第26話 詰みかけの迷宮主
ダンジョン殺しをこのまま続けても先は見えていると、リシュは考えている。
ダンジョンの最深部にあるダンジョン・コアを破壊されればリシュは命を失う。
それを防ぐためには、強いモンスターをダンジョンに配置して最深部への到達を防ぐのが基本となる。
だが、リシュは強いモンスターを作成できない。
通常のダンジョン・マスターであれば、ダンジョンを運営することで成長する。
そして成長することで、より強力なモンスターを作るなどが可能となっていくのだが、リシュはダンジョン殺しの能力の影響でダンジョンを運営しても成長ができない。
リシュが成長するためには、ダンジョン殺しを行い他者のダンジョンの支配権を奪う必要がある。
こうして支配権を奪ったダンジョンのモンスターを作れるようになるのだが、支配したダンジョンにいたモンスター以上の強さのモンスターは作れないということでもある。
しかも現状を見る限り、厄介な状況に彼は置かれている。
ダンジョンは、暴走するとモンスターを吐き出すため、国が軍隊を動かし片っ端から潰しているのが現状だ。
さらに冒険者達がダンジョン内の財宝目当てに動いている。
特にダンジョンの核ともいえるダンジョン・コアは一財産を作れるほどの価値があるため、冒険者はこぞってコアを求める。
更に付け加えるのなら、国も冒険者もダンジョンが成長しきっていない初期の段階で潰したがる。
これはダンジョンは時間が経つにつれて難易度が上昇していくためだ。
このような理由があるため、リシュと国と冒険者たちはダンジョンを奪い合う形になっている。
リシュの本音を一言で表すのなら──ダンジョンの奥で引き籠っていたい。
だが、彼のダンジョンはモンスターが弱く攻略が簡単だ。
しかもリシュが住んでいる地域の一定以上に成長したダンジョンは、すでに国や冒険者によってあらかた潰されている。
このためダンジョン殺しによるリシュの成長は期待できないので、いずれ詰むのは目に見えていた。
そこでリシュは考え込んでいるのだが、良いアイデアが浮かばない。
現状を打破するには、遠く離れた場所に引っ越すのが一番良いだろう。
欲を言えばダンジョン潰しが比較的緩やかな所が理想的だ。
しかし、どこに引っ越せば良いのか情報が致命的に足りないため決断をできずにいた。
四角いテーブルの前で椅子に座り悩むリシュ。
なんとなくリシュが隣を見ると、クールを装いながら邪な思い向けているサクヤと目があった。
見つめ合ったまま時が止まったかのように動かなくなる2人。
(リシュちゃんの目、凄くキレイ)
(そう言えば、挨拶に行っていなかったっけ)
サクヤが担ぎ込まれた冒険者ギルドのマスターに、区切りが付いたら顔を出すように言われていたリシュ。
回復したサクヤを彼の所に連れて行くのを忘れていたことを思い出した。
(ギルドでなら、何か情報があるかもしれないな)
引っ越し先を考えるにしても、情報不足だと自覚していたリシュは、サクヤを口実に冒険者ギルドに向かった。
そこで、あるギルドマスターであるスタンレーから気になる話を聞く。
話というのは、遥か南西にある死の砂漠。そこで大量のダンジョンが放置されているという物だった。
更にこの話を聞き、前世で読んだ書物に記されていた幻魔の迷宮を思い出す。
幻魔の洞窟は、数千年にわたり誰も攻略者が出ていない洞窟であり、無限に続くとも言われる深い階層に強力なモンスターがひしめき合っているという。
自分のダンジョンに帰ったリシュは、今後の方針について話し合うことにした。
もちろん幻魔の洞窟と死の砂漠の情報を得たためだ。
「これからの予定について話そう」
リシュは、ティアとサクヤをダンジョン内にある居住区に呼び、自分の意見を聞かせた。
思いつきで決めた目標ではあったが、反対意見は出ずに話はまとまる。
ティアは街で買ったお菓子を食べ続け、サクヤはリシュを見てニマニマしているだけだったのだが──とにかく話はまとまった。
適当すぎる会議風景ではあった。
だが、これまでは周辺に生まれたダンジョンを手当たり次第に潰すという行き当たりばったりの行動をするだけだった。
この点を考えれば目標ができた意義は大きい。
リシュにとって幻魔の洞窟の支配権を奪うことはゴールだ。
だが真の目的は別にある。
幻魔の洞窟へは死の砂漠を越えていかねばならない。
当然、死の砂漠に放置されたダンジョンをリシュ達は攻略しながら進むこととなるため、リシュはダンジョン・マスターとして成長できる。
仮に幻魔の洞窟を攻略できれば、幻魔の洞窟に住む強力なモンスターをリシュは作れるようになる。
仮に幻魔の洞窟をこう着出来なくとも、死の砂漠に放置されたダンジョンのモンスターは作れるようにはなる。
よって、幻魔の洞窟攻略はゴールではあっても、達成できずとも得る者は大きいと言える。




