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62・守りの印と二つ名

 

 私がリイ王子様から秘密裏に聞かされたのは、

予想もしなかった王子様達とユリアの意外な接点だった。

それがまさか、婚約者同士だったなんて、余りに急展開過ぎる内容ではないか。



「こ、こここ婚約者って、わ、私、じゃなかった。ユリアと王子様達が?!」



 そんな話、初耳なのですが?!

動揺する私の前で、リイ王子様は話しにくそうに頷き、私に話を続ける。




「……正確には婚約者候補だったと言った方が正しいな。

 つまりは、私達はいずれ何処かで引き合わされる予定だったという事だ。

 王位を継ぐ兄、そして魂の目を持つ私のどちらかと婚姻を結ぶ事で、

 ユリアの中にある神鏡の恩恵や信仰の対象の確保。

 もしくは能力を引き継いだ子を欲していたらしい」


 

 神鏡は持ち主を選ぶという特性があるらしいが、

ある一族の子として生まれた者が、神鏡の守護者に選ばれる事が多かったらしい。

それがハーシェス家、ユリアも元々は一族の一人であったとの事だ。



「だから……ハーシェス家は、自然と神鏡を守る一族になったという事ですか」



 つまりは、ユリアとの婚姻でハーシェス家の血脈を加え、

いずれは神鏡を授かる事の出来る王族を望み、計画されたものらしい。


(と言う事は、政略結婚……)



 それでは、ルディ王子様が使いを出してまで接触して来たのは、

行方不明である婚約者の安否を確認する為……とか?



(そうだ……アデル様に保護されてからは、殆どお屋敷の中で過ごしていた。

 引きこもりメイドをやっていたから、それこそ接触なんて、

 よっぽどの事が無い限り難しい状態だったから……)



 アデル様は私の身辺に、異性を近づけない様にしてくれていた。


 でも、そんな大事な話があったのにもかかわらず、

なぜ今までルディ王子様が保留にしてきたのかが分からない。


 それじゃあ……このままではユリアの姿をした私は、

二人のうちのどちらかと、結婚しないといけない運命なのか?!



(ユリアが無事に戻って来られたとしても、彼女は幸せになれない。

 ルディ王子様かリイ王子様……どちらかと結婚しなければいけないの?)



 ……しばし沈黙して考える。



 ルディ王子様とリイ王子様……かあ……。



(――うん、どちらも無いな!)


 即決でした!



(私は許せません。ユリアにそんな扱いをさせるなんて……)


 

 心境的に言えば、“娘はやらん”という、親御さんの気持ちに似ています。

これまで、私の中で大事に育てて来たユリア(の役)なので、

そんな扱いされたら、怒りたくなりますよ。


 大変失礼にも程があると思われるかも知れませんが、

想像も出来ませんでした。アデル様が相手だったら色々と……。

い、いや、今は妄想に夢を膨らませている場合じゃなかった。

やっぱり私も、そしてもう一人のユリアもアデル様の事が好きだから、

別の人と結婚するなんて、想像も出来ないです。

 

 考えて考えても、やっぱりそんな決断を出来る訳無くて……。

その間に強硬手段に出られたら困る。此処は子猫姿になって抗議するべきか?

私はちらりと、指にリビアの指輪がある事を確認した。



(これは本格的に、ねこねこライフを送るしかないかも……。

 アデル様のひざの上に乗ってお菓子を食べさせて貰ったり、

 リファに包まれたり、ティアルと仲良くお昼寝したりして……)



 ……今、猫ライフも良いかもしれないと思った私がおりますよ。

最近、余り皆とあにまるスキンシップしていない反動でしょうかね?



(はっ!? 猫生活に慣れてきたせいか、

 思考まで子猫になっているのか、私はっ!?)



