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75・二代目


 私が隣室へ移動して人の姿に戻り、服に着替え終わった頃、

別れを惜しむアデル様は、隣室でラミスさんに襟首をつかまれていた。




「さーあ、アデルバード? ユリアの無事も確認できた事だし、

 お前にはまだ少し仕事が残っているからな? 持ち場へ戻るぞ?」


「あともう少し、俺はユリアの傍に居てやらな……」


「そうしてやりたい所だが、お前は通常よりも色々免除されてるから、

 せめて割り振られたシフトだけでも、きちんとこなしてくれないとな?

 他の者達に示しがつかないんだよ、何せ騎士団長だからな」


「……やはり駄目なのか」



 機嫌を悪くするアデル様に慌てて私は。



「お、お仕事頑張って下さいね? アデル様」



 と満面の笑みで送り出す事にする。

やっぱり、こういう忙しい時に騎士団長様不在だと治安的にも……ね。



「ユリアがそういうのならば……仕事に戻るが。

 ところでラミルス、先ほど聞き捨てならない事をお前は言っていたな?

 俺に無断でユリアに護衛を付けていたとか、それは一体どうい――」


「さー行こうかアデルバード! 時は待ってくれないぞ!」



 痛い所を突かれたラミスさんは、話をはぐらかす事にしたようです。

そう、先ほどついうっかり口走ってしまったんですよね。

アデル様に無断で私に護衛を付けていた事を。



「あっ、あの私が実は皆様にお願いしたんです。

 その、パレードに参加するローディナ達の護衛が居たら安心なので、

 きっとラミスさんはその事を仰っているのだと」



 だから、いつも助けてくれるラミスさんのフォローをします。

あのお祭りで一番の危険があるのって、人気者で前回優勝者のローディナ、

そして今回初出場のリーディナだと思いますし、変ではないでしょう。

私はあくまで一緒に居たから、ついで、そうついでなのだと説得しますよ。


 アデル様の背後で、ラミスさんが両手を合わせてぺこぺこ頭を下げてくれます。

そんなラミスさんに、私も苦笑して頷きました。



「確かに、ローディナ達をユリアは気にかけていたな」


「は、はい、何と言っても女の戦場ですし、二人は人気者ですから、

 何かトラブルに巻き込まれなければいいなって」


「そうか、そういう事なら……分かった」



 納得して下さったようで、私とラミスさんはほっと息を吐く。

はぐらかし作戦は無事に成功しました。



「ユリア、では出かける前に、これをもう一度頼めるか?」



「あ、はい」



 アデル様は机の上にある、白い猫のぬいぐるみを再び私に持たせた後、

それを懐に入れて、ラミスさんに連れられて仕事に戻って行った。



「行ってらっしゃいませ」


 彼らの背中を見送って、心の中でもエールを送ってみる私。



 アデル様が部屋を出る際、共に出ようとしたリイ王子様に目配せをし、

時間をずらして部屋を出て騎士団本部の会議室を使い、私達はいつもの密談に入る。


 リイ王子様と一緒に移動しなかったのは、人の目を考えての事だ。

相手は王族でもあるし、こんな所で変な噂を立てられたら大変だもの。

私自身もアデル様の不利になるような事は避けたいし。


 まあ、私達が良く冒険するほどの間柄だという事は、

この騎士団の中でも知られている事なので、

多分大丈夫だとは思いますが、一応です。


 ちなみにアデル様の居ない時に、彼の部屋で密会していたと言われないよう、

こうして部屋も移動したというわけです、あ、一応扉は開けておくのもお約束。



 私が部屋に入ると同時に、一瞬にして部屋の空気が変わるのを感じた。



「――で、何か進展でもあったのか?」



