48・冒険inアトリシア・前編
本日はアトリシアの森で、皆と冒険することになりました。
この森は女神が舞い降りたという逸話があり、
聖なる場所としても有名らしく、珍しい動植物達が多く生息していて、
一部が保護区域になっています。
何時もの三人娘メンバーに、騎士団のお二人、ティアルとリファ、
王子サマーズも参加して、大人数での冒険が定番となってきました。
「ルディ王子様、リイ王子様、本当に宜しいのですか?
護衛の方達を置いて、また勝手に私達に付いて来てしまって……。
いくらアデル様達がご一緒していると言っても、危険なのでは……?」
女子供の方が多く、精鋭ぞろい……とは言えないメンバーの中、
一人ならず、二人も王族の方が付いてきてしまっています。
しかも王子様直属の護衛の騎士の方達を置いて来ているので、思わず毎回聞いてしまう。
こうなったのは、それぞれの思惑が重なった結果なんでしょうね……。
※ ※ ※ ※
城壁の外はまだまだ物騒な話も多い状況だ。
あのローディナ達を襲っていた魔物の消息も未だに不明。
名前こそ「モータル」と付けられたものの、
冒険者や騎士に倒されたという情報もありません。
(……つまり、まだあの魔物は、この世界のどこかに存在し、
何時また遭遇するのかも分からない、危険な状態ですよね)
あの魔物に遭遇してから、他の魔物の目撃情報もかなり増えました。
何かが裏で暗躍していると見ていいでしょうね。
『幸い、遭難者や行方不明者の報告は今の所は上がってないが、
今後は安全区域にまで増える可能性もある。十分に注意して欲しい』
その為、異常事態を察したルディ王子様は原因究明を急ぐと共に、
ローザンレイツ国民の安全を配慮して、早々に注意喚起をし、
原因が解明されるまではと、街の外に出るのを控える人も出てきました。
冒険者や行商人の方は仕事の手前、街や国を行き来しなければならず、
その為にどうしても外へ出かけなければいけませんが、
今の所、街の中では平和な状況が続いているようです。
(騎士団の人達が、街を囲う城壁周辺を常に警備していますし、
定期的に討伐隊も編成されているお陰かも知れませんね)
そして、錬金術師や魔女の皆さんが結託して、
王都周辺に、魔物を寄せ付けない協力な結界を施しており、
私がお屋敷でのんびりと、メイドライフを満喫している中、
この世界は、少しずつ物語の終焉に向かっている気がしました。
「――それにしても、ユリアが付いてきてくれると心強いわ。ね? リーディナ」
「そうね。本当に助かったわ。ありがとね? ユリア。
ユリアが付いて来てくれないと、行くのは諦めないといけないから」
ローディナの言葉に、リーディナはうんうんと頷いている。
「え? どうしてですか? 私は戦闘も二人よりも弱いし後方支援ぐらいしか出来ませんよ?」
どちらかと言うと、戦闘は皆さんが張り切ってくれるので、
私はその後ろで食事の準備とかやっている事もあるんですよ。
最近は大分冒険にも慣れてきて、皆さんが魔物と闘っている中、
野菜の皮剥きをやる程の余裕が出てきました。
(……慣れって恐ろしいですね)
ええ、リファが私とティアルを守ろうと張り切っておりますので、
私とティアルは比較的ほのぼのと過ごしているんですね。お菓子を片手に見物もしています。
このメンバーだと、滅多な事じゃ危険な状況にはならないので、
私とティアルだけは少し余裕がある感じです。
戦闘も出来るだけ参加していますが、何しろ……私の出番が少ない。
(はあ……暇ですねえ)
なんて思う事も、しょっちゅうで……。
一番活躍しているのは、アデル様とラミスさんで無駄の無い連携プレー、
他の人達はその補佐をやっており、私の出番がくる前に全てが終わっている事も良くあります。
私はリーディナから貰った白い短剣、【ディアナ】も装備した事で、
まるで双剣使いみたいになったので、この活躍の場が余り無いのは実に残念です。
暫くは、お屋敷のお庭で鍛錬に励む事にしました。
その為、私はヒロインの役割と自分の得意分野に特化して励んでおりました。
ええ、出番が無くて、隅でいじいじしていただけじゃないんですよ、ええ。
そんな訳で、私は皆様のお世話と回復係くらいなもので、
余りお役に立てないかなと思うのですが……?
