表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/119

45・王子様と密談会議・前編

 


 今日は弟のリイ王子様と連絡の為に、

彼の在籍している大聖堂教会の中で密談をする日です。


 私の正体を知る唯一の人であるリイ王子様は、

この世界に来て初めて、手がかりに近いと思われる人物。



 アデル様以下、保護者の皆様は、私の傍に彼が近寄るのを凄く嫌がっているのですが、

自分の今後の身の振り方を考えるには、どうしても彼の協力が必要です。


(それにもう、リイ王子様には、

 私がユリアの偽者だという事を周りに秘密にして貰っている上、

 『ユリア・ハーシェス』に関する件からは手を引いて貰っているし……)


 それは彼が持つ「魂の目」がある為だ。


 この世の全てを見通す目を持つ彼は、

色々とある制約を除けば、この世界の情報全てを手に入れる事が出来る。

つまり彼が本気で知ろうと思えば、探すのはきっと容易な事なのだろう。


 ただしその代わり、範囲が広ければ広いほどリイ王子様に負担が掛かり、

力を酷使すると体調が悪くなるのだそうだ。何事も良い事だけじゃないですよね。



(神聖能力は、普通の人の体には過ぎた能力という事かな……?

 私の中の鏡も似たような状況なのかもね)



 更に私の方も色々と、「ユリアの素性が判明する事」は後回しにしたいので、

彼と口裏を合わせて、ユリアに関する事は分からない事にしていた。



(ユリアの実家に帰る事になると、みんなともお別れになってしまうし……。

 何も知らないユリアの家族まで騙して一緒には暮らせません。

 絶対に偽者だってバレる気がするし……ご家族の方にも申し訳ないし、

 何より、今後のアデル様の事が気がかりです)


 

 未だに自分は、元の世界に帰る手がかりはつかめていない。

だからこそ、私が知る状態の範囲内で留まっていたいし、

恩人……いえ、恩龍さんと恩狼さんの今後の状況も気になります。

彼らが憎しみに支配されないように、やれるべき対策はやっておきたいんだ。


(彼らが平穏に暮らせる基盤を……今のうちに……)



 それなのに、リイ王子様がユリアの身元判明の協力をしてしまったら、

ユリアに関する問題は、きっと直ぐに解決してしまうだろう。

私の把握している環境から外れ、立場や状況が悪くなる可能性がある。


 だから、出来るだけ自分が対処しやすい事を考えて、

私の事を知る誰かが、リイ王子様に私の事を調べてやって欲しいと頼んでも、

おいそれと使えないという事として、断って貰っていた。


 アデル様は今も私の家族に引き合わせる事を悩みつつも、

私の、ユリア自身の幸せを願い、家族を探してくれている。


 その優しさに罪悪感がするも、真実を話す事はやっぱり出来なかった。

これは私の事情を優先にした結果だ。どうしても譲れない事情。

心の中でアデル様に悪いと思い謝罪するも、口をつぐむしかない。



 ※  ※  ※  ※




「……と、言う訳で、本日はリイ王子様に会いに行きたいのですが……?」


「ガウ!! ガウガウ!!」



 保護者であるリファに何度か頼むも、リファはやっぱり良い顔をしなかった。


 当然ですよね。和解したとはいえ、私は一度リイ王子に命を狙われた身、

そんな男の人の元へ、個人的に会いに行きたいと言うのだから……。

リファが心配するのも無理は無いと思う。



「(アタシの子が悪い男に引っかかっているーっ!?)」


 ……と思ったんじゃないかな。



 何か脅されているんじゃないか、そう思ったりもしているらしく、

スカートのすそくわえて、泣きながら行っちゃ駄目だと訴えています。


「リファ……」


「クウン!! キュウイイイ……」



 リファがこんなに行くのを止めるのは、

私が保護された現場に行こうとした時以来ですよね。

あの保護された場所も、私がまた怖い思いをするのではと、

今でも行くのを許して貰えていないのですよ。


 あそこも、何か手がかりがあるんじゃないかなと思うのですが……。


 黙って屋敷から抜け出そうとすると、リファに捕獲されますし。

出かけるには保護者代わりなリファのお許しが必要です。



(うう……どうしたものか)



