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32・突入! 院長室1



 無茶ぶりもここまで来たら、ある意味勇者です。


(うう……アデル様、アデル様~)


 心の中でアデル様に助けを求めたいのを必死にこらえて、歩を進める。

レベル15にして、私はたぶんボスクラスであると思われる院長室に突入しますよ。

タイトルを付けるのなら、「無茶ぶりメイド、潜入捜査」と付くのかな?


「グルルル……」


 不安がる私を他所に、リファがなんだか、とってもやる気を見せております。

爪をしゃっきーん、しゃっきーんと出したり引っ込めたりしている。

子供(私)に手を出した……かも知れない人に会うんですものね。

そりゃあ、母親としては許せないでしょう。


 でもね。これ以上大きくなるとリーディナに怒られると思うから、

また小さくなっておいてね? 部屋がとんでもない事になりそうです。



「いい? 私達の目的は、院長先生の隠し部屋にある黒の書を探す事、

 あれは黒魔術に関する事が書かれている禁術の本よ。

 黒いカバーの付いている物は、全てそれに関係する本だから」



 リーディナが見たという禁断の本を院長室から見つけ出し、

私に関する何か手がかりが無いか、手分けして読んで見て、

必要とあらばその本は私達の手で処分しよう。そうリーディナは言い出した。


 確かに争いの種になる物を残す訳にも行かないし、第三者にもしも知られたら、

リーディナを含めたアカデミーの生徒達にも迷惑が掛かるだろう。

何より、そんな物騒な物、悪意のある者に使われたら厄介だから、勿論賛成ですよ。



(もしそんな禁術が実用化されたら、他国と争う事になる可能性がある。

 アデル様やラミスさん達が、騎士として戦場に駆り出されるかもしれないもの。

 私達も今までのように、平穏に暮らす事は出来なくなるよね)



 怖いけれど、逃げてばかりもいられない事はこの世界に来て経験済み。

私達は早速、院長先生の部屋に向かう事にしました。


 で、その途中でリファに「巨大化して暴れるのは駄目ですよ?」とお願い。

だって、そんな事したら学校を壊してしまいますものね。


「キュウウ~?」


 リファは「(なんで~?)」って顔をして、

何度も抗議をしているようですが、これは切実なんだな、うん。


 無事にみんなで戻る事が出来ても、賠償出来る程のお金も無いですし。



 大怪獣リファが出てきたら、悪役は私達のような気がしますから。

いえ、私も前回は調子づいて、傍で色々とやっていたりしましたけどね?


(ほどほどに、お願いしますと言っておきますか)



 夕方という事もあり、建物の中は思っていたよりも閑散としていて、

たぶんほとんどの人達は寮か食堂へと行っているらしい。

でも数人は研究の為に、個室や教室を利用している先生や生徒さんも居るそうで、

私達は出来るだけ人目を避けながら、目的地の院長先生の部屋に向かいます。


 えっとね? でも、これだけぞろぞろ歩いていると……目立っていると思うよ?

でも、リーディナもローディナも真剣なのでツッコミは言えませんでした。


 対する私……今にも「(アタシ暴れるわよ!)」 と、

別の意味で「やる」気が満々のリファに抱きついて必死に抑え、

ティアルが余所見をしながら鼻歌を歌っているので、それも制止。


 ……なんだろう、前方と後方で随分と緊張感が違うのですが?


 ティアルが、頭にハンカチでほっかむりしているのも、

きっと怪盗ごっこのつもりなんだろうな。でも、それ泥棒さんの格好だよティアル。



「――よしよし、人影はなしね……ここよ」



 リーディナは私達に振り返って、口元に人差し指を当ててこちらに合図。


「ティアル、リファ、静かにしていてくださいね?」



 ティアルはさっと前足で口元を覆い、

他の者達も緊張した面持ちで部屋に入っていく。


「静寂なる不可侵の扉を開き、我が前に道を示したまえ、

 我こそは妙なる調べを持つ者、今契約の名の元に我らを導きたまえ……」


 先ほどからリーディナは、小さく詠唱呪文を幾度も繰り返している。

きっと前に引っかかったトラップの解除をしているのだろう。


 でも、なんだろう……私はその時、何か胸騒ぎのようなものを感じていた。

違和感……そう、なぜか酷い違和感がする。どうという説明は出来ないけれど、

部屋に入った瞬間、その場の空気がかなり重たいものに変わったように感じたのだ。



「……なんだろう? この感じは……」


「何をしているの? 行くわよユリア」


「ああ、すみません。リーディナ今行きますね」

 