 アデル様が求愛行動するようになってからというもの、

以前の様に気安く彼の頭を撫でたり、抱き付いたりするのが余り出来なくなったので……。

今まで人として維持してきたプライドも揺れ動いております。



(私がお嫁に行ってしまえば、皆と一緒の生活も出来なくなる……)


 流石に子猫の姿になってしまえば、無理やり結婚させるという事も出来ない訳だし。

私が子猫生活を始めても、アデル様はお屋敷に置いてくれるとは思う。

……それどころか、持ち運び簡単だから連れ歩く事をされるだろうけど。



(……あれ? でも待って……婚約者と言う事は……?)


 其処ではたと思い浮かんだ不安が、私の心を占めた。



「……ユリア君?」


「……」



 椅子から立ち上がり彼から離れ、そのままそろそろと後退。

固まっているリファを盾にするように、ぎゅっとしがみ付く。

そしてリイ王子を見つめ、勇気を出して彼に聞いてみる事にした。


 怖いけれど、今、きちんと確認しておかないといけませんよね?



「あ、あのですね?……リイ王子様……?

 私ですね。今、ど~うしても今、確認しておきたい事があるのですが?」



 私の様子に少し戸惑っているリイ王子様だが、姿勢を正して応えてくれる。



「ど、どうしたんだ? 何をそんなにかしこまって……」


「単刀直入……えっと、そのものずばりお聞きしますね?

 ……リイ王子様は今現在、ルディ王子様と私、どちらの味方ですか?

 それによって、私の対応もかーなーり変わってくるんですが?」



 私は知っている。リイ王子様が兄のルディ王子様を敬い、慕っている事を……。

リイ王子様は王族だし、兄の味方になる可能性の方が高いのではないか?

だから、ユリアを政治的な道具として扱う事に協力する側になるのなら、

私にとって、リイ王子様は味方ではなくなるのだ。


 リイ王子様……神様大好きだし、彼から見たら彼女は似たような存在。

ユリアとの結婚話を聞いて、ノリノリだったらどうしようと本気で思った。



(この様子だと、ユリアには婚姻を拒否する権利すら認められてないんじゃ……)



 だから、またビクビクしてリイ王子様を見つめる。

第二次バトル対戦が勃発ぼっぱつするかも知れません。しかも、王家がらみで……。

どうしよう、王族に逆らった罰で国家の敵扱いとかされたら、

国外逃亡も視野に入れて動かないといけませんかね?


 もしそうなれば、保護していたアデル様も巻き込んでしまうよね。

どちらの選択肢を選んだとしても、色々とまずい気がする。



(そんなの嫌だ……私もだけど、ユリアにそんな思いさせたくない)



 あの子が辛い思いをして来たのなら、尚更、幸せになって欲しいのに。

これでは、彼女が無事に戻って来られても幸せになんてなれない。 

何が何でも、この件は私が何とかしなければ……。



「そうだな……本来ならば、私は兄上の意志に従うべきなのだろう……。

 第二王子である私は、兄上を支える立場にある。

 その兄上が必要と思った縁談ならば……受け入れなければいけない」


「……っ!?」



 その言葉に私は体を固くした。

やっぱり? やっぱりそうなってしまいますか?


(という事は……こうして二人で会うのはまずいんじゃ……。

 折角、協力してくれる人が出来たと思ったのに)



 そう思って身構える私に、リイ王子様は慌てた様に首を振る。


 では早速! と背を向けて逃げ出す気満々の私を引き留めてきて、

話は最後まで聞いて欲しいと言われてしまいました。

申し訳ございません。王子様、つい条件反射が出てしまうんです。



「本来ならば、それだけで考えるのだろうが、

 だが、私は王子である前に神のしもべとして生きている。

 しゅは無力であった私に、欲しかった力と役目を与えてくれた。

 その恩に報いる為に、私は人生を捧げるとしゅに誓ったんだ。

 何より、神の力を人間が取り込もうなど愚かな行為だと思っている」


「それじゃあ……」


 リイ王子様は静かに頷いた。



「私個人の意見として、私は……仕える者としてしゅ賓客ひんきゃくである君、

 そして、本来、神鏡を持っていたユリアという娘にも敬意を示している。

 君達を我ら王族の政治的な事情に勝手に巻き込む事は、私は賛同できない。

 それは、人がどうこうしてはいけない領域の話であり、恐れ多い事だ」


「リイ王子様……」


「だから、私から逃げないで貰えるだろうか?

