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78・猫な出会いと王子様

 


 ルディ王子様に案内されたのは、城の3階にある大きな出窓のある一室。

その窓からは王都の城下が見下ろすことができてて、収穫祭の様子もここから一望できる。

丘の上に作られた城と言う事もあり、景色を楽しむ要素も含まれているらしく。

それは騎士団宿舎の窓から見るのとは、また違った印象だった。



(あれ? 今日は中庭に行くんじゃないんだ)


 私がそんな事を考えている横で上機嫌のルディ王子様。



「さあさあ、お待たせしたね。ちょうど今年の茶葉も献上品で貰った所なんだよ。

 ここならゆっくりと収穫祭の雰囲気も楽しめるし、いい所だろう?

 いつもはここで毎年、弟達と民の楽しんでいる様子を眺めているんだ。

 流石にあの大人数だと安全上の問題で、私は外出を許して貰えないからね」


 

 そうして私達はティアルのお部屋で遊ぶ予定が、

ルディ王子様と仲良くティータイムをする運びになりました。



「みいみい……みいにゃん?(でもあの……ルディ王子様、お仕事は?)」



 まだ公務が残っているのではないでしょうか? ほら、リイ王子様の分も。

そう私が言うと、ルディ王子様は、ふっと窓の外を見つめて……。



「……たまには私にも休息が必要なんだよ。ただでさえ愚弟の後始末もあったし、

 弟程じゃないが、私はとてもデリケートだからね。今は凄く癒されたい。

 ほんの少しだけ動物達とたわむれても別に良いんじゃないかな?

 ローザンレイツは多種族に寛容な国風を目指しているんだからね。

 そうだ。そういう事にしておこうか。うん」



 父親にはこれで説得しようと一人で納得し、うんうんと言いながら、

二階の窓から見える城下町を見下ろしつつ、お茶の入ったカップを傾けておりました。



(つまりは、ルディ王子様も公務を抜け出してきたと)



 この人は収穫祭を近くで楽しんだり出来ない立場だものね。

ここから見える景色は、ルディ王子様が普段から見ている光景なのだろう。

街で騒ぐ国民達を見て、微笑ましそうに見える一方でなんだか羨ましそうにも見えた。


 お祭りはみんなと一緒にその活気を楽しむのが醍醐味だいごみなのに、

やはり跡継ぎだから難しいんだろうな。



「み?」



 でもあれ? 今、ルディ王子様にとてつもなく違和感が。



――なんで……ルディ王子様は“私”の言葉が分かるの?



(そういえば、さっきも……)



 今の私は猫仕様。その為に私が話す言葉は猫語のはず。

なのに、なぜか今……普通にルディ王子様との会話が成立していたよね?

いくら動物好きだといっても、流石に言っている言葉なんて分からないだろう。

ローディナ達だって、猫になった時の私の言葉は理解していなかったのだし。


 アデル様やラミスさんは元々が龍族だから、獣の言葉が分かっても当然。



(でも、ルディ王子様は普通の人間だし)



 他の種族の共存の為に猫の言葉まで理解できるものだろうか?

そんな疑問が私の中に芽生えていた。


 しかし、私が色々と考えをめぐらせていると、

何処からか、ずりっずりっと地をいずるような物音が聞こえ、

それは徐々に私達の居る部屋に近づいて来ることに気が付いた。



「み、みい?(な、何この音?)」



 不審に思い振り返ると、部屋の入り口をがしっとつかむ誰かの手。

びくっと体が反応した私は、部屋の中に進入してくる人の姿を凝視する。



「み、みい!?(リ、リイ王子様!?)」


「あ~に~う~ええええ~」



 それは、今死んだように寝ていると思われていた弟王子、リイ王子様の姿。

なぜか肩や頭の上、片腕の中に白い子猫達と母猫らしき猫を連れて、

ふわふわだった髪は以前見た時よりもボサボサ、着ている服もよれよれという有様で、

リイ王子様だと気づかれないんじゃないかなと思う状態でした。



 なんて言うか登場の仕方が既にホラー、白猫の集団に取り憑かれています。

入り口で待機している警備役の騎士さん達が驚いていますし。



「にゃーん」



 かろうじてそれを和らげているのは、一緒に居るのん気な白い猫達で。



「なんだリイ、部屋で休んでいなくていいのか?」


「兄上、私には、白き神の使い達のお世話がありますから!」



 一瞬だけ、キリッとした顔で兄のルディ王子様に答えるリイ王子様。

しかし、その顔も直ぐに疲れた顔に戻りました。長くは持たないらしい。

もしかしてリイ王子様って、こっちの方が素でいいのかな?



