第31話 港町の魔族
リシュ達が港街アブスレイへとたどり着く数刻前、朽ちた一隻の船が街へと流れつく。
船は幽霊船とも呼べるほどの朽ちようではあったが、街に停泊していたどの船よりも巨大で、数隻分の大きさがあった。
この船は波に揺らされるまま、停泊中の船にぶつかりながら街に乗り上げる。
当然のことながら、朽ちているとはいえ何倍も巨大な船に体当たりされた船はことごとく沈んでいき、多くの死傷者がでてしまった。
だが、本当の惨劇はここから始まる。
街に乗り上げた幽霊船から、多くの魔物が街に飛びおりてきたのだ。
それは船員の服を着たアンデッドや、海に住まう魚やイカのような軟体生物など様々な姿をしていた。
異常に気付き、街を守る衛兵達は即座に武器を持ち対応をする。
貿易の要たる港町だけあり、衛兵の数は多く、しばらくは持ちこたえることができた。
だが一体の魔物が──いや、魔族が船の奥から現れたことで一気に魔物に押し切られることとなる。
ソイツは船首から獲物を探すかのように足元の戦いを見下ろしていた。
街へと乗り上げた幽霊船から飛び降り、周囲に土煙りとともに鈍重な音を響かせる。
魔物と人の争いをすら引き裂くような音が響き渡ると、ソイツは人の群れに金色の剣を掲げ走り込んだ。
声一つ発しないソイツは、鎧を着た重さによる地響きにも似た足音を立て戦場を駆け抜ける。
石畳が砕ける程の重さではあるが、異常なまでの早さで人の群れに近づき──手にした剣を一振りする。
ただそれだけで衛兵3人の体が宙を舞った。
更に次の獲物を探そうと、血走った目で周囲を見回す。
それは鎧を着た魔族だった。
全身を包んだ鎧は鈍い銀色の光を返し、手にした剣は切れ味が皆無の敵を叩きつぶすことしか出来そうもないほど刃こぼれをしている。
魔族は兜をかぶっておらず、異常な風貌の顔を剝き出しにしている。
ソイツの顔は、金属を人の頭部に見立てて大雑把に固めて、血走った左目だけを埋め込んだような顔だった。
人の群れを薙ぎ払ったソイツは、顔を左右に動かし周囲を見回し──口の無い顔が、左目が不気味に歪み喜悦を表現する。
人の群れを見つけたソイツは、再び石畳を砕きながら戦場を駆けて凶剣を振り下ろした。