 初めて入る院長室は、机の前に応接用のソファーとテーブルがあり、

インテリアは私の世界の学校でも、そう変わり映え無い一室だ。

壁には代々の院長の肖像画、そして……賞状やトロフィーの様な杯状さかずきじょうのもの、

一つ違うのは、部屋にむせ返る程の数になる薔薇が生けてある事だ。


「凄い薔薇の量……薔薇の花が好きなのかな」



 これだけあると、薔薇から発せられる香りが部屋に充満して、結構きついなあ。

横を見ると、ティアルは目をぐるぐるさせて前足で鼻を押さえているし、

リファも何だか気持ち悪そうで……私達でさえも気分が悪くなるほどだ。


 息をするな! 死ぬぞ! と、

おかしな事を言いそうな位に悪臭となっていますね。



「すごいわね……院長先生は鼻でも悪いの? リーディナ?

 こんなになるまで部屋一杯に薔薇を置くなんて……薔薇の収集家なのかしら?」


 ローディナが聞くと、リーディナは肩をすくめた。



「どうかしらね? 院長先生は昼間この部屋からほとんど出ないのよ。

 たまに講義をしてくれる時は、教室でもこんな状態よ。

 だから私達は、その日の授業だけ鼻をつまんでやっているわ」


「薔薇好きもここまで来ると……あれ?」



 きつい薔薇の匂い……に戸惑いながらも、部屋の中を見渡してみる。

肖像画に描かれた代々の院長先生の顔ぶれを見て、私はある事に気づいた。



「リーディナ……アカデミーの院長先生は、代々一族でやっているんですか?」



 壁に並べ立てられた顔は……どれも面差しがよく似ていた。

これだけ似ているとなると、一族でずっと運営してきたのだろう。

現在の院長先生は女性のようだ。それも代々女性が続いているとなると、

女系家族なのだろう。



「そうよ。このアカデミーの創立者が院長先生の先祖に当たる人で、

 資金も出して、現在の形にしてくれたそうだから……。

 ああ、あった! この本棚の奥に仕掛けがあるのよ」



 本棚の一部は、隠し扉を隠す装置になっていたらしい。

だから逆の事をすれば壁が動いて、隠されていた物が目の前に現れるそうだ。

リーディナは壁に手を添えると、再び詠唱を始めてそれを開いた。

簡単な術式を組み込むのは、彼女の得意分野のようですね。


 ……思ったんだが、錬金術の得意な人なら怪盗にもなれそうだと思った。

手際がよさ過ぎるよリーディナ。



「開いたわ」


「みいみい、リーディナ、スゴイスゴイ」



 ティアルは大喜びで、リーディナにパチパチ前足で拍手。

ああ、どうしよう。ティアルの輝く目を見ていると、

あの子が真似をしそうな気がしますよ。



「まあね。さっ、皆行くわよ。ちゃっちゃと始め――」



 みんなが部屋に入れた事に浮かれている中で、

私だけ一人、顔を青ざめていた。


「まって、これ……まさか……」


 ふと、その時思わず浮んだある考えに、

今ある状況は辻褄つじつまが合う気がする。


 そんな、そんな事があるのだろうか? いやでも……。

先ほどから感じた違和感は「そういう意味」なのではないだろうか?