 あの一件で、私がリイ王子様に怪我をさせられたのを見たリファは、

リイ王子様を、「我が子に危害を加える天敵」と認識してしまったのだけれど、

お許しを貰えないと、私は屋敷の外へは出かけられない。

だからリファを何度も説得して、味方に付いて貰う事にしました。



「リファ……大丈夫、リイ王子様は私に“誓約”を立ててくれているから、

 私にもう二度と危害を加えないと、その名にかけて誓ってくれている。

 だから心配しないで、ね? もう危険な事はされたりしないよ?」



 この国の王子が自身の名を使い、誓う事は、その命も掛けたという事だ。

だから、危険な目にはもう遭わないんじゃないかと思う。


 生真面目そうな彼が、その誓いをそう簡単に違える事は無いと思うし。

違えると言う事は、自らの首を差し出すのと同じだと、

兄のルディ王子様にも聞いた事があるから。



(……何より、あんなに神様が大好き人間なお方だ。

 神の使いとされるリファが、傍で甲斐甲斐しく私の世話をしているから、

 私への扱いと印象はかなり変わっているもの)


 それに私の持つ鏡の存在もある……そう簡単に傷つけたりはしないはず。



「リイ王子様ね。私の事を神様だと勘違いしているようなの、

 私の傍に白き獣のリファが居るから、リファを使役していると思っているのね。

 本当は全然違って、保護者としてリファは私の傍に居てくれているだけなんだけど……。

 だから、そんな状態だから前みたいな怖い事はされないよ?」



 下手をしたら、私にひれ伏して祈り始めようとするその人が、

あの時のように、敵意むき出しで大鎌をぶっぱなすのは流石に無いと思うんだ。うん。


 それにね? 私とリイ王子様はサポートという共通の役目がある。

だから、協力体制でいた方がこの先良いんじゃないかと思ったのは、ここだけの話。

まあ彼がサポートキャラじゃないかって気づいたのは、その役職からなんだけども。

私はお世話になったことがないからあれだけど、たぶん彼は兄のルディ王子様絡みの役割だろう。



「……グウウウ」


「大事な話は聞かせられないけれど、リファが心配するような事じゃないよ。

 だからね? お願いリファ……私にはリイ王子様の力が必要なの。

 それはきっと、今後アデル様の役にも立つ時が来ると思うから」


「……」



 うな垂れつつも了承してくれたリファに、私は頭をなでてお礼を言う。

私の事を自分の子供として見ているリファには、とても心配なんだろう。


 もしも私が人に殺されるような事があれば、

リファはアデル様と同様に、今度こそ人間を許さないだろう。

だから、出来るだけ危険には首を突っ込まないと私は決めているのだが。

……まあ、望まなくても、突っ込まざるを得ない事態になってしまうようだ。


 なにせ私はサポートキャラ……何かと「誰かを助ける使命」があるのだから。



「何時も、私を心配して守ってくれてありがとうね……リファ。

 でも私も強くならなきゃいけないし、これからの為にも前に進みたいの、

 一緒にリイ王子様の所に行ってくれたら、私も心強いな?」



 必要があるとはいえ、どこにでもいそうな一人の街娘が、

大聖堂に何度も出入りする所を見られるのは不味い。


 ただでさえ、私は神気のある「鏡」の宿主となっている娘だ。

リイ王子様やルディ王子様の話では、本来それだけで教会の保護対象らしいし。


 聖女としてまつり上げられるには十分の状況だとか聞いた。

何しろ「神気ある鏡が宿った器」の娘である。そうそう居る人材じゃない。

教会側に知られれば、目の色を変えてやって来るだろうと。


 だから、見知らぬ人達に良いように扱われても困るので、

私が鏡を持っている事は、みんなの中で秘匿される事になっていた。


 目の前で鏡を使わなければ、魂の目を持つ人でも知る事は出来ないらしく、

ただ会うぐらいでは、気付かれる事は無いだろうと聞いた。

実際にリイ王子様は私に会った当初、鏡の存在を見抜く事が出来なかったと言う。

私が、この世界の人間じゃないという事を見抜けたのに……だ。


 その時の事を思い出し、胸元にそっと触れて見た。



(……実感は全然無いんだけどな。この体にあるのは本当みたいだし、

 この存在が他の人に知られたら、ますますトラブルに巻き込まれるよね)



