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40・レッツ! あにまるセラピー


 お掃除したり、洗濯をしたり、料理をしたり……。


 アデル様のお屋敷での、メイド生活にもすっかり慣れつつある頃。


 私はメイドとして仕える身なのに、

ご主人様である龍の生態を余り知らなすぎるのは、どうなのかと思いました。

ユリアの役割の為にも、人脈作りを頑張っていたのですが、

一番身近な人の情報を、私が知らないと言うのは問題なのでは……?


 ……と、言いますのは、昨日の夜、ピンク色のボールを彼からお土産に頂いて、

どうするべきかと、手に持って悩んでいたからです。


※  ※  ※  ※





『――ユリア、土産だ』



 アデル様は保護してくれた時から、時々私にお土産を下さいます。

何時もは、出店で売っているお菓子やお花だったりするのですが、

今回は小さなボールです。ええ、小さな女の子が貰ったら喜ぶかもしれませんね。

……が、私はどう見ても、それで遊ぶ年齢ではないので……。



『あ、アリガトウゴザイマス?』



 お礼を言った直後、私は真剣に考えます。

この状況を、アニマル思考に切り替えてみました。


 普段、人を寄せ付けない人間嫌いで野生育ちの龍(ここ重要)が、

人間である私の為に、ボールを持って来てくれましたよ?


 これは警戒心の強い犬や猫が食べ物やお花やおもちゃなどを、

飼い主やなついた人に友好の証として持って来てくれる。

そんな状況と一緒なのではないでしょうか?


 つ、つまりこれは……っ!?



(――わ、私はついに、野生の龍のお兄さんに、

 仲間だと認められたのではないでしょうか!?)



 頭をなでたり、抱きついたりして来るのはじゃれているのだろうし、

ベッドに潜り込んでくるのも、懐いた犬猫ならよくある話です。

実際、リファやティアルもたまにしますからね。


 私は龍の縄張りの巣に、やむなく居る事を許された新参者、言わば群れの中では下っ端!

その下の者がボスとかリーダー格の者に毛づくろいを手伝う事で、服従している事を知って貰い、

仲間に入る事をお許し頂くという……サル山での現象そのものなのでは。


 そう、これは私がいつも、アデル様の身支度を手伝っていたからでしょうか?


 動物社会での過酷な上下関係、それがついに……私の働き振りを見て仲間と認め、

信頼の証として、お気に入りの遊具をくれたのでは?



『……アデル様』



 私は感動で、うるうると瞳をうるませました。


 何という事でしょうか。私は感動の瞬間に出遅れてしまったようです。

龍と遭遇するだけでも奇跡の出来事ですのに、

私は野生育ちの龍のお兄さんから信頼を得られたのです。


 仲間だと認められて、これ程嬉しい事はありませんよね。



『ありがとうございます。アデル様!』



 ぎゅう~っとアデル様に抱きついて、この喜びを表現してみました。


 言葉で告げるよりもボディランゲージの方が、動物には分かりやすいですよね? 

額でぐりぐりして嬉しさを伝えます。



『ユリア……そうか、そんなに嬉しいか』


『はい!』



 アデル様は嬉しそうに頭をなでてくれて、笑顔で見つめ合います。

その現場を見ていたユーディとイーアは、顔を真っ赤にしていましたが、

私は彼女達に、この喜びを話せないのがとても残念でした。


(龍のお兄さんに信用されましたよ! なんて言えませんものね)



 あ、でもアデル様が私の両脇に手を添えて、高い高いするのは、

何の意味があるのかなと、今でも分からないままです。

龍的なスキンシップの何かかなと思うのですがね? どうでしょう?


 そんな事があったのが、昨日の晩の事でした……。



※  ※  ※  ※




「信頼の物を贈られると、ますますやる気が出ますよね」



 それでですね。折角頂いたので「親愛の証」を私は大事にしようと思いました。

貰ったのだから、少しはこれを有効に使った方がいいのかな? と考えます。


 さて……でも、何をするべきでしょう? 