「そ、それよりも兄上だけリファ様達と茶会をするなんて、

 なぜ、なぜこの私を誘っては下さらなかったのですかああっ!!

 全力でお受けしたのに!! あんまりではないですか!」


「なぜって……お前はうるさいからな」



 私とリファは一緒にこくこくと頷く。見た目はクールビューティなんですけどね。



「うう、私がどんなにリファ様やユリ……いえ、白き使いの世話を願っているか、

 兄上もよくご存知でしょうに! ぜひとも、ぜひともこの私に給仕を!!

 華麗なる給仕をこなして見せます!!」



――華麗なる給仕って何? リイ王子様、ちょっと見たいです。



「一国の王子が、給仕の真似事なんてさせられるわけがないだろう」


「……兄上」


「まあ帰れと言っても、部屋の前ですすり泣かれても困る……か。

 一応置いてやるのを許可してやるが、邪魔だけはするなよ?

 あと、ここでの事は私は何も見ていない、それでいいか?」


「はい! 兄上!!」


 すすり泣いていたリイ王子様は、お兄様のお許しで目を輝かせました。



(つまり暴走しない様に、多少は目をつむるって言うんですね)



「では、白き使いの皆様もどうぞおくつろぎ下さい」


 リイ王子様は、うきうきと連れてきた猫達を部屋の中に一斉に放す。

すると、母猫が私を見るなり、傍にとてとて近づいてきたかと思えば、

私の匂いをくんくんといできて……一瞬、不思議な顔をされた。

そして、私の後ろ首の辺りをぱくっとくわえて、子猫達が集まる所へ。



「みいい~?(あれれ~?)」



 ぷらんぷら~んと揺れながら、子猫達の群れの中に混ざりこむ私。

子猫達は、みゃあみゃあと鳴いては私の匂いを嗅いだり、抱きついたり。

じゃれ付かれたりされているんですが……。


「(この子居たっけ~?)」とか、


「(あそぼ、あそぼ)」と私に言っているのでしょうか?


 みなさん、とってもフレンドリーですね。



「みいい……(どうしよう……)」」


 あの、あの、猫のお母様、私はあなたのお子様じゃないんですよ~?

どうやら、この母猫さん。私を自分の子供だと誤解したようだ。

先ほど不思議な顔をされたのは、「この子うちの子かしら?」って考えたらしい。



「リイ、この猫達は何処から連れてきた? 教会の猫か?」


「はい、先日ユリアに王都で生活をしている白き猫がいると聞き保護を。

 この神々しいまでの無垢なる白さは、神の使いである何よりの証です。

 世話をするのは我ら聖職者の役目ですので、先日から城に招いていました」


「みっ!?」



 それって……リーディナが変身アイテムの「リビアの指輪」を作る為に、

街中の猫の毛を素材として使ったとか言っていたから、

もしかしてそのベースとなった白猫って事ですか!?



「みい、みいいい(つまり、この姿のオリジナルの子猫さんが?)」



 間違えられていたのは、そもそも私がその子猫の姿を借りているからですね。

なるほど~それなら「うちの子ですが何か?」ってされても納得だ。

納得ついでに、思わず私は周りに居る子猫達をじいい~っと観察する。


(どれがベースになった子かなあ? いっぱい居て分からないなあ? 

