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44・侵略! まかない革命


 こちらの世界に私が来てから、早数ヶ月……帰還の目途は未だ無し。


 ちまたでは最近、大型の魔物が増えて来たとか、

やたら不穏な噂が流れている中、

お屋敷の中は平和、とことん平和で過ごしていて、

外での喧騒けんそうが嘘のようです。


 私は今日もせっせとお屋敷の中でメイド修行をしつつ、

並々ならぬ執念の元で、取り組んでいるものがありました。



「脱! マンネリ料理!」



 演技の練習やナイフ投げも大切ですが、

同等に妥協したくないもの、それは日々の料理。

そんな訳でコックのおじ様に毎回拝んで、厨房を貸して貰っておりました。


(厨房への侵略も、着々と進行しておりますよ~ふふふ)



 毎日、厨房で野菜の皮むきと掃除を手伝った甲斐がありますね。

食器洗いや野菜の下ごしらえも率先して引き受けていたおかげかな。

手が荒れたり、水が冷たかったりするのは大変だけれど、

リーディナから貰ったクリームで、手を保護して今日もせっせと続けている。


 人が嫌がる事を進んでやる人は、誰かがきっと見ているものだ。

そういう所から人脈が生まれる事もある……先輩のありがたいお言葉です。



(ですが、ここでの生活がこうも続くと、恋しくなるものがありますね)



 慣れ親しんだ家庭料理やら、ジャンクフードやらと離れ、

健康的に筋肉痛になる位の仕事量を、せっせと真面目に取り組んで、

朝早く起きて、暗くなったら早めに寝る……という、

とっても健康な生活を送っておりました。


(うん、そこまではいい。充分恵まれている状況だし、妥協も必要だし)


 住む所と食べ物、仕事に恵まれているのは大変ありがたいのですが、

けれど、やはり食べ物が違い過ぎると恋しくなるのは当然のことかと。

やはり、食事が物足りないのは辛いのです。

要するに、こちらの世界は料理のレパートリーが極端に少ないのですね。


 だったら、試しに口に合いそうなのを作ってみればいいんじゃない? と、

こちらの材料で、私の世界の料理の再現の研究をする事にしました。

そして出来れば私の好みを、お屋敷の方達にも慣れて頂こうと……。


 つまり、「胃袋をつかんで、まかない革命」を目論んでおりました。



(ふふふ~皆さん、私の食文化に染まって下さいな~)



 ぐるぐると鍋を煮詰めている間の時間が勿体無いので、

じゅげむじゅげむと滑舌かつぜつの練習をしてみる。

すると、あーら不思議! 怪しい事をたくらんでいるメイドその1の出来上がりです。


(……いや、たくらんでどうするよ自分)


 ホワイトノーマルな、可愛いメイドさんを目指しているつもりなのですが、

私が素を出すと、怪しさ100パーセントな状態になるのはなぜでしょうか?

通報されないうちに自粛じしゅくしましょう、うん。



「今日も楽しそうですね。ユリアさん」


「そうですね~イーアさん」



 お皿を布巾で拭きながら、イーアとユーディが生温かく見守ってくれて……。


 二人から見ると、私もお花畑の人らしいです。

おおう、ルディ王子様と私は同類だったのですか、知らなかったよ。

これからは、ルディ王子様を同士と見込んで接するべきか、自分。



 さてさて、やはり健康な体と精神を養うには、

まず、基盤となる食事だと思うんだ。


 特に慣れ親しんだ故郷の料理は大事ですよね。どうしても恋しくなります。

だから……食べる楽しみを、もっともっと増やしてみようと思いました。

まかないの定番レシピにしてしまえば、わざわざ別々に作る必要も無くなりますし。


 ええ、食い意地こそが私の原動力です。妥協しちゃ駄目だやっぱり。


(目指せ料理スキルEX! 私の世界のレシピで他を圧倒させるのです!)


 自分のステータスなんて、全く持って分からないけれど、

きっと成長していると思って、突き進むのみです!


 脱、マンネリまかない料理! まかない革命を勃発ぼっぱつします。


 指揮官はこの私、美味しいものがもっと食べ隊、会員1号であり会長の、

ユリア(代理)がお送りします。ちなみに会員は絶賛募集中です!