本日のノルマの掃除を終わらせ、椅子に座ってそれを見つめていると……。



「……ん?」



 足元に、ちょんっと何かが触れた感触がして、

ふと下を見下ろしてみれば、其処には自分を見上げているティアルの姿が……。


「ティアル?」


「みい」



 ティアルはローディナから貰った白い猫のぬいぐるみを持ったまま、

私の足に右の前足で触れて、首をかしげております。



「みいみい、ユリア、アソボ~?」


「……」


「みにゃあ~? ダメ?」



 つぶらな瞳でじっと見つめられ、手に持っていたボールに目が行く。


 思わず、「ほーら、取っておいで~」と試しに転がしてみれば、

条件反射のように、ティアルが嬉しそうにボールを追いかけ始めた。

にゃーにゃー言いながら、てちてち走っていく後姿にうっとり……。



(ふふっ、可愛いなあ、ティアルは歩くぬいぐるみだねえ……)



 ――っ!? この手があったじゃないですか!!



「リファ、今すぐ小さくなって下さい! 私も小さくなりますので!! 

 すっばらしい事を思い付きました!」


「クウン?」


「動物さんの気持ちを知るには、まず、形から入る!!

 役を演じる上でもよくやる手段ですね!」



 私はリファにミニマムサイズになってもらい、

私は私で魔法具のリビアの指輪を発動! 子猫姿で遊ぶ事にしました。


 大きなお部屋ですし、小さくなってやれば物を壊したりもしないし、

何より、この姿でもここならば外敵に狙われる事もありませんからね。

そして思いっきり体を動かせば、ストレスも発散できます。


(たまには、リファとティアルと私の三人……いえ、三匹で、

 仲良く童心に返って遊ぶのも、いいかもしれませんね~)


 童心所か、アニマル姿そのものになっておりますが、まま、これは置いておきましょう。

今度、ローディナとリーディナにも参加して貰ったら楽しいだろうなあ。

ふわもこでいちゃいちゃしながら、みんなと遊べるなんて、何て素敵なんでしょう!!



 本日、あにまるセラピー日和びよりとします!



 何時も頑張っている私に、いやしの日を設けましたよ!


 ……という訳で、リファ、ティアル! その毛にもふらせて! 盛大に!!



「みいみい~!(みんなで遊びましょ~!)」


「みい?」


「クウン!」



 みんなでてちてち、とてとてとボールを夢中で追いかけます。

リファもティアルも私の意図に気付いて、目を輝かせました。


 みんなで遊ぶには、同じ位の大きさになるのが一番ですよね。

同じ目線で楽しめると思います。何よりみんなでじゃれて遊べます。

抱きついて仲良くでころころと同じように転がって、まさに、ふわもこ天国ですよ。


 リファとティアルの肉球にも、そっと私の肉球を合わせてハイタッチです。



「クウン! キュウ~」


「みい、みいみい!(さあ、行きますよ!)」


「マッテ~みいみい」



 私はいやされるし、リファ達は喜んでいるし、良いアイディアですね。

これは、リファとティアルの運動不足解消にもなります。

小さくなれば、ホールはまさに遊技場さながらの広さですよ。


 遊んで遊んで、やがて疲れて眠るまでそれは続きました。

私達の顔には、遊びつくした達成感がにじみ出ていたと思います。

お腹を見せて転がって、その場で眠ってしまったのは言うまでもなく……。


 遊び疲れた時に、後輩のユーディが仲良く寄り添って眠る私達を見つけ、

一緒に居たイーアがタオルケットをそっと掛けてくれたりもして、

私達は、すぴすぴ幸せに眠りこけておりました。


 でも、私はこの時、ユーディ達に説明し忘れていた事がありましたよ。


 ええ、そのせいでその後、大変な騒動になろうとは思いもしなかった訳で……。



※  ※  ※  ※



「――……あら、まだ眠っているみたいね。

 それにしても……この白い子、うちのお屋敷の子じゃないわよね。何処から来たのかしら?