 流石に何度も女性を怯えさせる気は私には無いんだ」



 言われるがままに、改めて椅子に腰掛ける。

リイ王子様は静かにお茶をカップに注ぎ、菓子も差し出してくれた。

さすがにこうも付き合いがあると、リイ王子様も私の扱いに慣れた様だ。


 べ、別に高級菓子に吊られた訳じゃないんですよ? ええ。

用意してくれた焼き菓子が、以前も食べ損ねた物だった事に気づいて、

目を輝かせてしまったという事は……いう事は……。


 あ、美味しい~これ。落ち込んだ気持ちが浮上していきます。



(甘いものは疲れた体にはいいですものね。ね?)



 だからそう、これは必要な事ですよ。きっと。体が甘い物を求めているんだ。


 私が開き直って焼き菓子のケーキを食べていると、

ここで、私以上に動揺している方が目の前にいた事に気づく。



「それに、未熟なこの私が妻を娶るなど……娶るなど……」



 言いかけた途中で、リイ王子様は一気に顔を赤らめ、

小刻みに体が震えだし、持っていたカップからはお茶がこぼれていた。



「リ、リイ王子様……?」


「駄目だ! 神気をまとった娘を妻になんて、恐れ多くて想像も出来ん。

 拝む事も出来ないのは耐えられないっ!! むしろ踏まれたい!」



 余りの動揺ぶりに、持っていたカップはひっくり返すわ。

お菓子もボロボロに握りつぶしてしまうわと、大忙しです。


 リイ王子様……いくら神様大好きでも、

お嫁さんにしたい願望は流石に無いようで、安心しました。

そうですよね。本来なら神官って結婚とか出来ないものだと思います。

だから、これまでリイ王子様は考えもしなかった訳で……。


 でも、王家の血筋を残すという意味なら、例外もあるのかも知れませんが。

そんな事を思っていると、リイ王子様は戸惑いながら口を開いた。



「そ、その、私は、……女性とお付き合いをした事がなくてな。

 こういう話は、やはり恥ずかしすぎて無理だ。どう扱っていいのかも分からない」


「はあ……」



 リイ王子様、思ったよりも純真な青年だったようです。

そう言えば、ローディナ達と話す時も少しぎこちなかった様な?



「すまない、一度私を踏みつけてみてくれないか?

 そうすれば私も冷静になれると思うんだ」


「えと、……それは流石に私には荷が重すぎます。

 王子様を踏みつけにするなんて事……そんな趣味もありませんし」


「す、少しだけでも! 言葉でなじってくれても構わない!!」


「無理です! 無理ですから!」



 ……前言撤回、リイ王子様、踏みつけるって何ですか?!

ちょっ!? ハアハア言いながら言わないで下さい!!

