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DD ダンジョン殺しのダンジョンマスター <第1部>  作者: 穂麦
第2章 ヴァートゥハイル大陸
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第58話 守り神の災厄

 薄暗い空間の中に、無数のモニターが宙に浮かんでいる。

 周囲の壁は金属質で、SFの世界を思わせる光景だ。

 この空間の中心で椅子に座るリシュは、モニターの一つを眺めたまま固まっていた。


「…………」

「現実を受け入れようね」


 モニターを呆然と眺め続けるリシュの肩に乗る妖精が、悲しげな表情で言った。


「なんで、こんなことに」


 リシュの隣に用意された椅子に座るサクヤは頭を抱えている。

 彼女が頭を抱える原因は、リシュが固まってしまった理由と同じだ。

 その理由とは──


「まさか、昨日の今日でドラゴンが……」


 ようやく停止していた思考が働きだしたリシュ。

 思考が働き始めた彼が最初に口にしたのは、モニターに映し出された惨状だった。


「全滅しましたね」


 宙に浮かぶモニターでは、一方的にしょくされていくコボルト達がいた。

 ドラゴンがコボルトを喰らう様は、まさしく”踊り食い”と呼ぶにふさわしい光景だ。

 巨大な口からはみ出たモンスターの手足は、飲み込まれるまで必死に動いており、地獄絵図がモニターの先では展開されている。


「これ、ただのドラゴンじゃないよね……絶対」

「……溶けていますからね」


 サクヤが眺めるモニター。

 そこでは、ドラゴンの体から流れ落ちた液体がスケルトン達を溶かしている。

 明らかにドラゴンの体から流れているのは、溶解性の物質だ。


「ヘル・ドラゴン」

「それが、このドラゴンの名前でしょうか?」

「本で見かけた程度だけど……特徴がそっくりなんだ」


 リシュは苦笑いを浮かべている。


「どんなモンスターなの?」

「アンデッド化したドラゴンの中でも最悪って言われているんだ」

「最悪って……」


 不安げに訊ねるティア。

 泣き出しそうな声の妖精の顔を見る勇気のないリシュは、目を逸らしたまま話し始めた。


「国を1つ滅ぼしたらしい」

「それ、私たちでは絶対に勝てませんよね」

「付け加えるのなら、退治できたんじゃなくて寿命だったみたい」

「…………」


 そう言うと、再びリシュはモニターに目を向けた。

 モニターに映し出されているのは先ほどのドラゴン。


 体はところどころ溶けて、白い骨や臓器、筋繊維が見えている。

 更に体の表面を伝わって黒い液体が床へと落ちていた。

 その体は巨大の一言で、頭部のみを見ても成人男性一人ぐらいなら一口でいけるほどもある。


「…………寿命が尽きるのを待とう」

「あれを、そのままにするの!」

「さすがにそれは……」


 リシュの無責任すぎる言葉にティアとサクヤは珍しく反発した。

 なぜなら、ヘル・ドラゴンの誕生にはリシュが深く関わっているからだ。


「あれ作ったのリシュなんだから責任取らないと!」


 昨日リシュは、半アンデッド化した化石をダンジョンに放置する。

 翌日になってモニターを見たら、ヘル・ドラゴンがダンジョンのモンスターを美味しく召し上がっていた。

 その光景を見たリシュが現実逃避をした結果が、本文の最初だ。


「仕方ない。もったいないけど処分することにするよ。サクヤ、着いてきて」

「えっ、私じゃあ絶対に勝てませんよ! 死にたくありません!」


 必死にリシュの誘いを拒否するサクヤ。

 病的なまでにリシュ萌えな彼女にしては、珍しい光景だ。

 それだけヘル・ドラゴンが作り出した惨状が衝撃的だったのだろう。


「あそこのダンジョンのコアを破壊するだけだよ」

「……本当に大丈夫なのですか」


 恨めしそうな目でリシュを見るサクヤ。

 それは彼女にしては珍しく、邪なリシュへの想いが一切ない瞬間だった。


「その大丈夫が何を指しているのか分からないけど、ヘル・ドラゴンなら大丈夫だと思うよ」

「…………」


 目尻に涙を蓄えて無言でリシュを見続けるサクヤ。

 邪な想いをリシュに抱くことを除けば、大和撫子系統の美少女だ。

 この姿を見れば、どんな男でも心を奪われるだろう。


 だが、この場にいる男性はリシュのみ。

 毎日鏡の前で、人智を超えた美少女を見ている彼にとってはタダの泣き顔にすぎなかった。


「体が大きすぎて、部屋から出られないみたいだからね」

「えっ」


 リシュの言葉に驚き再度モニターを見ると、ヘル・ドラゴンの後ろに見える通路は、この巨体が通れる物ではない。

 

「…………」

「…………」

「……間抜け」


 ヘル・ドラゴンの身に降りかかっていた悲劇。

 それを知らされたと同時に生まれた沈黙を破ったのは、ティアだった。

 驚異的な能力を誇るからこそ、一層その間抜けな状況が際立って見える。


「先ほど、寿命が尽きるのを待つと言ったのは?」

「ヘル・ドラゴンは、寿命で死んだって教えたよね」

「はい」

「ヘル・ドラゴンは、地上に出るとどんどん体が溶けて最終的には骨だけになるから寿命が短いらしいんだ。現に体が液体になっているしね」


 リシュがそう言うと、再びモニターを見るサクヤとティア。

 体が溶けている。それは例の溶解性の液体が関連しているのだろう。

 溶けた肉体が液体になるのか? 液体があるから肉体が溶けていくのか?


 どちらが答えなのかは、先ほどリシュを責めてしまったせいで、これ以上は恥ずかしくて聞けなかった。


「だから、身動きもとれないから、数日間放っておけば問題はなくなると思うよ」

「……(ごめんなさいリシュちゃん。こんなに天使なのに疑っちゃった)」


 先ほどまで危機感で満たされていたサクヤの脳。

 危機が去った今、危機が占めていたスペースを邪な想いが再び占拠し始めていた。

 結局このあと、暇なリシュたちは状況を見守ることにした。

 すると2週間が経ったころ、ヘル・ドラゴンの肉は全て失われ、骨となり朽ちる。


 ダンジョン・コアの管理から外れた存在である突然変異モンスター。

 それは、ダンジョン殺しを使用して倒さねば作成可能にはならない。 

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