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DD ダンジョン殺しのダンジョンマスター <第1部>  作者: 穂麦
第2章 ヴァートゥハイル大陸
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第52話 ホルクス村

 リシュたちは、港街オシサルから西へと移動を続け、ホルクスという村に辿り着いた。

 ホルクスは300人より少し多い程度の人間が住む村だ。


 この村を訪れた目的は、情報収集。

 冒険者ギルドで情報を購入したが、地元の者の視点でしか見えないことも存在するため、情報を頼りに旅をする場合は誤差の修正が欠かせない。


 ~宿屋にて~


「大きな誤差はないみたいだね」

「ええ、ですが……」


 リシュ達は手にした、ス○ホサイズのカードに映し出された地図を見ながら考え込んでいる。


「一夜で焼き払われた村……」


 サクヤは、零れるような声で呟いた。

 地図を見ながら2人が気にかけているのは、一月前に焼き払われたという村。


 本来なら盗賊に襲われたか、魔物に襲われたと考えるのが妥当かもしれない。

 しかし──。


「村人の体が砂のように崩れたというのは、気持ちが悪いですね」

「うん……」


 一晩で焼き払われた村には村人の遺体が残っていた。

 だが、少し強い風が吹いただけで砂のように崩れ去ったという。

 もっとも、村人から聞いた噂話であり、どこまで本当かは確証はないが──。


(砂のように崩れる死体……嫌な予感がするね)


 一部の魔法による攻撃を受けた者も、遺体が砂のように消える。

 だが、リシュの胸に引っかかっていたのは、別の要因による砂化ではないかという懸念だった。


「村には近づかないようにしよう」

「ええ」


 村で起きた出来事が、リシュが考えた要因に由来するとは限らない。

 むしろ可能性は限りなく低いと言える。

 それでも、注意をせざるえないことをリシュは知っていた。

 何故なら、その要因とはダンジョンと同様に──。


「魔神か……」


 魔神が関わる事柄だったからだ。


「なにか?」

「なんでも……いや、やっぱり話しておいた方がいいだろうね」


 余計な気苦労をかけたくないと思い、一旦は伝えずにおこうと考えたリシュ。

 だが、ダンジョンに関わるとなれば知らなければならないだろうと考え、伝えることにした。


「明日、話すよ」

「はい?」


 勝手に話を進めていくリシュに、ついていけなかったサクヤは、疑問符をつけた言葉を口にして首を傾げるだけだった。


~その夜~


 リシュ達は、先ほどの宿で一夜を明かすことにした。

 先ほどリシュがサクヤに話そうと考えた可能性は、魔神に関わることであり人の耳がある場所で話せば、無用な不信感を向けられかねない。

 よって人の耳を気にしなくても良い、ダンジョンで話すのが最適なので、明日話すことにした。

 だが──。


「サクヤっ」

「ええ」


 深夜、それぞれ自分のベッドから勢いよく起きて声を掛け合う。

 

「ティア」

「……」


 リシュが呼びかけても、ティアは窓の先に目を向けたまま動かない。

 白いカーテンが覆う窓の先は、オレンジ色の光が揺れている。

 

「……凄く怖いのが来ている」

「そう」

 

 ティアの言葉を聞いたリシュもまた、彼女と同じように窓の先を見た。

 もっと早くに村を離れなかったことに後悔をしながら──。


「逃げるよ」

「はい」「うん」


 リシュは、気付いている。

 ティアは、恐ろしい何かに気付いている。

 サクヤは、おぞましい魔力を感じている。

 

 だからこそ、逃げることに反対する者などいなかった。

 村を訪れたその存在は、自分たちの力でどうにかできる物ではないと、誰もが分かっているのだから──。


 *


 宿泊した宿には、すでに火が放たれていた。

 決して大きくない建物ではあったが、廊下にも火が届いており道を塞いでいたが、なんとか脱出することに成功した。

 だが──。


「見逃してもらえないかな」

「ダメよ」


 宿屋から出た所で、ティアが言うところの”凄く怖いの”と、丁度出くわしてしまった。

 リシュの悪運は、平常運転のようだ。


「僕達のような旅人に何かしても、得はしないんじゃないかな?」

「ダンジョンの奥に引きこもっている、ダンジョン・マスターでなければね」


 目の前にいるのは、村を包む炎と重なる赤い色の髪をした女性。

 不気味に光る金色の瞳に、冒険者が好む軽鎧を纏っている。

 何よりも特徴的なのは、彼女の胸の前に浮かぶ黒い宝玉だろう。


「やっぱり僕は美味しそうかい?」

「ええ、とっても……ねっ!」


 突如として女性は、リシュに向けて炎を放つ──だが、サクヤによって炎は切り裂かれた。


「なかなか優秀な護衛のようね」

「僕もそう思うよ」

「……(リシュちゃんが私を頼りにしている、私を頼りにしている)」


 皮肉を込めた2人の会話に、サクヤは内側からこみ上げる何かを必死に隠している。

 この場にいる者たちの中で最も邪悪なのは、ある意味彼女かもしれないが、誰にも気づいていないのでこれ以上の言及はしない。


「サクヤ、僕が援護をする」

「はい」


 リシュの言葉と共に、サクヤが剣を構える。

 剣先を相手に向けるサクヤの瞳には、強い輝きが宿っていた。


 すでに雑念は消えているだろう。

 彼女もまた、目の前の女性が自分をはるかに超える力を持つ者だと気付いているのだから。


(まさか、魔神の宝玉と出くわすなんてね)


 リシュは、心の中で自分の悪運に苦笑いを向けていた。

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