どっと疲れが出てきましたよ。


 それでしたら後で思う存分リファに踏まれて下さい。

私も止めませんので、ええ、絶対に止めませんから。

貴方様の喜びは奪わないと誓います。私からもリファに頼んでおきますから。


 そう私が言うと、リイ王子様の瞳が輝いて……少し冷静を取り戻したようです。

どんだけ……好きなんでしょうか、踏まれるのが。

余り深く追及してはいけない気がしてきました。


 聖職者の皆さんって、同じ趣味だったらどうしましょう。

なんて、余計な事まで考えている私が居ます。



「と、取り乱したりして、すまなかった」


 こほんと一つ咳払いをして、姿勢を正すリイ王子様の姿がある。

いえ、もう日常と化している光景なのでさすがに見慣れましたよ。


「ええと、その……私も疑ったりして申し訳ありませんでした」


「いや、君がそう思うのも無理はない。本来なら私もこまの一人だからな」


「リイ王子様……」


「私達王族は、この国を守る為に1つの誓約をしている。

 兄上は生まれた時から、誰よりもその誓いの為に育って来たから、

 私とは違い、その責務を守る事が自身の存在意義と信じているんだ」



 かいつまんでではあるが、リイ王子様は私に、

ルディ王子様の幼少時代の話を教えてくれた。

実母に愛されず、国を守る為だけに育ってきた話を……。



「……そんな事情があったのですか」



 あの少々破天荒なルディ王子様がこの国の王位を継いだら、

ローザンレイツは大丈夫かなと思った事が何度かあるけれど、

まさか、其処まで重いものを彼が抱えているとは思いませんでした。


 私達と一緒に居る時のルディ王子様はとても明るくて、楽しげに笑っていて。

そんな様子を微塵みじんも感じた事などなかった。

責務の為だけに存在すると思っているなんて……とても悲しい考えだ。

でも、もしかすると保護される前のユリアも、

ルディ王子様のように考えていたのかも知れない。


 ユリアの性格は、そんな環境が影響した気がする。

自身が強い望みを持つのすら、戸惑うような子に見えたし……。


 だから、たぶんアデル様に対する願いは、

彼女にとって、とても重要な意味を持つのだろう。



「確かに、この私が父上や兄上に逆らえない部分があるのは確かだ。

 だが安心して欲しい。もう兄上は君に手出しは出来ないだろう。

 アデルバードが君を保護した時点で、運命は既に変わっていたんだ」


「え? 其処でアデル様がなぜ出てくるのですか?」



 首をかしげる私に、リイ王子様はじっと私を見つめる。

な、なんだろう。初めて会った時の様な感覚を思い出すのですが?



「君のその瞳の色だ。それは蒼黒龍アデルバードの所有の証。

 龍の所有のものを勝手に誰かが奪い、傷つける事は許されない。

 もしも禁を犯せば、持ち主である龍から凄惨な報復をされるからな。

 だから兄上は、龍の長のものになった娘に手出しが出来なかった。

 彼の付けた所有の印が結果として、君を守る事になったんだろう」


「あ……っ」


 そういえば、アデル様はよく言っていた。

ユリアは俺の女だと主張していたのは、そういう事なのか!

驚いている私に、リイ王子様は更に話を続ける。


「私が君に危害を加えたと知った時、兄上の反応を覚えているだろう?

 兄上はアデルバードの怒りを鎮めようと、君を傷つけた私を罰し、

 先に君を介する事で、アデルバードから許しを貰おうとした。

 それだけアデルバードの存在は、兄上にとって大きな影響力がある」



 私は右手でまぶたの上からそっと触れる。

確かにこの色は、アデル様から保護された時に貰った色だ。

ルディ王子様よりも先にアデル様達に保護され、

彼の屋敷に暮らす様になり、後見人となって守ってくれた。


 それらは必要に迫られての事だったが、

結果として……ユリアを守る布石となっていたのか。



「アデル様が……守ってくれたも同然なんですね。

 彼の印が付いていたから、不用意に連れ出されたりしなかった。

 だから政治的なこまにもされる事がなかった……」



(それじゃあ……私が初めてお城に呼び出されたのって……)



 アデル様の洗礼を受けているかどうか、会って直接確かめようとしたのか。

あの時、側室にという話はあながち冗談ではなくて、

本気でそれも視野に入れていたという事では……。


(でも、私の瞳がアデル様の色になっていたから……)



 アデル様は私が、ルディ王子様に呼び出された事に怒り、

追いかけてきて彼に牽制もしていたし。


“――……ユリアはお前なんぞにやらん”


“ユリアは俺の女だ。勝手な事は誰であろうと許さん“



 あの時にアデル様が発言した言葉が、結果として、

ルディ王子様にとって大きな効果をもたらしていたというのか。

始終困った笑みを浮かべていたルディ王子様は、

その時何を思っていたのだろう……?



「……ユリア君……大丈夫か?」


「……初めてルディ王子様とお会いした時に、

 アデル様が私の事で、ルディ王子様に牽制けんせいしていました。

 私はやらないと……だから……」


「ああ、君の瞳の色と、アデルバードの言葉で、

 兄上は君がアデルバードのものになっていたと確信した。

 ……きっとそれは、兄上も予想していなかった事態だろう。

 だが、その結果は兄上には喜ばしい事となった」


「喜ばしい……?」


 それは一体どういう事だろう?