(まかないが美味しくなれば、従業員獲得の判断材料になると思いますし!)



 美味しい物と言えば、そう、女子力ダントツの料理上手なローディナですね。


 彼女は先日、街の料理コンテストに参加して優勝しました。

既存のレシピでも創作料理でもお手の物ですよ。

流石はお嫁さんにしたい女の子ナンバー1という、素敵無敵メインヒロインです。

騎士団のお兄様方が、直ぐにファンになるのも分かる気がします。


(お陰で、ますますファンを増やしました。凄いですね~)


 絶対地位に居るメインヒロインは、ステータスも半端なく高いのでしょうね。


 他の追随を、笑顔で撃沈させられるのは彼女だけだろうな。

しかも、それをおくびにも出さないと言う性格の良さ。

人当たりの良さからも見て、全てにおいて完璧です!


 これはもう、心強い相談相手なんじゃないでしょうか?


 という訳で、ローディナにも色々と相談して、

彼女みたいに料理上手になりたいと言ってみましたら……。



『まあ、ユリアは、アデルバード様の為に料理の勉強をしたいのね?

 うんうん、そうよね。花嫁修業は早めにした方がいいと思うもの。

 何か困った事があったら相談してね? 私、喜んで協力するわ。

 ふふっ、そうなの……ユリアも……』



 そう言われて、ローディナに満面の笑顔で頭をなでられたんですが。


 はて? ……私、何か盛大な勘違いをされたような気もしますが、

ローディナは、ふふふっと、嬉しそうにあさっての方向を見て笑っております。

彼女の中で、何かとても嬉しい事があったのかな。


 ま、まあ、アドバイスをしてくれるのはありがたいですね。

……アデル様の為と言うのも、一概には間違いでもないわけだし。



(アデル様に食べさせてあげたいというのはあるけど、

 うん、ローディナには黙っていよう。

 食い意地の為に全力で突っ走っているなんて、とても言えないわ。

 後ろめたくてとても言えるわけありません)



 気付けばヒロイン路線から……かなりかけ離れて行っている気がするし……。


(だってメイドって他にすることないもんね。情報収集も停滞気味だし)


 料理修行の前に、ヒロイン修業をした方がいいのかな。

いえ、だからと言って、何か特別な事は出来ませんけども。

とりあえず。ローディナの真似をして、ふふっと笑ってみました。



 話を戻して、コックのおじ様も私の研究にお付き合いして貰いました。

この世界の食材については知らないものが多いですから。

でも苦労していた娘という解釈をされていた為に、とても同情的に思われており、

私の行動は全て、ここへ置いて貰う為に必死に役に立とうとしていると。

そう思われたらしいんですよね。


「ユリアちゃん、そう無理に気を使わなくてもいいんだよ?

 アデルバード様が君を追い出すなんて事はしないと思うから。

 もしそうなら、俺達が全員で抗議するからな」



 他のおじサマーズとは違い、少し無口なコックのおじ様は、

目をうるませて私に料理を教えて下さいます。


 ……一体おじ様達の脳内で、私は今現在どんな扱いを受けているのか、

非常に気になる所なのですが、私の話を聞かないという事は既に分かっているので、

早々に諦めましたよ。


 未だに私の素性を明らかにしてない為に、

上手く説明できるわけでもないので……。



(でもどうしよう……このまま行くと私は、売り飛ばされる予定の娘Aから、

 かなりぶっ飛んだ方向に解釈が進む気がする……)



 現在、私についての話は、私が何処かの高貴な家柄の私生児で、

遺産が私の元へ行く事になり、憤慨ふんがいした親戚達に命を狙われていて、

それに気付いた私が引き取られていた屋敷を出て、

追っ手から逃げていた所を保護された。


 そんな話が展開されておりました……うん、多分それも違うと思います。


 さて、肝心のまかない料理なんですが……。


 最初は手近な和食料理に次々と挑戦した後、ジャンクフードを今度は恋しがって、

芋料理と言うものを色々やってみました。


 ここへ来るまで、私がこんなにも芋料理に飢えていたとは思いもしませんでしたよ。

でも久しぶりに食べる、ポテトチップも、フライドポテトも美味しかったし、

少しずつ、こちらで同じ料理が食べられるのが増えるのは、とても嬉しいですね。



(いや……料理と言うほどのものでもないけど)



