第33話 船のチケット
街に入れず、ダンジョン殺しを優先したリシュ達。
それから3日が経ったころ、再び街へと戻る。
この時すでに、街に侵入した魔物と魔族の討伐は完了しており、港は普段通りのにぎわいを取り戻していた。
「落ち着いたみたいですね」
街に入るための門を見ながら、リシュはサクヤの言う通りだと感じた。
「そうだね」
すでにリシュ達は街に入るための手続きを行うため、門に続く人の列に並んでいる。
街が襲われたとはいえ既に3日が経っており、街の機能はすでに平常なレベルで機能をしているようだ。
「お菓子を忘れないでね」
リシュの懐から小さな声。
ティアもまた平常運転のようだと、リシュは苦笑いをした。
*
街に入るための手続きを問題なく通過したリシュ達は、港街アブスレイへと入った。
そしてダンジョン原産のアイテムを売り払い街を散策している。
「じゃあ、まずはお船のチケットを買って、それからお菓子を探そうか」
『~~♪』
懐からリシュの声に反応し、くぐもった声が聞こえた。
声の主は言わずも知れた食欲旺盛な妖精だ。
宿はとらず今日中にダンジョンに戻る予定であり、時間の都合があるせいか彼らの足取りは、いつもよりも早いものとなっている。
ダンジョン殺しを行い支配権を得たダンジョンからなら、他の支配権のあるダンジョンに移動が可能だ。
その点を活かし、支配下に置いたダンジョンから、なるべく自分のダンジョンへと戻るようにリシュはしている。
これはダンジョンを離れている間に、自分のダンジョン・コアが破壊されでもしたらたまった物ではないからだ。
それに船旅となれば数日間は船の上での生活となる。
このため、リシュのダンジョンコアを設置してあるメインダンジョンの難易度を徹底的に上げるなど、今はやることは多い。
*
リシュとサクヤの2人が、夕暮れ時の街路を歩いている。
すでに日は沈みかけており彼らの影は長く伸びていた。
「…………」
「…………」
2人は何かを言うわけでもなく、ひたすら歩き続けている。
日中に見た彼らとの違いを述べるのなら、顔からは先ほどまでの笑顔は消えて悲壮感に満ち溢れていることを、第一に挙げざる得ない。
「思ったよりも高かったね」
「はい」
先ほど、船のチケットを買いに行ったのだが恐ろしく高かった。
リシュが知っている船代の情報は、30年前のものである。
その頃と比較して工船技術の発達や新航路の発見などで、本来なら当時よりも船代は下がっている。
だが、先日の魔物による港の襲撃により、船が失われたうえに船員にも怪我をした者も多い。
このため船のチケットが高騰してしまい、リシュ達が購入しようとしていたチケットの値段は普段の数割増しとなっていた。
それでもチケットは購入せざる得なかった。
何故なら海流などの影響により、今の時期を逃したら幻魔の洞窟がある大陸への船が出せなくなるからだ。
「もう手持ちが……」
「はい」
ただ頷くだけのサクヤ。
内心は落ち込むリシュの姿に、母性本能が刺激しまくっているが顔には出さない。
「ティア、お菓子ごめんね」
「いいよ」
2人の泣き出しそうな声での会話。
先ほどまで母性本能が刺激されていたサクヤも、胸が締め付けられるような思いを感じて彼らから目を背けた。