するとリーディナが、ちっちっちと言いながら右の人差し指を左右に揺らした。
「そんな事無いわよ? ユリアが来てくれると私達にはとってもいい事があるの。
リファも、アデルバード様も、ラミルス様もセットで来てくれるじゃない?
それに性格的には難ありだけど、王子様達も貴重な戦力だしね」
――おおう! 私はついでかーいっ!!
いじけていいですか? そう思っていたら……。
「みい……ティアル……ヤクタタズ?」
既に近くの木の隅っこで、ぷるぷるしながら、
体を小さくして、しょんぼりしているティアルの姿が……っ!?
「ああっ!? 違いますよ、ティアルはティアルでとっても役に立っていますよ!?」
いつも私にお腹とか、お耳とか、肉球とか、しっぽとか、
もっふもっふと触らせてくれて、癒してくれるじゃないですか!
それにリーディナの一件では、それはもう大活躍でしたよ! ええ!
「ティアル、落ち込むのは私の役ですよ!
貴方は何時も大活躍しています。私達の傍に居てくれるだけで十分!
それに、少しずつ他の魔法も覚えてきているじゃないですか、
先日、リファに教えて貰った風の攻撃魔法。上手に出来ていましたよ?」
そう言って私が慰めると、ティアルの瞳が輝きだし、
慌てた様にリーディナ達も、一緒に慰め始めてくれました。
「そっ、そうよ。ティアルはふわふわで何時だって可愛いわよ。ねっ? ローディナ」
「ええ、ティアルはそのままで十分よ、ねえ、リーディナ」
「みい、ワカッタ。ソノママデイル~」
……はあ、良かった。ティアルの機嫌は直ったようですね。
(でも……言われてみればそうか、確かに私の……ユリアの存在が、
戦闘能力に左右するのは、あるのかもしれませんね)
男性で親密度が低くても、すぐに仲間になって協力してくれるのは、
普通で言えば紅蓮騎士のラミスさん位だ。
ルディ王子様の場合は、攻略条件が厳しすぎて仲間にするのも難しいし、
リイ王子様に限っては攻略対象のキャラクターでは無く、
その立場から考えても、彼を冒険の仲間に加えるのは本来不可能。
(そもそもリイ王子様は、私が異物対象で無かったら、
知り合う機会すら無かったかと思いますし)
……で、アデル様は人間嫌いな龍だ。人間と行動を共にするのは嫌でしかない。
攻略条件ではユリアと知り合い、彼女の協力により彼と仲良くなれる。
でも、これがなかなか仲間になってくれないんですよね。
『なぜ俺が、君の冒険に付き合わなきゃいけないんだ?』で、一刀両断。
仲良くなってくると勿論付き合ってくれますが、これがなかなか難しい。
そんなアデル様には、実の所、仲間になりやすい裏技と言うのがあって、
先にユリアと仲良くなって、彼女を仲間にしておくと、
彼女の保護者と言う名目でアデル様が自動的に付いて来てくれます。
ええ、ほぼ強制的、プレイヤーに拒否権なんてありません。
唯我独尊のアデル様が、そうと決めたら絶対なのです。
(何せ彼はメインヒーロー枠、優先順位は彼が一番ですものね。
文句を言おうものなら、ドラゴンアイズとかされるかと)
……ただし、アデル様はユリアをまず最優先に行動する。
プレイヤーとの親密度が低いと、優先事項はユリアが先になるので、
冒険が必須のルートでは、上手く折り合いをつけて攻略する必要があります。
攻略が難しい分、仲間にすると攻撃力、魔力、防御力はダントツです。
仲間なら心強いけれど、彼が魔王になったら、それはそれは苦戦する事でしょう。
本気になったら、現存の魔王を単独で倒してしまう人ですからね。
ちなみに、ユリアルートはその超難易度高めのアデル様を「攻略後」に発生する。
その上、ユリアを攻略するのにはアデル様をまずどうにかしなきゃいけないという、
隠し系ヒロインの攻略はアデル様以上に限りなく無理ゲーに近い、鬼仕様なわけです。
ゆえに、その全容は私も知らず、知っているのは演じた部分が主だったりする。
(もしかして……ユリアがサポートキャラとしての役割だからかな、
私にその気が無くても、ローディナ達の行動がしやすい様に、
橋渡しみたいな事が出来ているのかも。プレイヤーの時のように)
考えて見れば、ゲームプレイ上ではありえない組み合わせです。
本来は仲間になる筈の無いリファも居るし、攻略対象でもないリイ王子様も居る。
でもまさか、滅多に会えない筈のローザンレイツの王子様達が、
毎回、この冒険メンバーに加わる事になるとは思いませんでしたよ。
これでもし怪我でもしたら私達に責任問題が来ませんかね? 不安になります。
そんな事を色々考えて、私は王子サマーズに聞いてみたのだった。
引き返すのなら今ですよという意味合いをこめて。
※ ※ ※ ※
(……一応、こういうのは確認しておかないと)
もしも万一にでも王子様達に何かあれば、守れなかった私達が責められます。
だから此方としては、お城で大人しくしていて欲しい所なのですが……?