リイ王子様は先に椅子に腰掛けて待っており、開口一番に聞いてくる。

大体、いつも私が寝込む時は何かしら鏡の干渉があるので、

今回もそれが関わっていると見抜いていたようですね。



「はい、実は先ほど魂の状態のユリアと会い、話す事が出来ました。

 それでユリアの件ですが、神様が関わっていた事は間違いないようです」


「主が!?」



 かいつまんでではありますが、ユリアと神鏡を通じて話した事、

彼女の身に起きた事、真意を彼に伝えた。

勿論、この件の話は此処だけに留めて貰う約束で。



「――役目を放棄? そんな事を望む者が居たなんて」



 リイ王子様は、もう一人のユリアの身に起きた事を知り、

とてもショックを受けているようだった。無理もない話である。


 ユリアが神鏡を使って行った事は禁忌。

理を歪め、別の方向へと無理やり変えた。

一方、リイ王子様はことわりを正すのが仕事だから、まさに真逆の立場の人だ。



「神鏡を守るという栄誉な役割があるのにも関わらず、

 それを放棄してしまう程の、強い願いを叶えようとしたと?

 しかもそれを手助けしたのが、まさか主だったとは」



「はい、だからユリアは、もう此処へは戻っては来られないそうです。

 だから、彼女は私にその引継ぎを任せたのだと」



 ユリアが死の間際によって知ってしまった事、

アデル様の身に起こる未来をユリアが予知したのが、そもそもの始まり。

それを変えるために、彼女は全てを引き換えにして人柱になった。

本来あるべき時間を歪めてしまった代償を支払う為に。



「だが……結果として世界の崩壊を繋ぎ止めた事になる。

 果たしてそれを、禁忌だとひとくくりにして良いものだろうか?」


 リイ王子様は眉間にしわを寄せて悩んでいる。

彼にとって理を歪める事は、今まで悪だと思っていたんですものね。



「この体の中にある神鏡に、ユリアの魂は封印されたんだと思います。

 でも、ユリアの存在そのものを、神鏡でも完全になかった事には出来なかった」


「空白による歪みが生まれるからか」



 私は静かに頷いた。そう、その空白を埋めるにはユリアでなければいけない。

それはユリアが望んだことであり、アデル様の今後も考えてのことだ。

ならば今は彼女の不在を埋め、歪みを最小限にしておく必要があるのではないか。



「だから私が、このまま二代目ユリア・ハーシェスとして引き継ぎます」


「それは……私としてはありがたいと思うが、君はそれでいいのか?

 本物のユリアを連れ戻してから、元の世界に戻る。

 それが君の願いだった筈だろう?」


「……そう、ですね。やっぱり色々思う事はあります。

 やり残してきた事、やりたかった事。まだまだ沢山ありますから。

 でもこの世界でたくさんの人と出会って、色々な経験をして、ここでの願いも生まれた。

 ユリアの姿を通して見てきた世界、感じた思いは私の願いにもなりました」



 時を重ねて、彼女の好きな場所が私の好きな場所になっていく。

彼女の抱いた気持ちをなぞって私は同じ気持ちにもなれた。

それは、きっとユリアが私に教えてくれた事だと思う。



「私は私のままで……自分と向き合って決めました。

 きっとこのまま無事に帰れたとしても、後悔が出来てしまいます。

 どちらを選んでも後悔するのなら、今、私の目の前にある問題を解決して、

 それからまた考えてもいいんじゃないかと。悩むのは後からだって出来ますから」



 だからこれは二人分の思いの選択。

ユリアが自分の居場所を引き換えにしたように、

私も同じ位の覚悟が必要かもしれないと思うんだ。



(これで立派な声優になるという夢は諦めなきゃいけないけれど、

 ここで精一杯生きてみて、見つけた答えだものね。

 いつかきっと、これで良かったんだって思うようにしなきゃ)