 ……で、レパートリーを増やしていくには欠かせない事がある。

そう、ここの食材でのタレやドレッシングなどの配合の研究です。

再現料理にはどうしても必要になりますね。


 でもこれがね。本当に大変な作業でした。


 素人しろうとが市販された物をいきなり再現して作れたら、

苦労しないですよね。ええ。



「……なぜだろう? 中濃ソースを目指して作ったつもりが、

 気付けばトマトケチャップになっていた件」



 ハートの形をしたトマト、こちらの世界では【ハトマ】と言うんだそう。

味はまんまトマト。それも私の世界で食べるトマトよりも糖分が多くて甘い。

安かったので沢山市場で買い込んで、特性のソースの研究をしてみました。



 ……が、無謀な挑戦である事には変わりありません。

ええ、流石に料理経験が多少なりともあっても、

さすがに調味料なんて、作った事無い人がほとんどだと思うのよ。


 一応、ご家庭でも作る方法があったはずだったが……思い出せない。

いえ勿論、実際に作るのはこれが初めての試みだったけれども。

やはり、うろ覚えで物を再現するのには色々と無理があるのだろうか?


 湯銭で皮をいたトマトと玉ねぎをすり潰して……

と言うか、袋に刻んだ野菜を入れて、上から麺棒でアバウトに潰して、

煮詰めた所位までは合っているはずだ。


(もっと繊細さが必要だったとか?)


 アバウトによるアバウトすぎまくる挑戦で、

勢いありまくって作ってみた所、トマトケチャップもどきになっていた。

私が求めているのは、あの香ばしい香りのソースだ。

お好み焼きもどきを再現するには、あのソースは欠かせないのに。



(うう……ちゃんとしたお好み焼きが食べたいなあ。

 たこ焼きとか、焼きそばとか……もどきでいいから、近いのを!)



 市販された味とそっくりでなくても、近い感じのを作りたいのだが、

一体何が足りないのだろう? 試しにフライパンで作って試食しているが、

私の求める味とは微妙に……いや、かなり違う気がした。



「んむ~……不思議なお味になってしまいました。

 お醤油もどきとハチミツを入れたらいいのかなあ? あとスパイス?

 スパイスって何入れれば……お好み焼き用のソースにするのなら、もっと甘く……」



 トマトケチャップとソース……使われる材料は確か似ていた。

と言う事は配合の点で微妙に違うのだろう。

それとも、こちらの野菜では味が変わってくるのだろうか?


 最近、私の分のお昼ごはんは試作品になっている。

そして、作った以上は責任持って食べる。

……ただし、丸焦げになったりしたものは省きます。



「まあ、これはこれでいいかも……これでオムレツソースにしてもいいよね。

 チーズは作れるから、かまどでピザも作れるといいなあ」



 マヨネーズもちゃんとしたのを作れるようになりたい。

その為には私の世界にあるような、

泡だて器をどうにか入手しなければいけない訳で……。


(こちらの世界にある泡だて器って、

 木の棒の先に、松ぼっくりみたいな形状のしか無いんだよね)


 どう見てもあれは、ハチミツをかき混ぜる時に使う棒にしか見えない。


(まあ、こちらでは卵を泡立てる料理が無かったからなあ……無くて当然かも。

 ケーキとかも材料をそのまま混ぜるものばかりだし)



 ローディナか彼女の知り合いの人に特注で作って貰うか、

アカデミーで調合をする道具で似た形状の物を見かけたから、

リーディナに入手ルートを聞けないかなとも思った。


 そうすれば料理の幅はもっともっと広がるんじゃないだろうか。

ケチャップとマヨネーズが出来るなら、オーロラソースも作れるよね。

ベーグルを焼いてエビマヨサンドも作れますし、

鶏肉にスパイスを使った、ケバブサンドも作れると思います。


 そして、こちらのレシピと組み合わせて新しい料理を開発するという手も!