 はて、一体どの子でしょう? お世話になってるからお礼を言いたいな)



 あれから少し経っている事もあり、子猫は私よりも一回り大き目。

でも、この群れに居ると、子猫の本能からか凄く落ち着くんだ。

とりあえず、ありがと~とみいみい言って子猫達を抱きしめる。

そうそう、これこれ。この癒し感が欲しかったのよ。


 何より、体をくっ付けて過ごす事が癒されるわ。温かいし。

みんな凄く優しいね。私はよそ者なのに快く仲間に入れてくれるの。


 思わず、もふもふに包まれて浸っていると、母猫さんに話しかけられた。



「みゃ~みゃ~」


「み、みい(は、はい?)」


 ええと? もしかして、この母猫さんって、


「(もう~離れたらダメじゃないの~)」



 ……とか私に言っているんでしょうか?

母猫さんが私の頭をぺろぺろ舐めたり、頬ずりしてくるんですが。

ち、違うんだ。姿はお借りしていますが、私はあなたの子供ではありませんよ!?

私がにゃあにゃあ説明しようとすると、小さいままのリファが飛び込んできて、



「キャウン、キャウン!」


 私をくわえて母猫さんから引き離されました。

この子はアタクシの子よ~っ!! と主張し始めたようです。

そのまま二匹はうなり声を上げ始め、親権争いを勃発ぼっぱつ

当の私は、ぽつーんとその場に取り残される事態に。



「フギャー!!」


「グルルル、ガアアアッ!!」


「……み、みい? みにゃ~?(え、ええと? け、喧嘩けんかは良くないよ~?)」



 何ということでしょう、ここでも種族を超えた親権争いがっ!?

私が二匹のママン達を止めようと、わたわたと前足を伸ばしていると。



「みいみい、ユリア~オカシ、タクサンアルヨ~?

 ハンブンコ、ハンブンコ、オイデ~」



 呼ばれて振り返れば、ティアルがカップケーキを大事そうに持っている。

でも……そう言いながらちらちら見ても、私に二匹を止める術は見つからない。



「みいみい、ユリア、ハヤク、ハヤク」



 ティアルがぴょこぴょこ飛んで私を急かしている。



「みいい?(いいのかなあ?)」



 後ろのリファ達を振り返りつつも、ティアルの隣に座った。


 女官さんがニコニコしながらナイフを手に取り、

私達が食べやすいように切り分け小皿に盛り付けてくれて、

その小皿を受け取ったリイ王子様が、私達の前にそれぞれ並べてくれた。



「どうぞ」


「みい、アリガトナノ」


「みいみい(ありがとうございます)」


 

 それぞれの皿の上に載せられて、私達はカップケーキを前足で大事に持つと、

頭の上に持ち上げて、ただいま喧嘩けんか中のママンこと、リファに聞いてみる。



「みいみい、ネ~リファ、タベテモイイ~?」


「みいい~(食べてもいいですか~?)」



 本当はリファの傍まで持って行って、食べていいか聞きたい所なんですが、

お取り込み中だし、ケーキを落としてしまいそうなのでその場で聞く事にした。

他所で食べ物を出された時は、リファにお許しを頂かないといけないのです。

ほら、私達は一応リファの子供同然ですからね。


 もっとも、私の場合は子猫の姿をした時だけですけれども。



「……何というか、上下関係がきっちり出来ているんだね」



 はい、リーディナにもよく言われるんですよ。ルディ王子様。



「キャン!!」


「みい、ワーイ、イイッテ」



 リファ、今はお取り込み中でそれ所ではないようですが、

一度、私達の持っている物を確認する為に争いを中止し、

こちらに駆け寄って匂いを確認した後、お許しをくれました。

そして再び荒ぶる獣となって親権争いを再開していた。


 私達はしっぽをフリフリしつつ、みゃあみゃあ言って喜び、

仲良く「いただきます」と前足を合わせて、ぱくっと一口。



「み!」



 美味しい! ベリー系の甘酸っぱい赤い木の実が入っている!!

