第14話 迷宮を殺す魔物達
森の奥にある教会。
そこはかつて、街にいられない子どもたちを養う孤児院の役割を果たしていた。
街にはいられない──すなわち、教会にいたのは人の世において異端と称される子どもたち。だが、教会内には悲壮感など存在せず神父とシスターによって愛情を注がれていた。
雨の激しく振るその日までは──。
それから数十年が経ち放置された教会。
内部に血痕が残るその場所は、魔神の力を受けてダンジョンと化している。
~森の教会 ダンジョン内~
ティアを地上へと残して、リシュとサクヤはダンジョンへと侵入した。
彼らがいるのは、ダンジョンに入りすぐの位置。
未だ教会の面影を残すその場所は、礼拝堂であり割れたステンドグラスからは、今もなお神秘的な光が石畳へと降り注がれていた。
「荒らされていますね」
「何かがあったんだろうね」
サクヤは周囲を見回しながら顔をしかめた。
礼拝堂の椅子は壊され、辺りに黒ずんだ血痕が付着している。さらにホコリも溜まり壁には植物の蔦が伸びている。
教会がモンスターに襲われたことを知らないリシュ達であっても、何らかの惨劇が会ったことは想像できる状態だった。
「まあ、詮索は後回しにして準備を始めることにしよう」
「ええ」
ダンジョン殺しには、発動時間が存在する。
このためリシュ達には周囲を調べている余裕などなかった。
「ゴブリン5体、スライム4体を作成」
リシュが言葉を発すると光の柱が9つ目の前に立ち上がる。
これは彼の能力によってモンスターが創られている証。
やがて光が弱まると、光の柱の奥にモンスターの影が見えた。
5つの光の柱には、子鬼とも呼ばれる10歳前後のリシュよりも僅かに身長が高い緑色のゴブリン。
残り4つの光の柱には、リシュの腰程度の大きさをしたゼリー状の体を持つスライム。
光の柱が完全に消えると、リシュはさらに言葉を発する。
「ゴブリン3体にソードを装備し、ソードという名でグループ化」
アイテムBOXという、アイテムを入れておく空間からゴブリン達の手元に剣が転送された。
リシュは、この剣を持ったゴブリン達をソードという名前で括ることにした。
これにより、この剣を持ったゴブリンへの指示は、ソードと付ければグループ全体への指示となる。
「残りゴブリン2体にビッグウッドシールドを装備し、シールドと命名」
ソードと同じく、アイテムBOXから木製の盾が現れゴブリン達が装備する。
盾はゴブリンの身長ほどある比較的大き盾だ。
先程、ソードとグループを命名したのと同じく、彼らはシールドと名付けられた。
この後リシュは、4体のスライムのグループを”スライム”と命名した。
ソード、シールド、スライム──何の捻りもないグループ名だが問題はないだろう。
問題があるとすれば、何の捻りもないグループ名をつけたリシュにサクヤが萌えていることぐらいだ。
(リシュちゃん、命名のセンスがないところも可愛すぎる!)
欠点すらリシュの可愛い所だと思えてしまうサクヤ。
すでに人間として問題が出始めているのかもしれない。
しかし何の捻りもない名前をリシュがつけたことが、サクヤの元気に繋がった。
この点を考えれば、問題視する必要はないだろう──症状が悪化しない限り。
「前列、シールド。中列、スライム。後列、ソード」
言葉と共に以下のように隊列を組ませた。
前列:ゴブリン2体 (シールド)
中列:スライム4体
後列:ゴブリン3体 (ソード)
ダンジョン殺しの最中に行うモンスター作成には、DPというポイントを消費して、強いモンスターほど多くのDPを消費する傾向にある。
自分のダンジョンにモンスターを配置する場合とは違い、ダンジョン殺しを終了すると、これらのモンスターは消滅してしまう。
だから強いモンスターを、ダンジョン殺しの最中には作りたくはないのがリシュの本心だ。
しかしダンジョン殺しの最中で会っても、通常のダンジョン探索と同様に、制圧しようとするダンジョンに住むモンスターによって命を落とすことがある。
よって、身の安全を守れる程度のモンスターは必要となる。
「行こう」
「はい」
モンスターを率いるリシュとサクヤは、祭壇の前に地下へと通じる階段へと向かった。
モンスターを作成できる数には限度がある。
現状でリシュが作成できる上限は13体だが、通路の広さなどを確かめない限り、限界までモンスターを作っても移動の邪魔になりかねない。
このため、作り出すモンスターを9体に留めて、リシュはダンジョンの奥へと進むことを選んだ。