 そう、本当に私達は根本的な所で似ていた。



――私達ユリアの願いは唯一つ、アデル様が不幸にならない未来にする事だ。



「という訳で、ユリアとして本格的にやる事が出来ました。

 もう一人のユリアが、届けられなかった思いを声に出来ない代わりに、

 私が彼女の分まで引き継いでこの先の未来を乗り越えるって、

 だから今後もよろしくお願いしますね? リイ王子様」


「――彼女と同じ道を辿るのかもしれないんだぞ? それでも……」


「……はい、ユリアがその"前例リスク"を作っているのだとしても、です」



 前例があるという事は、その道筋になりやすい事を意味していても。



「君は……強いんだな」


「いいえ全然強くないです。レベルだって余り上がっていませんし。

 まあ、この世界に慣れて、少し度胸はわってきたと思いますが」


「いや、それだけの心構えは誰でもそう出来る事ではない。

 私が同じ立場であったら……なかなか決断出来ないだろう。

 王族としての役割、神のしもべとしての役割、その全てを引き換えにしてでも、

 救いたいと願う者には出会えていないからな」



 リイ王子様は幼少の頃から、国を支えるべき王族として育ってきているし、

引き換えに出来る何かがあるとしたら、それは神の使いを務める事だろう。

だから、それ以上という考えは無かったんだろうな。無理もない。



「ああ、そう言えば私、神様の川元さんでしたっけ、

 その方を王都で見かけましたよ? パレードの際に参列客に混じって、

 大通りの道を一緒に歩いていたんですが」


「なっ!? 主が王都へ?!」


「ええ、ユリアから教えて貰った容姿とも一致するので、

 本人に間違いはないかと思います。以前も街で見かけたんですが、

 でも様子がおかしくて、一人の女の子に付き添うように歩いていました」



 あれ? 今、思い出すと以前も川元さんが居た時って、

傍にアンが居たよね? となると、やっぱり何か関係があるんじゃ?



「主、主がこの祭りに参加を? いつからこの国にいらして……っ、

 い、今から追いかければお会いできるだろうか?

 そうと仰って下されば、特別席をご用意しましたのにっ!!」



 予想したとおり、神様イコールの川元さんが居ると聞いて、

リイ王子様は直ぐに椅子から立ち上がった。

今にでも窓から飛び出して行かんばかりの、目の輝きよう。




「わっ!? リイ王子様、ここは二階ですから!」


「ああっ、主よ。私はここに居まーす!!」




――なんか、リイ王子様がはっちゃけてる~っ!?



 この祭りに立ち寄ってくれたのが、相当嬉しかったご様子。

窓の外から見える、収穫祭の光景を恍惚と見つめるリイ王子様に、

私は慌てて止めつつ、先ほどの事を思い出していた。


 

(あんなに大人数の中から、たった一人を探すのは至難の業じゃないかな?)



 砂の中の砂金を探すようなもの、魂の目を使えば解決かも知れないが、

やはり大人数の思念をかいくぐるとなると、かなりの負担が掛かる。



――最悪、リイ王子様は寝込む気がする。それも私以上に。



「今から向かっても、お会いできるかどうかまでは……。

 あ、それでパレードの途中で、一緒に居た女の子も居なくなってしまって、

 追いかけようにも私、その直後に倒れてしまったんです」


「その直後に? その娘が何かしたのだろうか?」



 神様が傍に居たという事もあって、

何かの理由があるのかと危惧するリイ王子様がいた。



「いえ、そこまでは……アデル様もそれを疑っていましたが。

 彼女は私の存在には気付いていませんでしたし」



 私も彼女がどうなったのか、とても気になりますよ。

今頃、変な人に捕まっていないといいな……とか。

ほら、あの子はトラブルメーカーな部分がありましたから、

今日みたいな人手の多い所に居て、何かに巻き込まれていなければいいんですが。


 あ、もしかして、それが心配で付き添っていたのかな?



「そう……か、今の君は確かに少し気が乱れているようだが、

 やはり特に目立った異変は無いようだ。

 では主は何かの理由で、その娘と共に行動しているのか」


「はい、で、その女の子に心当たりがあるので、

 殿下の情報網で居場所を調べられないでしょうか?