「リーディナ……あの……!?」



 直後、みんなに話そうと顔を上げた私の背後で、ふと何かの気配を感じ取る。



 はっと私が振り返ろうとした瞬間、

私以外の全員が、隠し部屋の壁に叩き付けられていた。



「「きゃああっ!?」」


「みいい~っ!?」


「ガウウ~っ!?」


「みんなっ!?」


 何者かに風の魔法で、背後から攻撃を仕掛けられたのだと気づいた時には、

みんなの体が一気に宙に浮いて、壁へと吹き飛ばされた後だった。

叩きつけられてしまう寸前に、リファが風でみんなの体を包み込み、

衝撃を防いでくれたようだが、それでも少しダメージを受けてしまったらしい。



 一人、その場に取り残される形となった私は、

背後に感じた気配にびくりと肩が震え、恐る恐る後ろを振り返ると、

其処には先程まで居なかった筈の老女が立っていた。



「――二度も部屋へ忍び込んで来るとは……呆れたものですね。

 リーディナ・ストラティス。あなたはもう少し頭の良い子だと思っていましたが」


「……っ!?」


「う……うう、やば……見つかった」


 リーディナが顔を歪めて話しかけてきた老女を見つめる。



「いた……だ、大丈夫? リーディナ? ティアル? リファ?」


 ローディナはよろよろと立ち上がると、周りのものを気遣っていた。


 うめくみんなの前で、悠然ゆうぜんと構える小柄な一人の老女。


 黒いローブを目深まで被ったまま、淡々とした声で此方にゆっくり歩み寄ってくる。

だが、なぜかその際にわずかに彼女自身もよろけていた。

そして一瞬、ちらりと私の方を見た気がした。


「…………あなたの事は後ですね」


「え?」


 けれど視線は直ぐにそらされた。


(背後を取られていたのに、あのリファが気づかなかったなんて……っ!)


 何かの魔法で自分の気配を消したのだろうか。


 はっと我に返り、慌てて体制を崩しているみんなの元へ駆け寄った私は、

直ぐにリーディナに貰っていた回復アイテムを、みんなに向けて使った。



「グルルルルッ!!」



 そんな中でいち早く体勢を立て直し、攻撃を仕掛けようとしたのはリファだった。


 リファが私をかばうように目の前に進み出ると、

小さくなっていたリファの体が、光と共に一瞬にして大きくなる。

でもそれは、以前見た姿よりもふた周りくらい小さい体だった。


「ウオオオンッ!!」


 そしてリファの口から出た閃光が、院長の腹部へと目掛けて放たれた。

考えて見ればリファも光を扱えたんだ。ただし、魔法じゃないけれど。



「ぐああっ?!」



 今度は院長の方が悲鳴をあげて後方へと吹っ飛ぶ番だった。


 彼女の着ていたローブが、リファの閃光によって一部が焼け落ちる。

先ほどの私の頼みを覚えていてくれたのか、

リファはかなり手加減してくれたように見えた。


「リファ……」


 その時に院長の着ていたローブが破け、その隙間から見えたのは、

彼女の腹部に幾重いくえにもほどこされた。赤黒い何かの刻印。

遅れて立ち上がった私達は、その姿を見てしまった。


 それに気付いたリーディナの口元は震える……そして、思わず口元を手で覆った。



「どうして……どうして院長先生が!?」


「……や、やっぱり、そういう事なんですね」



 その意味を、リーディナだけが真っ先に気づき、

彼女の反応を見て、私も浮かんでいた考えを確信した。

この部屋にむせ返るほどの薔薇の香り、代々「同じ顔」をした院長達。

それらは良く見れば見るほど似ている。似ているはずだ。



「院長先生は……最初から”一人だった”という事ですね。

 この人はこのアカデミーの創立者であり、初代の院長先生。

 薔薇は自身の匂いを隠す為のカモフラージュで、

 代々の院長先生の肖像画は、彼女が変装したものだということですか?」


「……例え体の機能が死に絶えていても、先生自体が成功例だったということね。

 なるほど、どうりで前の院長が居なくなったと思ったら、

 同じ顔の人が直ぐに指名されて来られる訳よね。同一人物なんだもの」



 周りに怪しまれないように、定期的に代替わりしたように見せかけ、

実はたった一人で、院長としてこのアカデミーに存在し続けていたのだろう。


 院長の体に刻まれたその印は、禁術の本に書いてある印と全く同じだった。

私達はここへ来る前に、リーディナから本の目印にと教わっていたのである。

だが、まさか院長自体が同じものを施していたとは思わなかった。


 つまり、院長自身が、アンデッドそのものだったのだ。



「体に……そ、そうだわ! ねえユリア! 貴方、体にあんな刻印はあるの?」



 ローディナがある事に気づいて、私の方を振り向く。


 もしも私が、本当に禁術でよみがえらせられた人間だったのならば、

院長先生と同じ印がある筈だと。けれど、私の体にはそのような物は一切無く、

また、死臭なんてものもしていない。



「いえ、こういう物騒なのは一切無いですよ!