普通ならば、ルディ王子様にとって思い通りに行かない展開になり、

とても困る事態になったと思うのだが?



「……失われて行く力の代わりにと考えられた存在は、

 実はユリア・ハーシェスだけじゃない、蒼黒龍アデルバード……彼もそうなんだ」


「!? アデル様も?!」



 最初は強い力を欲して、神鏡の存在を知り、

現在の守護者であるユリアを利用する事を考えていたが、

その矢先にルディ王子様は、アデル様と偶然出会い、

彼を自分の国で保護する事になったらしい。


 それが、もう一つの可能性を見出す事につながったという。


 蒼黒龍の加護をローザンレイツにと……。


「アデルバードが兄上に保護される事で、

 一旦、ユリア・ハーシェスとの婚約話は白紙にされ、

 蒼黒龍の居場所を用意するのが先だと考えられた」


「だから、ユリアが王都に来るのがアデル様よりも後だったと……」


「兄上の代で力が失われるかと思われていたから、

 責任を感じた兄上も必死だったのだろうな。

 私も自身の無能を責めた位だから、兄上の心痛は計り知れない。

 アデルバードとの出会いは、兄上にとって一つの光明だったのだろう」



 本当に神鏡を所有しているかも分からない娘よりも、

確かな力を持つ者が目の前に現れれば、誰でも確かな方を選ぶ筈だ。


 蒼黒龍は、強い魔力と全ての属性を有する古代種レジェンドクラス

アデル様の存在だけで力の証明となり、その彼が王都に住む事になれば、

必要な力は補えると考えられたからだった。それだけ、龍が周りに与える影響力は強い。


「この国を守っている力と言うのは、加護の力だ。

 古の時代、我ら王家は民を守る力を貰い、この国を発展させて来た」


「……その加護が無くなりかけているから?」


「そうだ。蒼黒龍はその代わりにするには十分の逸材だった。

 かつて貰った加護の力よりも、遙かに上回る力だからな。

 龍の中でも、殆ど退化する事無く生きてきた。龍の長の力、

 彼が人間の娘を伴侶に望めば、必然と彼は人間側に付くしかない。

 娘の暮らす場所や大切にする者達も守ろうとするからだ」



 龍の求愛にそんな意味も込められていたのならば、

ルディ王子様はアデル様の伴侶となる事ができる娘を、

どうしても、この国で用意する必要があったらしい。


 アデル様が前に言っていた。お屋敷に働きに来た娘が来る度に、

ルディ王子様が会いに来ていたと……。

それは伴侶となる娘を見定めに来る為だったという事か……。


(けれど、それはことごとく失敗した。

 アデル様が心を開く前に、女性達が次々に恐れて逃げ出したから……)


 彼をこの地に引き止める存在が現れずにいた事で、

いずれは、アデル様が人として暮らす事に見切りを付け、

このローザンレイツ国から離れる事も想定し始めたルディ王子様は、

結局、もう一つの可能性であるユリアを必要としたらしい。



「ユリアかアデルバード、そのうちのどちらかを利用出来れば良かったのだが、

 其処で更に想定外の展開になった」


「ユリアが王都に来る途中で行方不明になって、

 別の仕事で近くを通りかかったアデル様に、保護される事になったんですね」



 そしてユリアだけは、アデル様の内から流れる強い力を恐れなかった。



「二人が同じ屋敷で暮らし始めた事で、別の可能性が見出される事となった。

 もしも二人が結ばれるならば、王族との婚姻よりもより良い結果になる。

 そういう考えが裏であったらしい……」



 そんな事が……だから、ユリアの身元が判明するのが不味いと感じたのか。

だからアデル様の元に留めて置く必要があったんだ。



(身元が分かれば、アデル様がユリアを傍に置く理由が無くなる。

 責任感のある彼ならば、親元に帰す事をする筈だから……。

 だから、そうならない様にユリアに関する情報を隠した)



