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DD ダンジョン殺しのダンジョンマスター <第1部>  作者: 穂麦
1章 アスティユ大陸 本編開始
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第48話 海底の迷宮殺し 依頼

 リシュたちは、生物型ダンジョンからの脱出の準備をしている。


 具体的に言うのなら、このダンジョンは世界中を回遊しており、明日の昼までに脱出しなければ予定されていた航路から大きく外れることが判明した。

 だが、このダンジョンに飲み込まれたせいで、船はダメージを負っており急ピッチで修理がおこなわれている最中だ。


 当然、船の修理など出来ないリシュには、やることもなく彼は再びダンジョン・コアのある場所にまで行ったのだが──。


 ジンライとラッセルは、リシュが残ると聞き自己犠牲を疑った。

 一緒に戦ったせいで、情が湧いたのかもしれない。


 なるべく情報を漏らしたくないリシュは、自身がどうやってこのダンジョンから脱出するかを伏せていた。

 このため何度も何度も、本当に手段があるのかしつこく聞かれるはめになる。

 その結果、最後はリシュが折れダンジョン内に作成した転移方陣を使い、彼らと共に別のダンジョンへと実際に移動してみせた。


「本当だったんだな」


 犠牲になる気がないことを示すため、ピンク色の肉壁に覆われた場所から、石煉瓦いしれんがの壁が広がる場所へと転移方陣により一瞬で移動した。

 このことで、ジンライは驚きの表情を浮かべている。


「このことは誰にも……」

「ええ、分かっていますよ」

「ああ、約束だからな」


 秘密にしておいて欲しいというリシュの言葉に、ラッセルとジンライは了承した。


「確かに、これだけのことができりゃあ、お前の秘術が知られるのはマズイっつうのは分かるからな」

「ええ」


 リシュのダンジョン殺しの能力は、支配下に置いたダンジョン同士を一瞬で移動できるというだけでも、この世界では反則に近い能力と言える。

 この世界には一瞬で移動する魔法は存在せず、せいぜいゲートクリスタルを使っての移動程度しかない。

 

「…………」

「どうした?」


 真剣な表情で考え込むラッセルが、ジンライは気になったようだ。


「リシュ君。1つ依頼を引き受けてもらえないかな?」

「依頼?」

「もちろん、断ってくれても秘密は守るから内容だけでも聞いてもらいたいんだ」

「ええ」


「私たちが向かっているヴァートゥハイル大陸が飢餓に見舞われていることは知っているかな?」

「多少……ではありますが」


 リシュ達が目指している幻魔の洞窟がある大陸は、ヴァートゥハイル大陸と呼ばれている。

 冒険者ギルドなどにアイテムを売るついでに、ヴァートゥハイル大陸についての情報を集めていたため多少ではあるが飢餓について知っていた。


「特に南の地域では、植物が育ちにくくなったうえ動物も住みにくくなっているんだ。そのせいで食糧の値段がヴァートゥハイル大陸全体で高騰していてね。私達は食料を少しでも安く買おうと船に乗ったんだ」


 船の甲板であったとき、ラッセルと一緒にいたソフィアという女性。

 彼女の仕草や言葉遣いは気品のあるものだったので、一定の権限を持っている可能性がある。

 それにラッセルもまた騎士の動きをしていたことから、護衛の可能性が考えられそうだ。


 ただの買い付けなら、商人などに任せればよい。

 しかし、実際には旅に慣れていないであろうソフィアが、船に乗っていた。


 このことを考えると、ただ食品の買い付けを行っただけでなく、国や大きな組織との大きな取引が行われた可能性がある。


「でも船代だけでなく、荷物を私たちの……町に運ぶだけでもかなりの関税が掛るなど負担が大きいんだ」


 ここまで聞いて理解した。

 恐らくラッセルの言いたいことは──。


「そこでリシュ君に、食料を運ぶのを手伝ってほしいんだ」


 この依頼を受ければ、権力と関わることになる。

 しかし、ラッセルは『私たちの……街』と、街という手前で言い淀んだのが気になる

 それも一瞬ではあるが顔に苦悶の表情が見えた。


「……ラッセルさんの町は、ルヴェリア帝国と関係がありますか?」

「!」


 どうやらリシュの勘は当たってしまったようだ。


「知っていたのかい?」

「ただの勘ですよ」

「そう」


 ルヴェリア帝国は、飢餓が起こるようになってから周辺の国を侵略し始めた。

 現在、強大な軍事力によって多くの国が飲み込んでいる。


「私たちの町は、ルヴェリア帝国に国を奪われた者たちが集まって作ったんだ」


 ラッセルたちは、国を奪われた者達。

 と、いうことは彼らと関わるということは、ルヴェリア帝国と敵対する可能性があるということだ。

 

 それはリシュだけでなく、商人たちも同じ。

 ラッセルたちと取引していることがルヴェリア帝国に知られれば、都合の悪いことになるだろう。

 

 船代や関税が掛るとラッセルは言った。

 しかし、それ以前に食料をラッセル達に売ることを渋る商人に手を焼いていると考えられる。

 そんな商人たちから食料を大量に買うのなら足元を見られかねない。

 だからこそ、運送費を抑えるため、リシュにこの依頼を持ちかけたのだろう。

 

「ルヴェリア帝国と戦う意思は?」

「……」


 ラッセルは、黙って首を横に振った。


「今の私たちは生きていくだけで精一杯さ」


 自嘲気味に笑いながらの言葉は、国を守れなかった自分に向けているのだろうか? それとも、何もできずに現状に甘んじていることに対してなのか?

 だが、彼の仕草を見る限り、戦う意思がないのは確かなようだ。

 仮にリシュが協力するにしても、ルヴェリア帝国に矛を向ける気がないのなら、依頼を受けたときの危険度はかなり低い。


「では、もう1つ伺います」

「なんだい?」


 湿っぽい雰囲気になりかけていることを感じたリシュは、話を変えることにした。


「ヴァートゥハイル大陸では、ゲート・クリスタルが使えないというのは本当ですか?」

「私が生まれる前だから聞いた話になるけど、確か30年前だったかな? その頃から少しずつヴァートゥハイル大陸にあるゲート・クリスタルが機能しなくなっていったんだ。そして今では、私の知る限りだけど全てのゲート・クリスタルが使えなくなっているんだ」

「そうですか」


 船を選ぶ前、リシュはヴァートゥハイル大陸にあるゲート・クリスタルに転移できる者がいないか、冒険者ギルドで聞いたことがある。

 そこでゲート・クリスタルが30年ほど前──魔神をリシュ達が倒してしばらく経ってから使えなくなったと聞いた。

 

「どちらにせよ、ヴァートゥハイル大陸のダンジョンを支配下に置かないと何もできません。いったんアスティユ大陸に戻らなければならないので……」

「ああ、返事は次に会ってからでいいよ。それにダメもとで提案したんだ。無理強いはしないよ」


 この場で依頼を受けるのは早計だろう。

 リシュが支配下に置くダンジョンはアスティユ大陸にしか存在しない。

 よって、ダンジョンに設置した転移方陣を使ったあと再び船に乗らなければならないため、考える時間はある。


 付け加えるのなら依頼を受けるかは、ヴァートゥハイル大陸で、死の砂漠に挑戦してから考えた方が良いだろう。

 死の砂漠にあるダンジョンを攻略するために、なんらかの協力を報酬の中に加える必要が出てくるかもしれないからだ。

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