(考えると食べたくなってくるなあ、みんなが便利な魔法を使える分、

 私はせめて家事スキル、料理の腕を上げてカバーしないと!

 美味しいものを沢山作れれば、みんなも喜んでくれますよね)



 ええ、例え一度や二度や何十回もの失敗もくじけずにやりますよ!


 失敗作はお昼ご飯にして、次回リベンジしよう。

目指せ伝説の料理人! ……は、きっと無謀すぎまくるので、

料理上手なヒロインその2か、その3ぐらいを目指します。

目標はローディナですね。



「メイドを極めるには奥が深いなあ……実践してみて思い知りました」


 家庭的なヒロインユリアへの道のりは、果てしなく厳しそうです……。



 お庭の東屋に出て、リファとティアルと私で仲良くランチタイム。

リファ達は、ケチャップを付けずにそのままで食べています。


「みい」


「クウン~……」


 もごもご、もきゅもきゅ……夢中で食べている時は本当に幸せそう。

美味しそうに食べてくれるのは心が和みます。

尻尾をフリフリしている姿が可愛いんだ。

この子達は、こういうシンプルな味の方が好きな事が多いですね。


 生地には豆の粉が混ぜられているのですが、

私の方は、それにエビの乾物を製粉機で粉にしたものも混ぜてあります。

これも、まだまだ改善の余地がありそうですね。


 ホントはね。研究段階だから私の分だけの予定だったんですが……。



『みい、ティアルモ、ティアルモ、チョウダイ~』


『クウン、キュウイイ……』



 傍で見ていたら、こちらのまかないの方を食べたくなったようです。


 うるうる、うるりんと足元で訴える二匹のアニマル達……。

リファ、私がちびっ子に弱いと分かってわざと今小さくなりましたね?

上目遣いの威力は、半端無かったです。



「うう……何て可愛いんでしょう!」



 そんなっ! そんな目で訴えられたら、私は駄目って言えません!!

こんなもので良かったら、幾らでも分けてあげるよ!!


 そう思って、ティアル達の分まで焼いてあげた所……。



「うわああっ?」


「みにゃああ~ワーイ!」


「クウン!!」



 思いっきり飛び掛られました……お腹空いていたんですね。

危うく、私の分のお皿がひっくり返る所でした。



「リファ達には、こういうのが合うのかな?

 それにしても、凄い勢いで食べて行くんですけど……」



 そんなこんなで作り上げた。試作、お好み焼き第一号。


 ローザンレイツは海ともつながっているので、海産物の入手もしやすい。

 の為、似たような食材でだしを取ったり、粉に混ぜたりと出来たのだが、

ケチャップ(らしき何か)を付けると、

イタリアン風お好み焼きもどきになっていた。


 美味くできたら、アデル様のお昼のメニューにどうかなと思っていたんですが。


(道のりは遠そうだなあ……)


 ほら、野菜も一緒に食べられるから栄養のバランス的にもいいので。

お肉ばかり食べたがる、ご主人様の食事改善も出来れば、

いい事ばかりだと思うんですよ。



「――ユリア? 其処で何をしている?」


「ふ?」



 もぐもぐと咀嚼そしゃくしながら、声のする方を振り返ると、

現在、騎士団で働いているはずのアデル様が庭先へとやって来ていた。

……思わず固まる私。なぜここにアデル様が?


 何か急用だろうか? 慌てて立ち上がり会釈をする。



(……はっ!? アデル様がここに居るという事は、

 メイドでお出迎え隊フォーメーションが出来なかった!!)



 メイドと言えばお出迎えという、定番の姿をお披露目出来ないのは申し訳ない。

アデル様が期待して帰って来たのに、玄関には誰も居なかったという状況……。

脳内で龍のお兄さんが、玄関でぽつんと立ち、

みんなが居ない事でしょんぼりしている姿が思い浮んだ。



(なんて事でしょう! これは今すぐにでもユーディ達を呼ぶべきでしょうか?!)



 時間差攻撃で「おかえりなさいませご主人様」は効果があるでしょうか?

