第34話 船旅の準備
港街アブスレイから帰ったリシュたち。
彼らは旅の資金を得るため、支配下にあるダンジョンからアイテムをかき集めた。
支配下に置いたダンジョン内なら、モンスターが彼らを襲うことはない。
よってアイテム集めは、普通の冒険者達の苦労を嘲笑うかのように楽なものだった。
もっとも、未だに最低辺をうろつく実力しかないリシュのダンジョンだ。
獲れるアイテムもまた高額で売れるとは言い難い物ばかりではあったのだが──それでも、旅の資金程度にはなるだろう。
船は午後に出港予定のため、早めに港街アブスレイに行きアイテムを売る。
その後、ダンジョンで手に入らなかったアイテムを買ってから、ティアのお菓子を購入して船へと向かう予定だ。
アイテムは港町アブスレイで売る予定だが、大量のアイテムを一度に売れば勘繰られることもあるだろう。
よって明日はアブスレイで一部のアイテムを売り、旅の途中で立ち寄る街で徐々に残りは売って行く形で予定を組んだ。
このためリシュのアイテムBOXには大量のゴミ──もとい、アイテムが詰め込まれることとなった。
*
明日は早めにアブスレイへと出発するため、リシュは船のチケットを買ってから早々に自身のダンジョンへと戻り夜を迎えた。
「じゃあ、今日はもう休もうか」
「はい」
静かに頷くサクヤ。
リシュは普段着で眠るためパジャマ姿を見られないことを、この時間帯になると内心で悔しがっているのはいつものことだ。
「おやすみ」
「おやすみなさい(リシュちゃんのお休みなさい、今日もゲット~)」
サクヤは、もはや病気に近いリシュ萌えの興奮をベッドまで持っていき横になった。
もちろん、ベッドでリシュを思い浮かべ悶えまくるのもいつものことだ。
「さて……」
リシュは、ダンジョン・マスターであり普通の人間とは違う。
睡眠時間を必要としないということはないが、眠る時間は多くても5時間あれば十分過ぎる程だ。
このため彼は、サクヤとティアが眠ったあとダンジョン・マスターとしての仕事をすることも多い。
リシュは居住区から離れて、ダンジョンを管理するマスタールームへと足を運んだ。
彼のマスタールームは金属に覆われた部屋と一言で表せる。
壁も天井も床も全てが、鈍い銀色をした金属でできている。
そして家具なども一切ない無機質な空間の身が広がっているのだが──。
「始めるか」
リシュの一言で、部屋が機能を開始する。
空間を青白い細い光が走り、椅子の輪郭をなぞるとそこに椅子が生まれ、中空を四角く青白い光が走るとそこにモニターが生まれた。
生まれた椅子は1つのみではあったが、モニターは数十個が中空に浮いている。
この数十のモニターは、リシュが支配下に置いたダンジョンの様子を映し出しており、各ダンジョンのデータが表示される仕組みであり、かなり詳細な情報まで得ることが可能だ。
もっとも普段は、モニターに表示されるのは大雑把なデータのみに設定してあるため、頭が痛くなるような数字の羅列はどこにも見られないのだが──。
金属質な部屋の壁に、電子的な光を発する無数のモニターが浮かぶその光景はファンタジーというよりも、SFの世界が近いだろう。
「ふぅ」
先ほど生まれた黒革の椅子に深く腰掛け、リシュは息を深く吐き出した。
明日には数日の間、船に乗らねばならない。
その間に自分のダンジョン・コアを設置してあるダンジョンを攻略されてはかなわない。
今日行ったダンジョンの設定が、リシュの命運を分けかねないことは彼自身が最も理解している。
「調整するのは、このダンジョンだけで大丈夫かな」
普段とは違う真剣な目でモニターをリシュは眺める。
その瞳には鋭さが宿っており、外見が十歳の彼とは似つかわしくない物である。
この後、ダンジョンの設定は普段よりも遅くまで行うこととなった。
 




