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36・メイドの休日1

 


 異世界に来て、随分と月日が経ちました。


(もしも、私と同じ立場の人が、他にも居たらどうするのだろう?)


 ……なんて、そんな事を思っていた頃が、なんだか懐かしく感じます。


 せめて、こちらの世界に何か持ち込めたら良かったなと思いますね。

それならば、少しだけ私の世界と繋がっているのが確認できて安心できる。

でも何を持って来られればいいのだろう? とも思った。


 アルバム? ……見たら泣きそう。


 そうだ! 医学の本 ……私、活用できそうにない。生態が違う可能性もある。


 ならば植物の種? ……生態系を崩す可能性大だよね。よってこれも駄目。



 それともこの世界を生き抜く為に、あると便利なゲームの攻略本とか?

あったら助かるけれど、色々トラブルを引き起こしそうな気がする。


 特にアデル様には絶対に見られたくない。彼が傷つくのが分かっているもの。

まあ、私の世界の言葉を知らないアデル様は、本を読めないだろうけれど。

私みたいな例外が居ると言う点では、それが出来る可能性もありそうです。


 それに何より……あの本は、「プレイヤー用」であって「ユリア用」じゃない。


 ユリアが生き抜く為に、必要な指南書ではないのだ。

其処でふと思い出したのは、私の宝物の存在。

 

 一つは母に貰った髪飾り。

 二つ目は父から貰ったぬいぐるみ。

 三つ目は兄から貰った玩具の鏡

 幼い頃、私のお誕生日に家族から貰った品。


 私の幸せな思い出が詰まっている大切な宝物だ。



(今ならきっと、これを選んだ筈だ。家族の写真も捨てがたいけれど、

 私が大好きで、私を支えてくれた大切な品だから……)



 まあ持って来られた所で、何一つ役に立たない代物ばかりなんだけどね?

枕が変わると……的な感じで、あったらいいなと思うんです。

私の大切な大切な、お守りみたいなものなんですよ。




※ ※ ※ ※





「――……みい、ユリア、オハヨ?」


「ティアル……?」



 目を覚ますと、ほっかむりしたティアルの顔のどアップが待っていました。


 ティアルは枕元で私の顔をのぞき込んで、頭をなでている。

どうやら、この感触で私は目が覚めたらしい。



「みいみい、ユリア、マダ、オネムナノ」


 柔らかいティアルの肉球が、私の額に当たる。ぷに、ぷに、ぷに……。

思わず両手を伸ばして、ティアルの頭を同じようになでた。


「ティアルは早起きですね。偉いですね」


「みい、ティアル、エライ?」


「ええ」


 みいみい言いながら、気持ち良さそうに喉をごろごろする姿に、

私は思わず目元を緩める。ティアルは今日も元気だ。


「ふふっ」



 熱を出してから早一週間、微熱は治まったものの、

まだ体のだるさが抜けずに、私はベッドの上で安静状態である。


 ご主人様であるアデル様からも、主人命令で仕事を止められており、

私はベッドの中で大人しく養生する事になっていた。

起きて働こうとすると、リファが上から「ダメよ」と言わんばかりに、

上に圧し掛かって止められる。


「あなたはまだ寝ていなさい」と言いたいのか、

右前足で、とんとんとリファに寝かし付けられていた。

反対側ではティアルもリファの真似をして、とんとんっと、前足で寝かしつけてくれる。


 ……平和ですねえ。和みます。



「あはは……皆ごめんね?」



 ちなみにアデル様は、毎朝毎晩私の様子を見にやって来てくれる。

私が寝ている時は、頭をなでてそっと出勤していたらしい。

心配を掛けているから、早く元気になりたいものだ。


(……そうしないと、アデル様が心配して同じベッドで寝たがるし……)



 そう、ここ数日は特にアデル様が過保護になった気がします。



『――ユリア、俺が沐浴もくよくをしてやろう、おいで?』


 ……なんて言って、ネグリジェを脱がされそうになったり……。


 相手は龍のお兄さんなんだから、別に人間の私の裸なんて見ても、

全然なんとも思わないのでしょうが、やっぱり私には羞恥心があるんですよ。

流石に相手が龍だと分かっていても、恥ずかしい事はあります。


 なので断固拒否。体も拭いてくれるとか言って下さいましたが、

謹んでお断りさせて頂きました。ええ、意地でも一人で沐浴もくよくしましたよ。


 そうしたらアデル様はその後、沐浴もくよくして着替えた私に、

井戸の水で冷やしたぶどうを持って来てくれて、口元に運んで食べさせて下さいました。


 ええ、彼のおひざに座らされて頂く事になりましたよ。


 ……これは羞恥プレイと言う奴ですかね?