慌てて、ご主人様をお出迎えする事が出来なかった事を急いでびる。


 メイドの最大重要任務が出来なかったとは! くっ……不覚です!

ご要望でしたら、今からちょっくら呼んで来てですね、

お出迎えフォーメーションをやらせて頂きますよ?


 そう思って二人を呼びに行こうとしたら、彼に制止されました。



「いや、今日は急遽早上がりだったから問題ない。

 ここで昼食か? 他の者はどうした?」


「あ……はい、他の皆様は、使用人用のホールで昼食を取っております。

 あの、直ぐにアデル様の分の昼食の準備を致しますね。

 少々お待ち頂けますでしょうか?」



 彼がお昼に帰ってきたと言う事は、

アデル様もきっとお腹を空かせて帰って来たのでしょう。

だからと言って、彼にまかない用の料理を提供する事は出来ないから、

新しく何か用意しないといけない。


晩餐ばんさん用に用意していたパンの生地があるから、それを焼いて、

 チーズオムレツと焼いたベーコン、蒸かし野菜を添えれば……)


 そんな事を考えて、厨房へと戻ろうとした私のほほを、

アデル様の指がそっとなでる。



「え?」


「何か付いているぞ? ユリア」



 食事の時に使ったケチャップが口の横に付いていたらしい。

アデル様は指に付いたものをぺろりとめてしまった。

一瞬止まる思考、固まる私……そして……。



(――な、められた……)



 その瞬間、私の顔はぼっと赤くなる。

時々彼はこんな事を平気でやるから、私は何時も翻弄ほんろうされてしまうよ。

いえアニマル的に考えたら、何てこと無いやり取りなんでしょう。

リファやティアルだって、私の顔をぺろぺろめて来ますし……。


 そうだ。普通だ。これは普通の事なんだよ!! 動物的な行動からしたらね!


 だから落ち着こう私、吸って吸って吐いて~。

……あれ? なんか違う気がする。



(そ、そうだ。あ、後で……女の子の、

 いえ、人のお顔をめては駄目だとよく教えないと!!

 こんな事しているのを他の人に知られたら、また要注意人物になります!!)



 いや、今言うべきかと思い、話そうとするも動揺して口がぱくぱく動くだけ。

こういう事は、私にはまだまだ刺激が強すぎるんだ。

顔をぺちぺちして気合を入れてみる。


 め取ったアデル様の方は、私の羞恥もなんのその、

「ふむ、変わった味だな」とつぶやき首を傾げると、

今も尚、夢中で頬張っているリファとティアルの食べているものに、目が行っていた。


 じ~……っと、静かに見つめるその視線は、何か訴えているように見えた。

その視線に、リファとティアルの二匹が気が付き、一旦食べるのを止める。



「みい、アデル、オカエリ~」


「クウン、キュウキュウ」


「ああ、今帰った」



 その後、直ぐに二匹は食事を再開。

もきゅもきゅ、もぐもぐ、ティアルは体が小さいのに良く食べるなあ……。


 リファは、ティアルがこぼしたのを口元に持って行ってあげ、

甲斐甲斐しく世話をしながら、自分の分を食べていた。

尻尾をふりふり、前足で器用に押さえて咀嚼そしゃくを繰り返している。


 中央に置かれた木のお皿には動物達用のお好み焼きと、

私用に用意したお好み焼きがまだまだ残っていた。

思ったよりも材料が余ってしまったので、全部焼いてみたのである。



「……ユリア、俺も一緒に貰ってもいいか? 美味そうだ」


「は……? あのでも……」



 私が了承する前に、アデル様は開いた席に座り、

びんめられたケチャップを、さじですくうと、

お好み焼きに塗って、指で少しずつちぎって食べ始めた。


 よっぽどお腹が空いていたのか、もりもりと食べて行く。


 あの、あの、アデル様。そんな物よりも、もっと良い物を作りますよ?

もう冷め始めていると思うし、温かいお食事をご用意いたしますよ?