 ティアルちゃんのお友達? ふふ、皆でくっ付いて眠っている姿って可愛い」


「……ねえ、イーアさん、ユリアさんは何処に行ってしまわれたのでしょうか?

 先程、着ていたお洋服がそこの床に落ちていましたけど……。

 何か緊急の用事でも出来たんでしょうか?」


「え? 服を脱いで? そんな事……ちょっと待って、まさか誘拐ゆうかい!?

 逃げ出せないように、犯人が人質の着ている物を奪う事があるっていうし、

 これはアデルバード様に、報告をした方がいいんじゃないかしら?」


誘拐ゆうかいですかっ!? どうしようイーアさん、ユリアさんに何かあったらっ!!」


「だ、大丈夫、きっと大丈夫よ。アデルバード様は騎士団長様だもの!

 ……って、も、もしかして犯人は、ご主人様に恨みを抱いている者の犯行!?

 だとしたら、ユリアさんが狙われた理由が分かる!」



 二人の中では、私はアデル様のお気に入りメイドという印象があり、

その為に、私がおとりとして連れ去られた……そう思ったようです。



「みにゃ~……す~……」



 まさか、行方不明と思われている娘が目の前に居て、

タオルケットを幸せそうにあむあむと甘噛あまがみしながら、

のん気に眠りこけているなどと、誰が思うだろうか?

思いませんよね。そうですよね~?


 ユーディ達はこの状況から「誘拐ゆうかいの可能性あり」と判断し、

直ぐに騎士団本部に泣きながらメサージスバードを飛ばして連絡し、

お屋敷のおじサマーズ、おじいちゃマーズで辺りを大捜索する事に。



「居ないな……何時も真面目なユリアちゃんが、

 俺達に黙って屋敷から居なくなるなんて事、今まで無かったのに……。

 掃除は終わっているみたいだし、休憩中に何かあったのかな?」


「そ、そう言えば、ユリアちゃんは発見当時、大きな怪我をしていて、

 保護された時には記憶が無かったんだったな」


「あ、ああ……!? もしかして、その時の犯人に見つかったとか!?」


「そんな、それじゃあユリアさんはやっぱりさらわれて……!?」


「どうしよう、イーアさんっ!」



 その結果、アデル様が物凄い形相で屋敷へと帰ってきたという事を知らず……。



「ユリアーッ!!」



 破壊行動を起こしながら私の名を何度も呼ぶ、

我らが恐竜……いえ、ご主人様の声に、私は驚いて目が覚めて体を起こした。

その時はまだ、自分がどういう立場になっているのかも分からず、

まだとろんとした目で辺りを見回していた。



「……みい?」



 時計を見れば、夕方にはまだ早いおやつ時……。

なんでこんな時間に帰ってきたのかな? とのんきに思いつつ、

寝ぼけまなこのままで、声のする方向へ向かう。

部屋を出て、階段を下り玄関へ……よちよちと。


「みい~……」


 メイドの任務、「おかえりなさいませ、ご主人様」を遂行するべく、

子猫姿のままでアデルを迎えに行ったのでした。

愛嬌あいきょうを振りまく、いやし系にゃんこメイドでお許し頂きます。

声の様子だと、着替えているひまはありませんからね。


「(何だかお急ぎのご用のようです……?)」



 しかし、子猫姿で玄関ホールへ向かうにはかなりの運動量です。

階段を下りて、途中で少し休憩してやっとこさアデル様の元へ向かう。

障害物を避け、時にはよじ登り、使用人の皆様の足の間を縫うように歩き、

そして、てちてち彼の足元まで近づいて、ちょんちょんと前足で触れた。


 みいみい、にゃんにゃん言って「ここにいますよ、アデル様」と話しかける。


「――っ!?」


 其処でアデル様は、私の存在にようやく気が付いたらしく、

目をめきょっと見開くと、直ぐに、膝をついてがばりと私の体を抱き上げ、

体をしつこくなでくりまわされた。


 そして、ひしっと抱きつかれたので、思わず私は固まってしまう。



「ユリア! ああ……無事だったのか?