 下手をしたら、政治の道具に扱われる可能性もあるそうだ。

私の意志など関係なく、無理やりみんなとも引き離されるだろう。

今までよりも、もっともっと怖くて辛い思いをするかもしれない。


(出会った人達は幸い、私に優しい人達ばかりだったけれど、

 怖い人も、私が知らないだけでこの世界にはきっとたくさん居るんだものね……)


 大好きなみんなと引き離されるのは、とても怖かった。


 どうして私が、ううん、ユリアがこんな物を持っていたのかは分からないが、

誰かに悪用されないように、十分気をつけよう。



 そんな私が、わざわざ大聖堂に足を踏み入れるには不味いので、

私は「リビアの指輪」を取り出した。はい、最近はもう本当に大活躍ですね。

リーディナに貰った時は、どうするかなと思った事もありましたが、

こんなにも役立つとは思ってもいませんでしたよ。



「クウン?」


「行こう、リファ」


 体が縮んで、別の姿になっていく感覚は未だに変な感じだ。

真っ白な子猫になった私は、未だに渋い顔をするリファにお願いお願いと頼むと、

リファは仕方なく背に乗せてくれて、教会へ連れて行ってくれる事になった。

周りを威嚇いかくするつもりで、リファは大きな体のままで街を歩き出す。


「グルルル……」


「みい~?」



 私に何かあったら、直ぐに飛び掛る気でいるのだろう。

いやその前に、リファが冒険者の人に襲われないか、

そっちの方が私は心配なのですが?


 私はひやひやしながら背にしがみ付いていた。

にゃんこ用の抱っこ紐を今度作ろう。私とティアル用で。

勢いがあると、落っこちてしまいそうです。



(ん……? でもなんだか怖がられるというよりも、微笑ましく見られて……?

 ああ、子猫の私が居るから、親子連れと勘違いされたのかな?)



 でも、リファが許してくれて良かった。

どうしても今後の為を考えると、リイ王子様との密談は必須だと思ったから。



「みい、みいにゃん(リファ、ありがとうね)」



 実は、この子猫姿になったのには他にも利点があったりする。

教会の教えでは、白い生き物は神の使いとされている為に、

白い動物を協会側で積極的に保護もしているらしい。


 リファも今の私も真っ白な獣の姿、つまり出入りしても怪しまれないのだ。


 更に、来訪する者には名簿に署名する決まりがあるのだが、

動物姿だとそれをしなくていい。つまり「記録対象」からは外れるという事。


(あにまるフリーパスはここでも通用しますね)


 以前、そこまで考えずに人の姿で署名した事があったが、

それはリイ王子様の計らいで、直ぐに他の人の記憶に残る前に処分して貰った。


 確かに、頻繁ひんぱんにリイ王子様に会いに行く若い娘が居たら、

周りに不審がられて、顔を覚えられてしまいますよね。


 アデル様のお屋敷で会う事も考えましたが、勝手に招く訳にもいかないし、

以前の騒動があり、おじサマーズ達の心証もまだ宜しくない上、

アデル様が使用人でもない人間、とくに男の人を入れるのを嫌がると思うし。

だからといって街中で会うと人目に付きやすい、その為、教会で会う事になりました。



(ご主人様が心配しないうちに、早く帰らないと……)



 ちなみに黒をまと蒼黒龍そうこくりゅうのアデル様と、

黒猫のティアルは不吉とされており、本来は協会側に嫌われているそうだ。



(アデル様の仲間が乱獲されたのは、そういう理由もあるのかもしれないな)



 その為か、アデル様は教会には近づかないし、関係者を毛嫌いしている。

ティアルに至っては、白い翼を持っている事で対極の見解もあるらしいが、

安全を考えて、今回ティアルにはお留守番をして貰いました。


(……あんなに可愛いにゃんこが不吉なわけないじゃないか!)


 にゃんこ無罪とは良く言ったものです……え? 言わない?


 でも可愛いから私は許す! 許しますよ!


