第15話 迷宮の猟犬
ダンジョンの奥へと進むリシュとサクヤ。
彼らは5体のゴブリンと4体のスライムを従えている。
すでに4回の先頭を行っており、2体のゴブリンと1体のスライムを失った。
だが、リシュはDPと言えるポイントを使用することによりモンスターの補充を繰り返しているため、モンスター達の数に変化はない。
「大分、奥に来ましたね」
「そうだね」
警戒をするため周囲を見回しながら、リシュに話しかけるサクヤ。
リシュは、自分に話しかけている最中でも周囲を警戒している彼女の評価を上げていた。
(新米の勇者だと思っていたんだけどね)
サクヤを新米の勇者として扱っていたリシュ。
機会があれば、もう少し彼女に権限を与えてみようと考えた。
と、そこへ奥からモンスターが現れる。
機敏な動きでリシュ達へと迫る影。
木目が浮き出た床を走りながら接近する、そのモンスターの名はコボルト。
犬の頭部を持ち、全身もまた犬の毛皮で覆われた魔物。
頭部以外は人のような骨格をしており、素早い動きで敵を翻弄しながら手にした槍で仕留める。
「隊列を組め!」
リシュの言葉に2体のゴブリンは、己の背丈ほどはあろうかという木製の大盾を構える。
盾を構えるゴブリンから少し下がった位置には4体のスライムがまとまり、更に後ろには剣を手にした3体のゴブリンがいた。
最弱の群れともいえる、ゴブリンとスライムで構成されたリシュの小さな軍隊。
対する2体のコボルトは、リシュが率いる部隊よりも一回り以上に強いモンスターだ。
数で勝るとはいえ、通常であれば一方的に蹂躙される戦力差であるのだが、リシュはここまで来るまでに、この部隊を動かしながらコボルトを蹂躙してきた。
「構え!」
リシュの言葉と共にゴブリン達は、盾を握る手に力を入れ──そこへ、コボルト達がゴブリン達へと突進する。
盾と槍がぶつかり合う音がダンジョン内に響き渡る。
何度も、何度も響き渡る音は、金属の穂先と木製の盾がぶつかり合う音。
時としてコボルトは、槍を上から叩きつけるように振り下ろすも、ゴブリンは身を低くして盾の影に隠れてやり過ごす。
槍は盾によって全て防がれると判断した、先ほどとは違うコボルトは強じんな足腰を活かしてゴブリンが手にした盾に蹴りを入れる。
盾を手放すことはなかったが、ゴブリンは大きく仰け反ってしまう。
モンスターとして根本的に違う筋力。
防御に徹しようとも、少しの工夫で簡単に圧倒されてしまう現実が目の前にはあった。
仰け反ったゴブリンは後ろに倒れてしまい、コボルトは追い打ちをかけようと迫る。
しかし──。
「スライム!」
リシュの指示に従い、ゴブリンの影に隠れていた2体のスライムが飛び出て、コボルトの足へとまとわりつく。
スライムをなんとかしようとコボルトはするも、手にした槍ではリーチが長すぎて、密着したスライムに有効なダメージを与える事はできない。
そこへ、先ほど転倒したゴブリンが起き上がり、盾を前面に押し出しながら突進する。
スライムに纏わりつかれ、動きを封じられていたコボルトは、ゴブリンの突進を避ける事は出来ない。
ゴブリンの突進を受けたコボルトは、激しい衝撃を受けて後ろへと倒れる。
「スライム! 呼吸を止めろ」
先程倒れたコボルトの下半身に纏わりついていたスライムは、上半身への移動を開始する。
両手足を必死に動かしながら抵抗するも、コボルトはゼリー状の体のスライムを引き剥がすことはできない。
この状況を打破するには、スライムの核を破壊するのが良いのだが、冷静さを失ったコボルトでは判断が及ばないことだった。
仮にスライムの核を破壊出来ても2体のスライムに襲われている状況では、一方のスライムが持つ核を破壊している間にもう一方が口を封じるハズだ。
よってスライムを凍らせるなど、魔法を使えない時点でコボルトの運命は決まっていたといえる。
「シールド! 残りを囲め!」
盾を持った2体のゴブリンにリシュは再び指示を出す。
リシュの指示に従い、盾を持ったゴブリンは残りのコボルトに盾を密着させて壁へと追いやる。
そして壁へと押し付けられ、動きを封じられたコボルトに追い打ちをかけるため、リシュは新たな指示を出した。
「スライム! 纏わりつけ」
リシュは、壁に押し付けられて動きを封じられたコボルトの動きを完全に封じようと、スライムをけしかけた。
すでに盾と壁に挟まれて身動きが取れなくなっていたコボルトに、抵抗する手段などない。
一体のスライムは足を、もう一体のスライムは槍を持つ手を封じた。
先程、スライムに口と鼻を封じられたコボルトは、しばらくは必死に抵抗していたが既に動きは緩慢なものへとなっている。
動きを封じられたコボルトと、呼吸が出来なくなり死を待つのみとなった別のコボルト。
リシュは、彼らの命を狩るために最期の指示を出す。
「ソード! 止めを刺せ」
手に剣を持ったゴブリン達が、リシュの言葉に合わせて走り出した。
一体は呼吸を妨害されるコボルトの元へと走り、横たわる獲物へと何度も剣を突きさす。
そして2体のゴブリンは、盾によって壁に押さえつけられるコボルトの元へと走る。
「GUoooo」
剣を振り上げながらゴブリンが雄叫びをあげる。
すると盾を持ったゴブリンの一体が退き──そこへ剣が振り下ろされた。
剣は、コボルトの胸部に深い傷を負わせた。
あとは、作業でしかない。
ゴブリン達は、ひたすら剣を振るい続けた。
決して華麗とは言えない。
それどころか剣技と呼ぶには程遠い稚拙な太刀筋ではあったが、動きを封じられたコボルトを狩るには十分であった。
コボルトを狩り終わると、リシュ達は再びダンジョンの奥へと歩き出した。