 良かった……何も、何もされていないか? 怪我はしていないのか?」


「みにゃっ!?」


「……え? あ、あの……?」



 イーアが、ぎょっとした目で此方を見ている。



「あ、アデルバード様、動転されています。その子はユリアさんじゃありませんっ!」



 おろおろとユーディがアデル様をなだめようとしていた。

……が、アデル様は安堵あんどの顔で、尚も私の頭をなで繰り回している。

耳をなでたり、あごをなでたり、猫のベストスポットを的確になでる。

思わず、甘えた声で「にいにい」と鳴いてしまいました。


「にい~……」


 可愛がられるにゃんこの気持ち、今分かりましたよ。

なでられるのって、とても気持ちがいいですね!

思わず、またとろとろ眠くなってしまいます。



「いいや、この猫はユリアだ。この俺が間違える訳が無い」


「ど、どうしようイーアさん、ご主人様が壊れちゃいました!!」



 事情を聞かされていないユーディとイーアは、

お気に入りのメイドだった私が居なくなってしまった衝撃で、

ご主人様が精神を病んでしまったのだと思われてしまい……。


 イーアは、あわあわと止めようとしたり、

おじサマーズ達に助けを求めようと走り出し……。

ユーディは、部屋の隅でひざを抱えてしくしく泣き始めてしまいました。


 アデル様はアデル様で、子猫姿で犯人達から逃げ出して来たのだと思ったのだろう、


「もう大丈夫だ。お前に触れてきた男達は、この俺が全て始末しよう」


 ……と不穏な事を言い出し、私をひしっと抱きしめ、頬ずりをするものだから……。



「み……みにゃ?」


 その時、事情を全く理解出来ていなかった私は、

アデル様の腕の中で、頭をなでなでされたまま首を傾げて、

とりあえず猫語で「おかえりなさいませ」を言ったのでした。


 よく小さい子供が居なくなったと思って大騒ぎしたら、

実は部屋の隅で眠っていただけだった……そんな事がよくあるものです。


 私はとろんっとした顔で、貰ったボールでリファ達と遊んでいた事、

とっても楽しかったと猫語でアデル様に伝えました。


 ボール遊びに、アニマル組体操なんぞもやっておりましたし、

それはそれは、動物の気持ちを知る機会だったと思いますよ。


(ただ、アデル様の気持ちが分かったかといえば……いまいちですが)


 遊んでいた部屋では、まだリファとティアルが眠っています。

沢山遊んで疲れているから、出来ればこのまま寝かしておいてあげたい。

ずっと今まで一緒だったので、さらわれたり怖い思いはしておりません。

なので、本当に何でも無かったのですよ? と説明しました。



「そう……か、何でもなかったのならいい。楽しかったのか? ……そうか、良かったな」



 その時、私が惨劇シナリオを未然に防いでいたなどと誰が思うだろうか?


 私が眠りこけたままだったら、私の匂いのする所を破壊しつくし、

私を探し出そうと考えていたと、その後にアデル様に聞かされた時には、

何か私の知らぬ所で、不穏な事件が起きていたのだと気付きました。


 ええ、それですっかり目が覚めてしまいましたよ。


「み、み?」


 今更ながら思い出す、アデル様のゲームでの設定。

そして、ユリアとアデル様の関係。


 蒼黒龍そうこくりゅうはプライドが強い一方で、家族や仲間をとても大切にする。


 身内同然となった者は、龍の本能を揺さぶる存在。

ユリアは、アデル様が家族を奪われて初めて出来た身内なのだ。

だから今度こそ守ろうと、兄のように、父のようにユリアを大事にしてくれる。

その為……「ユリア」に何かあると、彼は暴走してしまうのだった。


 あの時に受けた心の傷を思い出させてしまうから……。


 本能で家族を守ろうとする……もう二度と失う事がないように。

だから決してシステム上、「ユリアに危害を加えてはならない」

と言うのが、プレイヤー暗黙のルールとなっている位だ。



(私……何をのん気に遊んでいた報告をしてしまったんだろう)