濃厚なクリームに酸味のある果実、ふわふわのスポンジが口の中いっぱいに広がった。


 やっぱりお城で出される物は一味違いますね。こんなにも美味しいなんて。

何かのスパイスも練りこんであるようだが、それがまた果実と良く合って美味しい。



「ふふ、気に入ってくれたようで良かったよ。ユリア君」


「みい」



 ルディ王子様に機嫌よく返事をする私。その時には既に警戒心は薄れていた。

お城の中では、こんなに美味しいケーキが食べられるんだなあと感心し、

幸せな余韻よいんに浸る。


 でも、こんな時でも直ぐ思い浮かぶのはアデル様の顔で。



(きっとアデル様も喜ぶだろうなあ……)



 甘いものが大好きなアデル様の事だ。きっと喜んでくれるに違いない。

幸せそうに食べる姿がとても好きな私は、アデル様の分も欲しくなった。

後で少しだけアデル様にお土産に頂けないかな? ちょっと図々しいかな?

それが駄目なら購入したお店を教えて欲しいなあ。


 だから勇気を出して、ルディ王子様にお願いしてみる事にした。



「ん? どうしたんだい? 口に合わなかったかな?」



 私は首を振った。いえいえ、とても美味しいですよ?



「みいみい、みいにゃん?(後でアデル様用に、少しいただいてもよろしいですか?)」


「ああ、そういう事か、うん勿論かまわないよ。

 アデルバードはこういう甘い物が本当に好きだからね。

 それにしても、二人とも睦まじいようで何よりだ」



 やっぱり言葉が通じているようだ。どうしてだろうと思いつつも、

種の共存の為に何か勉強したのかなと考えた。その努力、尊敬に値します。

とにかく、アデル様のお土産もいただけるという事で満足だ。



「みいみ(ありがとうございます)」



 とりあえず前足を合わせて、お礼を言います。




「屋敷では君が彼の為に菓子を焼いてあげているんだったね。

 アデルバードが、店で問題を起こさずにゆっくり食べられると喜んでいたよ。

 このタルトもアデルバードは好きなんだが、参考に食べてみるかい?

 いつも私と茶を共にする時、決まってコレを頼むんだよ彼は」


「み?」


「彼に初めて差し入れとして持って行った物でね。

 以来ずっと彼の好物になっているらしいんだ。

 店では日持ちするのが好まれるから、手間が掛かるし作らないそうだよ。

 だから、これは城限定の菓子と言っても良いかな?」



――レア食材!? それでもってレアレシピ!



 アデル様の好物と聞いて、私はそれに強く反応する。

黄色い果実とそれを覆うツヤ出し用ジャムのナパージュらしきものが乗っている、

生地はビスケットを砕いたタルト層になっているのだろうか?

フィリングはクリームのようだが、切った断面が綺麗だからムースなのかも。


 じい~っと、じいいい~っとケーキを記憶する。

帰りに食材を買い込んで試作してみようか……私にも作れるかな?



「良かったらレシピも帰りに用意して貰うよう、私が頼んでおいてあげるよ」


「み?」


 ルディ王子様が私に、フォークで切り分けた欠片を私に差し出してきた。

もしかして私が食べやすいようにと手伝ってくれるという事なのかな?

少し反応に困ったけれど、「アデル様が好きなもの」というキーワードに、

強く強く反応していた私は、冷静な判断が出来なかった。



(ここは大人しく甘えておこうかな? アデル様のお土産ももらえる事だし)



 そう思って私が大人しく口を開けようとしたら……。



 キイン!



 何かが目の前で響く音がして、私の動きが止まる。

目の前で差し出されていた筈のフォークが目の前から消え去り、

真横の壁へと突き刺さっているのを発見した。



「み……っ!?」



――今度は何事ですか!? 



 動揺しながらおろおろと辺りを見回してみると、

窓の外から、ずりっ、ずりっと何かのいずる音がするので、

私は恐々としながら窓辺によじ登り、窓のすぐ下をのぞき込んだ。



「ラーイーオールーディイイイッ!!」


「みいいい~っ!?」



 すると其処には、ギラギラと金色の獣の瞳をしたアデル様が、

なんと、お城の壁を素手でよじ登っておりました。



(ちょっ、ここは三階!! ……って、ああアデル様は龍人か)



 トカゲって壁を登れるから、龍のアデル様が出来てもおかしくないよね?