特にルディ王子様は次代の国を背負う方です。責任は重大ですよ。
そんな私の心配に気付いたのか、ルディ王子様は満面の笑みでこう応えた。
「――ああ、大丈夫だよ私は周辺の視察を兼ねているから、父上の許可は取ってある。
国をいずれは治める者として、外界の状況を確認する必要があるからね。
見聞を広めること、父の代行として王都の周辺を常に確認しておきたい。
それに、私は他の種族の保護や交友も目的としているんだ」
「は、はあ……」
「これでも一応、自分の身は守れるから心配はしなくていいよ? 可愛い人」
そう言ってルディ王子様は、私の両手を自分の手で包み、
無駄にキラキラスマイルを向けてきます。そしてぐっと顔が近づいてきて……。
――直後、アデル様の手がルディ王子様の頭をがしっとわし掴みした。
そう、いつの間にかルディ王子様の背後にアデル様が立っておりました。
「あ、アデル様!」
「……ライオルディ」
冷え切ったその瞳は、ルディ王子様へと向けられており、
全身から漂う、混沌とした闇を纏っているように感じたのは、
きっと私の気のせいじゃ無い筈だ!
本能が私に逃げろと言っている気がして、とっさに私はルディ王子様から慌てて離れ、
ティアルの視界をさっと隠して抱き上げました。
(こ、これは、小さい子には見せてはいけない気がします。怖くて泣くかも知れません)
ティアル自身は、「みい、ナニナニ~?」と、
腕の中でじたばたしているんですけどね? ティアルには状況が分かってない様子。
私はそのままリファのお腹の下に逃げ込みました。一番の避難場所です。
「お前は……目を離せば毎回しつこくユリアを口説いているな……?
気安くユリアに触れるなと言った筈だが、いっその事、此処で死ぬか?」
「いたっ!? 痛いよアデルバード! 何をするんだいっ?
私は冒険に不慣れなユリア君を安心させてあげ……うぎゃあああっ!?」
ぎりぎりと、片手で頭を掴まれたルディ王子様はギブアップを上げ、
必死に命乞いをしておりました。
えーと……あれ? 一応身を守れるとか言っていた王子様はいずこに?
「……あの、ご主人様、その位にしておいて下さいませ。
相手はこの国の王子様ですから、このままだと不敬罪で捕まりますよ?
ですから、どうぞ見逃してあげて下さいませんか?」
「……ユリアが……そう言うなら」
私はルディ王子様がなんとかアデル様から解放され、
ティアルに「みい、ヨシヨシ」と頭をなでられるルディ王子様の姿を見届けてから、
すぐ傍に居たリイ王子様の方を見た。
「……」
さっきから、言い知れぬような視線を感じたんだよね……。
相変わらず私を見る目がキラキラし過ぎていて、居た堪れなくなりますよ。
「あの、リイ王子様は……?」
「私は兄上の護衛も兼ねて……と、ユリアさ……ユリアにも護衛が必要だろう?
モータルの動向も気になるからな。万一の時に鏡の力が発動するか分からないので、
人手は多い方がいいと思うんだ」
「は、はあ……」
確かに、あの魔物と遭遇する可能性が少しでもあるなら、
リイ王子様が傍に居た方がいい気がする。
時間を止めている間に、皆の安全を確保する事が出来るかも知れませんから。
アデル様達が言うには、あの魔物は闇属性だったそうだから、
それに対抗できる、光属性のある王子様達が一緒に居れば戦闘が有利になるはずだ。
何より、リイ王子様はこの世界で私の次に例外の存在となるだろう。
ならば……二人が同行するのは良い事かもしれませんね。
ああ、でもリイ王子様。至極まっとうな台詞を言っているのに、
私の名前を呼び捨てで話しているだけで、ハアハアするの止めて下さい!!