 名前はアンフィール、愛称をアンと呼ばれる女の子で、

 歳は15、6、腰元まで長い赤紫色の髪と瞳をしています」



 私のこれからの為にも、主軸しゅじくとなる主人公の居場所は押さえておきたい。

いざという時に、主人公の二人を助けたり、助力を願う必要があるから。



「赤紫……珍しい色だな。それなら見つけやすいと思うが」


「彼女を王都で見かけるようになったのが、つい最近のことなので、

 もしかしたら他所から王都へいらしたばかりの方なのかもしれません。

 ちょうど、収穫祭の準備をし始めた頃に見かけるようになりましたから」


「そうか分かった。それにしても主は何をお考えなのか。

 その娘は一体何者なのか気になるな。君は何か感じなかったか?」



 まさか、”主人公です”なんて事は言えませんよね。流石に……はは。



「ええと、そこまでは……以前、街で見かけた時より顔色が悪いなという位で、

 あ、でもリファ達が凄い警戒していましたね。アデル様も少し」


「警戒していた……? アデルバードまで?」



 リイ王子様の目元が険しくなる。



「ええ、ティアルなんて、その子を見て震えちゃっていて、

 その時、彼女の方はニコニコして歩いていたんですけど、

 コワイって今にでも泣きそうな様子でしたよ。ね? ティアル?」



 私は背後で固まっているリファに抱きついているティアルを見た。



「みい、ティアル、コワイ、コワイナノ」


 ティアルはこくんと頷いた。



「……アデルバードすら物怖じしないティアルが珍しいな。

 分かった。では、居場所を調べるだけでいいのだな?」


「あ、もし何か困っているようでしたら、彼女を助けてあげて下さいませんか?

 私は最近、外出を制限されるようになってきたので、会えない可能性が」


「分かった。出来る限り対処してみよう」



 話を終えると、リイ王子様は一足先に部屋を出る。

少し離れた所で元に戻すつもりらしい。確かにその方が安心ですよね。


 本日は司祭のありがたいお言葉を聞いたり、午後の式典に参加したり、

貴賓席きひんせきに居る諸外国からの客人をもてなしたりと、

リイ王子様の仕事はかなりあるそうで。



「では、名残惜しいですが、リファ様、ユリアさ……いえユリア、

 それでは私はこれで、お気をつけてお帰り下さい」



 深々と頭を下げて行ったリイ王子様だけれども、

たぶんその仕事よりも、今からでも神様を探しに行く気満々のような気がする。


 ぶつぶつと、『兄上か弟達に全てをお任せしようか』と呟いていたから。

えと、大丈夫かな? あの人だかりで供を付けて探しに行くのは大変だろうに。


 本気で実行する気だよ。この人。



※ ※ ※ ※






「――ユリア、待たせてすまない、屋敷まで送ろう」



 アデル様の部屋に戻ってしばらくすると、

帰り支度をする私の元に、慌しくやって来たアデル様が居ました。



「あ、アデル様、お帰りなさ――っ!?」



 部屋に入ってくるなり、恋人との抱擁をと抱き付かれましたよ。

いきなりなので硬直してしまいました。はい。



「さあ行こう、直ぐ行こう、今すぐ行こう、人の比較的少ない屋敷へ。

 ここは何かと人が多すぎてかなわん」



 ……要するに、今すぐ帰りたいんですね? アデル様。

何時になく饒舌じょうぜつなのを見る限り、相当我慢していたご様子。



「いえでもアデル様? 留守の間に本日の報告書やらがいろいろ届いておりますよ?

