47・メイドユリア奮闘記その2
きゅっきゅっと音を立てながら、体全体を使って窓を拭く。
同じ方向から拭くのが掃除のコツだ。ストレッチも加えてリズミカルに!
危ない所は、専門の人を雇ってやって貰っているけれど、
それ以外でも窓拭きは、大変な重労働です。
なので、今日も楽しみながらやっていますよ。はい。
大変だけれど、やり終わった後の達成感は、働いた私達にしか分からないもの。
磨き終わった後は、窓を見上げて、にっこりと微笑みます。
「……ふう、腕が疲れた……でもこれで、今日の担当部分の窓拭き完了です。
ティアル、高い所のお手伝いありがとうね?
リファも見守ってくれてありがとう」
「みにゃあ、ティアル、ガンバッタ、エライ?」
「クウン!」
「うんうん、偉い偉い。お陰で助かりました」
頭をなでなでして褒めると、ティアルは嬉しそうに目を細める。
そして前足で頭に触れ、「ホメラレチャッタ」と、くるくる回ってみいみい喜んでいた。
リファは「良くやったわね~偉いわね~」と言いたげに、ぎゅっと私を包み込む。
そして、すりすりと私の頭にリファが頭をすり付けてくる。
くすくす笑いながら、私もぎゅっとリファに抱きついた。
(リファにも余り心配されなくなって来たなあ、
信頼されてきたのかな? ふふっ、何だか嬉しいな)
ずっと腕を上げ下げしていたから、流石に疲れた。
首をストレッチしてから腕を回し、凝った部分を軽くほぐす。
現在、若手の人材はまだまだ不足気味。
メイドにも本当は色々種類があって、キッチン、スカラリー、パーラー、
ランドリー、ウェイティング、レディーズメイドなどなど、
役割に応じた所の仕事をするものだが、此処では人手が足りないので、
全ての仕事を兼任する。メイドオブオールドワークとして働いている。
もう少し人数が増えたら、担当を分ける予定だ。
(……増えたら、の話ですが、そうしたらデザートを専門に作るパーラーメイドとかをやってみたいなあ)
何て事を考えていたりする。デザートを作りまくる職業……。
凄い魅力的で素敵な職業だと思うのです!
(まあ、私はメイド長を既にやっているから無理だろうけど……)
でも、自由の利く職場なので、厨房の利用もOKだ。
なので不満とかは今の所ない。不便な事は所々あるけれど、
住めばなんとやらというし、妥協して慣れてくればなんとかなる。
今ではこちらでの暮らしも、色々と楽しいと思うようになっている。
それはやはり、沢山の人の助けがある事が大きく関係しているだろう。
(ここの人達は、私を温かく迎え入れてくれたものね。
もっともっと沢山の人に知って貰いたいなあ……悪い職場じゃないよって)
イーアもユーディも、このお屋敷での生活を好きになってくれた。
変に上下関係にうるさい状況でないから、のびのび出来るお陰かも知れない。
彼女達の様に、長く働いてくれる人がもっと来てくれる事を祈りつつ、
私達は今日も、せっせとメイドライフを満喫するのだった。
(私がやって来たばかりの頃に比べると、かなり改善したと思うよ)
かび臭く、換気も行き届かなかった部屋も、今ではすっかり様変わりし、
埃だらけだった壁も床も、綺麗に掃除して磨かれ、窓もぴっかぴか。
おじ様達に庭の木の剪定も頼んで、見栄えも良くした。
匂いが篭らないように、洗濯物は毎日こまめに洗い、
月桂樹の木が植えられた所を少しいじって、物干しスペースを設置もしました。
これは、衣類の匂い消しと目隠しと言う利点があったりする。
そして、就職希望者が何時来ても良いようにと、
使用人部屋も定期的に掃除と換気をしている。私達専用のホールも整え、
休憩が出来るように、ユーディ、イーアと共に新しくクッションも沢山作り直し、
床や壁の修繕は、おじサマーズとおじいちゃマーズ達にお任せです。
……と言うわけで、残る問題と言えば一つしかない。
(待遇良し、環境良し、差別なし! 入浴もきちんと出来る。
さあ! 何時でも来て下さい! 来るのです来るのです!
素敵な職場環境を用意して、お待ち申し上げておりますよ!!)
――特に特に! 主人公さんのご来訪をお待ちしております!!
――私、頑張ってサポートしまくりますから!!
(アデルバードと知り合うには、色々なパターンがありますが、
彼のお屋敷でメイドルートも選べたし、
ユリアを先に仲間にする方法の次に、仲良くなるのが早い。
ここなら宿代も掛かりませんし、来て下さい主人公さん!!