 アデル様の傍にいられる娘は、それまで一人もいなかった。

その事からも、ユリアは最終的にアデル様のくさびとなる娘とされた。

二人が互いにかれあう様に、同じ環境に置く事で……。


 そして私達はその通りになったのだろう。

私もユリアも傍にいたアデル様にかれて……。


 私の行動で、アデル様もまたユリアを求める様になった。



「本当に申し訳無い……だが当事者でもある君には、

 この件を知る権利があると思った」


「貴重なお話、本当にありがとうございました。

 あの、アデル様には……この話は伏せて置いて下さいますか?」



 彼は人間に利用されて、生まれ育った故郷や家族や仲間を失ったのに、

また此処でも利用されようとしているなんて知ったら、絶対に傷つくと思う。

折角、人の輪に馴染んで来たのだ。今はそっとして置いてあげたい……。



「ああ、それは私も考えていた所だ」


 この件は彼に知らせなくても良いと思う。

どんな目的があったとしても、アデル様は今、この地で平穏に暮らせている。

下手に彼を刺激するような事は避けるべきだ。


 でも……これだけはハッキリ伝えておきたかった。



「王家の責務は重いものとは分かっています。私が口出しできる事ではない事も。

 ですがそれでも、二人を利用しようとした事は理解しかねます。

 アデル様も、そしてこの体の本当の持ち主のユリアの人生が掛かっている。

 私にとっては大切な人達で、幸せになって欲しいと思って私はやって来ました。

 だから、その二人を利用する気なら、私は許せません」


「ユリア君……」


「でも……ルディ王子様のお陰でアデル様は救われました。

 私も、そしてユリアもアデル様がこの国に居たからこそ、こうして助かった。

 それはとても感謝しているんです」



 ティアルはルディ王子様に保護されて、とても彼を慕っていたし、

他の種族との共存を目指して頑張っていた事も知っている。

リファに何度も傷つけられても、仲良くなる為に頑張っていたと言うし、

その全てに裏の目的があったとは、どうしても思えなかった。



「ティアルの慕っているルディ王子様が、彼の本当の姿だと、私は信じたい。

 だから……一概いちがいにルディ王子様を悪くは思えません」


「ありがとう、そう言って貰えると私も兄も救われる。

 勿論、兄上はアデルバードを利用する事ばかり考えていた訳じゃない、

 彼の理解者として、そして友となろうとした事は、偽りではないんだ」


「それを聞いて……少し安心しました」



 深々とまた頭を下げるリイ王子様に、私は首を振った。

本当は許すとか、許さないとか私には言える資格はないのだけれど、

ただ、個人的に勝手にそう思っているだけの話だ。

本当にこの件で怒っていいのは、当人のアデル様とユリアだと思うから。



「……リイ王子様、アデル様を代わりにするという事は、

 このままアデル様がこの王都に居続ける事で、

 何か辛い思いをする可能性はあるのですか?」


「いや、それは無いと思う。正体が国民に知られたら話は別だが、

 父上と兄上がアデルバードを何としてでも守るだろう。

 そして、彼の庇護下に置かれたユリア君、君もだ。

 蒼黒龍が王都に居続け、そして彼の力が回復して来た事で、

 殆どの目的は果たされているからな」



 一通り聞いて頭の中で整理する。

ユリアの素性、ルディ王子様の事情、リイ王子様の意思を聞けた。

色々な思惑はあった様だけれど、その事情があった上でも、

ルディ王子様はこれまで何かと協力してくれていたし、

アデル様との友情も嘘ではないと思える。



(やむをえない事情があったのだけれど……。

 アデル様とユリアに何も影響が無いのならば……安心していいかな?)



