第22話 終わり逝く命と幻
周囲が雪に覆われた世界で、一人の少年が木の根元に腰をおろし身を寄せている。
リシュは、目を瞑り静かな終わりの時を待っていた。
閉じた瞼の裏に映るのは、昔の彼が生きた時間。
人だった頃の忌まわしい思い出──。
人だった頃の彼は、貧しい農村で生まれた。
親にとって彼は農業を手伝わせる道具にすぎず、愛情と呼べるものを向けられたことはない。
リシュにとって親というのは、労働の対価としては割に合わない、ほとんど水のお粥を支払う雇用主に過ぎなかった。
8歳を過ぎた頃、豊かでない農村でよくあることであるが、彼もまた奴隷商に売られることとなる。
そのことに彼は特段の感情を持たなかった。
自分が住んでいる村から売られていく子どもはよく見かけていたし、親にも特段優しくされたわけではなかったから。
舗装のされていない道を走る馬車の中で、疲れ果てた表情の少年たちはただ揺られ続けた。
数日が過ぎ、奴隷商は降りるように少年達に指示を出す。
どうやら目的地に着いたようだ。
一人、また一人と馬車から下りていく少年たち。
と、そのとき小柄な少年が馬車から下りたときに倒れる。
ロクな食事をとらず、馬車に揺らされ続けた影響なのだろう。
体力を失った少年は倒れたまま動かない。
そんな少年を見た奴隷商は、鞭を取り出し何度も彼に振り下ろした。
周囲に響き渡る乾いた音は、奴隷となった少年達に恐怖を植え付けるには十分だった。
何度、少年は鞭に叩かれたのだろうか?
やがて動かなくなり、奴隷商は体格のいい男に顎で指示を出す。
少年は、どこかに連れて行かれ、その後リシュは彼と会うことはなかった。
リシュ達は、このあと別の商人の元へと連れて行かれる。
その場所では過酷な労働を強いられ、リシュと同じ日に連れてこられた少年の多くは12歳になる前に大半が命を失った。