 とてもとても、私を屋敷へ送って頂く時間など無いような?」



 騎士団長様ですものね。人の接触を避ける仕事に配属されていても、

こちらの方の仕事は、流石に減らすのは難しい気がします。



「……書類は事後報告だから、持ち帰れば」


「夜勤もあるのではないですか?」



 収穫祭では、昨年摘んだ果実でこしらえたお酒が振舞われます。

その為、夜は品評会とやらの酔っ払いが続出、羽目を外す人も居るのだとか。

だからアデル様達は、夜も大忙しなわけですよ。はい。


 報告書とにらめっこをしていたアデル様は、私と帰宅する気らしいですが、

処理しきれていない書類が山のように積み重なって、直ぐには帰れそうにもない。



「ぐ……っ、や、夜勤の交代までに帰ってくるから大丈夫だ。

 こんな時間にユリアを一人で帰宅させられないだろう?」


「こんなって……まだお昼の3時過ぎた辺りですし、

 日が沈むのには余裕があります。それにリファもティアルも居ますから」


「みい、ティアル。ゴエーナノ、エヘン」


「クウン」



 私とアデル様が恋人になってからというもの、過保護が更に輪をかけたようだ。

……とか、リーディナに言われたんですが、本当に私もそう思いますよ。

本当は私一人を街中で出歩かせる事や、お屋敷で留守番をさせる事も、

気が気でないらしいです。それも溺愛発作のようですね。


 おかげで最近は、私の帰宅時間に合わせてくれるアデル様がいらっしゃいました。

余りお気を使ってもらっても……と断ろうにも、

これで心配させすぎて発狂してしまったらと思うと、断れず。



「君は倒れたばかりだ。君に何かあったらと思うと……」



 と、両手をアデル様の手で包まれて、うるんだ目で見つめてくる人の姿が。



――うわああっ! アデル様、無駄に色気出さないで下さいいいいっ!!



 ああっ!? ヒーローを、ヒーローにこんな顔をさせる私ってっ!?

思わず心の中でスライディング土下座をする私でありました。

そう、この無駄に色気まで振りまいてくれちゃう人に、

私がどう対抗できるでしょうか? いえ、できませぬ。



「で、ではご一緒していただけますでしょうか?」



 顔を火照らせ、うつむきながらお願いしてみます。



「ああ、そうしよう。おいで」


「あ、ありがとうございます……」



 わーい、仲良く恋人つなぎもですか? アデル様。

く……っ!? 人のごった返す道で、この姿をさらせと申されるか?


 指を絡ませて寄宿舎の部屋から出ていく私達二人、

アンド、後ろにはお供のリファとティアル。かなり目立ちます。



「みい~……?」


「クウン」



 私達の邪魔にならないようにと、数歩離れた距離で、ぽてぽてと付いてきますよ。

いえ、邪魔しても全然、ほんっとうに全然構わないよ? と言いたくなりますね。

まあ、ティアルは「みい、ナカヨシ~」と嬉しそうに言っているので、

たぶん理解はしていないと思いますが。


 そうですね~歩きながらアデル様が、

私の頬を空いた方の手で、時折なでたりするのも、

ティアルにとっては、じゃれ合いぐらいにしか思わないのでしょう。ええ。



――小さい子の見ている前でいちゃつくのは、恥ずかしいんですがアデル様。




「おい、アデルバード様だぞ?!」


「お前ら道を開けろっ! いいか!? 今はユリアちゃんの方を見るなよ!?」


「緊急、緊急! 直ぐに道を開けろお前らっ!!」


「アデルバード様が傍にいる時は、絶対に彼女に話しかけるんじゃないぞ?」



 寄宿舎を出て行くと、途端に鳴り響く笛の音。



――って、誰!? 今鳴らしたのっ!!



(……おお~い、まるで珍獣のようじゃないですか~? 私達~っ!?)




「ど、どうも……お邪魔しました」



 私は、すれ違いざまにぺこりと騎士の皆様にお辞儀をしますが、

皆さん、かなり緊張されてしまっているようで、アデル様に怒られないように、

必死に視線をそらして道をあけてくれています。


 そして、ざっと深々と一礼されていますよ。何これ、何なの一体さっきから!?


 まるでその様は聖書に出てくる名シーンの様な一場面ですよ。

人垣がざざざーっと左右に分かれて道が出来るんです。びっくりです。



(求愛期の龍は暴走すると怖いというけれど……そのせい?)