……いえ、流石にトカゲとアデル様を一緒にしたらアレかしら。


 でも人型で、それも素手で壁をよじ登ってくるアデル様の姿は余りにも衝撃的で、

落ちてしまわないかと、ハラハラしながらアデル様を見つめていた。



(命綱なしで、スタントマンさながらのことが出来るなんて!!)



 アデル様、やることなすことが超人過ぎますから!!

普通の人間は、お城の壁をよじ登れませんからねっ!

わたわたと、正体がバレてしまいますよアデル様~っ!! っと、猫語で訴える私。


 あ、でもロッククライミングが世の中にはあるから、出来る人もいるのかな。

この世界では分からないけれども。



「何だと思ったらアデルバードじゃないか。はは、どうしたんだい?

 ああ、もしかして自分だけ誘って貰えなくて怒っているのかな?

 勿論、君の都合さえ良ければ一緒に参加してくれてかまわないよ?」



 一方、ルディ王子様はのん気にも、窓から壁をよじ登ってくる友人に手を振っているし、

助けを求めようかと、背後に居る弟のリイ王子様を見たら、

白い母猫と白い狼のリファがそろっている姿を見て、



「ああ……っ、なんて神々しい光景なんだ。心が洗われるようだ」



 と一人悦に入っていて、まったくもって役に立ちそうもないし、

ティアルはしっぽを振りながら、ずっと食べていて無関心だし、



「みいい~っ!」



 うわーん誰かーっ!! この状況を誰か止めて~っ!!



 やがて窓の縁にがしりと手をかけたアデル様。

足を掛け、この部屋へとついに乗り込んで来ました。


 両肩をいからせながら、ギラリと向ける視線の先はルディ王子様の方、

その時になってやっと、ルディ王子様も「あ、もしかしてまずい?」と察したのか、

表情はにこりと微笑んだまま、そのまま顔がみるみる青ざめてきており。


 アデル様の手がルディ王子様の頭をがしりとつかむと、

給仕の為に部屋の隅に控えていた女官さんが悲鳴を上げて、

彼女達が持っていた食器が床へと落ち、盛大に割れる音が辺りに響いた。



「貴様……俺の目を盗んで、ユリアに給餌きゅうじを行おうとしたな?」


「みい?(アデル様?)」


「い、いや、あれはだね? アデルバード」


給餌きゅうじは我ら雄が行う、大事な求愛行動の一つだ。

 することを許されるのは身内家族か心を許した伴侶となる雄だけ、

 そしてユリアは俺の恋人であり、俺の花嫁になる娘だ。

 当然、この俺が給餌きゅうじを行う権利がある」



 淡々と話していたアデル様は、牙をむいてルディ王子様を威嚇いかくする。



「よもやユリアの事を諦めたと見せかけて俺をだまし、

 隙をついて俺から奪う算段をしていたのか!? ライオルディ!」



 怒号と共に、部屋の気温が一気に下がった。アデル様を中心に揺れる室内。



「だっ、誰か!」



 その様子に、慌てて女官さんは部屋から飛び出し外へ助けを求めようとし、

同時に、入り口で警備をしていた騎士の方達は部屋になだれ込んでこようとしたが、

ギロッと振り返るアデル様の威圧的な表情に腰が抜け、動きが完全に止まった。

うち数名は部屋の外に弾き飛ばされていた。龍気がもろに当たったらしい。



(アデル様の気が高ぶリ過ぎると、リーディナのアイテムでも制御しきれないんだ)



 警備の騎士の方達は堪えながら剣の柄を握っていた。



「アデルバード様? なぜアデル様がこんな所に!?」


「部屋の入り口は俺達が警備していたのに……」


「アッ、アデルバード様! 殿下に何をされるおつもりかっ!?」


「気でもふれたのですかっ!?」


「なっ、なに、大事無い。ただの友人同士の戯れだ。お前達さがれ」


「し、しかし……殿下っ!」



 警備の騎士の人達が躊躇っているのを見て、ルディ王子様は片手を上げ、

彼らを下がらせようとするが、彼らはなかなか応じようとしない。

この状況は誰が見ても、反逆者が王子を手に掛けるようにしか見えないだろう。


 するとルディ王子様は気丈にも、彼らに向かって叫ぶ。



「さがれと言う私の言葉が聞けないのかっ!!