 だからティアルが、種族の共存を望む兄のルディ王子様に保護されたのは、

凄い幸運だったんじゃないかなと思います。この国での安全を保障されたんですから。

前々から思っていたけど、あの子、たぶん幸運体質なんじゃないかな?

ティアルの周りは何時も平和なんだもの。



(意外や意外、弟のリイ王子様はそんな中、実に達観した意見をお持ちですよね)



 そう、気になったのは、ルディ王子様の弟であるリイ王子様の反応だ。

彼は王位継承権第2位となる王族であり、特殊能力の持ち主だから、

その考えいかんによっては、かなりの影響力があると思われる。


 神様大好きな性格だから、ティアルとかアデル様とか、

内心は駆除対象なんじゃないかと思いきや、監視者という裏の顔がある彼は、


『神が生み出した世界に存在するからには、等しく意味と役割がある』


 ……と考えており、別に嫌ってはいないようなんですね。

だから、この世界に存在する魔族や魔王も、世界を作る上では必要との事。


 まあ、よく考えて見れば、彼があがめている神様は黒髪の日本人ですし、

その神様が趣味丸出しで作ったとされる大和やまと国の人も、

黒髪と黒い瞳ですから、ただ黒い色を持っていただけで、

排除しようという考えは流石に無いようです。


 勿論、ローザンレイツの第二王子として、

魔物や魔王は、民を守る上でも倒さなければいけないらしいけれど、

リイ王子様は、彼らにも何か役割があるのではと考えているようで……。


 ……鋭いですよね。魔物達は悪役担当だから、

ある意味、ゲームプレイ上では必要悪です。

そうしないと、冒険も何も物語が始まりませんからね~。



(でも、他の教会関係者の人も、リイ王子様と一緒とは限らないから、

 私が結理亜ゆりあの姿のままでここへ来なくて良かったのかも……)



 向かうは、街外れの白い石造りの大聖堂……です。

どう見ても私には、お城にしか見えない造りなんですが……これは。


 教会と言うよりも……城、もしくは神殿ではないのか。


 質素にはとても見えない精巧な彫刻の施された建物に、

光が差し込むステンドグラス。聖人や聖女や歴代勇者とかの像がずらーっと並んでいる。

高いところには大きな金色の鐘が付いており、壁も屋根もひたすら白い。


 建物の中は、宙に沢山のランプらしき照明器具が、

ゆらゆらと浮んで明かりを灯していて、

厳粛げんしゅくという雰囲気と言うよりは、幻想的な空間になっていた。


(きれいな所だな……)



 何処からかオルガンに似た音楽も聞こえてくる。

耳をぴくぴくとさせて、私はきょろきょろと辺りを見回した。

大聖堂の中はとても広く、ホールは吹き抜けとなっており、沢山の部屋に分かれていた。


 まるで美術館や博物館の中に居るような感じもする。


 周りに人は居るのに……とても静かなんだ。



「みい……(わあ……)」


 ちょっとつぶやいた声も辺りに響く、それなのに街中のような喧騒は一切無い。

何かの像に一心に祈りを捧げる男の人達がいたり、

白い馬や犬や猫や鳥やウサギ、羊や蛙や蛇なんかもいる。


(みんな……仲がいいのかな? 喧嘩けんかする様子も無いし)



 他にも、この世界でしか見られないような、珍しい姿をした動物達等、

傍で甲斐甲斐しく世話をしている人達が居た。



(白い生き物は私の世界で言えば、自然界で生き辛いものですが……。

 こちらは神の使いとして保護されるので、扱いも良いのですね)



 私はリファと一緒に、難なく侵入成功です。のっしのっしと進んで行きます。


 行きかう人に見つかったらどうなるだろうと、少し思っていたんだけど、

私達の存在に気付いた人達は、歩みや会話を止めて次々に私達に一礼してくる。

多分それは、リファが天白狼てんはくろうという、

天界の門番と言われている種族のせいもあると思う。


 白い生き物の中でも、リファは特に珍しい種族。

白い龍と同等に高貴な存在なんだとか。


(実はリファもこちらで保護するという話があったそうですが……。

 リファはアデル様だから付いて来たそうなので、他へ行くのを嫌がったんですよね)


 その為、リファだけはアデル様が面倒を見ている状態です。

ルディ王子様の権限も使い、騎士団長に仕えている子という事で、

色々な面で免除されているのだとか。



(ん……それにしても……)



 気のせいじゃない……よね?