『ほら……ユリア、これなら食べやすいだろう?』


『あ、あの……』


 ……本当はこれも断ろうと思ったのですが強引に……。


 顔から火が吹きそうとはこの事ですか。恥ずかしかった。

でも、人間嫌いの(ここ重要)龍のお兄さんの好意を無下には出来ませんよね。

最後は諦めて、素直に口を開いて、ひな鳥の気分で食べました。

龍が手ずから給餌きゅうじをしてくれるという、とても貴重な体験です。

これも何かのいい経験に……経験に……なるのか?


 そうそう、先日は氷枕ならぬ尻尾で龍枕もして下さいました。

龍の尾はひんやりとしていて、丁度良い固さで寝心地が良かった。

こうしてみると、アデル様はなんだかんだで結構面倒見がいい龍なのだなと思います。

私が身元が分からない時から、こうして何かと気にかけてくれていますし。


 しかし、こう寝てばかりと言うのも暇なものである。


 仕事はユーディとイーアに任せられるから大丈夫だが、

暇は辛いのですよ……体もなまるし。


 だから心の中で……。


(すまないねえ、ユーディさんや)


 と、一人で病弱な母親を演じてみたりしていた。


 その間、甘えたいさかりのティアルに構ってあげられなかったんだけど、

ティアルは物分かり良く、わがままを言わずにいてくれました。


 大事な白い猫のぬいぐるみを持ってきたと思ったら、

「みい、カシタゲルネ~?」と、横になっている私の隣に寝かせてきて、

ぽんぽん、なでなでと、ぬいぐるみと交互で寝かしつけてくれたり……。


 一緒のベッドに潜り込んで、ぎゅう~と、くっ付いて来て、

「みい、アッタカ?」と言ってきたり。


(……ふわああっ! なんて可愛いんだろう、この子は~~っ!!)


 ……と、感激してしまいました。


 リファも体をくっ付けてくれて……私、幸せすぎて死にそうでしたよ。

先日の無茶振りで頑張ったご褒美ほうびですか? 大歓迎です!!


 これが声優のお仕事だったら、こうは甘くいきません。

学校のように、「風邪を引いたから、お休みします~」なんて出来ないのです。

点滴を受ける状態だろうが、骨折していようが、入院相当だろうが、

本人が意識不明とかで動けない状態でない限り、一度引き受けた仕事は簡単には休めません。


 点滴を受けながら現場に赴いて仕事ができない状態だと、

プロデューサーが判断して、其処で初めて帰ってお休みが頂けるのです。


 しかし、その場合、仕事が他の人に取られるという事にもなり、

役者としては死活問題ですよね。信用問題にも繋がります。

仕事を請けた身なのに、自己管理も出来ない人間なんていらないのです。

なので、健康管理はとても大事、自己責任でやっていかないといけない。



(職業病というものですかね……。

 この位の熱だけで休むなんて……と思ってしまいます)



 でも、体調不良の時は、周りに感染しないようにと気を配らなきゃいけない。

せきが酷い人がスタジオ入りしたら、現場は当然荒れます。

商売道具の喉をやられたら誰だって困りますからね。


 他の役者さんに喧嘩けんかを売っているようなものですよ。


 勿論、現場に限らず、他所でも周りの方に配慮するのもエチケットの一つです。

マスクすらしないという、配慮も出来ない人が居ると完全な脅威ですよね。


 お仕事を頂く前に、他所……例えばアルバイト先などで迷惑をかけて、

「あいつ現場に出さない方がいいよ」と事務所の方に話が行ったら、

困るのは本人です。人は何処で横繋がりがあるか分かりません。十分気をつけないと。

 