 何度も言わせるな、これは戯れだ!! 全責任はこの私が負う!! 引け!」



 怒気に反応した彼らは、其処でようやくそろって頭を下げ、渋々と部屋を出て行った。

勿論、納得出来ずに命令を拒もうとした者も居たのだが、

結局は命令に従い、渋々と持ち場に戻る事を決めたようだった。

傍には弟のリイ王子様も居て、のん気にリファ達を恍惚な顔で眺めていたのもあり、

大事無いことと判断されたらしい。



「ほら、君も落ち着きたまえ。アデルバード……彼女も驚いているよ」



 でも現状は変わらず。アデル様は未だに怒っている。

龍の気がアデル様の本能と共鳴し、周囲の大気を震わせているんだろう。

部屋の隅を見れば、なにやらミシミシという音と共に揺れていた。


 アデル様の瞳がさらに輝いて、こんな所で大技を起こそうとしているのに気付いた。

このままいくと、アデル様の本能が暴走してしまう!



「みい、みい!(アデル様、だめ――っ!)」



 慌てて争う二人に駆け寄って、アデル様の足にひしっとしがみ付く、

アデル様は龍の本能が働き、私が奪われてしまうと思ったのかもしれない。

これは止めないとまずい事になるのではないか?



「ユリア……これは花嫁をかけたおす同士の戦いだ。君は下がっていろ。

 ライオルディがユリアに求愛すると言うのなら、決着は付けるべきだ。

 俺は自分よりも弱い者にユリアを渡す気は無い」


「みい、みいみい、みいい。

(違う、違うんですアデル様、餌付えづけされていたわけじゃないです)」



 私は必死になって説明した。私とルディ王子様は心配される関係ではない事。

ただティアルともどもお茶に誘われて、アデル様の好きだというお菓子を食べて、

後で屋敷に帰ってから、再現が出来たらいいなと思っていただけなんです。

他意はない。アデル様がルディ王子様と仲良くお茶するのと同じ感覚なのだと。


 その位では私はルディ王子様に心変わりなんてしませんと。

そもそも、二人っきりでというわけでも無いんですよ? みんな一緒でしたからね。



「む……そうなのか。友達……そうか友としてか」


「みい(はい)」



 アデル様のルディ王子様をつかんでいた手が緩み、

ルディ王子様は盛大に安堵の息を吐いた。



「はー……助かった。そうそう、私は彼女を友人だと思っているよ。

 すまなかった。野生育ちの君が許せない範囲を超えてしまったようだな。

 人間社会では、こうして時折会食を行うのは普通の事なんだけれど、

 どうか今回は大目に見てくれるかい? 私も今後は気をつけるように心がけるから」


「……次は無いぞ? ユリアに直接食べさせる時があれば俺がする」


「ああ、だが彼女は君の好物を分けて欲しいと私に頼んでいたんだよ?

 君達は相思相愛なんだし、もう少し男の余裕を持ってもいいと思うがね。

 余り気の短い男は嫌われてしまうよ。アデルバード」



 嫌われるという言葉にビクッ!? とアデル様の動きが止まる。

今度はアデル様の方が顔色を悪くし、ショックを受けて震えていた。



「ユリア君を伴侶に願ったのなら、人間社会で上手くやり過ごすことも学ばないと。

 人間は友好な交友関係が大事になってくるからね。喧嘩っ早いのはいただけないよ」


「…………っ」


「まあ、今回は君の気持ちも考えず、調子に乗りすぎたと反省しているよ。

 君同様に友人の1人としてご馳走する位は、許して貰いたいね。

 アデルバードの大切な人なら、私にとっても大切な友人だから。

 ほら、君と出会った時も私が食べさせてやったことがあるだろう?」



 ただ近しい友人の1人として、同じように接したのだと言いながら、

一瞬だけ、ルディ王子様がにやりと笑ったのを私は見逃さなかった。

そして、これまでのルディ王子様の裏の顔を知る私は気づいた。



(こ、この人……命がけで確かめたんだ)