勿論、他の就職希望の方達も大歓迎しますよ!)
――さあ! カモーン!!
キラキラした目で玄関前に立ち、握りこぶしを作って念じる事数分……。
「……」
その後、
「誰か~ああああ」
……と四つん這いになって、盛大に落ち込む私の肩を、
ユーディとイーアが優しくぽんぽんと叩いて慰めて下さいました。
(本当にいい子達ですね……思わず、ほろりと来ます)
彼女達が来てくれるようになった時に同じ事をしていたので、
これは何か効果があるのかな? と、日々実践しているのですが。
けっして怪しい人では……いえ、十分怪しい人ですね。すみません。
「だ、大丈夫ですよ。ユリアさん! 焦らずに行きましょう?」
「そ、そうですよ。直ぐには理解ある方は現れないかと」
「そうですね。ユーディ、イーア。高望みしてはいけませんよね……」
うるうると手を取り合う私達……。
そして今日も……来訪者ゼロと言う、悲しい結果を経験しました。
(たまには、王子サマーズ以外のおもてなしも、してみたいです……)
時々暴走する私に、優しくしてくれてありがとう二人とも。
お二人の負担を減らす為にも、めげずに新しい従業員集めを頑張りますね?
「猫になって呼び込みとか、どうでしょうかね~?」
近頃では、私、にゃんこメイドとしても働いております。
ローディナがですね。猫用の白いフリルエプロンを作ってくれたんですよ。
その為、ありがたく頂戴して使う事にしました。
はい、にゃんこメイドはれっきとした癒し担当としてですね?
ご主人様に愛くるしさを提供して、疲れた心を癒しているのです。
ちゃんと仕えているのですよ。
ええ、お膝に乗せて頂いてお菓子を食べさせて頂いたり、
彼を寝かしつける為に、アデル様の胸元の上で丸まって、
肉球でトントンしていたはずが、ぬくぬくした状況に眠くなってしまって、
そのまま一緒になってすぴすぴと眠ってしまったりしますが、
きちんと……働いているつもりなのですよ! あにまるセラピストとして!
(けっして、じゃれているだけでは無い……と思う!)
子供を失い、傷ついたリファの心を癒す為にも、
定期的に子猫姿になって、スキンシップをしてあげるのは良い事なので、
子猫姿をいかに愛らしく見せられるか頑張っているのです。
(ええ、だからローディナとリーディナが相変わらず私の子猫姿を見て、
きゃあきゃあ言っているのも黙っておりますとも。
その気になれば、二人とも私のお仲間になって貰いますし)
先日のティアル達とのボール遊びは楽しかったので、
是非、お二人にも参加していただこうと思います。
ですが、子猫姿になるのは良い事ばかりではないのです。
(子猫になる時のデメリットは色々とありますが、
ぬくぬくした所に居ると直ぐに眠くなるのですよね。
断続的に来る眠気には、流石に私も勝てません……)
ふう、と溜息を吐く私に、傍に居たユーディーがいち早く気付き、
「ユリアさん、疲れたらいつでも遠慮せずに言って下さいね?
私、立派なレディーズメイドになれるように、頑張りますから!」
と、にっこりと微笑みかけてくれる。
大丈夫です。疲れていますが、倒れるほどではありませんよ?
きちんと休憩を間に挟みながら、こつこつやらせて頂きます。
でないと、強制的にベッドへGO! になると思うので。
居候の身の上としては、何もしないで至れり尽くせりは心苦しいのですよ。
(はて? でもレディーズメイドって、確か奥方様に付くメイドの事だよね?
令嬢のお世話役なら、ウェイティングメイドのはずなのになあ……。
頬を染めて、頑張って下さいねと力強く応援されますし、
もしかして何か、誤解をされいるのでは無いでしょうか?)
禁断のロマンスがどうのこうのと呟くユーディは、
うきうきと厨房へ料理の仕込みの手伝いに向かいました。
(……はっ!? もしかして、ユーディもアデル様の幸せを考えて、
お嫁さんが何時来ても良いように、私を練習相手にしたいのかも?)
おおお、それは私も協力しないといけませんね!
アデル様自身の問題も解決し、住居的にもお化け屋敷なイメージは脱却できましたから、
お屋敷を取り仕切る女主人が居てくれたら、このお屋敷ももっと華やかに良くなりますね!
種族を超えた愛! 自分的にはいいと思います!!