 私の場合、せきは無いですが、お屋敷の人に感染するかも知れないので、

しばらくは様子見という事で、安静にする事にしておりました。

そんなこんなで今日もベッドの上での生活オンリーになります。


「みい、ユリア……マダ?」


「ああ……ええと、そうですね。まだお許しが出ていないから遊べないかと。

 遊んだら、私もティアルもアデル様に怒られてしまいますので、

 後で、ユーディ達に遊んでもらって下さいね?」


「みいみい、ワカッタノ」


 ティアルは、ユーディとイーアにも良く懐いているので、

本当に助かってます。いつもティアルに構ってくれてありがとう二人とも。



「みい……ユリア、コレ、アゲル~」



 そう言ってティアルは、私にピンク色の可愛らしい花を持って来てくれた。

マーガレットに似ているその花は、ティアルよりも大きい花束だ。

優しい子だなあ、私の為にお花を摘んできてくれたのか。

しかし……私はありがとうと言う前に、嫌な予感がした。


 ティアルは、あのリーディナの一件以来、

頭にほっかむりをするスタイルを凄く気に入っており、今もそう。

その姿が、一層私を不安がらせた。


(……この花、お庭の花じゃない、よね……? 見たことないよ?)



 少なくとも私が知る限り、お屋敷に植えられた花ではない気がする。



「……ティアル? あの、つかぬ事をお聞きしますが、

 このお花は、何処で摘んで来たのですか?」


「にい? オシロ、オニワ~」


「……えと、お城の……庭っ!?」


「みい、タクサン、アッテ~オジサン、オイカケッコ。カイトウ、ティアルナノ」


 ジャーン! っと、一回転してティアルは誇らしげに言う。


 ええと……それってつまり、もしかして、もしかしなくても……。

お城のお庭で怪盗ごっこをして、庭師の人に無断でお花を摘んで、

勝手に持って来て追いかけられたと……?



(お城の花って……つまり、王家の花っ!?)


 ひいいいいっ!? じゃあ、追いかけられたってお城の騎士って事!?



「ティ、ティアルなんて事を!?

 今すぐ、ルディ王子様の所に、ごめんなさいをしに行きますよ!?」


「にい? ナンデ?」


「勝手に持ってきちゃ駄目だからですよ! めっ! です!」



 指でペケの形を作って、ティアルをしかる。


 何という事でしょう、先日のリーディナの行動を見てあこがれたのか、

華麗なる怪盗ごっこをして楽しんだらしい。

気が付けば、ティアルはハンカチでマントも作っていた。


 ……怪盗というか、これではただの泥棒スタイルですよ、ティアル。


「クウン?」


「リファ! 緊急事態です!

 どうか外出許可を! お城に直ぐに行かなくては!!」


 こんな事していられません。今すぐに着替えて謝りに行かないと!

リファを必死で説得して、私はベッドから飛び起きると、

クローゼットから水色のワンピースを取り出して、手早く着替え身支度をする。


 けっして、私達がこの子に変な事を教えたわけじゃ無い事を伝えなければ!

そしてティアルも、幼すぎてまだ善悪が分からなかったのです。

これから良く言い聞かせるからと、誠意を込めて頭を下げましょう。



「ティアル! さ、行きますよ?」


「み?」



 ベッドの上で、ころころ転がって遊ぶティアルを捕まえて、抱きかかえ、

私はリファも連れて部屋を飛び出した、階段を下りて大広間を通る。

こうしている間にも、お城では大騒ぎになっているのではないか。



 廊下へのドアを開けて、急いで玄関へむか――……。



「――やあ、可愛い人。起きていて大丈夫なのかい?

 また君に会いに、このライオルディが来たよ?」


「失礼してい……」



 バン!っと、相手が言い終わる前に、

私は慌てて目の前にあった両開きのドアを勢いよく閉めた。


(居る……なんか今居た!! それも……増えている!?)



 同じ顔が二人、金髪キラリンの王子サマーズがうちのお屋敷の廊下に!?

私はドアの前で膝を突き、うな垂れるようにして泣き崩れた。



(――手遅れだったあ――っ!! 神よおおおおーっ!!)



「にい? ユリア、エンエンナノ? エンエンナノ?」


「クウン?」


「ど、どうしよう……バ、バッドエンド? 修羅場?」



 きっとお城のお庭を荒らした犯人を捕らえるべく、

王子様達自らが屋敷に乗り込んで来たらしい。


(これはもう、土下座をして謝るべきだろうか……?)


