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第3話 呪われた女性

2/22改投

 ~冒険者ギルドにて~


 しばらく待つと、ポーションの査定が終わった。

 昔の体だった頃の相場と比べても大きな変化はないようだ。


 (当面の生活費にはなるか)


 手持ちの資金に不安のある現状。

 ポーションならまた作れば良いと自分に言い聞かせながら提示された金額で手を打つことにした。


 少しだけ懐が温かくなったのを感じていると、今は姿が見えず声も聞こえない。

 そんな小さき命が、お菓子をねだっているのを感じた。


「お菓子は2つまで大丈夫そうだよ」


 小声で姿無き妖精へと伝えると、嬉しそうにしている気がしたのは勘違いではないだろう。


 もう、ココには用がない。

 そのように思い冒険者ギルドを出ようとした。


 そして出入り口のドアに手を伸ばすと──リシュの手が触れる直前に扉が開いた。


「すまない。道を空けてもらえないか」


 ドアを開けたのは鎧姿の男だった。

 彼の姿は冒険者が好む胸当てや小手など、最小限の金属製防具を身に付けただけの軽装だ。


 焦った様子の男。

 息を切らしながら入って来た彼の後ろには、顔色の悪い人物を背負った大柄の男性がいた。


 素直に道を譲ったリシュは、様子を窺うためしばらくギルドに残ることを選んだ。


「アナベルさん!」


 カウンターから大きな声を出したあと、先ほど冒険者登録をしてくれた女性が冒険者の元へと走った。


「彼を奥に」

「ああ」


 2人のやり取りが終わり、奥へと背負われた人物が運び込まれる。

 と、そのやり取りの後、ギルド全体が騒がしくなった。


「坊主、冒険者って言うのは、さっき背負われていたヤツみたいになることがある危険な仕事だ。気を付けな」

「……はい」


 長く冒険者をやっているであろう人物がリシュの隣で言葉を掛けてきた。

 対してリシュの返答はそっけない物ではあったが彼なりにアドバイスを送ってくれた冒険者に配慮したつもりだった。


「ま、気を付けるんだな」


 深く被るフードの上から頭を強く撫でて冒険者は、その場を離れた。

 もう少し愛想の良い返事ができたのではと思いながらも、ギルドの奥に運び込まれた人物のことが頭から離れない。


「ヴァルゴ」


 ブルーの宝石が付けられた銀台の指輪に、リシュは小声で話しかけた。


『はい』


 指輪からの声はリシュの頭の中に直接響く。

 その感覚に慣れていない彼は不快感を無視できなかったが、人が周囲に多くいる現状では自分にしか声が聞こえないのは良いことだろう。そう気を取り直し指輪との会話を続けた。


「運び込まれた怪我人に何かを感じなかったかな?」

『ええ、あれは勇者の気配でした』

「そう……ありがとう」

『いえ』


 指輪との会話を終了したリシュは、運び込まれた勇者について考えた。

 かつて彼自身も、勇者として旅をした経験があるため勇者に対しては特別な想いがある。


(少し見てくるか)


 リシュは、こっそりとカウンターの奥を覗いてみた。

 姿のない妖精から苦情が出ていると感じはしたが無視を決め込む。


『これは酷いですね』

『ああ』


 奥から聞こえる女性と男性の声。

 受付の女性と冒険者の声だ。


 声だけだと、担ぎ込まれた人物がどんな状態なのか分からない。


 そこで、様子を見ようとして奥へと入り込んだ時──「リシュっ」。


 突如名前を呼ばれたことに驚き、声の主を確認すると桃色の髪をした妖精がいた。

 どうやら約束のお菓子を買いに行かず油を売っていたことを怒って姿を現したようだが、この状態はマズイ。

 

「ティア」

「あっ」


 リシュがティアを両手で隠そうと手を伸ばすと──彼女は姿を消した。

 何かに気付いたようだったのだが、なぜ姿を消したのかはすぐに分かることになる。


「……なにやってんだ」


 リシュに向けて声が発せられた。

 ティアの声によって、リシュの存在に気付かれたようだ。


 妖精は、どうやら人が向かって来ていることに気付いて姿を消したらしい。


「危ねえからアッチに行ってろ」

「待って下さい」


 追い出されそうになった所で、受付の女性が声を発してリシュの方へとやって来た。


「君は治癒魔導士だったわね」

「ええ」


 この世界では回復魔法の使い手はごく僅かしかいない。

 治癒魔導士というのは、この世界で強力な回復魔法を使える数少ない存在だ。


「呪いの知識はあるかしら?」

「多少は」

「そう……彼女を診てもらえるかしら」


 カウンターの奥にある扉をくぐるとベッドの上に前進を包帯に巻かれた人物が寝かされており、近づくと胸の膨らみから女性だと分かった。


「君の目から見てどうかな?」

「…………」


 一言でいえば酷い状態。

 左腕と左目は失われているようだ。そして包帯の隙間から覗く唇は乾いた大地のように白くなりヒビ割れている。なによりも──。


「呪い……ですか」

「ええ」


 女性の全身からは、瘴気と呼ばれる人体にとって毒となる黒い煙が出ていた。本来は人の身に宿るハズのない瘴気。その発生原因となっているのは、女性の体に巻かれた包帯の隙間から覗く黒い模様なのだろう。