「……ん?」
またも胸がちくりと痛む。
その痛みを自覚しながらも、私は胸に手を添えて気付かない振りをした。
これは考えてはいけない事で、私には本来いらない感情だから。
……そして、この世界の何処かに居るかも知れないユリアに謝る。
(ごめんね? 本当は一番、彼の傍に居たいのはあなたの筈だものね……)
私は、アデル様もユリアも思い入れが強いから、
どちらも幸せになって欲しいと思うけれど、
今は、アデルの幸せを最優先で考えたいんだ。
ユリアや私自身の気持ちよりも……それが例え辛い事でも。
(本当に……何処に居るのかな……ユリア……)
私の中で気付き始めたこの想いを、形にするのは難しくて、
何よりユリアに悪い気がして、無理やり感じた痛みを忘れようと努力した。
それが私自身の気持ちなのか、ユリアに同調したせいなのか分からないままに。
※ ※ ※ ※
掃除道具を片付けて、手を洗う。
そしてイーアが花を生けているのを見かけたので、
私もお手伝いしますと立候補して、お部屋の花を飾り……飾って……。
みたんです……が――……。
「何というか……独創的……ですね。ユリアさん……」
私とイーアの目の前には、まとまりの無い花の残骸が、
花瓶の中に無残にも生けられておりました。
「え……ええと……」
はい、無理にフォローしなくてもいいですよ。イーア……私が悪いのです。
ちょっくら部屋の隅で膝を抱えて、いじけてもいいですかね?
大丈夫、ちょっとだけ後ろ向きになるだけです。直ぐに浮上しますよ。
女子力……もう少し頑張って身につけますから。
「ふふ、ふふふ……イーア、あの、交代してくれます?」
「あ……はい、承知いたしました」
私が花を飾ると皆様いわく凄い光景になる為、
花を生けるのはイーアにやって貰う事になりました。
……むむっ、おかしいなあ? 芸術センスは是非極めたい所なのに、
一向に上手くならない気がしてきましたよ?
やっぱり「大自然の野性味あふれる情景」をテーマにしたのが良くなかったか。
ちなみにイーアのテーマは「優雅なる春の情景」らしいです。
小窓から注がれる日差しを浴びて生き生きと咲くピンク色のバラの花……。
暖色系の小花とも組み合わせて、柔らかな印象を与えていました。
肌寒くなって来たので、せめて部屋の中は温かみのある感じにしたのですね?
ふむふむ、勉強になります。私も頑張ろう!
(しかし、あれですね……こうして考えて見ると、
アデル様が花売りの人から、ミニブーケで買って下さるのは助かります。
そのまま生けられる様に整えられていますものね)
そして、以前はお屋敷に帰るたびに、表情の暗かったご主人様も、
今では仕事から帰ってくるのが楽しみのようで、
早く帰ってきては、部屋の中で龍体になって寛いでおります。
私に正体がバレて以降、隠す必要が無くなり、
一番楽な龍体の姿で過ごす事が多くなりましたから、そのせいでしょうね。
何かあれば私が間に入り、代理でご用件を伝えてお世話をしていますし、
雇用主の秘密も守ってフォローもばっちりです!
(お屋敷の皆様も私のように隠し事無く、アデル様と接する事が出来たら良いのですが……。
それは贅沢ですよね。続いてくれるだけでも嬉しいです)
そうそう、ついにアデル様の部屋の掃除も、
自由にさせていただけるようになったんですよ! 完全に解禁されました!!
これはお仲間に認めて貰ったお陰ですかね?
アデル様に家族としても迎えて貰いましたし、メイドスキルも上がっていると思います。
あっと、アデル様の部屋に行く前に、お手伝いをしてくれたティアルとリファに、
ご褒美のクッキーをあげなくては。
この休憩が終わったら、アデル様のお部屋に行くことにしましょう。
使用人用の休憩室にて、皆様のお菓子も用意しておきますね。
「みいみい、ティアルノクッキー! タベテイイ? みいみい」
「クウン、キュウキュウ」
「ええ、どうぞどうぞ? リファとティアルの型でたくさん焼きましたよ」
「みにゃあ! ワーイ!」
「クウン!」
二匹で揃って「イタダキマス」と頭を下げた後、
大事に大事に前足でクッキーを挟んで、はむはむと食べる姿は本当に可愛い。
ティアルもリファも、一口食べるたびにこちらを見て来るのがもう……!
