第47話 海底の迷宮殺し 決着
知性のないダンジョン・マスターとの戦いは、リシュ達が優勢だ。
しかし、この場所に訪れるまでに消耗しているため、長期戦になれば不利になるのは明らかだ。
ましてや、相手があと何回モンスターを作成できるのか分からないため早めに勝負をつけねばならない。
だが──。
「コボルトを2体作成し、槌を装備!」
コボルトが、海賊服を着た骸骨に倒された。
これで87体目のモンスターを作成したことになる。
徐々にリシュの手札は削り取られていた。
(ソーサラーも魔力切れか)
魔力を消費して戦うソーサラーは、魔力を無くせば使いものにならない。
せいぜいできることと言えば、囮にすることぐらいだ。
「ソーサラー、敵を押さえろ!」
リシュの言葉と共に、黒いローブを着た3体のソーサラーが走る──主の言葉に従い、敵の骸骨モンスター、パイレーツスケルトンの動きを封じるために。
しかし、ソーサラーは魔法を扱えるだけの非力なモンスターだ。
相手の動きを抑える前に、次々とパイレーツスケルトンが持つ曲剣によって切り裂かれてしまうのだが、無駄な犠牲ではなかった。
「しゃあ!」
「はあ!」
だが、ソーサラーを切り裂いたパイレーツスケルトンに対し、ジンライとラッセルが飛び出し、攻撃を仕掛けた。
やはり、彼らはリシュの手駒よりも強力な戦力と考えてよいのだろう。
2人のの攻撃に敵の体は、ただの骨へと還り崩れた。
「まずいですね」
敵を倒したのだが、ラッセルの顔に焦りの色が浮かんでいる。
リシュの手札が尽きかけていることは、彼らも知っているからだ。
(撤退も考えておくか)
逃げるのであれば、タワーシールドを持たせたスケルトンを、この部屋への出入り口に2体ほど配置しておけば良いだろうと、リシュは計算を始めている。
そして予想外の自体を考えて、更に2体を作成する余裕を持っておく。
これが、逃げられないという最悪の事態を避けるために考え出したリシュの結論だ。
(残り4体を作成しても勝てなければ即撤退……でも、やれることは試しておこうか)
リシュの覚悟は決まった。
これまでと違った光が、彼の瞳には宿っている。
「グランド・スパイダー作成」
リシュは、上級モンスターであるグランド・スパイダーを作成した。
上級モンスターとは、通常モンスターよりも高い能力を持つモンスター。
1体の上級モンスターにつきダンジョン殺し中1度しか呼び出せないという制約がある。
このためリシュにとって、切り札と呼べるモンスターだ。
「サクヤ、グランド・スパイダーの移動速度を上げて!」
「はい」
リシュの言葉に、サクヤが答える。
サクヤが詠唱を市地エル間に、リシュは更なる上級モンスターを作成する──などということは出来ない。
弱者である彼が所有する上級モンスターは、グランド・スパイダーのみなのだから。
かわりに通常モンスターを作成した。
「ソーサラー2体作成」
これで逃走用のモンスターを除けば、リシュが作成できるのは残り1体のみ。
「速度上昇魔法」
リシュが、ソーサラーを作成した所で、サクヤの詠唱が完了してグランド・スパイダーに速度上昇魔法が掛けられた。
敵方は、再び15体のパイレーツスケルトンを呼び出している。
これからの戦いで勝てねば逃げなけらばならないため、実質これからの攻撃が最後となる。
「スケルトン前進!」
再び響くリシュの号令。
だが先ほどとは違う点がある。
全部で6体いるスケルトンの内、タワーシールドを持つスケルトンが3体となっており、残り3体は槌を持っている点だ。
これは防御を優先してきたリシュは、この場に来て攻勢へと転じた証。
そのことに気付いているのだろう。
ジンライ、ラッセル、サクヤの顔にもこれまでとは違う覚悟が見える。
「サクヤ、僕に防御魔法を……そして切り札の準備を」
「はい」
リシュがサクヤに指示を出すと、彼女は頷き返事をした。
「ジンライとラッセルは、僕が隙を作るのでそのときに自分の判断で動いて下さい」
「おう」
「ええ」
続いてリシュが指示を出したのは、ジンライとラッセルに対してだ。
優秀な戦士と騎士であることは、これまでの戦いを見て理解しているため、彼らの判断に任せた方が良いだろうと思い自由意思に任せることにした。
「行動を開始します」