 この黒い模様は何らかのきっかけで呪いが発動して女性の身を現れた。だが、包帯を巻かれていることから呪いが発動してから治療を受けたが、その影響を抑えられず目や腕を失うことになったのだとリシュは考えた。


「呪いが進行し過ぎていますね」

「助かる見込みは?」


 ドアの前であった冒険者の1人の質問にリシュは言葉を詰まらせる。

 このままだと命はない。だが、自分には助ける手段があるが──イザという時のために残してある薬を使う必要があった。


 (それでもメリットはあるか)


 目の前に横たわる勇者を助けるには呪いを何とかしないとならない。

 仮に呪いを放置して体を治療しても、呪いの影響で再び体はボロボロになるハズだ。


「助ける方法はあります。ただ……」

「ただ?」

「呪いの上書きと、体の治療の両方を行う必要があります。ただ、ここには道具がないので、移動しなければなりません」

「…………」


 言葉を聞いた受付の女性は沈黙した。

 しかし、自身の権限を上回る事案であると考えたたようだ。


「ギルドマスターに相談してみます」

「いや、その必要はない。話は聞かせてもらった」


 カウンターの側にあるドアとは別のドアから初老の男性が部屋へと入ってきた。

 白髪混じりの黒い髪をした筋肉質な男性で、リシュから見た第一印象は『組長』だった。


「俺は、このギルドのトップでギルドマスターをしているスタンレーだ。よろしく頼む」

「私はリシュ・フェルサーと言います。よろしくお願いします」

「さっそくで悪いが、彼女の状態について詳しく教えてもらえないか?」

「ええ。現在、彼女は……」


 ギルドマスターであるスタンレーに女性の状態について伝えた。

 だが、女性を蝕む呪いについては、召喚した勇者を縛るための物であり国が絡んでくる。このため教えない方が良いだろうと判断して伏せることにした。


「ふ~む。任せざるえないか」

「マスター!」

「子どもに任せるのは不安。そう言いたいのだろ」

「ええ」


 付け加えるのなら、フードを被って顔すらまともに見せない妖しい子ども。

 リシュは自分自身で、そうギルドマスターの言葉に付け加えていた。


「そうか……アナベル、ナイフはあるか」

「うん? ああ」

「悪いが貸してくれ」


 そう言ってアナベルからナイフを借りたスタンレー。右手にナイフを持ち、左腕にかぶった服の裾をまくり腕を軽く切った。


「お前さんコイツを治せるかい」


 スタンレーは赤い一本の線が付いた左腕をリシュに見せて1つの提案をした。


「ええ……回復魔法ヒール


 リシュが手の平をスタンレーの腕に向けて『ヒール』と唱えると彼の腕を淡い光が包み込み、傷は消えて血によってできた赤い線が残るだけとなった。


「ふむ」


 スタンレーは腕に残った血を指でこすって消す。

 そして借りたナイフは自分のハンカチを使って拭い持ち主へと返した。


「ここまで治癒魔法を使いこなせるとはな……本物の治癒魔導士で間違いないだろう」


 リシュを見て満面の笑みを浮かべるスタンレー。

『笑っても組長だ』と、心の中で思いながらもリシュは頷くだけに留めた。


 先程の腕に傷を付ける行動は、リシュが本物の治癒魔導士だと、この部屋にいる他の者達に証明するためのものだったのだろう。


 治癒魔導士は、この世界において希少な存在であり、国や宗教などでは優秀な治癒魔導士を雇うことが国力を示すことに繋がることすらある。

 このため治癒魔法を使えるというだけで特別な信頼を寄せられることが多い。


 リシュが治癒魔導士であると証明できれば女性を預けても部屋にいるもの達は納得する。

 そう考えたスタンレーは自らの腕を切って、リシュに治癒魔法を使わせたのだった。


「どちらにせよ、ココに置いたとしてもやれることはない。リシュ、お前さんに任せようと思う」


 こうして、リシュは自分のダンジョンへと呪いに侵された女性を連れ帰ることになった。

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