周りがリイ王子のような、キラキラした目でリファを見ているんだ。

……やっぱり君は凄い子だったんだね。リファ。

いえ、これまでも十分凄い事を沢山していたけれど、

リイ王子様のあの反応は、教会関係者の人には至極当然の事だったようです。



 そんな人達にリファは「こっちを見るな」と、

にらみながら歩いているのですが……。



「(皆さん、今ママンは子供を奪われまいと気が立っておりますから、

 私に近づかないようにお願いしますね~? 聞こえないだろうけど~?)」



 なんて、みいみいと猫語で話しかけてみました。


 するとどうでしょう、おおおっ!と、一斉に歓声が上がります。

ありがたくも神の使いにお声を掛けてもらったと、そう勘違いされたようですね。

……白にゃんこの効果って凄いな……偽者でごめんよ。



「(さて、肝心のリイ王子様は何処かな~? 

 そうだ、私のことは『魂の目』で分かるだろうから、やってみよう)」



 王子様をこちらから呼び出すのは、本来は大変失礼な行為なのですが、

思ったよりも広すぎて迷子になってもあれですし、

大きなリファの姿では人の目に止まり易いので、うろうろしていたら保護されそう。

なので大変申し訳ないのですが、ここはリイ王子様に頼りましょう。


 リファの背の上で両手、もとい前足を合わせて、にゃむにゃむとお祈り。


(リイ王子様、ユリアです。お迎え宜しくお願いします~っ!)




※ ※ ※ ※



 リイ王子様に内緒の念を送った直後、

静かなはずの教会の何処からか、ドタドタドタと音を立ててこちらへ駆けて来るお方が……。

そう、駆けつけて来たのは、リイ王子様……こと、リハエル王子様でした。


「!?」


「みい」


 私達を迎えに来たリイ王子様の目は、

リファに乗る白猫姿の私を見るなり、キラキラと輝いていた。

おおう、無駄にイケメンオーラ発しなくてもいいですから!

そういうのは、うら若き令嬢達にやって下さいまし。きっと喜ぶから!!


 ……あ、ルディ王子様が居るから、効果が無いかも。むしろ見慣れてる?


(似た顔だしねえ……)


 真っ白なリファが居た事もそうだけれど、

神様と同じ所に住んでいた私が、白い獣の姿で現れた事で、

リイ王子様は膝を突いて、十字を切った挙句、私を見て祈り始めました。


 何という事でしょう。彼にはそれ程に衝撃的だったようです。

……って、待って待って!? 私にお祈りしても何も出て来ないから!!

今日はポケット付いた服を着ていないから、あめもさしあげられないですよ?!



「流石はユリア様ですね。まさか、白い獣の姿にまでお姿を変えられるとは……っ!!

 いえ、実は普段が世を忍ぶ仮の姿で、このお姿が真のお姿なのですか!? 

 そのご尊顔、なんと神々しい……生きていて良かった」


「みにゃ! みにゃにゃにゃ!!(リイ王子様! 敬語敬語!)」



 気が緩むと、私に敬語を話しだすリイ王子様に、私は慌てて止めさせる。


 誰が聞いているか分からないのだから、警戒しないといけない。

子猫相手に敬語を話して拝んでいる王子様ってどうなのよ? と思います。

周りが見たら怪しいと思われてしまうんじゃないだろうか?

いえ、私の関係者には既に怪しい人で認識されていますけどね?


 あ、でも先程の教会関係者も似たような反応だったから、

変には思わない……かもしれないけれど、不安なので止めておきます。


 リイ王子様は私の味方でいてくれるから良いけれど、

教会関係者の中には、政治にも影響を及ぼすであろう人物も多いらしい。

だから、今にでもひれ伏そうとする気満々の王子様に、

私は猫語で必死に彼の暴走を止めていた。


 白い猫であるのは本当に偶然なのです。

これはかくかくしかじか、リーディナが作ってくれた魔道具の材料として、

街中の野良猫ちゃんに、協力を頂いた為なのですと説明しました。


 ええ、勿論、人の言葉は話せないので猫語で、

魂の目を持つ彼は、私が放つ言葉も魂の状態で処理されているようです。

つまり、私の言葉はリイ王子様には魂レベルで直接語りかけている状態。

その為、この格好でも会話出来ると思い、お邪魔したわけですが……



「なんと!? では、その提供者である子猫はまだ街中に野ざらしのまま!?