 というか、お泊りで一緒にお風呂に入ったから知っているでしょう?」


「じゃ、じゃあ今回の事とは全く関係なかったのね?!」


「そういう事らしいわ! 良かったわねユリア!」



 いや、今の状況は全く良くないからっ! 良くないですよ!




(ひ~アデル様~怖いです~っ!!)



 この状況は余りにも不利、流石に無事には帰しては貰えないだろう。

自分達は院長の最大の秘密を知ってしまったのだから。

これは口封じに消さされるのがセオリーでしょうね。


 忌々しげに、腹部を手で触れて押さえる院長の顔は、

私達をにらみつけ、よろよろと立ち上がっていた。


 その手には、媒介ばいかいである杖を握り、杖の先をこちらへと向けて来る。



「はあ……こんなものまで見られてしまっては仕方ありませんね。

 可哀そうですが、ここであなた達には死んで貰いましょう。

 この秘密は誰にも知られる訳にはいかないのです。

 例え未熟な、私の可愛い教え子の一人だったとしても。

 大人しく諦めるのであれば見逃してあげたのですが……愚かな子」



 院長先生は、悪役さながらの台詞せりふに相応しい言葉を言ってのける。


 こんな状況下で言うのも何だが、とても勉強になりました!


 今度、おほほと笑う時には、こういう事を言って見ようと思います。

だから、だから無事に帰らせて下さい! もう、未練たらたらですので!



「院長先生! なぜですか!? なぜなんですか!!

 なぜ禁術を使ってまでこんな事をずっと続けているんですか?

 国が法で禁じている事を、院長先生である貴方が、なぜこんな……っ!?」



 この術は悪意ある者に渡る事を恐れ、研究自体が禁止されているという。

錬金術は人を助け、生活の役に立てるものだとアカデミーで教えて来た事、

それを創立者である彼女自身が、自ら破っていたのだ。



「禁術は、その全てが悪意ある者が使ったら大変な事になる。

 異端技術の中でも、一番やってはいけない事じゃないですか!!」


 リーディナには、生徒を導く立場の人がそれを行ったのが許せないのだろう。

自分が目指して来たものは、そんな恐ろしい事に使われるべきじゃないのだと。


「錬金術が忌まわしき文明だと言う人も居るけれど、

 きっといつか、今よりも世間に認められ、人を助ける技術に発展するって、

 そう仰っていたのは、あなただったじゃないですか……っ!」


「リーディナ……」


 ローディナは妹の心痛を思い、傍らに寄り添い彼女を支えた。

けれど……リーディナの必死な訴えは、目の前の院長の心には届かなかった。



「私はまだ……やるべき事がある。こんな所でで終わらせる訳にはいかないの。

 肉体を維持する事は出来た。けれど、あの人はまだ……。

 私はまだ諦めるわけには行かないのよ。ごめんなさいね」



 杖を持ち直し、重々しい声で詠唱を唱え始めた。

その瞳には、人に危害を加える事に何の躊躇とまどいも無い様子だった。


 長い年月、魔力をその身に溜め込んできた者と、見習いの錬金術師、

力の差は歴然である。ぐっと私達は意識を集中した。


「みんなっ! 構えて!!」


 リーディナの合図で私達は戦闘態勢に入る。


 だが、事態は予想だにしない方向へと進んだ。

詠唱を続けていた筈の院長が突如、詠唱の途中で苦しみだし、

うめき声を上げながら、その身から出て来た黒い煙に包まれて行ったのだ。



「ぐが……っ!? まだ……まだ終われない……ぐ……ううがああっ!!


「えっ、な、なに? どうなっているの?」



 足元には、禍々まがまがしい気配を生じた闇の波動と、

赤い血の色のようにうごめく毒々しい魔法陣。

その魔法陣から、無数の黒い手が彼女の体を捕らえて行く。



「うああああああー-っ!!」



 だんだんと、彼女の瞳が赤い色に染まる。

魔に染まる者に見られる時のあの特徴に似ている。


(これ、リファが暴走しかかった時にも……)


爪が伸び、フードがめくれて白髪の髪が広がり、

きだしにされる長い牙。


 手に持っていた木の杖は、一瞬にして灰になって行く。

強い力に杖が耐え切れなかったのだろう。


 黒い闇は院長の体を完全に包み込んでいるようだった。



「い、一体何が起こって……?」


「これまで過剰にその身に掛け続けた魔力が暴走したんだわ。

 何てこと……院長先生がここまで後先考えずにいたなんて……っ!

