第1話 美しき旅人
2/22改投
今から30年前、6人の勇者が魔神との戦いに勝利する。
世界は歓喜し5人を真の勇者として、犠牲となった1人を英霊として讃えた。
だが、災いは終わらなかった──。
『災いあれ』
この言葉と共に遺した魔神の災厄は、世界に様々な形で傷跡を刻み続けている。
災いの一つにダンジョンが存在する。
ダンジョンは、人を己の内に誘い込み命を奪う。
さらにダンジョンが成長すれば、魔物を己が内から吐き出し魔境を作り出す。
これは、望まぬままダンジョンの主となった勇者の物語。
~砂漠にて~
「ね~ リシュ~」
「なに?」
砂漠を歩く子どもの姿があった。
子どもの肩には、羽根の生えた小人──妖精が停まっている。
子どもは、深い緑色のローブを身につけてフードを深く被っており顔は分からない。
一方で妖精はというと──。
髪と瞳は桃色。
腰よりも長い髪はウェーブがかかっており、瞳は宝石のように美しく無邪気さを感じさせる。
服もまた桃色で、妖精の象徴と呼べる羽根は蝶と同じ形をしているが半透明だった。
「街についたら、お菓子を買えるかな?」
「1つなら大丈夫だと思うけど……」
聞こえる子どもの声は美しい物だった。
鈴を鳴らしたような声とは、このような声を指すのかもしれない。
「お金……無理ならいいよ」
「ポーションが売れれば大丈夫だと思うよ」
話を聞く限り、金銭に困っている印象を受ける会話だ。
「まあ、お菓子を買えるかは街についてから考えることにしよう」
「うん」
ここまで話した子どもは、それからしばらく無言で歩いき続けた。
「姿を消していても良いよ」
「でも、リシュだけ暑い想いさせちゃうのはな~」
「気にしなくてもいいよ。もう街は見えているから」
子どもは遠くを指し妖精に言った。
「う~ん……」
「僕は大丈夫だから」
「そう、じゃあごめんね」
「うん」
そう言って妖精は姿を消した。
「…………」
妖精が消えて話す相手がいなくなった子どもは歩き続けた。
無言で──黙々と。
いずれ砂だけしかなかった足場が、背の低い草が生える草原に変わる。
子どもは歩きやすくなったと、少し嬉しくなり口元が緩んだ。
「あっ」
その時、強い一陣の風が吹いて子どもが被っていたフードが外れた。
美しい少女──いや、美しい少年だった。
月光を思わせるような銀色の髪。
黒曜石を思わせるかのような大きな黒い瞳。
白く幻想的であっても生命を感じさせる肌。
彼の名は、リシュ・フェルサー。
かつて勇者の1人として旅をし命を落とした英雄。
そして何の因果か敵対した魔神の力を受けてダンジョン・マスターとなって甦った存在。
この物語の主人公である。