだが漏れてしまった。


 それから更に奥へと3人は進むと、リシュはダンジョン・コアの存在を感じ取る。


「! もう少しでゴールみたいだよ」


 リシュの言葉で、サクヤとティアは前を見る。

 そこには──


「あれは……」

「?」

「マスタールームを守っていた門だろうね」


 目の前にあるのは、広大な部屋だった。

 本来であれば、ダンジョン・マスターとの戦闘が待っていたであろう部屋。

 しかし今は、激しく侵食された部屋の光景と、壊れかけた金属製のドアが広がっているだけだった。


「寂しいものだね」

「ええ」


 これまでダンジョン殺しを行いながら、リシュたちは多くのダンジョン・マスターを葬ってきた。 

 ダンジョン・マスターとの戦いは、いずれも激しいものだった。

 彼らとの戦いを思い返すと、この静寂が感じさせる寂しさをいっそう強く感じさせる。 


「行こうか」

「ええ」


 原型をわずかに留めるだけの扉。それをくぐり、更に先へと進む。


 *


「コアは機能の大半を失っていた。そして……」


 最深部へとたどり着いたリシュは、すでにダンジョンの支配権を奪っている。

 しかし、その瞳は普段の穏やかな物へはまだ還っていない。


「存在しないハズの通路か」


 コアの前に立つ彼は、更に奥へとつながる通路の先にその眼を向けた。


「これは一体」

「……やっぱり、普通のダンジョンではなかったみたいだね」


 更に奥まで伸びる通路へ向けるリシュの瞳には、強い輝きが宿っている。

 その瞳が見ているのは決して希望ではない。

 彼が見ているのは、これから自らを襲うであろう未知という名の脅威だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