 それとも、ここは何か笑いを一つ提供して場を和ませるべき?

絶対無敵ヒロインのローディナを、この場に即、召喚すべき?

彼女のスキルならば、王子様も味方に付けられると思うんだ!

ああ、でも失敗したら怖いから、あの子を巻き込むのはよそう。


 せっかく、王子様が私達を信頼してティアルを預けてくれていたのに、

あろう事か、王家の花を盗む事をさせてしまうなんて……そう思っていると、

ドアの向こう側から……。


「ユリア君? ユリア君~?」と、コンコンと、しきりにドアをノックされた。


 ひいいっ!? もう来てしまっている以上、逃げ場は無い。

ティアルはお縄に掛けられてしまうのか!?


 こんなに、こんなにまだ幼い子なのに、矯正の余地無く処刑されてしまうんじゃ……?


 ティアルが城の騎士達にお縄を掛けられる姿を想像して、私は震え上がった。

怖いお兄さん達に囲まれて、泣いて怯えるティアルの姿を思わず思い浮かべ……。


 なんて事だ! 絶対に助けてあげなければ!!


 思わず握りこぶしを作って立ち上がる。


(ああ、でもどうやって? 乗り込んできたと言う事は、

 既に怒っている可能性が高いんじゃないの?)



 王族に背けば、極刑が待っているのは何処の世も同じだろう。

ええ、此処は王子様を木に縛り付けるご主人様、往復ビンタや投げ飛ばす狼さん、

短剣や香辛料を投げつけたメイドが巣くう巣窟そうくつ、もとい、お屋敷です。


 彼らが処罰しようと思えば、反逆者に該当する者は私を含めて居る訳で……。


 よよよと泣いているうちに、ティアルが急にドアを開けてしまった。



「ワーイ、ルディ~!」


「ティアルうう――っ!?」



 私が止める余裕なんて勿論無くて、おかしな悲鳴を上げてしまいました。

なんて事でしょう、ティアルは事の状況が理解出来ていないようです。



「ああ、やっと開いた。体調はどうだいユリア君?

 君の愛しいライオルディが見舞いに来たよ」


「……」



 にこやかに笑うライオルディ王子様と、無口、無表情なリハエル王子様。

同じ顔がずんずんずーんと近づいてくる。恐怖は……二倍。

増える王子様。私のパニック&恐怖は最高潮です。

だって先日はその顔で殺されそうにもなったんですよ? 当然ですよね?



 バンッ! っと、物音を立てて咄嗟とっさにまた閉めました。

はい、条件反射です。


 その為に、部屋に入って来ようとした二人は、ドアにぶつかったようだ。

ドア越しにゴンゴンッ! という物音が、そろって聞こえたよ。


 其処で私は、我に返る。



「……はっ!?」



 ――うわああ~っ! 私、何て事を~っ!?


 ――牢屋行き決定じゃないですか~っ!! いや、市中引き回し!?


 思わず王子様を閉め出してしまった。

ここは「勧誘はお断りします」とか言ってみる!?

いや駄目だ。こんな時にボケても状況は好転しない気がするよ!!

既にこの状況は、演技で乗り切る域を超えておりました。



(アデル様~っ! どうしましょう~っ!?)


 心の中でアデル様へと助けを求める。

貴方様のメイドは、客人、それも王族相手にありえない応対をしてしまいました。

ハウスメイド所か、下女の仕事すらろくに出来ない娘で申し訳ありません!!


(ますます罪を重くしてどうするよ、私!)



「う……うう……っ、ひっく……も、もうだめ……」



 青ざめた私は、ドアの前でぷるぷる震えながら泣きじゃくっておりました。

その様子に、リファがおろおろしながら、

私を後ろから抱きしめるように包み込んでくれる。


 ママン、私はもう駄目だ。先立つ不孝をお許し下さい……うう。



「……君、さっきから何なんだ?!」



 不意に、問答無用で開け放たれるドア。


 苛立たしげに、私に詰め寄ろうとしてそう言うのは、

先日、私に大鎌をぶっぱなした変態王子様、こと、リハエル王子様。

……私の恐怖は……臨界点を突破しました。



「いやああああああっ!?」



 もう大号泣です。無表情と問答無用で人の首を絞めようとした人が目の前にっ?!


