第43話 海底の迷宮殺し モンスター作成
リシュ達は、まだ周囲が肉壁に囲まれたダンジョンの出入り口付近にいる。
ダンジョン殺しでは、各階層に存在するモンスターを全滅させながら進まなければならな。
このため、リシュ、サクヤ、ジンライ、ラッセルの4人だけでのダンジョン殺しは不可能であり、リシュはモンスターを作成する必要があるからだ。
「これからお見せすることは、口外なさらないでください」
「分かってるって」
ダンジョン殺しを発動する前の話し合いでも、何度もリシュの能力は口外しないように言ったため、ジンライは少し不愉快そうな顔をして答えた。
共にダンジョンに潜る彼らには、すでにモンスター作成の能力を伝えてある。
リシュの一族がこの能力のせいで迫害され、時には人体実験に使われながら生きてきたという、100%の純度を誇るデタラメを付け加えてだが──。
「もちろん、私も口外しないさ」
「ありがとうございます」
ラッセルは、紳士的に答えた。
ジンライと育ちが違うせいなのだろう。
「……(侮れない!)」
紳士的な振る舞いは演技だ!
意外と(リシュ限定で)腹黒なサクヤは、ラッセルが自分と同類であると見抜いていた。
「では、始めます」
現在のリシュが、ダンジョン殺し中に作成できる最大モンスター数は24体。
「ソーサラー9体、コボルト9体、スケルトンを6体作成、全スケルトンにタワーシールドを装備」
ソーサラーは、全身を包むかのような黒いローブを纏ったモンスター。
コボルトというのは、素早さが特徴のモンスターで、体は人の者に近いが頭部は犬で全身が獣毛に覆われている。
スケルトンとは、骨だけで出来たモンスター。
タワーシールドは、長方形の少し屈めば成人男性の全身を隠せる盾。
「(ダンジョン・マスター権限を使用)ジンライ、ラッセルに作成モンスターの指揮権を譲渡」
リシュは、ダンジョン・マスター権限という部分だけ小声で口にした。
もちろんダンジョン・マスターであることを知られないためだ。
ダンジョン・マスター権限というのは、リシュ専用の特殊な命令を指す。
今回は、眷属となったジンライとラッセルに作成したモンスターの指揮権を譲渡するのに使った。
よって、リシュ、ジンライ、ラッセルの指揮するモンスターは以下のようになる。
スケルトン(タワーシールドを装備):各2
コボルト:各3
ソーサラー:各3
「ダンジョンの制圧には、1フロアごとにモンスターを殲滅する必要があります。ですからお預けしたモンスターを使って下さい」
「モンスターに命令するのは初めてだが……まあ、なんとかなるか」
『モンスターに指揮した経験のあるヤツの方が珍しいだろ』
ラッセルは、ジンライの言葉にそう返そうとしたがやめた。
言っても仕方のないことだと分かっているからだ。
「このモンスター達は、人形みたいな物ですから使い捨てにして下さい」
「ずいぶん、冷たいんだね」
ラッセルは、不機嫌そうな言葉を返した。
リシュには言っていないが彼は現役の騎士だ。
サクヤと同様に腹黒であっても心情がある。
騎士として生きた経験がある彼にとって、モンスターとは言え部下とも言える存在を使い捨てにするのは、信条に反する行為であるため感情的になっても仕方のないことだといえるだろう。
「比喩ではなく、言葉のとおりに意思がないのですが……説明は後でしますので、今は僕を信じるか、もし信じられないのなら僕に騙されておいて頂きませんか。この秘術には時間制限があるので、早めにダンジョンの制圧をしないといけないので」
「……すまない、このような状況であるにも関わらず感情的になってしまったようだ。」
「いえ、ただ、預けたモンスターを捨て駒にしてでも、絶対に生き残ると約束をして下さい」
「わかっているさ」
口少なく、ラッセルは返答した。
彼の中では、リシュの言葉に納得しかねない物があるのだろう。
しかり彼も愚かではない。
現状ではモンスターを捨て駒にしなければ生き残れないかもしれないことぐらい分かっている。
だからこそ、リシュの言葉を受け入れたのだ。
「この中で僕が最弱だと思います。ですからサクヤと一緒に行動をさせてもらいます」
「それが良いだろうな」
治癒魔導士は希少な存在だ。
冒険などにパーティーのメンバーとして連れて行けば、生存確率は飛躍的に向上する。
だが、それだけとも言える。
攻撃手段も持たず補助魔法も使えない。
リシュに限って言えば、ダンジョン殺しの最中は、モンスターを作成できるのだがDPを消費する上、作成数に上限があるため乱用は出来ない。
対して、ジンライとラッセルは剣の腕が良いというのもあるが、実戦での指揮経験もあるため、リシュと比べる方が失礼とも言える。
「勝手に暴れるってえことは無えのか?」
「それは問題ありません。彼らは先ほど言った通り人形なのですから」
「そうか……」
傭兵として戦うジンライにとって、モンスターとは討伐の対象以外の何物でもない。
よって、これまで討伐対象でしかなかったモンスターに、道具として扱うにしても指示を出すという行為に特別な思いを抱いていた。
ラッセルにもジンライにも、それぞれ違った想いはある。
だが今は──。
「では、ダンジョンの制圧を始めましょう」
「はい」「ああ」「ええ」
こうして彼らは、ダンジョンの奥へと足を進めた。




