表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/33

行方

その頃、あやめと星路はお祝いのご馳走を食べ終えて、風呂も済ませて緊張気味に向かい合っていた。片やそんな事には無縁だったあやめ、片や車だった星路なのだ。今から、さあ初夜を迎えてくださいと言われて、簡単に行くはずなどなかった。

「その…やっぱりオレがするんだよな?」星路は言った。「よく分からないから、迷惑掛けるかも知れないんだが。」

あやめは頷いた。

「あの…私もよく分からないし、気にしないで。」

あやめはかちこちに固まっていた。車の星路は小型だが、人の星路は身長が180センチぐらいあった。抱き締められるとすっぽり収まるあやめは、ただ固まるしかなかったのだ。

照明を落として、星路はそのままぎこちなく唇を寄せた。あやめはそれを受けて、二人でそのままベッドに倒れ込んだ。

そのまま口づけていると、星路がピタと止まった。顔を上げて、じっと見えない何かを見ている。あやめは星路に声を掛けた。

「…星路?どうしたの?」

星路は、我に返ったようにあやめを見た。そして、言った。

「…オレの体が、移動しているのを感じる。」星路は戸惑っているようだ。「なんで分かるのか分からないが、分かる。しかもディーラーの中の距離じゃねぇ。結構な距離を走ってるな。」

あやめは慌てて起き上がった。

「それ…それって、星路が誰かに持って行かれてるってことじゃないの?!」

星路は頷いた。

「おそらく。…停まったな。バックしている…どこかに入れてるのか。」

星路は眉を寄せながら言った。あやめはベッドから降りながら、星路を引っ張った。

「戻ろう!星路の体を取り返さなきゃ!どこに居ても、私がこっちから念じたら星路の体の近くには行けるから!」

星路は頷いた。そしてあやめの手を取って、じっと見つめて言った。

「すまないな、あやめ…せっかく結婚したっていうのに。」

あやめは何度も首を振った。

「何を言ってるの!星路のせいじゃないじゃない!いいの、もう結婚したんだもの。いつでも、一緒に過ごせるわ!ね、星路。」

星路は頷いた。そして、急いであのガラスのような玉を出して、あやめは戻ることを念じたのだった。


少し離れた場所で、パトカーのサイレンが聴こえる。

あやめは、暗い自分の家で立っていた。急いで外に走り出ると、前のプリウスが言った。

「ああ、あやめちゃん!今パトカーに知らせてもらったんだ。星路が、盗まれたんだよ!デミオが叫んで皆に知らせたんだ!」

やっぱり、とあやめは頷いた。そして、キーケースに付いている星路のマスターキーに向かって言った。

「星路、どう?そこはどこ?」

星路の声が言った。

「…真っ暗だ。どうやら狭いシャッター付きの車庫に入れられてるらしいな。オレがぎりぎり入ってる感じだ。窓が開いてる…どうもここから降りたようだな。つまり、それぐらい狭い。お前、こっちへ来れないぞ。どこかを挟んじまう。」

あやめは、泣きそうな声で言った。

「そんな!それじゃあっちへ戻れないじゃない!三日以内に見つけないと、あなたが消滅してしまうわ!」

どうしてもっとたくさんセキュリティーシステムを着けて置かなかったんだろう。あやめは後悔した。こうなる可能性はあったのに…どうして気付かなかったの…。

あやめがどうしたらいいのか分からずに、家の前で右往左往していると、パトカーが警告灯だけ灯して向こうからそろそろと走って来た。あやめは固唾を飲んだ…きっと、盗まれたのを言いに来たのだ。

パトカーからは、夜中にも関わらずあのディーラーの店長と、警官が降り立った。

「ああ、あっちのサイレンで出て来たんですか。店のセキュリティーが反応しましてね。そこから警察に連絡がありました。店長にも連絡が行って、一緒にこちらへご報告に来たのですが。」