そう言おうとしたのですが、アデル様はもくもくと食べていました。



「アデル様……?」


「ん……変わった味だが、これも食べやすくていいな……。

 ユリアは本当に面白い料理を思いつく。

 俺が君の真似事をした時は、それは酷いものが出来たが」


「そう……ですか?」



 どうやら龍のお兄さんのお口に合ったようです。

アデル様、あなたはなんて良い人、いえ、良い龍なのでしょう。

きっと恋人とか出来たら、失敗した料理でも喜んで食べようとしてくれるのかな。

流石はヒーローです。心がとても広いのですね。


 ……でも、無理して食べないのも、選択肢の一つだと教えておくべきかも。

以前、私に作ろうとしてくれたプリン事件は、お屋敷中の噂となりましたし。


 皆さんに当時の事を聞くと、そろって顔を背けて、

『あれはとても凄かった』と集約されて、以後全く教えてくれなかったので、

壮絶な何かがあった模様……。き、気になります。


(……えと、でもそれ、もしかしたら私が食べさせられていたかもしれないんですよね?)


 眠っているうちに、全てが解決していて良かったと思いました。

おじサマーズには本当に感謝です。


 アデル様の料理の件は、お気持ちだけありがたく頂いておきました。



 そうそう、話を戻してアデル様ですね。



「あ、あの、アデル様。でもそちらは失敗作でして、

 もう少し美味しく出来るようになったら、ご用意しますので……」



 お好み焼き自体は、まずまずの出来だとは思いますが、

肝心のソースは、まだまだ研究段階の状態です。改善点ありまくりです。


 まさかご主人様に、この失敗作を食べさせるわけには……。

もっと練習して、完成度の高い物をご提供したいのです。


 そう思っていたら、「構わない」ともぐもぐと咀嚼そしゃくを繰り返している。

その手は止まらず、二枚目へと手が伸びていた。


 本当に、凄くお腹が空いていたのですね。本当に申し訳ない。

こんなものでも美味しいと言ってくれるとは、よっぽど空腹だったのでしょう。


 騎士団では訓練もきつくて、体も沢山動かすせいでしょうか?

前に試作メロンパンをおやつにと焼いて持って行ったら、

凄く喜ばれましたし……と、私がそんな事を思っていると……。



「……この王都へ俺が来る前は、草や木の実や木の皮をかじり、

 大型の獣の血肉や魚をそのままで貪って食べていた。

 生きる為に腹を満たせればそれでいい……その位にしか思えなかった。

 体を維持するのに、沢山の食料が必要だったからな」


「……アデル様」


「ここで人として暮らし始めて、味わい食べる事の喜びを知った。

 仕事さえあれば、飢えずに済む事も知ることが出来た。

 ……ここでの生活も悪くないと、思えるようにもなった気がする」



 そう言って、微笑み返してくれるアデル様。

アデル様は食べる楽しみを今まで知らず、必死に生きる為だけに食べる生活が長かった。

人里に下りてきて生活するようになって、一番良かったのは食べ物だと思う。


 野生で生きてきたと言う事は、何日も食べられない時もある訳で、

でもここならば、働き口さえあれば飢える事はないし、

手を加えた温かな料理も食べる事が出来る……。



(それじゃあ、街に来て良かったと思う事も……あるんだね……良かった)



 そんな彼の為に、もっともっと美味しい物を食べて貰いたいと思った。

その為にも、私はもっと料理を頑張らなくちゃと再び心の中で決意する。



「も、もっと、美味しいものが作れるように頑張りますね?」


「ああ……楽しみにしている」



 顔を真っ赤にしてうつむいた私に、彼は笑いかけてくれているのだろう。

ぽかぽかと胸が温かくなって、彼にもっと喜んで貰えるようになりたい。

少しずつ失敗しながらでも成長できたらいいな。


(フルコースなんて作れる技量は到底無いけれど、

 せめて家庭料理位なら……私でも提供できると思うから)


 そう思って、私もアデル様の隣に座り、食事を再開した。


 少しずつ、この国でアデル様の好物を増やしてあげよう。

もっともっと美味しいものが、世の中には沢山あるんだと教えてあげたい。

決して人間社会の暮らしは、辛い事ばかりじゃないって思って貰えたらいいな。



 ……それ位しか、今の私にはご恩返しが出来ないし。




 穏やかな昼下がり、そんな事を思った……ある日の出来事だった。






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