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DD ダンジョン殺しのダンジョンマスター <第1部>  作者: 穂麦
1章 アスティユ大陸 本編開始
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第28話 真実と助言

 幻魔の洞窟にむけて、地獄の特訓をやり遂げたリシュ以外の2人。

 地獄を考案したことに全く無自覚なリシュに若干の恐怖を感じながらも、幻魔の洞窟に向けての旅を開始した。


 リシュ達が目指す幻魔の洞窟は、彼らが拠点としているダンジョンが存在する大陸から、海を渡った遥か南西にあるため船に乗る必要がある。


 ここで問題となったのは船賃だった。

 

 ティアは姿を消せるので、リシュとサクヤの2人だけの問題となるのだが──少女のサクヤと子どもの姿をしたリシュ。この2人では、船乗りを管理しきれていないような安価な船に乗れば危害が及びかねない。


 このため、ある程度高価な船を選ばざるえないとリシュは判断して、船賃を稼ぎながら旅をすることにする。


 では、どのように船賃を稼ぐのか?


 リシュが船賃を稼ぐために選んだのは、自分のダンジョンで得たアイテムを売りながら旅をするという方法だった。


 しかし、一つの村で大量にアイテムを売れば、盗品を疑われたり面倒な人物に絡まれたりすることも考えられるため、旅の途中でいくつかの村に立ち寄りながら少しずつアイテムを売っていくことにした。



 このように、アイテムを売ることとダンジョン殺しを繰り返しながら、彼らはウルアルパの街に立ち寄った。


 この街は、自身のダンジョンで集めたアイテムを売ることだけが目的だった。

 しかし、意外な人物とであることとなる。


 フードを深く被ったリシュ。

 彼が冒険者ギルドに入ると一人の男性が声をかけてきた。


「確か、リシュと言ったか?」


 フードがずれないように頭部を押さえながら、男性の顔を見上げるように見るリシュ。

 そこでようやく誰だったか気付いた。


「アナベルさん……お久しぶりです」


 リシュに声をかけたのは、アシュルヘイドの街で呪いにより死の淵を彷徨っていたサクヤを、冒険者ギルドに運び込んだ冒険者のアナベルだった。


「相変わらず、とんでもない美少女だな」

「僕は男ですよ」

「え!!」「はっ?」「うそ!」


 アナベルの冗談に笑いながら返すリシュ。

 彼の返答に一番驚いたのはサクヤだった。

 次いでアナベルで、3番目に姿をかくしていティア。


 ちなみに、このときサクヤとティアは、初めてリシュの性別が男性であると知った。


「マジか」

「ははは……」


 リシュは、アナベルの反応に乾いた笑いを返すことしかできなかった。

 彼自身もまた、最近になってやっと鏡に映る自身の姿に慣れてきたばかりなので仕方のないことだろう──そう考えてアナベルの反応はスルーすることにした。


 ただ、自分の驚きをスルーできない二名は固まっていた。


(リシュちゃんって男の子だったの?)

(これで男って)


 リシュを見ながら考え込むサクヤと、リシュの懐で姿を隠しながら物想いにふけるティア。

 だが、しばらく考え抜き、2人が出した結論は同じだった。


(リシュだもんね)(リシュちゃんだもんね)


 美少女すぎるリシュの前では、性別の問題など些細なことでしかないようだ。

 少なくとも旅の同伴者2人にとっては──。



    *



 ウルアルパの街でアナベルと再会したリシュとサクヤ。


 リシュはアナベルに、話をしないかと誘われて街の一角にある食堂へと入る。

 金銭の問題があるため少し迷いはしたのだが、冒険者であるアナベルであれば死の砂漠について何か知っているのではと考え、食事を共にすることを了承した。


「ほ~、その嬢ちゃんがあの?」

「その節は、お世話になりました」


 リシュは少し前に冒険者ギルドへと出向いている。

 だが、その時すでにアナベルは次の街へと出発しており会うことはなかった

 当然、サクヤも呪いから回復してからアナベルに会ってはいない。


 そのため、サクヤが恩人ともいえるアナベルに素顔を見せるのは今回が初めてだ。


「あんときは、スタンレーもダメもとでリシュに預けたんだが、判断は間違っていなかったみてえだな」


 そう言い、手にした陶器製のコップに入った酒を口にするアナベル。

 冒険者のイメージ通り豪快な飲み方だ。


「かなり危ない状態だったので最良の判断だったと思いますよ」

「そうか。スタンレーのヤツ……腐ってもギルドマスターっつうわけか」


 口では皮肉めいたことを言いながらも、アナベルの口元には笑みが浮かんでいる。

 2人は古くからの付き合いがあるのかもしれない──そのようなことをアナベルの様子からリシュは感じた。


 それからしばらく話し合い、アナベルが出来上がった頃、リシュ達のこれからについて話が及ぶこととなる。


「で、お前さんたちは、これからどうするんだ?」

「僕たちは死の砂漠に向かおうと思います」

「おいおい」


 リシュの発言に、手にしたコップを動かすのを忘れてアナベルは驚いている。

 少女と子どもでしかないリシュとサクヤ。 そんな2人が危険極まりない死の砂漠を目指すと言えば、彼でなくとも無謀だと判断することだろう。


「やめときな……と、言いてえ所だが何か事情がありそうだな」

「ええ」


 本当は思いつきで行こうと言いだした死の砂漠。

 リシュは、そんな馬鹿げた理由だとはいえず、言葉を濁すことしかできなかった。


「まあリシュはかなりの腕を持った治癒魔導士なんだろ? 嬢ちゃんの方は分からんが、素人じゃないのは分かる」

「ええ」


 前世で勇者をしていましたと言えないリシュに、現役の勇者ですと言えないサクヤ。

 今回も言葉を濁すしかなかった。


「深い事情は聞かねえが、旅の先輩として偉そうなことを言わせてもらう」

「はい」


 崩した口調ではあるが、グラスを掴む指に僅かな力が入っている。


「無理だと感じたのなら早めに退け。そんでもって急ぐ必要がねえのならじっくり準備をしてまた挑めばいい。もし急ぐ必要があるのなら回り道を探すことだ。一度やってダメならやり方を変えない限り二度目もうまくいかねえもんだ。」


 冒険者としての助言なのだろう。

 彼の言っていることは当たり前の事だ。

 だが当たり前だからこそ軽く扱えば全部がダメになるほど重要な内容でもある。


「ええ」


 リシュが素直に彼の助言を受け入れるとアナベルは笑った。

 コップに残った酒を一気に口に入れたのは照れ隠しのためなのだろう。




 この後、アナベルと別れたリシュ達は再び旅を開始し、2週間後には港町アブスレイへとたどり着くこととなる。

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