 ……で、その結果、私の発した大きな悲鳴により、

部屋に備え付いていた防犯用の魔法具が、ぽちっと作動。



「なんだっ!?」


「うおわあああ――っ!?」



 王子様二人に目掛けて、水がざっぱーんと降りかかりました。

水に押し流されて、面白いお姿で足元から倒れこみ、流されていく王子サマーズ。

ええ、まるで一昔前のコントのような、見事な倒れっぷりです。


 顔が同じなだけに、見事なまでのシンクロ率!

ローディナ達のシンクロ率にも負けない位ですよ。

……まあ、彼女達はこんな(面白い)事する訳ありませんが。



「あ……やばい」


 ……で、私……更に窮地に……も、もう駄目だ! 逃げよう!!

不敬罪で、この場で切り捨てられてもおかしくないのだから。

わたわたと逃げ出そうとするも、なんと腰が抜けていた。怖いと腰も抜けるようです。


 其処で、はっとある事に気づく。


(まさか、リハエル王子様……今度こそ私を狩りに来たとか!?)



 最初からそれが目的で、兄のルディ王子様に取り入ったとか……?

それで、だまされたルディ王子様に案内をさせて、

私の居場所を特定したとか?


 ――ありそう! 何だか悪役っぽい!!


 ――以前の借りを返しに来てやった! ……とか言うんだ! きっと!!


 ……あ、でも、この場合は私の方が悪役になるんでしょうか!?



「たっ、たす、助け……」


「……ちょ、ちょっと君待ちたまえ!」


「!? いやああああっ!? 誰か、誰か~っ!!」


「ユリア君? ど、どうしたんだい? 落ち着ちついて!?」



 水も滴る何とやら……な、リハエル王子様に近づかれて、私は絶叫。

彼は前髪で目元が殆ど隠れた中、ちらりとのぞく眼光は鋭くて、

私は震え上がった。怒ってる、絶対に怒ってるから!


 恐怖の余りに、気付けば助けを必死になって呼んでいました。

がしりと以前のように、リハエル王子様に私の左手を掴まれたんです。

その後に来るとなると……首を絞めてくるのではと怯えるのは当然ですね?


 そして、それにより屋敷中の使用人が全員集合!OH、YEAH!!

なんて状況になりました。ええ、おじサマーズ、おじいちゃマーズが、

それぞれ手に、調理器具や掃除道具を手に持って、雪崩れ込んで来たのです。



「ユリアさん!?」


「ユリアさん大丈夫ですかっ!?」



 そして、ユーディ、イーアも手にほうきを持ち、頭にバケツを被って推参。

……あれ……でもそれ、前が見えてないよね? 二人とも……。

でも来てくれてありがとう。お姉さん、それだけでも嬉しいよ。



 其処で助けに来た彼らが見たものは……。

泣きじゃくりながら、二人の王子様に囲まれ、床に倒れこむ私の姿。


「う、ひっく……」


 逃げようと必死になって、ドレスの裾が少しめくれて肌蹴ており、

更にリハエル王子様は、私を落ち着かせようと、

私に覆い被さるような体勢で、私の手首を掴んでいた事で……。



「王子様に襲われている……」


「ああ、襲われているな……ローディナちゃんが言っていた通りだ」


「はっ? いや……ちょっと待ってく――……」


「うおおおっ!? 俺らの娘になんて事しやがるんだお前らは――っ!?」


簀巻すまきにすんぞ! おらあああっ!!」



 リハエル王子様が制止する声も空しく、

一斉に皆の持っていたタワシが、王子様に投げつけられる。

悲鳴を上げる王子サマーズ、激昂し王子様に襲い掛かるお屋敷の保護者の皆様。


 その間、さっとリファによって王子様から引きがされ、

懐にかばわれた私。もう大丈夫よとリファにあやされます。


 すんすん言いながら、私はリファのお腹に顔を埋めました。

リファのふわふわな温もりによる安心感は半端なく、すりすりと頬ずり。

状況を一瞬忘れて悦に入ってしまうほどです。

むはあ――っ! やっぱり、リファのお腹最高です~~っ!