 本編が始まる前に、彼を黒化させてしまう所だった。

ご心配掛けた事を謝らないとですね。


 育児書をなぜ読んでいるのかなと不思議に思っていたのですが、

どうやら、人間の女の子の勉強をアデル様は基礎からやっていたらしく……。

そのお陰で、子供は突拍子も無い事をしでかす……なんて事も書かれていたので、

とがめなんて事は一切ありませんでしたが。


 でも……なんでしょう? 私、もしかして小さい女の子として見られている?

龍のアデル様から見たら、私はまだまだ子供だって事は分かるんですが……。

なんか、引っかかる気がしましたよ?



(あ……何だか今、ユリアの気持ちが少し分かった気がします)



 台本の中にあったんですよね。



『”アデル様は、私の事を大事にしてくれますが、妹や娘のように見ているので、

 それ以上を望むのは、贅沢ぜいたくすぎます”』



 ……とか言うのがあったし。


 淡い恋心を諦めたユリアは、女主人公にアデル様を任せ、

アデル様の幸せを願いつつ、二人の恋のお手伝いをし、

男主人公の時は、落ち込むユリアをなぐさめる形から、

徐々に新たな恋が芽生えるとか言う状態になるのです。



(元々、ユリアは居候いそうろうという立場でアデル様の傍に居る。

 だから強く相手に望むのは、罪深くて出来なかった。

 メイドとご主人様の恋は、本来ならいけない事だものね。

 アデル様を困らせたくないのと、彼の幸せを願っていたんだろうな……)



 関係が崩れて、アデル様が自分を避けるようになったら……。

そう思うと、彼女の性格だと怖くて気持ちを伝えられなかったのかも。


 ユリアとして過ごして来て、同じ視点から見る事が出来るようになったからか、

少しずつ彼女の気持ちがつかめている気がした。

大事な居場所を与えてくれた人、こんなにも大事にしてくれる人、

だからこそ、ユリアはかれたんだろうなあ……。


 そして、女主人公とご主人様の幸せな姿を見て、

切ない思いをしつつも祝福してあげていたのだろう。

一番彼の傍に居たのはユリアの方だったのに、

何時しかその距離は遠ざかって……他の女性が隣を歩いている。


 つないだ手すら、その人に代わっていて……。


 影で泣いていたんじゃないかな。

そしてそれを、私もこれから経験するかもしれないんだ。


 そう思うと何だか寂しい……そんな言葉だけじゃ言い表せない感情が見え隠れする。



(んん? 何だろう、胸がちくちくする……?)



 役にどっぷりはまり込むと、感情移入してしまう事があるから、

もしかして、これはユリアに同調してしまったのかな?


(”ユリアの役”に引きずられない様にしなちゃ……)


 取り合えず、気を取り直して頭をすりすりして彼に甘えてみます。


(今は、ご主人様のご機嫌を取らないといけませんよね)



 にゃーにゃー言いながら、アデル様の好きなように触らせてみましたよ。

ご心配をお掛けしたのなら、きちんと謝りませんとね。


(――ですが、ご主人様……流石に温厚な私でも、

 お腹に顔をうずめて匂いをがれるのは、いささか抵抗があります)



 思わず彼のお顔に、肉球でぺちぺちしましたよ。



※ ※ ※ ※



 私はアデル様から思いっきり、なでなで~となで繰り回されて、

更に、体の匂いを彼の気の済むまでがれた後に解放されました。


(ご主人様の猫好きは半端無かった!!)