「ユ、ユリアの……護衛なんて……なんて、甘美で栄誉な事なんだろう」
「リイ王子様……あの……」
最近では私の名前を呼ぶだけで、何かが降臨している様です。
神様が大好きなのは分かりましたから、あんまり暴走するとリファが……。
「グルルル……ガウ!!」
後ろからべしっ! っと、ママンからの制裁が入りました。
や……でもリイ王子様、さっきから悶えて喜んでいるよ? リファ。
このお方にリファの一撃は、「神の使いの洗礼儀式」と変換されるので、
むしろ、ご褒美になってしまうかと思います。
まあでも……本人はリファにべしべしされてとても喜んでいるから、
放って置いてあげるのも、優しさ……でしょうかね?
(うん、こうして見ると……ラミスさんが一番メンバーの中で安心かも。
常識を知っているし、暴走するお兄様がたを上手く取りまとめてくれ――)
「――アデルバード、何かあったら殿下を囮にして、
女性達を先に逃がせばいい。だから此処でやったら駄目だ。
使うのなら、その存在を有効活用しないと駄目だろ?
そういうのは、狩りの時の為に取って置くといいんじゃないか?」
――前言撤回! 王子様にそんな事しちゃいけません!!
ラミスさんも思考はしっかりと龍族のお人でした。
そうですよね。狩りをする為に知略を使う考え方をされたのですね?
わくわくしながら、剣を磨いているその笑顔が、実に爽やか過ぎて、
私はもう、ツッコミする気もなくなりました。
そう言えば……集合地点で、ローディナ達よりも先に現地に到着した時、
暇を持て余して、アデル様とラミスさんはこんな会話をしていましたね。
※ ※ ※ ※
『戦闘が不利になったら、俺がユリアを肩に担いでリファに乗って逃げる。
リファはティアルを咥えておけ』
『え? ちょっと待てよ、アデルバード。 じゃあ俺は?』
『ラミルスは、右と左にローディナとリーディナを両脇に抱えて走って逃げろ』
『……っておい! それじゃ俺の両手が塞がって、まともに闘えねえだろうが!!』
『問題ない、口から火を吹けばいいだろう? お前の得意分野だ』
『それ、完全な龍体じゃねえかっ!!
女の子達の前でそんな危険な事出来る訳ねえよ、絶対に泣かれるし!!
折角、仲良くなれた彼女達に俺嫌われたくねえよ!!
お前はこの俺のささやかな女の子達との交友関係を壊すつもりか!?』
『後で記憶を消せば……いや、余り掛けても面倒だな。
分かった。ライオルディとリハエルを囮にして、お前は逃げろ』
『おおそうか! その手があったな!! たまにはお前も良い事いう――……』
『殿下達を囮にしては駄目ですよ!! お二人とも!!』
と、ツッコミを入れたのでした。
ええ、まさかあの時の会話が、本気だったとは思いませんでしたよ。
お城お抱えの騎士団の団長様と、副団長様の会話とはとても思えない会話でした。
※ ※ ※ ※
「――……」
しかし困った。毎回思うが、一体誰がこのメンバーを纏めればいいんだろう?
なんというか、ここに居る皆さんはとても個性がありすぎるんだよね。
今はリーダーシップが出来る物語上の主人公さんも居ないし……。
「……あれ?」
もしかして私か? 私なのか?
サポート役として、こういう所でもきっちりお役目として働けという事でしょうか?
(うう……仕方ない。諦めてがんばろう)
地面で幸せそうに一人で勝手に悶えているリイ王子様と、
今もべしべし叩いているリファをどうにか制止して私は手を叩いた。
はい! 皆さん集まって集まって~!
(此処は、青柳先輩のやり方を採用してみましょう。
レッツ、飲み会幹事! やるからには極めますよ!)
