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DD ダンジョン殺しのダンジョンマスター <第1部>  作者: 穂麦
第2章 ヴァートゥハイル大陸
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第55話 瘴気と守り神

 リシュたちは、魔導士テオドーラの故郷である、ベスザラの町へ訪れている。


 5日前にペルセム村でリシュたちの部屋を訪ねてきたテオドーラ。

 彼女に治癒魔導士としての仕事を依頼された。

 その依頼というのは、ベスザラの町に広まっている奇病の調査への同行。


 ティアやサクヤたちとは、別行動をすることになった。

 これは流行病の可能性を考慮し、病に詳しい者以外は町に入れない方が良いと考えたからだ。


 治癒魔導士は、治療を専門とした魔法使いであるために、人体や薬物の知識が欠かせない。よって、この世界において治癒魔導士というのは治療のエキスパートともいえる。


 しかし、多くの治癒魔導士は絶対数が少ないうえ、多くが大きな組織が囲われており、個人的な依頼を治癒魔導士に出すのは難しく、薬を扱う薬師くすしや、魔法使いが診察などを行っているのが現状だ。


「瘴気に当てられたみたいですが……それだけではないようです」


 リシュは、ベッドで横たわる少女の手をとりながら体の状態を診ている。

 

「そう……」


 ベッドに横たわる妹にテオドーラは、悲しげな眼を向けている。

 少女の顔色は灰色へと変わっており、体も痩せ衰えて皮膚の下の血管が浮き出ていた。


「原因が分かるまでは、下手に手を出すよりも栄養を摂り、体の状態を整えることに専念した方がよいでしょうね」

「他に出来ることはないの?」

「瘴気が湧きでた原因と、瘴気に何が結びついているかが分かれば、治療を施せると思いますから……」

「原因調査が先というわけね」

「ええ」


 リシュであれば、強力な治癒魔法も使える。

 だが、強力な治癒魔法をかけた場合、少女の体にも大きな負担をかけることになってしまう。

 よって、強力な治癒魔法は最後の手段と考えた方が良いだろう。


「他にも同じ症状の方は?」

「かなり多いみたいね」

「では、その人達も見てみましょう」


 このあとリシュとテオドーラは、町の患者を見て回り一日が終わった。


~翌日~


 元々、ベスザラの町は、鉄鉱石の採掘で発展した町だ。

 しかし近年は、採れる鉄鉱石が減ったため採掘所は閉鎖されており、町の象徴だったこの場所に、足を踏み入れる者など滅多にない。


 そんな中、2人の魔導士と町の有志たちが、採掘所へと入ろうとしていた。


「この奥からですね」

「ええ」


 瘴気も魔力の一種だ。

 このため、瘴気の流れは魔力を見る方法を応用すれば調べることが可能となる。

 調べた結果、テオドーラとリシュは、採掘所から瘴気が街に流れていることが分かった。


「少し気が重いですね」

「わたしが、しっかり守るから」

「お願いします」


 採掘所は、町からすぐ近くにあるのだがモンスターを見たという情報は町で聞かない。

 このため、町で協力者を募り、採掘所の奥を調べることにした。


 リシュたちは、ランタンを手に採掘所の奥へと入っていく。

 奥へ──また奥へと、足を進め続けた。


 瘴気が満ちている場所であり、ときおりリシュは治癒魔法を使い仲間の体を癒す。

 そして足をまた進め、最深部へとたどり着く。


「これは」

「俺らは守り神と呼んでいました」


 採掘所の奥には、壁に化石が埋め込まれていた。

 それは狼を連想する骨の化石。

 共にこの場まで来た男は、化石について話してくれた。

 

 採掘所というのは、様々な事故が起こるためここで働く者たちは不安を隠すために、この化石を守り神として扱っていたらしい。だが──


「アンデッドになりかけていますね」

「そうね」


 化石を見つめるリシュは、顔を引き攣らせながら断言した。

 続いてテオドーラも──。


「では、守り神が原因ということですか?」

「いえ、この化石は瘴気を吸収していたみたいです。このことを考えると、文字通りこの化石は守り神として、町に瘴気が行かないように守っていたと言えるでしょうね」


 男の質問に、リシュが答える。

 これまで守り神として扱ってきた対象が、町の災厄の原因でないと伝えられると、男は顔を綻ばせた。


「守り神は現在、瘴気を吸収しすぎてアンデッド化しかけているので、手を打たないとまずいでしょうね」

「手とは?」

「テオドーラさん、何かアイデアはありますか?」


 リシュは、いくつか手段を思いついていたが専門家ではないため、テオドーラに話を振った。


「そうね……化石の変わりに瘴気を吸収する魔導具を置くのが一番でしょうね」

「魔導具に心当たりはありますか」

「残念だけど……」


 瘴気が原因で町の人間は病に倒れている。

 その原因は、守り神とされる化石が瘴気を吸収しきれなくなっているのが原因だ。

 このことを考えれば、瘴気を別の物が吸収し続ければ、瘴気に関しては問題が解決することになる。

 しかし肝心の、瘴気を吸収するアイテムがなければ実行不可能な計画である。


「僕であれば、用意できるかもしれません」

「そう、じゃあお願いしてもいい?」

「ええ。ただ、今すぐというわけにはいかないので、いったん外に出ましょう」


 採掘所跡で、瘴気の原因を調べたリシュたちは、外へと出ることにした。

 治癒魔法で瘴気の影響を打ち消しているとはいえ、瘴気によるダメージは少しずつ蓄積してしまう。そのようなこの場所は、ダンジョンの奥に引きこもるのが仕事の、ダンジョン・マスターであるリシュにとっても居心地の良い場所ではなかった。

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