 その後、急いで部屋に戻り、元の姿に戻ってユーディとイーアに会い、

事の次第を説明し、心配を掛けた事をおびしました。


 そして、自分が眠っていた間に起きていた騒ぎの経緯も知りましたよ。



「――良かった……ご無事だったんですね。

 私ったら、てっきり早とちりして……お恥ずかしいです。」


「うえええ~っ! 良かった、良かったですうう……」


「ええ、ごめんなさい、二人には説明するのを忘れておりました。

 ああ、ユーディ、もう泣かないで下さいな?」



 まさか私が、白い子猫だったとは思わなかったのですから、

彼女達の対応は的確だったと思います。

知りえる情報から最善を選んで行動したのですから……。

その為、アデル様も彼女達をしかる事はありませんでした。


 今回の失態は私のせいですからね。

人がもっと多いお屋敷でしたら、もっと大騒ぎになる所でした。


 おじサマーズも心配してくれていたので、一緒に事情を説明し、

びをしておきましたよ。目の前のアイデアに夢中のあまり、

その後の事を考えておりませんでした。


(今後子猫姿になる時は、誤解を受けないように自室で使って、

 洋服は部屋に置いておきましょうかね)


 まさか、遊び疲れて元に戻るの忘れていた……という事が、

これ程の動揺を生む事になるとは……。


 しかし、あれですね。私が子猫姿でリファ達と遊んでいたと話したら、

皆さんに生温かい目で見られました……なぜですかっ!?

あんなに可愛らしい子達を、同じ目線になって愛でられるんですよ!?

究極の楽しみ方だと思うのですが?


 き、きっと「ふわもこ同盟」のリーディナは分かってくれる筈だ!!

私の、この究極の愛で方を!!



「ユリアちゃんは、結構お転婆てんばさんだったんだなあ」


「ああ、君が楽しかったのなら、俺達はいいよ」


「リファ様とティアル様に、遊んで貰えて良かったねえ」



 まるで、私が率先して遊び始め、

ティアルとリファが仕方なく付き合ってくれたかのようではないですか!

……その通りですけどね!


(ふふ、いいもん、いいもん……あの子達は喜んでくれたから)



 今日は、アニマルサービスの日という事で済ませようと思います。

ええ、私は思いっきりもふらせて頂いたので、満足ですとも!


 皆にご心配を掛けて申し訳なかったですが、

今回の経験は、小動物を演じる勉強になるとも思ったんです。


 自分の声質で、得意、不得意を見分けるのは大事な事、

子供の役や動物の役は私が極めるべき得意分野だと思いますよ。


 新人は小さい役から入っていくもの、

その為にも避けては通れぬ道だと私は考えます!

子猫の姿にもなれるんですから、本格的に演じられると思う。


 もう何度か経験した子猫体験の感覚は、私の武器にもなるかも知れません。

この際ですから、動物の視点から見た世界も良く覚えて置きますよ。



「……人間の娘とのスキンシップ……娘の遊びに付き合う。

 俺が龍体になったら、余計大きくなってユリア達が危ないのだが、

 どうやって接すれば良いのだろうか? 流石に龍専門の本ではないから分かりにくいな」



 その時、部屋に戻ったアデル様が育児書を読みながら、

そんな事を考えて悩んでいたのだけれど、

私がそれを知るのは、数日後の事でした……。



「……アデル様?」


「……どうした? 遊んでいいぞ?」



 彼の部屋を訪れた私の目の前で、龍体のアデル様が、

大きな尻尾の先を右へ左へぱたぱたと動かし……。

尻尾で私をあやそうとしていた? らしい。


 そして私はと言えば、そんなアデル様を見て、


(……もしかして、私にかまって欲しいのかな?)


 今まで、構ってくれる仲間も居なかったものね……と、思ったので。


 私はめいっぱいに、よしよしと彼の頭をなでた後に皮の手袋を身に着け、

ローディナから貰ったマッサージ用のオイルを使って、

ペットマッサージをして、スキンシップしてみました。


 同じサイズになれないから、一緒にボール遊びは出来ないので……。


「……ユリア?」



 なんとなく、最初は不思議そうな顔をしているかに見えた彼も、

最後は満足そうに、尻尾をふりふりして喜んでくれましたよ。

ティアルと違って、リファやアデル様はマッサージが大変なんですが、

なんだか、達成感とやりがいを感じた今日この頃でした。


 


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