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第24話 過去と現代と

 目を覚ましたリシュ。

 彼の目の前で、弾けるような音を立てながら燃える小さな枝や枯れ葉。


 明らかに人為的に集められて燃やされている焚き火は、誰の手によるものだろう?

 雪が降る夜空の下、出歩く者などいるはずもないのに──ましてや、ダンジョン・マスターとなり姿も変わった自分を気にかける者など。


 なぜ焚き火が目の前で焚かれているのか分からず周囲を見回す。

 だが、降り積もった雪に足跡など存在はせず人の歩いた形跡などなかった。


 では、どのようにして自分の前に枝などを置き火を焚いたのか?


 その疑問はすぐに解けることとなる。

 枯れ葉を両手で抱えた小さな妖精が、暗がりの中から現れたのだ。


 目が合い驚いたような表情の妖精は、抱えていた枯れ葉を落としてしまう。

 ハラハラと舞い落ちていく枯れ葉は、降り続ける雪と共に地面へと落ちていく。


「……君が」


 寒さで口が思うように動かなかったリシュには、この一言を伝えるのが精いっぱいだった。

 

「助けてもらったから……」


 居心地が悪そうに視線を逸らしながらの言葉。

 妖精から返ってきたその言葉もまた、リシュと同様にわずかな物だった。


「ぁ……大丈夫……だから」


 ありがとう、そう伝えようとして言葉を詰まらせる。

 終わりを望んでいる自分にとって、妖精の行為は余計なお世話程度でしかなかった。

 例え善意であっても礼を口にする気にはなれない。


「大丈夫じゃないよ」


 妖精は悲しげな表情だった。

 だが先ほどとは違いリシュの目を真っ直ぐに見つめている。


「大……丈夫。一人に してもらえるかな」


 真っ直ぐに自分を見る妖精に、本心を見透かされているように感じ、居た堪れない気持ちになった。だが今の自分には凍えかけた口元を無理矢理動かし笑みを作ることしかできない。


 だから無理矢理作った笑みを妖精に向けて願いを伝えた。


 人の敵であるダンジョン・マスターとなった自分は、かつて一緒に旅をした勇者だった少女との関係や思いを穢す存在であるかのように感じる。だからこそ終わらせたかった。


 物として生き、物として存在した自分。

 そんな自分に人としての時をくれた大切な人。


 彼は、人としてありたいと願っている。

 だからこそ、彼女と過ごした時を穢す今の自分を許せなかった。


「…………」


 しばらく沈黙が流れたあと、妖精はリシュの元へと飛び頬を平手で叩いた。

 彼女の小さな手では大した音も響かず痛みもない。

 だが心に何かが響いた気がした。

 

 雪が降り続ける中、彼女は泣きながら──。


「」


 妖精──ティアが口を開いた所で夢が終わり、開いた目には天井の木目が映った。


(懐かしい雪空だった)


 そんなことを想いながら目を覚ましたリシュは、ベッドに横たわった体を起こす。


 周囲を見回すと、自分のダンジョンではないことに気付いた。

 まだ目が覚めて間もないリシュは、寝惚けた頭を働かせ自分の現状を整理し始める。


 古ぼけた教会でダンジョン殺しを行って周囲が光に包まれたことまでは覚えている。


 でも、それ以降は──思い出せない。

 一体なにが起きたのだろう?


 ここまで考えた所であることに気付く。

 自分に記憶が途切れる程の事があったのならサクヤに何かあったのでは──と。


 慌てて周囲を見回すも、サクヤの姿はない。

 教会の外で待っていたはずのティアの姿も。


 リシュは、ベッドを下りて彼女たちを探そうとした──ところでドアが開いた。


「あっ」


 リシュのいる部屋に入ってきたのは黒髪の少女であるサクヤだった。

 腕にはパンなどがはみ出た布袋を抱えており、買い物に出ていたのが分かる。


「リシュ〜〜」


 サクヤの近くから姿を現した妖精のティア。

 彼女は泣きながらリシュの元へ飛んできた。

 そしてリシュの銀色の髪に、自分の顔をこすりつけながら泣きじゃくる。


「リシュ……ちゃん」


 ドア付近に立っていたサクヤは手にした布袋を落として、一筋の涙で頬を濡らして崩れるようにその場に座り込み泣き出してしまった。


「ふ、2人とも?」


 突然泣き出した2人にリシュは混乱していたが、なぜ2人が泣きだしたのかはこの後で受けた説明で納得した。


 リシュがいるのは教会から比較的近い村で、リシュは丸一日意識を取り戻さなかったとのこと。

 それならと、自分を心配してくれたのだと温かい想いになりながらリシュは2人が泣いた理由に納得した。

 

 だが、なぜ自分の記憶が途切れているのか訊ねると2人は目を逸らし続け──数分後には土下座をするサクヤの姿があった。

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