表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫色のヴェノム  作者: 藍沢 或
第1話 毒姫と錬金術師の弟子
1/15

プロローグ

 少年の記憶にあるその花は、美しい紫色の花をつけていた。

 まるで司祭がつけているフードのような形をしていて、香りも良いものだった。小さい頃からベッドに敷き詰められていたので、見覚えはあった。

 その花を少年に見せびらかすと、浅黒い肌をしたひげ面の男は少年の手にそれを渡した。少年が連れて来られた組織の首長だった。


『それを食べろ』


 幼い少年の記憶では花というものは食べるものではなく、愛でるものだった。

 ベッドに敷き詰めているのも、おぼろげに覚えている母がそうしていたように、花の香りを楽しむものだと思っていた。

 困惑したように花を眺める少年を、男は容赦なく殴った。あまりの痛さに少年は呆然としたように、自分を殴った男を見上げた。

 男は少年に花を渡した時と同じようにどんな表情も浮かべていなかった。せめて怒っていれば少年も理解できたが、男の無表情さを気味悪く感じた。


『食べろ』


 再度繰り返される言葉に、少年は殴られるのが嫌で、その花を口にした。青臭くてまずかったが、無理やり飲み込んだ。

 男は少年がそれを食べるのを見ると、ようやく満足そうな顔をした。

 少年が殴られずにいることにほっとしていると、強烈な嘔吐感が彼を襲った。花を口にしてから数十秒程度しか経っていないが、少年はあの花が原因だとすぐに分かった。

 あれは食べてはいけない花だったのだ。

 思わず嘔吐するが、男は全く心配する素振りもなかった。それが当たり前のように咳込む少年の様子を眺めていた。


『た、たすけ……』


 苦しみ助けを求める少年の手を男は振り払い、少年を閉じ込めた部屋から出て行った。

 少年は部屋で涙を流しながら嘔吐を繰り返し、荒い呼吸を繰り返した。


──ああ、これはきっと自分は死ぬ。


 そう思った。

 どうせ死ぬなら早く死んでしまいたい。こんな苦しみを味わって死にたくない。

 そう思ったが、少年はその日は生き残ってしまった。



 そして、それが憎らしいほどに美しく、残酷な紫色の花との始まりだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