 アデル様が今現在、私にどれだけ執着しているかを、わざと。



「きら……われる……ユリアに、嫌われてしまう。

 だが、ユリアに給餌きゅうじするのは俺だけがいい」


「みいい?(アデル様?)」


「ああ、直接食べさせる真似はもうしないよ。安心してくれたまえ。

 先程のは、アデルバードの為に好物の味を確かめようとしただけだ。

 今の姿だと食べにくいだろうと気を利かせただけなんだが、

 そう思えば。気にする程のことではないだろう?」



 そしてそれが自分の為だったのだと知らされるや否や、

アデル様は私を抱き上げ、私の口元に付いているクリームを指で拭ってくれる。



「そうか……ユリアは俺の為に……俺を喜ばす為に。

 あえてライオルディの行動に耐えようとしてくれたのか」


「いや? 流石に其処までは言ってないのだが、アデルバード……」



 嬉しそうに目元を緩めるアデル様。先程までの恐ろしい形相が嘘のよう。

他の余計な言葉はまるっと脳内で削除したようです。アデル様。



「ライオルディ、では、これを貰うがいいか?」


「ん? あ、ああ、どうぞどうぞ好きにしてくれたまえ」



 テーブルに置いてあったケーキの載る皿を目にすると、

私を片腕で抱き上げたまま、ルディ王子様の代わりに続きをするアデル様。

差し出されたケーキの欠片を、今度こそ私はぱくっと口にした。

さわやかな風味の果実で作られたケーキが私の口の中で広がる。



「どうだ美味いか? ユリア」


「み、みい」



 本当はさっきの衝撃で、味が余り良く分からなくなったと言いたい所だが、

私は必死にこくこくと何度も頷き、アデル様に応えた。

そういう事にしておこう。うん、平和が第一だと思うの。



「――くおらあああっ! 何してるんだアデルバード! 戻ってこーいっ!!」



 アデル様のご機嫌が直ってほっとしていると、

窓の外からラミスさんが必死にアデル様を呼ぶ声が聞こえてくる。

アデル様と一緒に行動していたから、きっと驚いただろうなあ。

突然、壁をよじ登って行っちゃったんだものね。



「みい、みいみいみ?(そう言えば、まだ勤務時間中ですよね? アデル様)」


「ぐ……」


 こてっと首をかしげて、アデル様に聞いてみる。

そうしたらアデル様は一瞬、気まずそうな顔を浮かべるも、

仕事だから仕方ないと、ため息を吐いた後に私の頭をなでて床へと降ろした。

そしてそのまま窓から……って、帰りもそちらから帰るんですかアデル様っ!?



「では、後でまた迎えに来る……俺の分も取っておいてくれるか」



 一旦、背を向けたアデル様は再びこちらを振り返り。



「ユリアの用意してくれた軽食も後で必ず食べる」



 ひらりと窓から飛び降りたアデル様は、三階だというのに何のその、

剣の柄の先を壁に当てて、滑り落ちる速度を調整して降りて行く、

どう見ても超人にしか見えません。普通は出来ませんよこんな芸当。

最後は足元に風を巻き付かせて、華麗に着地。


 部下の方達が「おお~」って感心して拍手までしているし。

……あれでよく今まで正体がバレていないなと、逆に不思議なんですが?

どうして誰もツッコミを入れないんですか? というか本当におとがめなしなの?

やっぱりローザンレイツの国民性なの? これって。



「みい~みいみい~!(アデル様~もう少し目立たない行動してくださ~いっ!)」



 私が窓から顔を出し、地上に降りたアデル様に呼びかけるも、

アデル様は私に手を上げて挨拶あいさつするだけで、どうも分かっていないようです。

こりゃ駄目だと、がっくりと私はうな垂れる。



「みいみい。みい(騎士団長の域を超えていますよ。アデル様)」



 気を取り直してお茶会は再開されることとなりました。


 此処で事を荒立てては、アデル様に責任が行くと考えられたからでしょう。

出て行った女官の人も、多少はびくびくしながらも部屋に戻って来て、

その場は取り繕われる事となりました。


 へ、平和ってすばらしいですね! はい。


 

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