最後の攻撃が始まった。
少しずつ、ダンジョンに取り込まれた海賊との距離を縮めて、十分に剣などで戦える位置にまで来た。
あとは、出し惜しみなく戦い、勝つか逃げるか状況を見て決めるだけだ。
「グランド・スパイダー、撹乱しろ」
こうして最終決戦の狼煙は上がった。
*
リシュは、再びソーサラーに広範囲火炎魔法を使わせパイレーツスケルトンに攻撃を仕掛けた。
その後、コボルトを使って各個撃破していくのだが、今回は少々違った。
すでにダンジョン・マスターである海賊との距離は、武器で戦えるほどに詰めてある。
コボルトにパイレーツスケルトンの相手をさせている間に、盾から武器に持ち変えさせたスケルトンを使って攻撃を仕掛けた。
だが、海賊の女性の腰回り以上はあろうかという左腕を振るわれると、激しい衝撃を受けたスケルトンは、骨へと還ってしまう。
このことでリシュは、スピードによる撹乱を行うしかないと踏んだ。
グランド・スパイダーは、ダンジョンに取り込まれた海賊を撹乱している。
左右へ細かく移動し剣を避け、ときには下がり振り下ろされる剣を避けたあと、噛みつこうと前進するも女性の腰ほどの太さもある海賊の左腕が、爆風を巻き起こしながら振るわれ近付くことを許さなかった。
その後も高いスピードで移動する蜘蛛に、海賊は剣を何度も振り下ろすも当たることはなく攻防が続いた。
だが、コチラの攻撃も全てが避けられていたのだが、乱入者により状況は変わる。
乱入者はコボルトだった。
リシュが事実上最後に作れるモンスターとしてコボルトを選び、この場で投入したのだ──捨て駒として。
コボルトは、手にした槍で海賊の右腕側から攻撃を繰り返し、グランド・スパイダーは左手の剛腕を自身に引きつけている。
そこへ、先ほどまでタワーシールドを離れた場所で構えていたスケルトンが、盾を前にしながら海賊に突進した。
再び海賊が剛腕をスケルトンに振ると、激しい衝撃にスケルトンは襲われ盾ごと吹き飛ばされる。
だが、スケルトンが持つタワーシールドによって生まれた死角から、小さな影が飛びだし、手にした白い杖で海賊を打ち付けようとする。
右手が封じられている海賊は、左腕を振り上げ影を叩きつぶそうと振り下ろした──が、リシュはそれを頭上で防いだ。
両手で強く握りしめた白い杖は、折れることもなく攻撃を受け止めている。
剛腕を防いだのは魔法でも何でもない。
ただ、障壁に尋常でないほどの魔力を込めただけだ。
障壁を突き破れるのは、魔力を纏った攻撃だけ。
それも威力と魔力の合計が、障壁を突き破れるレベルに達していないと突破はできない。
だからこそリシュは、スケルトンとタワーシールドの影に隠れながら海賊に近づいた。
この攻撃を受け止めるために。
力任せの攻撃は隙ができやすいうえに、攻撃が受け止められたら、その反動で更に大きな隙ができる。
このチャンスを、百戦錬磨の戦士と騎士が見逃すはずはない。
「ガああぁぁぁぁ」
断末魔のごとき悲鳴。
煌めく2つの剣線が、海賊を切り裂いていた。
だが、この戦いに参加しているのは男たちばかりではない。
勇者となった少女も参加している。
今、彼女は──海賊の背後にいた!
「やあぁぁぁっ!」
響き渡る高い声と共に、鞘から解き放たれる刀。
それは海賊の背後に回り込んだサクヤの抜刀術。
身体強化魔法をふんだんに使い、地球では考えられないほどの威力となった剣線が海賊の胴を両断した。
この抜刀術はサクヤの切り札ではあるが、抜刀前に隙が生じ、抜刀後には更に致命的な隙が生じてしまう。
だが仲間が敵の動きを封じれば、まさしく一撃必殺と呼べるほどの威力を発揮する。
*
「片付いたな」
そう言いながらジンライが周囲を見渡している。
先ほどダンジョン・マスターである海賊を倒したあと、パイレーツスケルトンを全て倒すことに成功した。
倒したモンスターの体はすでに消滅している。
ダンジョンで作成されたモンスターの死体が残ることはない。
全てが光となり消え去るからだ。
「もうモンスターはいないハズですから、休憩をせず奥に進みましょう」
「人使いが荒いですね」
「もう慣れたがな」
リシュの言葉にラッセルが溜息交じりに答え、ジンライが彼に続く。
このときジンライは、苦笑いを浮かべながらも満足げな表情を浮かべていた。