 それは大変だ!! す、直ぐに教会の者を総動員して保護をしなくては……っ!?」


 いえ、それは後でお願いします。リイ王子様。

とりあえずは、私の用件を先にして頂けませんかね~?



「みい(リファ)」


「ガウ!」



 私の合図で、リファがこの場を去ろうとするリイ王子様の背中に突進した。

……なんか喜んでいるけど、まあいいや。暴走しないうちに済ませよう。


「(話し合い、お願いします)」


「は、はい……」



 他の人に怪しまれずに用件を済ませるには、

リイ王子様の能力で時間を止める必要がある。


 あの空間で過ごせるのは、私とリイ王子様だけだし、

他の人に聞かれる危険性がないから。


 その為に、私はリファにぎゅっと抱きついて、これから時間を止める事、

どうしてもリファにも話せない事情がある事を告げて、

ごめんね、でも心配しないでね? とすりすりした。



「クウン……」


「大丈夫です。リファ様、彼女に私が手を上げる事はもういたしませんから。

 私の名と命に掛けて誓いましょう」


「ガウ! ガウガウ!!」



 てしてしと床を前足で叩いて、リファは何やら訴えてます。

うちの子に何かしたら許さない……とかでしょうか?



「はい、無事にお返しいたします。では、こちらへ……私の執務部屋に案内します」



 ……魂の目を持っていると、リファともお話できるらしい。

私は子猫になっても、リファとお話が出来ないのになあと思いつつ、

王子様の能力をうらやましく思っていた。


 リファの方は、まだリイ王子様と打ち解けられないようだ。

アデル様もそうだけれど、お菓子懐柔作戦は未だに成功していないようですね。

お茶と焼き菓子を出されたけれど、リファは一口も口に入れようとせず、

私も食べるのを阻止された。


 大事なことだから聞いてほしい、目の前にあの「高級菓子」があるのにだ!


「みいい~……」


 以前、ルディ王子様の前に出されたケーキなども並べられていたのに、

またも私は「おあずけ」をされていたのでした。むむっ、無念!


 そんなリファは、腕の中に私を包みこむようにして、私の傍に居ようとする。



「グルルル……」


 牙をきだしにして、リイ王子に威嚇いかくしているリファに、

私は安心させるように大丈夫だよと前足でなでる。


「みいみい」



 元々人間嫌いだったリファは、リイ王子様を信用するのにまだまだ時間が掛かるようだ。

私があんな事になったから、警戒しても仕方ないことなんだけれど。

私はリファに、もう一度ぎゅっと抱きついてみせた。



「では……始めようか」


 リファが、ぎっとリイ王子様をにらんだままの状態で、

空間がぱっとワントーン暗くなっていく……私とリイ王子様だけを残して。


 ふっと、その瞬間に少しだけ体が重くなった気がした。

この部屋だけが、空間を切り取られたように別次元へと変わる。


 詠唱無く、指をパチンと鳴らしただけで彼の時間を止める力は働いた。

私はもそもそとリファの腕の中から抜け出て、リイ王子様の足元へ近づく。


「みい」


 すると、リイ王子様は「失礼する」と私に断りを入れてから、

私を抱き上げると、テーブルの上へと乗せてくれた。



「……これでいい。さて、その後、鏡の影響はないだろうか?」


「(はい、今のところは大丈夫です)」


「そうか……その鏡に付いて少し心当たりがあり、私の方で事前に調べて見たんだが……。

 許可を貰う前に、勝手にこちらで調べた事をどうか許して欲しい」


「(いえ、助かります)」



 私の体に宿る鏡の存在を知ったリイ王子様は、

その後、教会と城に残る文献などを読みあさって、その正体を調べていた。

私事で不用意に神の目を広範囲で使う事は禁じられていた為、

彼がその真実を突き止めるのには、かなりの労力と時間を要したという。


 彼が用意した本を開くと、其処にはこちらでは見慣れぬ文字が並んでいた。

このローザンレイツで使われている字とは違うつづり……。

というか、これ、どう見ても英語……だよね?

