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DD ダンジョン殺しのダンジョンマスター <第1部>  作者: 穂麦
第2章 ヴァートゥハイル大陸
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第53話 魔神の宝玉

 リシュは白い杖を手にし、サクヤは刀を構えている。

 対して魔神の宝玉を持つ女性は、構えることなく立っているだけだが、その体から溢れ出る魔力は2人を威嚇するのに十分な密度だ。


「僕が盾になる。君は攻撃に専念してほしい」

「はい」


 ダンジョンの外では、治療する能力しか持たないリシュは、自身が役立たずであることを理解している。

 だからこそ自らを盾にすることを選んだ。

 サクヤもまた、目の前の女性が並みの覚悟で相手に出来ないことを認め、リシュの言葉を受け止めた。


「…………」


 沈黙の中、サクヤとリシュは女との距離をとり襲撃のタイミングを図っている。

 女の気持ちによっては、一瞬で決まる戦いではある。

 だが、見逃してはくれない以上、避けることは出来ない戦いであり何としても乗り越えねばならない。


「はあぁっ」


 最初に仕掛けたのはサクヤだった。

 リシュもまた彼女の横を並走する。

 

「ふふ」


 女はどこからともなく取り出した短剣で、サクヤが振るった刀を弾く。

 刀が逸れて生じる隙を避けるため、後ろへとサクヤが飛ぶが──その直後に女が手を振り上げる、地面から火柱を生じさせる。


「!」


 後ろへと大きく跳び退いている最中での攻撃。

 この状態で受ければ、熱を障壁でしのいだとしてもバランスを崩すなどして、次の攻撃を防ぐのは難しいだろう。

 だが、サクヤの前へとリシュが立った。


「くっ」


 リシュが手にした白い杖で、火柱が切り裂かれるかのように分断される。

 これは地面に立てた杖に、強力な障壁を張っただけの力技の結果。

 何度も続けられるような手段ではないが有効なようだ。

 だが、杖を持っていた指には火傷で水膨れが生じていた。


(完全に無傷……と、いうわけにはいかなかったか)


 火が収まると同時に、障壁を弱めてリシュは治癒魔法を行使する。

 障壁を張ったままでも治癒魔法を使うことは出来るが、魔力の消耗が激し過ぎるため障壁を解かざるえない。


治癒魔法ヒール……って、また!」


 リシュが治癒魔法を発動させると、即座に女は火柱を発生させた。

 しかも今回は6つほど。


「避ける」


 サクヤに避けることを伝え、次々に襲いかかる火柱を躱していく。

 彼の後ろではサクヤもまた、火柱を上手く避けており何とかやり過ごせると思われたが──


「なっ」


 周囲の家屋が燃えリシュ達が立つ地面を照らしており、夜に関わらず辺りは明るい。

 だが、気付いたとき、これまで以上に地面は一層赤く染まっていた。

 地面からは魔力の変化を感じない。と、なると!


「!」


 リシュは、空を睨みつけた。

 先ほどまでの火柱は、注意を引き付けるためのフェイクだったのだろう。

 注意を惹きつけられている間に、強大な魔法を発動されたようだ。

 空には小さな太陽とも言うべき炎の塊が、今まさにリシュ達を飲み込まんと迫っていた。


(何か手は……)


 迫りくる太陽を見ながらも、リシュは冷静を取り戻して次の手を考え始めたいる。

 勇者だった頃の戦いでは、この程度の危機はいくらでもあった。

 しかし今は、前世と違い手札が少なすぎる。


(やるしかないか)


 本当は反撃に繋がる一手を打ちたかったが、その場しのぎの手しか思い浮かばない。

 

「障壁を!」

「はい!」


 この場をやり過ごすのに、リシュが打てる手は一つしかなかった。

 それは、全力で障壁を張り大火傷程度で攻撃をやり過ごして、治癒魔法で回復させると言うもの。

 だが、この考えが実行に移されることはなかった。

 なぜなら──


「サクヤ!」


 太陽が迫る中、突如として男の声が響く。

 同時に青い宝石がサクヤへと投げらた。


「えっ」


 青い宝石を受け取ったものの、どう扱ってよいのか分からないサクヤは間の抜けた声を発する。


「魔法石だ」


 再び聞こえた男の声で、己のすべきことを理解したサクヤ。

 彼女は受け取った宝石に魔力を込めて、太陽に向かって投げた。


「くっ」


 それは誰の声だったのか?

 魔法石が小さな太陽に届いた瞬間に、周囲は閃光に包まれ全ての者の目をくらましたため、声の主を確認することは出来ない。

 

 眩い閃光が視界を妨げたため、光の中で何が起きたのかすら確かめるすべはない。

 だだ1つだけ確かなことがある──それは、光が収まったとき、この場には魔神の宝玉を携えた女のみしかいなかったということ。


「逃げられたみたいね」


 周囲の家屋は、村人の遺体と共に今も燃えている。

 戦いの音を失い、ただ火に焼かれる音だけを闇夜に残しながら──。


「少し残念だけど、まあいいわ」


 女がそう言うと、胸元に浮かぶ黒い宝珠。それを包むかのように両手を向ける。

 そして、戦いの中で見せた以上の魔力を注ぎ込み、ただ一言を口にした。


魂喰らいソウル・イーター


 彼女の澄んだ声と共に、黒い魔力が村を覆い尽くして、漆黒のドームを作り出した。

 そして炭と化していようと生焼けであろうと、等しく紫色の光が死体から宙へと浮かびあがり、女が持つ黒い宝玉へと飲み込まれていく。


 紫色の光の正体は魂。

 強制的に魂を抜きとられた体は、砂のように崩れてこの世に形を残すことはない。


 村人の魂は、魔神の宝玉へと飲み込まれ続けいつしか、紫色の光が途絶えた。

 すると、漆黒のドームが消える。


「ごちそうさま」


 全てを終えた女は、そう言い残して闇へと消えた。


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