第23話 物の心と人の心
それは久しぶりに見た夢だった。
物として扱われていた頃は夢など気にも留めず、勇者となってからもまた──。
眠りから覚めたリシュは夢と現を彷徨いながら、先ほど見た夢の続きを思いかしえていた。
奴隷としての時は数年で終わりを告げ、奴隷だった少年たちは教会に引き取られることとなる。
そこでリシュは、治癒魔導士としての適性を見いだされ専門教育を受けることになった。
更に時が過ぎると彼はこの世界の勇者の1人として啓示を受け、異世界より召喚された勇者たちとともに旅に出ることとなる。
まるで大衆が好む成り上がり物語のような人生だったのだが、リシュは勇者となったことに何の感慨も持たなかった。
物として生まれ物として扱われ続け、その都度求められる物としての役割を果たす。
今回は物である自分に勇者という役目を与えられた程度でしかなかった。
召喚された勇者達はリシュを人として扱ったのだが、そのことに喜びよりも、居心地の悪さを感じながら勇者としての旅を続ける。
かといって、居心地の悪さを訴えることはなかった。
与えられた境遇をただ受け入れ役割を果たす。
例え、課せられた役割が理不尽な物であっても──それが物であれば当たり前のことなのだから。
居心地の悪さを感じながらも、特に文句を言わないリシュ。
そんな彼に対し異界から召喚された勇者の1人が恋愛感情を持つようになる。
最初は、物であろうとするリシュへのお節介をするだけだった。
しかし時が経つにつれ、お節介な行為は親愛の情を生み、やがて恋愛感情へと変わる。
自分に向けられる恋愛感情。
初めて向けられた強い好意にリシュは恐れを抱いた──だが、いずれ彼も勇者となった少女の想いを受け入れるようになった。
少女の想いを受け入れてから、リシュは物だった頃を思い出すことはなくなった。
最期の時を迎えるまで──。
ここまで過去を思い返した所で、夢と現の間を彷徨っていた意識は、現へと比重を置き始める。
閉じた瞼の先が明るい。
夢現の中にいる心地よさとは違う温かさが肌へと伝わってくる。
普段であれば、体を癒すであろうその温もりに、冷え切ったリシュの体は痛みを感じた。
肌に刺すような若干の痛みを感じながら閉じた瞼を開く。
すると白い雪によってできた地面の上にある、小さな焚き火が目に映った。
機能し始めた彼の脳が最初に考えたのは、何故目の前に火があるのか? だった。
間違いで生まれた命を、雪が降るこの場所で眠ることで終わらせようとした。
そんな自分が体を温めるための暖など用意するはずがない。
怪訝な表情で焚き火を見ているとあることに気づく。
目の前の焚き火に使われていたのは、小さな木の枝や葉など比較的軽いものばかりであることに。