ミルクをお皿に注いであげて、幸せそうに食べる姿を存分に愛でました。
愛でて愛でて食べているのをいい事に、頭をなでくり、なでくりします。
「はあ……癒される」
アデル様もなでさせてくれるのですが、ふわもこじゃないですからね。
やはり物足りなさを感じるんですよね。
(……いえ、あのアデル様に可愛さを求めてはアレですが)
尻尾をふりふりしている二匹に和んだ後は、お仕事再開です。
いざ! 掃除道具を装備して、龍のテリトリーへ突撃!
知り合ったばかりの頃、アデル様の私物に触るのは最低限でしたので、
嬉しくて、せっせとお世話をさせて頂きます!
「今日も今日とて、お部屋改造計画を頑張りましょう!」
アデル様が故郷を恋しがって野生に返らないように、
私は日々、出来る限りの対策を施す事にしました。
お日様の匂いのする洗い立てのシーツ、草木染めのカーテン。
身の回りの小物は木の香りのする木製の物に交換。
以前、彼の縄張りに連れて行ってもらった時に、
その場にあった植物を持ち帰って、植え替えていた物があるので窓辺へ飾り、
枕の中身を綿の代わりに干草を詰めて、草の香りも感じられるようにしました。
匂いは私の世界で言う井草の香りに似ています。落ち着く香りですね。
(本当はメルヘン全開で、干草のベッドも計画していたのですが……。
掃除と干草を入れ替えるコストと手間を考えると、
今の人数ではとても無理と判断しました。だから、せめて枕だけ)
元々アデル様は、自然の中に暮らしていた方ですからね。
出来るだけ、自然と触れ合える環境にした方がいいと思います。
そんな私の気遣いをアデル様も喜んでくれて、お褒めの言葉と頭をなでられました。
(リファも羨ましがっていたから、
干草の大きなクッションを作ってあげたんだよね。
作るの大変だった~手縫いでやらなきゃいけないから、
ユーディ達にも手伝って貰っちゃったよ。ベッドだともっと大変だろうなあ)
リファはそのクッションを寝転がる時に、いつも下に敷いて愛用してくれている。
やはり草の香りが気に入ったようで、顔を良く埋める姿を見かけた。
その端に、ティアルが頭を預けて、ちゃっかり一緒に使っていたりするんだ。
(まあ、あの子は最終的にリファのふかふかお腹に落ち着くんだけれどね)
「ん、今日は良い風が入ってくるなあ……」
その後、アデル様の部屋の換気を済ませると、シーツやカバーの取替え。
枕元にはサシェを置く、本来は中にポプリを入れる所だけれど、
アデル様の場合は木のくずを入れて、木の香りを感じられるようにしました。
ポプリは魔除けの効果があると言うけれど、アデル様はその……ラスボスだし、
必要ないんじゃないかなと思いますので。
部屋にある植物の手入れを済ませて床をさっと掃いて、拭いて、
机の物を整頓して雑巾で拭いてから 部屋を出た。
「ティアル、行きますよ?」
「みい? ハーイ」
勿論、ソファーでぴょんぴょん飛び跳ねていたティアルも回収です。
ふと、思ったんですが、龍は冬眠とかするのでしょうか?
熊の冬眠をアデル様に切り替えて考え、私は首を傾げる……今度聞いてみよう。
もしもそうなら、穴倉バージョンに部屋を改造しなければいけませんし。
※ ※ ※ ※
数ある役割の中でも私が一番に重点を置いたのは、
「まかない料理」の研究です。
つまりは私の世界の料理の再現なのだけれど、
それはこのお屋敷でしか味わえない、門外不出の秘蔵レシピが欲しい。
そう、これこそが他の職場との差別化を計り、
働くものの判断材料になるのではないかと、私は思っています。
(騎士団長様のお屋敷では、他では食べられない美味しいまかない付き!
……という事を大々的に広めたい!)
玉ねぎを亜麻色に炒め、ひき肉を加えて甘辛醤油で香ばしく炒めた鳥そぼろ。
ほうれん草を茹でて、いり卵を作って、特性ソースを付けてビビンバを作ってみたり、
何時ものパン生地を伸ばして、燻製肉とチーズ、トマトソースで石焼きピザ。
バターを使ったホワイトソースでエビを加えて、
衣を付けて、かりっと揚げた。さくさくのクリームコロッケ。
作れなくて断念したものも多いけれど、
珍しい料理は皆様の気を引くかと思うんだ! 胃袋を掴む、まさにこれですよ!
「今日はふわとろチーズオムレツにしよう」
だからだから! 主人公さんいらっしゃいなのです!