こういう時に上手に纏められるのは、役者としての真価が試される。
私、頑張ります! 役者さんには個性的な方が多いですからね。
こういうのも、きっと何かの経験としていいと思います。
リーディナとローディナは、各自で製作に必要な素材集め、
そして私は傍らでせっせと食材集めを中心にして行動していました。
寒くなって来ると、食材が高騰するのは此方の世界でもあるとの事、
本格的な冬になる前に、色々と冬支度が必要だと思いました。
(魔物が増えて来たという事で、行商人が行動しにくくなるでしょうし。
今後、王都でも物資などが不足してくる事も想定されますよね。
野菜とかも高くなると思いますから家庭菜園に励むとして、
おじサマーズに温室の補修工事もして貰わないと)
今後どう転んでもいい様に、出来るだけの対策をする事にします。
(一番の問題は食材の確保と水……ですね。水は井戸があるけれど、一応ろ過装置を作って貰って、
後はある程度、保存の利く食材を増やして行こうかな……)
そんな訳で! 私は今日から食材集めに奔走しますよ。
リファに荷物を背負って貰い、私は代わりに大きな籠を背負います。
森の中は食材の宝庫、目をキラキラさせながら木の実などを拾います。
野生の胡桃は、中でも保存が利くので重宝しますよ。栄養もある。
キノコは、リファとアデル様に聞きながら収集。
この季節は特に食材の恵みが多い季節なので、収穫するのが楽しみですね。
出かける際、節約の為にも食材確保を頑張ってきますねとお屋敷の皆さんに伝えたら、
おじサマーズやリファには当初、苦労させて……と涙ぐまれましたが、
大丈夫です。全然苦ではないし、むしろ楽しいですよ!
おいしい物が食べられるのは、私としても願ったりですし、
節約しつつも、豊かな食生活を目指そうと思います!
(何事も楽しまないとですよね。せっかく外に出る機会があるんですから。
こういう行動も、感受性を高めるには良い事です)
鬱蒼とした森だと、私が怯えたかも知れませんが、
小鳥達がさえずり、動物達がお散歩をするのを横目にして、
実にほのぼので和やかな光景が広がっておりました。まさにピクニック。
今日は気温も温かく、過ごしやすい状況ですね。
「みにゃ~」
「クウン?」
「ん? ティアルどうしました?」
二足歩行で鼻歌を歌っていたティアルが、突然ぴたりとそれを止め、
じっと何かを見ていたかと思えば、すっと体を屈めて助走をつけ、
一気に飛び掛って何かを捕らえた。
「みにゃ!」
最近はリファとアデル様が、狩りの仕方をティアルに教えているお陰か、
獲物の捕らえ方も上手くなっている様ですね。
あ、ちなみに私もなぜか教え込まれようとした訳ですが、
丁重にお断りして置きました。子猫姿で獲物を追いかけて捕まえたり、
小物モンスターと闘ったりとか、私……とても出来そうにないです。
ほら、一応私は人間なので、にゃんこの生涯を終える気はない訳です。
何というか……それだけは人として受け入れちゃいけない気がするのです。
(でも悲しいかな、リファはまだ私を野生に返る事を前提で考えてますが)
私が魔法とかで身を守れない分、心配なのでしょうね。
ティアルには必要な知識だとは思うので、リファの好きな様にさせておきました。
「みい、ミテミテ~」
ティアルは、まだまだ食べ物の見分けがおぼつかないので、
毎回何かを捕らえる度に、私達にそれを見せに来ていました。
しかし、今回、ティアルが手に持っていたのは、凄く意外すぎるもので……。
「みい、チッチャイ………コビトサン」
「ピギャー!」
不思議な鳴き声で話すものが、目の前に……。
「クウン!?」
「へ!?」
「カワイイ、みいみい~」
人の親指くらいの大きさの小人さんが、ティアルの腕の中でじたばたしていた。
二頭身で、ふわふわの栗毛色の髪、木の葉で出来た洋服を着ていて、
ほえほえした顔をしていて、実に可愛らしかった。
まるで……そう、メルヘンなドールハウスとかに付いて来るお人形さんみたいな。
ティアルは目を輝かせて、飼ってもいいかと聞いてくるので、
いや、それは流石に不味いんじゃなかな? ……と止めさせる事にした。
小人さんにだって、人権とやらがあると思うんだよ。うん……。
腕の中の小人は、しきりに「ピギャー」と、言っているが、
何を言っているのか分からない。これ何語なのかな?
多分、「離して」とかだと思われるので、
ティアル、怖がっているみたいだから、その子を離してあげて? と頼んでみた。
君は優しい子だから、きっと分かってくれるよね?