 今のところ、本部でも実質的な被害は起きていないようでした。

はい、皆さまのお陰である事は十分、十分に分かっております。



「――あ、あれ? あそこに居るのって、ローディナとリーディナ?」



 そのまま本部の検問所へ向かうと、見覚えのある後姿が二つ。

私服に着替えたローディナ、リーディナの二人が門の前に立っておりました。


 ローディナ達は私の姿を見つけると、ほっと安堵の息を吐き、

門を出て近づいてきた私に、ぎゅっと抱きついて来る。



「ユリア!! 良かった気が付いたのね? 

 さっき急いでお屋敷にも様子を見に行ったのだけれど、

 ユリアがこちらへ運ばれたままって言うから、心配していたの……良かったあ」



 ローディナはもう一度ふーっと息を吐いている。



「すみません。突然抜けてしまって。本当にご心配をお掛けしました」



 ああ、でもそうか、今日は人が多いから、

安全の為に、関係者以外は立ち入りが制限されているんでしたよね。

私はアデル様とルディ王子様の口添えで、今回は特別に出入りが許可されていて。

だからローディナ達は今日、この中へは入れないんでした。


 私が抜けた後、私は貧血で辞退したという事にしてくれたらしいです。



「心配でリーディナと一緒に、すぐにこっちにも様子を見に来たんだけど、

 事情を話しても、今日は駄目だって入れて貰えなくて、

 だから仕方なくここで待っていたの……ごめんなさいユリア、

 ユリアの体調が悪かったのに、私達の我侭に無理に付き合わせてしまって」



 私の両手をつかみ、ぼろぼろと涙を流して泣いているローディナ、

リーディナも「ごめんね」と泣いて、同じように手を重ねてくる。



「もしかして私の作った指輪のせいかしら? 体は大丈夫?

 ユリアが倒れた時、直ぐに様子を見に行きたかったんだけれど」


「い、いいえ、いいんですよ。リーディナ。ローディナも。

 ああやって堂々と人前に出たのって本当に久しぶりな気がしますし、

 たぶん、あんなに沢山の人を見たのが初めてで驚いたのと、

 人酔いしてしまったんですよ。きっと」


「ユリア……」


「でも凄い楽しかったですから、あ、それより首尾はいかがでした?」



 にっこりと微笑んでそう尋ねると、二人は互いの顔を見た後、

私の手を離し、肩に掛けていたバッグに手を入れて、

金色と銀色のティアラをそれぞれ取り出した。おお! という事は?



「お陰様で……私は優勝」



――と、自身の頭に金色のティアラを飾るローディナ。



「私は銀賞、流石に同時優勝は無理だったけれど、

 初めての参加にしては健闘したと思わない?」



 リーディナは銀色のティアラを持ちウィンクをする。


 おおっ、ワン、ツー、フィニッシュですか! やりましたね!!



「凄い! おめでとうございます二人とも!」


「ふふっ、ありがとうユリア」



 ローディナは嬉しそうに微笑んでくれた。

するとリーディナは姉の肩をぽんぽんと叩く。



「ローディナも私も、あの後はどうなるかと思っていたけれどね。

 心、ここにあらずっていうの? あれだったのよまさに。

 もー二人でいっそ棄権して、ユリアの所へ会いに行っちゃおうか?

 なんて、相談も本気でしていてね?」


「ええっ!? それは勿体無いから駄目ですよ。

 今日の日の為にずっと準備して、せっかく参加したのに!!」



 そう言うと、リーディナはやっぱりという顔で笑い、

ローディナもそれに頷いた。



「……うんうん、ユリアの事だから、きっとそう言ってくれると思ったの、

 だから、ローディナともよく話をして参加続行していたのよ。

 その後の私達、かなり気合が入っていたわよ。ね? ローディナ」


「そうなの、リーディナなんて凄いノリノリでね?