再び玄関に近づき、お祈りをして、更にははーっとひれ伏した後、
変化の無いドアに、しょんぼりとうな垂れる私の服の襟首をリファが咥え、
後ろへずるずると引っ張って「休みなさい」と休憩を促してくれる。
(むむ……頑張ってはいるのですが、
どうしたら主人公の人や、就職希望の方に興味を持って頂けるのか)
やはりあれですが、怪しげなツボをぐつぐつ煮込む魔女のお姉さんに、
人寄せの呪いでも頼むべきですかね?
先日は、玄関で両手を合わせて、なむなむとしていたら、
帰ってきたアデル様に物凄く心配されて強制的にベッドに寝かしつけられましたが。
……うん、止めて置こう。これ以上心配させたらアレですものね。
(正直な所、主人公さんは率先して干渉するつもりは無いんですが、
事情がこちらにもいろいろありますからね)
数ある選択肢でも、幸せになる方法は幾らでもある方なので、
放っておいても大丈夫そうな気がするお方。それが主人公。
むしろ……関わらない方がユリアの為だよねとも思います。
ですが、アデル様の幸せを第一に考えれば、主人公と友人以上の関係が欲しい所です。
だから私は、どうにかして二人を引き合わせられないかな? とも考えてます。
恋愛関係にならずとも、人間を憎む彼が人を許すきっかけをくれるので、
アデル様の幸せを第一に考えると、主人公と知り合う必要があります。
(その為には、せめてアデル様と何処かで知り合って欲しいな)
勿論、頼られたらサポートのお役目は頑張って務めさせていただきます。
役者として、与えられた役を簡単に放棄してはいけませんからね。
(憎しみが続く限り、きっとアデルの根本的な苦しみは癒されないし、
私自身にそれ程選択肢がないと思うし、他に何かいい方法は無いですかね~?
アデル様と主人公をさりげな~く引き合わせる方法は……)
そんな事を思いながら、「アデル様……」とぽつりと呟き、
ユーディの用意してくれたお茶の入ったカップを物憂げに持つ私。
その様子を見て、ユーディとイーアが全く別方向の解釈をしていたとは、露知らず……。
「あの、イーアさん。もしかしてユリアさんは、
ご主人様が居なくて、とてもお寂しいのではないでしょうか?」
「ああ、ありえるわね……ユリアさん、ご主人様が大好きですから。
玄関でじっと立って色々やっていらっしゃるのって、
実は、ご主人様のお帰りを待っていたのをごまかしているんでしょう」
「心細いのでしょうね。頼れる方はご主人様だけだったそうですし、
もっとお屋敷に人が来て、賑やかになれば……ですね」
「そうね。気も紛れると思ったのでしょうね。
私達も、頑張ってユリアさんの恋を応援しましょう。
ただでさえ、世間では許されざる恋だと思うもの。
余りお傍に居られないのは、辛いものよね」
「そ、そうと決まったら、ご主人様に内緒のお手紙です!」
二人がそんな事をこそこそ話していたとは知らず、
私は、さり気なく遭遇させるパターンを考えては、計画通りに行かずにうな垂れ、
気持ちを切り替えてお茶を楽しもうと考えました。
まあ、何とかなる! と前向きにやって行きましょうね。
アデル様が今の暮らしに慣れてきただけでも、前進ですから。
※ ※ ※ ※
しかし、それから一時間後……なぜか大慌てで帰宅してきたアデル様が、
玄関で迎えに来た私の姿を見るや否や、
「今まで寂しい思いをさせてすまなかった! ユリア……。
気付いてやれなかった俺を許してくれ……」
……と、ぎゅっ、ぎゅぎゅ~っと、抱き付かれたのですが、
それがユーディ達のお茶目な悪戯(……なのか?)
なんて露知らず、その時の私は始終首を傾げておりました。
「はい……?」
幾らなんでも、私は小さい子じゃないから、お留守番位出来ますよ!
決して、決して、「保護者が傍に居なくて心細い」わけじゃありませんからね!?
ちょっと二人とも、「お幸せに」って何ですか!? なぜ目が潤んで……?
いえ、何か勘違いを……?
「ユリア、君がそんなに寂しがっていたとは分からなかった。
ここはやはり一緒にいるべきなんだろうな、そうだな? そうだろう?」
「アデル様! ちょ、ちょっと落ち着いて下さい!」
その後、私にこれからは騎士団にも一緒に行こうと言い出すアデル様に、
私は大丈夫ですと必死になって止めました。
それ、職権乱用になりますし、私の仕事が出来ませんから!
……まあ、そんなこんなでお屋敷では色々ありますが、今日も平和です。