そしてその横には日本語で書かれている文章があった。



(……どういう事?)



 私には少し見慣れた文字の羅列を見て首を傾げた私に、


「これは使い古された古代文字で書かれた物だ」


 ……と説明をしてくれる。


 今は忘れ去られた神々の残した言葉だそうで、

教会内部でもごく限られた者にしか、この文字を解読できる者は居ないらしい。


 確かにこれ、私の世界にある言葉であるから、神の言葉とやらで間違いは無いけれど……。



(……ええ、神様大好きっ子のリイ王子様が、目を輝かせて習得したであろう事は、

 私が聞かなくても分かる事だと思います)


 よって、あえて聞きませんとも。


 一応私も少し分かりますよと言ったら、リイ王子様はとても喜んでいた。

私の世界の話を聞けるのは、彼にとって凄く嬉しい事柄らしい。



 日本語は元々私の出身の言語だし、英語は少しだけ……。

ほら、学校で習ったり、吹き替えの仕事でも必要な知識とされるから、

役者だった私からしたら馴染みはある。


 日本語訳にしたのを声当てするに当たり、

台本は日本語だけでしか書かれていないので、

ある程度、英語で今何を言っているか分からないと仕事になりませんものね。

勿論、凄く得意と言うわけではありませんが……辞書も無いですし。


 だから、多少と言う程度ですね。



「これによると、この世界を作った創生の神々とは別に、

 全ての祖を作り出した原初の神が存在し、その神が三種の神器と言う、

 神の力を宿した聖なる器を作ったらしい」



 三種の神器……? ですか? 

何だかうちの世界の神話の話みたいだなと思ったら、

なんとどんぴしゃでした。でも、形状と名称は日本の物とは違うので、

私の世界の物がモデルになったのかな? とも思ったり。



「三種の神器は剣、玉、鏡とあり、

『剣』は、原初の神の血肉を分け与えられた子孫が、

 代々瞳に封印を解く鍵を所有し剣を管理し、

『玉』は、かつて天界に居た水の精霊であった者が、

 海の王となる時に与えられ、血の中に封印しているそうだ」



 これが生まれた理由は、原初の神の自我が芽生えた時に起こる自身の暴走を考え、

自らが生み出した子供達の行く末を思い、作ったとの事、

万一自分が過ちを侵す事あれば、その神器で自分を止める術をと与えたそうだ。


 神器はそれ一つで強大な力を秘めており、

それを生み出した原初の神をも傷つけられる程の威力を有するという。

つまり、神に匹敵する力を宿す神器だそうだ。


 だからこそ、普段は悪用される事が無いように、

種族も住む世界もそれぞれ異なる者を、神器の守護役として選び管理させ、

三つの神器がそろう事を禁じている……との事。



(えっと、待ってそれじゃあ……)



 ……なんだろう、この話の流れ……嫌な予感しかしないんですが……?



「それで最後の神器である『鏡』なんだが……。

 他の神器と違い、神器自身が意思を持ち、持ち主を選ぶそうだ。

 持ち主を替え、姿を変えて転々と人の手に渡るという……。

 ……確認して欲しい。これは君の持つ鏡では無いか?」


「!?」



 めくられた次のページには、その鏡が詳しく書かれた記述と共に、

その鏡の特徴となる絵が描かれていた。


「鏡はさまざまな姿へと変えるというが、これがその原型、つまり本来の姿らしい」



 それは……私の中に存在している鏡とそっくりの形状をしており、

あの鏡が、この三種の神器の一つである事が其処には記されていた。



 ――どうして……それが私の、ううん「ユリア」の体の中にあるの……?



 あの時、私の体から出て来た片羽の蝶の飾りが付いた鏡……。

その鏡に、ユリアは守護役として選ばれていたという事を知る。



「鏡の神器は、神鏡、ハーシェスと書かれている」


「ハーシェス……え?」



 それは――。



(ユリアの……家名……っ!?)



 私の知らない、ユリア・ハーシェスに関する手がかりでもあった――。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=613025749&s

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