 続行するなら、ユリアの分まで二人で頑張ろうって。

 この子の知り合いの子達が凄く驚いていた位よ」


「神がかっていたわよね? あの時の私は、役者にもなれる気がしたわ」


「ええ、もう別人格のようにね。リーディナ凄かったわ」



 おお~そ、そんなに凄かったのか……。

後でおじ様達が見ていなかったか、聞いてみようかな。



「それで、これはユリアの分」



 ローディナが渡してくれたのは青いリボン。

手触りは柔らかく、絹のように滑らかな生地に、

キラキラと不思議な色合いを放つ、青い色彩をしている。



「わあ……参加賞という事ですか? 綺麗な色ですね。ありがとうございます」


「ええ、それ花嫁衣裳に縫い付けると幸せになるって言われているリボンなの。

 一年もの間、女神をまつる祭壇に飾られていた糸を織り上げて、

 女神達が愛したという花の染料で染めてあるの。これが祝福の品よ」


「参加しないと貰えないのよね。私達の分をあげるのじゃ意味が無いし」



 ああ、それで二人がどうしてもって頑張ってくれていたのか。

実り豊かな生活が出来るようにと願ってくれていたんだ。



「ありがとうございます二人とも。大切にしますね?」



 あれ? でもこれって花嫁さんにならないと使えないですよね?

ドレスの装飾品ならば、なんて思っていたら。



「――ちょうどいいな。屋敷には婚礼用の布があ……」



 言い終わらないうちにアデル様の口を両手で塞ぎました。

早速、婚礼衣装を作ろうとか言おうとしたんですよね?!アデル様!!

まだ! まだですから!! 気が早いですよ!?


 でもそんなやり取りも、ローディナ達の目には、

私達がいちゃついているようにしか見えなかったようで……。



「――さっ、用は済んだ事だし私達は帰りましょうか? ローディナ」


「そうね、リーディナ。妹の幸せを願いつつ、後は若いお二人で」


「うわああっ!? 待って!! 私も! 私も帰りますから~っ!!」



 アデル様から手を離し、くるっと方向転換して二人を追いかけようとしたら、

後ろからアデル様に抱き付かれる始末。ぐはっ!? 逃げられない。



「ちょうどいい、帰るついでに君達も家に送ろう」



 日が明るく、暖かいうちに帰った方がいいとアデル様。

いえ、そんなに気を遣わなくても……とやっぱり思いましたが、

ローディナ達が苦笑しつつも、アデル様に同意してくれました。



「そう……ですね。疲れも明日に引きずったらいけないから、

 今日はこのまま帰りましょうか? リーディナ」


「ええ、そうね。ローディナ」



 遠くで残念がる騎士団の皆さま方が居ますが……誰も不服を言えるわけがない。

傍には怒ると怖いアデル様が居る訳ですからね。


 こうしている間にも、アデル様は風が冷たいからと私をマントで包み込んでいました。

私を寒空の下に居させるだけでも、相当嫌らしいです。


 なんというか、アデル様は私の友人も大切にしてくれていて、

最近はこういう気遣いも増えているように感じます。

何だか、いい傾向ですよね? 


 私を通じてでも、他の人にも目を向けてくれるようになりましたから。



「ローディナ、リーディナ。騎士団で使っている馬車がある。

 それを借りて来るからユリアと待っていてくれるか?

 大通りからは無理だが、裏手の道を使えば帰りやすいだろう」


「まあ、馬車ですか?」


 

 まさか、騎士団の馬車を使うとまでは考えていなかったローディナは、

ぱちぱちと瞬きをして驚いている。



「あの、私達が乗せて頂いても宜しいのですか?」


 リーディナも流石に戸惑っているようだ。

そうですよね。普通、騎士団の専用馬車なんてそうそう乗れませんから。



「ああ、君達はユリアの大事な友人だからな。

 ユリアが倒れた事もあるし、ここは大事を取りたいと思う。

 本当は私用でも使えると便利なのだが、馬の世話と馬車の手入れが大変だし、

 何しろ御者と馬番の用意が出来ないからな。ここなら部下に頼める」



 そう言って私の頭をぽんぽんっとなでた後、

アデル様は御者と馬車の確保に向かいました



「なんて言うか……相変わらず愛されているわね。ユリア」


「リ、リーディナ……」


「そうね。ここまでして頂けたら女冥利おんなみょうりに尽きるというか」


「ローディナまで」



 体が弱い認定を受けているため、その心配のされようは計りしれない。

帰り道が危険ならば、リファの背中に乗って帰るという方法があるのですが、

風が冷たいこの季節は、私にそんな事はさせられないとの事です。

えーと? ごめんなさい。アデル様の居ない所ではノリノリでやっているんですが?