「みい、ティアル、ヤサシイコ」
ティアルはこくんと頷くと、持っていた小人さんを解放する。
小さくてティアルにはお手ごろサイズだから、きっと興味を引かれたのだろう。
可愛い物には、とりあえず抱きつくのがティアルの癖だからね。
ティアルは「ゴメンネ?」と、小人さんの頭を右前足で、なでなでしていた。
(この世界には翼のはえた子猫の妖精も居る位なので、
小人さんが居ても不思議ではないのかも……?)
私はそう思っても、初めて見る小人さんに目を輝かせていた。
可愛い……思わずなでてみたくなる愛らしさです。
森の木の葉で体を覆ったその姿は、本当に妖精さんみたいで、
何だか、人形用の洋服を作って着せ替えしてみたいですね。
私は驚きながらも、持って来たビスケットをお詫びに一つあげてみた。
「すみません、驚かせてしまって、うちの子が大変失礼致しました」
ティアルの頭に手を添え、私とリファもそろって頭を下げます。
その後ろでアデル様も頭を……私達の保護者ですものね。巻き込んで申し訳ないです。
「ぴ、ぴ、ぴ?」
私が差し出したビスケットを両手で持って、おろおろとした小人さんは、
ティアルが「みい、オイシイヨ?」と言ってお勧めし、目の前で食べて見せた所、
恐る恐る一口食べて目を輝かせ、それからぱりぱりと夢中で食べ続け……。
(うわあ……食べてる食べてる。可愛い……)
その姿を見て、私はほわんと癒された。可愛いなあ~もう!
ティアルがお持ち帰りしたい気持ちが良く分かりますよ。
喜んでくれたので思わず、よければ二枚目もどうぞ? と渡しました。
すると、小人さんは、にっこりと此方に微笑んで受け取ってくれた。
「ぴ~」
「ふふっ」
良かった。許して貰えたようだ。
「ちょっと、ユリアどうしたのよ? さっきから誰と話しているの?」
「あ、リーディナ、今ですね。ティアルが小人さんを見つけ――」
「ぴっ!?」
ぞろぞろとリーディナ達が私達の所へ集まり始めた事で、
小人さんはその数と足音に驚いてしまったらしく、
ビスケットを抱えたまま大慌てで逃げてしまいました。
ああ、お友達になれそうだったのに……残念。
そう思った私が少しがっかりとしていると、
ティアルが横で、「バイバーイ」と元気に前足で手を振っていました。
また会えるといいな……会えるかな。
「どうしたの? ユリア、何だか元気が無いわ……?
もしかして具合でも悪いの? 何処か体を休める場所でも探しましょうか?」
「いえ、違うんですよローディナ。今、小人さんをティアルが見つけたんです。
お友達になれるかと思ったのですが、驚いて逃げてしまって……」
「えっ!? ちょっとそれ早く言って!!
小人の住んでいる里の近くに、レア素材があるのよ?!」
どっち!? そうリーディナに聞かれて、私は逃げて行った方向を指差した。
すると、目を輝かせたリーディナが、「レア素材~」と言いながら、
小人の消えた草陰を目指して、急いで追いかけようとする。
「ああ、そんなに物音立てたら、余計怖がってしまいますよ~?」
そんな事を私が話すと、一度、ぴたりと動きが止まったリーディナは、
私とローディナの元まで戻ってきて、私達の手を引き歩き出した。
慌てて後ろに居る男性陣とリファに、私は声を掛けて誘導します。
ええ、これが私達が迷う結果になろうとは、思いもしませんでしたよ。
※ ※ ※ ※
――1時間後……。
「まあ……此処は何処かしらね? リーディナ」
「そうね。何処かしらね? ユリア」
「ふ……ふふふ。迷子、思いっきり迷子です」
首をかしげるローディナ、私に現在位置を私に聞いてくるリーディナ、
そして土地勘すらない私は……途方にくれておりました。
小人さんを追ってメルヘンな世界へ……なんて上手い具合には当然行きません。
いえ、童話とかじゃないので、そんな素敵な展開にはなりませんけども。
はい、迷子です。私達迷子になりましたよ。
ザッツサバイバルと化した私達の冒険珍道中、
待ち受ける先に何があるのか、それは私達にも分からない。
とりあえずは……そう……なんだ。
地図、ちゃんと見よう?