 ……はい、すみません。思いっきり現実逃避です。



 ユーディ達は王子様相手なので、驚いておりまして、

おじいちゃマーズが狙われない様にと、彼女達を別室に避難させました。

皆さんにとって、彼女達も可愛い娘であり、孫なのです。



「みいみい~みいみいみ~」


 そんなこんなで私達が大騒ぎしていた中、

部屋の隅に居たティアルが、尻尾をふりふりしてクッキーを食べながら、

その一部始終をのん気に眺めていました。

テーブルの上にあった、ティアル用のおやつを発見したようです。


 鼻歌を歌っている所を見ると、やっぱり状況を理解していないらしい。

ティアル……君のご主人様が悲鳴を上げているんだがね? いいのか?


 ティアルを横目に見た後、私はローディナの気遣いで、

おじサマーズと交わした会話を思い出します。



『――ユリアが、リハエル王子様に狙われてとても怖い思いをしたんです。

 だから私、今でも凄く心配で……また何かあっても困るから、

 お屋敷の中でも、気を付けてあげて下さいますか?』


 メインヒロインであるローディナのスキルは、このお屋敷でもいかんなく発揮です。

私が少しずつ地道におじサマーズと仲良くなっていったのに対し、

ローディナ、なんと遊びに来た初日にお屋敷の全員と仲良くなっておりました。


 彼女は役者にとって必須の、瞬間暗記能力と話術に長けておりまして、

お屋敷の使用人全員の顔と名前を初日に覚えていたのです。

大物の俳優さんだと、共演する人達だけじゃなくて、

裏方のスタッフの方達まで覚えている人がいますが……。

まさに彼女はそんな事が出来るタイプのお方でした。


(ローディナが、皆さんに人気の理由が良く分かりましたよ。

 彼女が私の世界に居たら、芸能人として十分やっていける素質があります)



 最終的には仕事が出来る出来ないではなく、人間関係で決まりますからね。


 で、そのローディナにより、王子様に襲われかけた事だけを聞かされた皆様。


 女癖が悪いと思われていたアデル様は、先日の騒動で無実が証明されましたが、

ライオルディ王子様の話は……誰もが知る話であり、

更にその弟が襲ったという事で、考える事は一つです。



 ――この国の王子様達は、ろくなのが居ないんじゃないか? と……。


 間の悪い事に、彼らは見てしまった光景が、

私がまた襲われかけて居るという状況にしか見えず、

二人の王子様は、屋敷のシーツで簀巻すまき状態にされてしまったのだった。


 捕らわれてしまった王子サマーズから悲鳴が上がる。



「なっ!? いきなり何をするお前達!! 無礼だろう!?

 私を誰だと思っているんだ!」



 と、動揺する弟のリハエル王子様と……。



「ははは、ここの使用人の皆は過剰なスキンシップが好きだなあ。

 ……だが、そろそろ助けてはくれまいか!?

 君達とは長い付き合いだろう!? ええっ!?」



 と、少々状況を飲み込めずに、素っ頓狂な声を上げる、兄のライオルディ王子様。



 一方で、使用人のおじサマーズは彼らを担ぎ上げていた。

えっさ、ほいさ、リズムを付けながら玄関の方へ……。


 うわあ……まるで私の世界のお神輿みこしのようですね~。

……って、のん気に見ている場合じゃない、止めないと!



「ルディ、ルディ、オモシロイ! にいにい!

 モット、モット~! ティアルモ、ヤル~」


「ティアル! 私は遊んでいるんじゃないんだがね!?」



 ティアルは何かの遊びかと思って大はしゃぎです。

後ろ足で立ち上がって、にいにい言いながら前足でパチパチしてます。

それに必死で否定するルディ王子様。こうしてみると、漫才にしか見えないな。



「へ……あの、ちょっと……?!」



 状況は更に悪い方向へ……。

城の前に捨てて来ようと言い出す皆様の後を追いかけて、

私は必死になって、皆様を制止しました。


 幾らなんでも、それは不味すぎるので全力で阻止しなくてはっ!


 王子様相手に、皆さん物怖じしない方ばかりですね。

私の頭の中でローディナが、Vサインをして微笑んでいる姿が浮びました。

世論を味方に付ける彼女の作戦……恐るべし、ですよ。



 どうしよう……スライディング土下座じゃ済まないかも……です。







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