 黙っておこうかな? そうしよう、うん。




※  ※ ※ ※




「……」



 ごとごとと、馬車が走るよ王都の中を。

ただし大通りは祭りで人がごった返しているので、脇道を使っての移動です。

それでも人が流れてくるのですが、やはり騎士団の印のある馬車ともなると、

皆さんは気付いた途端に、さああーっと避けてくれるんですよね。



(私は~おじぞうさま~何も感じない~道端のおじぞうさま~)



 そんな馬車の中で、心の中で作詞作曲を私で作ってみた。

即席・私はお地蔵様よソングを歌いながら、

私は無機物万歳な現実逃避モードへと突入しておりました。


 ふふ、目が虚ろなのはきっとそのせいです。

そう、この状況が精神上、大変宜しくない。

決して、倒れた時の影響じゃないんです。理由がハッキリしていますからね!



「えーと? アデルバード様?」


「ん? なんだ? リーディナ」


「つかぬ事をお伺いますが、帰る時は何時もこんな状況なのですか?」



 リーディナが言うのも無理はない。この状況がかなり問題なのだ。

向かって、ローディナとリーディナが居て、両サイドにミニマムなリファとティアル。

その反対側にはアデル様と私が座っている……状態なのだけれども。


 マントに包まれたまま、アデル様の座っている膝の上で、

お姫様抱っこのごとく抱きかかえられた私がいる。



「ああ、一緒の時はそうだな。若い娘は腰を冷やすといけないらしいから。

 体の弱いユリアに直に座らせるのは可哀そうだ」



 はい、日常茶飯事なんですよ。馬車の揺れがどうの、椅子の冷たさがどうので、

私が途中で具合悪くなった時の為にも、この座り方が一番いいと言われるんですよ。

顔を真っ赤に火照らせた私は、そんなわけで無心を貫く賢者を目指そうと思います。

既に顔に出ている時点で無理ですけどね! ははん!


 うるうるとした目で、ローディナ達にも救いの手を求めたのですが、

はい、即、見捨てられましたよ。うう、酷い。

この羞恥プレイを耐えろと仰いますか。お姉さま方!



「あの~私達も一応は若い娘なんですけれども? 

 目のやり場に困ると言いますか……ねえ? ローディナ」



 あ、一応は言ってくれたようです。リーディナ、なんていい人。



「駄目よ、リーディナ、しい~」



 ローディナは静観する事にしたようです。お姉さん、其処で頑張らないと!



 そんなやり取りをしているのを、大人しく傍で聞いていたティアルは、

隣にいたリーディナをじっと見つめて、自分の前足をそっと彼女に差し伸ばし……。



「みい、ティアル、リーディナ、ダッコシタゲル~」


「え? ティアル?」


「みいみい、オイデ~?」



 君は抱っこするというよりも、される側だと思うんですが。

ティアルが無邪気にリーディナへ、ダッコしてあげる発言を何度か言うと、

リーディナスイッチが入ったのか、ティアルをばっと抱きかかえて。



「なんていい子なの!」



 と、ティアルを抱き上げて、きゃっきゃと和んでおりました。

そして、ローディナの方はリファを抱き上げて……和んでおりますよ。

ずっ、ずるい!! 私もそっちの方がいいです!!



「あ、あああ」



 私がむなしく二人に救いの手を求めて、自身の手を伸ばそうとすれば、

アデル様が私の手をとり、指を絡めてきました。



「ユリア、いい子にしていてくれ、危ないぞ?」


「う、はい……アデル様」



 屋敷に辿り着くまで、こんな拷問ごうもんが続くのか。

そんなこんなで、慌しくも収穫祭の一日目は終了しました。


 

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