警官の言葉に、あやめは言った。

「何かありましたか。」

警官は頷いて、店長のほうを見た。店長は深々と頭を下げた。

「あの車は、有名になっていたのに油断致しました。先程何者かが侵入してロードスターに乗って走り去って…。本当に申し訳ありません!」

あやめは、ただ頷いた。そうするより他思いつかなかった。警官が言った。

「今、付近の道路に向いている防犯カメラなどを探しています。明日には、そういった防犯カメラの画像を確認して犯人の足取りを調べますので。」

あやめは頷いた。

「宜しくお願いします。」

まだ、ボンネットは塗装されていなかった。あのままで走ったら目立ったはず。誰か、目撃していてくれたなら…。

あやめは、焦る気持ちを抑えながら、仕方なく家の中へと入った。星路…。

「どうしよう。」あやめは、マスターキーに言った。「どうしたらいいの。そっちに行けると思ったのに…。」

星路は、なだめるような声で言った。

「大丈夫だ。あやめ、絶対犯人はオレを確認しに来るはずだ。シャッターが開いたら、すぐに回りの物にどこなのか聞いてお前に知らせるから。安心しろ。」

あやめは頷いた。

「星路…。結婚したのに…。」

星路は優しく言った。

「大丈夫だよ。きっとすぐに帰れるから。次こそ、邪魔なんかなくほんとに結婚しような。」

「うん。」あやめは涙ぐみながら言った。「次こそ、絶対。」

あやめがそう言って涙を拭うと、夜中にも関わらず携帯が鳴った。びっくりして見ると、それは悟からの電話だった。

「もしもし?」

あやめは、何事だろうと慌てて出た。声は言った。

「あやめちゃん!よかった、心配していたんだよ。休みの間に何かあったらいけないと思って、二時間位前に一度家まで様子を見に行ったんだ。でも、居なかったから…何かに巻き込まれているんじゃないかと。」

心配してくれていたの…。

あやめは、せっかく収まりそうだった涙が、また込み上げて来るのを感じた。

「悟さん、私のロードスターが、ディーラーの車庫から盗まれたと連絡があって。」

あやめは涙声で言った。悟は驚いたように叫んだ。

「ええ?!でも、まだ修理が終わってないんじゃないのか?あのままで盗まれたのか?」

あやめは頷いた。

「そうなんです。でも、目立つからきっと見つかるはずだと…警察も、道路を向いてる防犯カメラを辿って、行方を捜してくれると言っていたし。」

悟は考え込むような感じで言った。

「よし。じゃあ、明日の休みはあやめちゃんの車のことをオレ達なりに探してみよう。オレ、明日の朝迎えに行くよ。」

あやめは、少し希望を持って答えた。

「ありがとうございます。ほんとに、すみません…。」

「何を言ってるんだ。」悟は笑いながら言った。「元はと言えば、あの仕事をしてもらったばっかりにいろいろ起こってしまってるんだから。オレも出来る限り手伝うよ。明日の朝、9時に家の前に行く。」

あやめは頷いた。

「はい。お待ちしています。」

電話は切れた。星路の声が言った。

「悟は、こういうところに面倒見がいいヤツだからな。だがあやめ、悟がいいヤツだからって、くれぐれもオレ以外と付き合うなんてことは…」

あやめは慌てて頭を振った。

「ないない!それにね、悟さんだって、責任感じて私の面倒見てくれているだけで、そんな気はないと思うわよ?恋愛って、お互いにその気がないと駄目なもんだしね。私は元より、星路だけ。結婚したばっかりなのよ?有りえないって。」

星路は少し、不機嫌に言った。

「だがなあ…流されたりとか人の恋愛の資料に書いてあったしなあ…」

あやめはもう!と怒った。

「な・い!何度も言わせないで。星路、早くこれを解決してきちんと結婚しようね。そしたらきっと、そんな不安は無くなるだろうと思うから。」

それには、星路も大真面目に答えた。

「ああ。早くしないとオレも落ち着かねぇよ。」

その日は、久しぶりに家のベッドで一人で寝た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