第2話 冒険者登録
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リシュとティアが辿り着いた街の名はアシュルヘイド。
近くには小さな砂漠があるが、食糧などには困らない街で住人は比較的多い。
アシュルヘイドは外壁に囲まれており街の入り口には衛兵が通行税を徴収している。
リシュは、僅かに残っていた勇者時代の金銭を渡し街へと入った。
子どもの1人旅であることを詮索されることを懸念していたが、街へ入る人間が多く衛兵達は事務的な作業だけでリシュを通してくれる。
この時、妖精であるティアは姿を消していた。
妖精は珍しく人の多い街中で姿を見られれば、トラブルに巻き込まれる可能性があるためだ。
よって、今はリシュ1人であり彼の胸中には多少の不安が入り込んでいた。
だが、立ち止まっているわけにもいかない。
リシュは最初の目的を果たすため移動を開始する。
彼が目指すのは冒険者ギルド。
冒険者ギルドとは、名前のとおり冒険者が集まる場所。
出自が明らかでない者も仕事を受けることが可能であり、リシュにとってはありがたい場所だ。
リシュは人を招き入れて殺すダンジョンの主、ダンジョン・マスターといわれる存在。いうなら人類の敵だ。彼に人類と敵対する気がなくとも、ダンジョン・マスターであることが知られれば社会が敵として排除したがることをリシュ自身が理解している。
人間の多い場所というのは、彼がダンジョン・マスターだと知られる可能性が高い場所だ。
できればリシュ自身も街に入るのは避けたい。
しかし彼には街に入らざるえない理由がある。
その理由とは、彼がダンジョン・マスターとしてレベルアップできないこと。
通常のダンジョン・マスターであれば自分のダンジョンを運営するだけでレベルアップできる。
そしてレベルアップすることで、より強力なモンスターを呼び出したり、様々なトラップを使用したりなどが可能となる。
しかし、リシュは自身が持つ特殊なスキルの影響で、ダンジョン運営を行うだけではレベルアップできない。
付け加えるのなら、ダンジョン・マスターは自身のダンジョンの最深部に設置されたダンジョン・コアという宝石を破壊されると自身の命も失う。
よって、ダンジョン・マスターは自身のダンジョンへの侵入者を排除しなければ命を失うこととなる存在と言える。
このためリシュは、強いモンスターをダンジョンに配置する以外の方法で自らの命を守る必要があった。
「冒険者登録をお願いします」
自分の背よりも高いカウンターの前でフードがずれないように頭を押さえるリシュ。
フードがずれないように気を使っているのは、自分の容姿が美し過ぎるのを知っているためだ。
「はい」
応対をしてくれたのは、赤い髪の女性だった。
編み込んだ髪が肩へと垂れており、笑顔と合わさり優しいお姉さんという印象をリシュに与えた。
「え~と。冒険者登録ね」
「はい」
この後、冒険者を行うことに対する様々な危険性や、冒険者ギルドが定めているルールなどを説明されて冒険者登録は完了した。
冒険者ギルドは出自が明らかでない者も仕事を受けられる。
だが、出自が明らかでないということは実力の判定も難しいということ。
よって仕事の最中に何が起ころうとも冒険者の責任であるため、リシュのような子どものような外見であっても冒険者としての登録が可能である。
「コレの買取りもお願いします」
リシュは冒険者登録が終わったことで、持ちこんだポーションを買い取ってくれるよう頼んだ。
持ちこんだポーションは全てリシュが作成したもので、それなりの品質をとなっている。
この買取り額によって、ティアのオヤツがどの程度の品質か決まるので、姿を消しているティアも息を呑んで見守っていた。
「はい。ポーションが……12本ですね」
「ええ」
「少々お待ち下さい」
カウンターの上に12本のポーションを置くのに少し疲れたリシュ。
プニプニだった肩が少し凝ったような錯覚を感じていた。