「……お話して下さってありがとうございました。リイ王子様。

 お陰で、私では調べられなかった事を知る事が出来ました」



 席を立ち、深々と頭を下げる私にリイ王子様は頷いた。



「いや、これは神に仕える者として当然の義務だ。礼には及ばない。

 ああ……もう1つ、大事な事を言い忘れる所だった。

 ハーシェスと言う名だが、古代種のみが使っていたとされる、

 特殊な古代語から使われていた事が分かったんだが」


「はい?」


「その意味は……“ミカミ”というらしい」


「は……!?」


「つまり、二つ名というものだ。ユリア・ハーシェスもまた、

 “ミカミ・ユリア”という真名を持っていたという事になる。

 君がその器や神鏡に拒絶されないのも、それが理由かも知れない」


「私の名前が!?」


「ああ、それで以前、しゅに教わった事を思い出した。

 君の暮らして居た世界では、言葉を力に乗せる。

言霊ことだま”というものがあると聞いた事がある」

 

「ああ、はい……確かにありますね」



 言葉には力がある。だからこそ、言葉を仕事にする役者や歌手は、

普段の言葉も気を付け、大切にしなさいと言われる訳で……。



「其処で気付いた事がある。君に以前教えて貰った家名、

水上みかみ”という字なんだが……」



 リイ王子様は自身の見解を書いたという紙を、私の目の前に広げて見せた。


 水上みかみ……すなわちその言葉を言霊にすれば、

ミカミとは、ミナカミの略称であり、つまり、それは水神をさす言葉にもなるらしい。


 私の国で水神と言えば、確か龍とか、蛇とかで……そう、龍……龍?



「――あ……っ?!」


「そう、言霊の力によれば、君達の名前には元々、

 水の属性を持つ龍の加護を得ていたという事だ。私は以前から不思議に思っていたが、

 君は他の龍族やアデルバードと一緒に居ても平気だっただろう?

 それは君達のその真名が理由なのだろう。元々君は龍の眷属けんぞくに近い存在で、

 その影響で、他の龍族の中に違和感なく溶け込めたらしい」



 ……では、鏡の影響ではなかったと?



(確かにローディナの持つヒロイン属性でも、効果がなかった事があったけれど、

 それが理由だからという事ですか?)



 そんな事があるとは思わなかった。名前に意味を含めて名づけるけれど、

流石に苗字にまで、そんな意味が含まれていたとは。


 つまり私は、瞳の印の守りと名前の守り……。

二重の守りによって、平穏な日々を過ごせていたらしい。



「古代語の事は、アデルバードの方が詳しいと思うが……」


「……いえ流石に聞けません。聞いたらユリアの件がバレてしまいますし」


「そうだな……難しいか」



 私はこの時、かなり動揺していた。

ユリアと私に他にも接点があったとは……。


 もしかして……私がユリアの役に選ばれたのって、

そんな裏事情があったと言う事なのか?



(でも私、そんな話聞いてない……)



 そう、知らなかった。ユリアを演じていた私がだ。

演じていたのなら、小耳にしてもおかしくない事なのに……。

この話は渡された台本には書かれてはいなかった筈だ。



 でも、これでユリアの件はほとんど分かったのではないか?

そう思いながら、私達は話をお開きにする事にした。


 リイ王子様から、お土産の高級菓子を頂いて、元に戻ったリファと共に帰路を歩く。


 色々と混乱する事ばかりで、今日はとても疲れました。

私と違って、リイ王子様はいつもの洗礼をリファに貰って、

とても嬉しそうな顔をしていたのですが……。



「一つの謎が解けたら、また謎が出てくるとはな~……」


「クウン?」


「ううん、なんでもないよ。リファ」



 ……とは言ったものの。


「私、普通の猫になります」と、メイドヒロイン引退宣言をして、

あにまるモードで現実逃避したくなる自分が居ますよ。

聞いた内容はどれも衝撃的過ぎました。


 とりあえず、ユリアの件はこれで大体分かったのだから、

それだけでも良しとしようかな。



「……何だか無性にアデル様に会いたくなってしまいました」



 ある意味、ひな鳥の刷り込みの様に安心するのはリファだけじゃない。

アデル様もまた、私にとっては安心する相手だったりする。

だから今は、「大丈夫」と、そう彼に言って貰いたくて、

早く彼に会って安心したいと思った。


 そうして私は、聞いた真実の数々に戸惑いつつも、

知ってしまった事を胸に秘めて、いつもの日常へと戻ったのでした。




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