 魔物に魂を売り払ったのも同然の事よっ!?」



 これまで彼女が自我を保っていられたのは、奇跡のようなものだとリーディナは言う。

彼女は何らかの強い意志で生きながらえて来たようだった。

けれどそれは……この世界の理を無視した事だ。


 当然、その分跳ね返った力は本人へと戻っていく。

理性は食いつぶされ、黒く塗り潰されてしまったのだろう。


 でもここで食い止めねば、まだ校舎に残っている生徒達に被害が行く!!

行かせる訳には行かない……っ!! でも、でもどうすればいいの?



「院長先生……」


「リーディナ構えて!! 自我を失っているわ!!

 あの人はもう魔物に、もう院長先生じゃない!!」



 ローディナの声で呆然としていたリーディナが我に返った。



「……っ! 足止めするわよ。まだ生徒が建物に残っている筈だもの!!」



 リーディナが私達に号令をかける。


 禁術には禁じられているだけの理由があると、リーディナは言っていた。

それを施された者は、以前の状態ではいられない事が多いそうだ。

時間の経過と共に、心身ともに蝕まれ始め、心を黒く染め上げ自我を失い、

魔族の仲間へと変じ……最悪、異形の姿で暴走する。


 これまで長い時間、その身に施していた禁術がゆがみ始めた。

きっと、強い力に手を出そうとして、逆に飲み込まれたのだろう。



 彼女の着ていたローブの周りには、

先ほどまで見えなかった無色の透明の鎖が現れていた。

それが黒い煙を出し始め、一瞬にして引き千切られる。


「ああああああっ!!」


 あれが、院長自身の暴走を抑え込んでいたのだろうか……?

咆哮ほうこうをあげながら、院長はその手から闇の波動を出してきた。


 部屋が闇へと包み込まれる。それでも尚、闇は広がりを見せていた。




 慌ててリーディナとローディナが身構えるが、間に合いそうも無い、

リファが私を覆い隠し、私は短剣を握ったまま悲鳴をあげる。



「――みいみい、みいみい」


「……?」



 その時、足元からティアルのみいみいと言う、

この場に似つかわしくない、なんとものん気な声が聞こえた。


「え?」



 見下ろした時に、いつの間にかティアルが私達の目の前に立っているではないか。


 ぽて、ぽて、ぽて……数歩、院長の方へと近づいていた。



「うそ、ティアル駄目!?」


「みい、オホシサマ、ピーカピカ!」



 後ろ足で立ち上がり、前足を合わせてお祈りをするティアル。

危ないっ! 私がそう叫びティアルに駆け寄り手を伸ばすよりも早く、

私達の目の前に、突如、星型の大きな光の壁が出来て院長の攻撃を防いだ。


 ……一体何が……あれ? ティアルって魔法なんて使えたっけ?

確かまだ勉強中で、何も出来なかった筈だけど?



「みい!」


「ティ、ティアル? どうして……」



 呆然とする私達に、ティアルは振り返り、こう言ってのけた。



「み? オホシサマ、タベテ、オボエタヨ~?」



 エライ? そう言ってティアルは嬉しそうに、

こちらを見ながら尻尾をフリフリしている。ほめて、ほめてと嬉しそうだ。


(た、食べたってあの星だよね?

 さっきの空飛ぶ金平糖こんぺいとうみたいなあれ……)



 それ食べただけで何か能力備わってしまったの? 覚えられるものなの!?


 凄いな……どうやらティアルは、食べるとその能力を使う事が出来るらしい。


「何はともあれ助かりました!」


 ティアル、まさか君がこんな所で活躍するとはっ!!

無事に帰る事が出来たら、めいいっぱい可愛がってめますからね!


 でも、ティアルにはその一回が限度だったのか、


「み~……ティアル、ツカレチャッタ」


 ……と、くあっと欠伸あくびをしたかと思えば、

その場にころんと寝転がってしまってしまい、

そのまま、すぴすぴと眠ってしまいました。


 おお~い!まだ終わってないからっ!!

始まったばかりで戦線離脱ですか、ティアル!



「雪山じゃないけれど、こんな所で寝たら死ぬよティアル!!」



 ……あ、でも考えて見れば、お昼寝の時間がまだでしたね。


 ティアル、ごめんよ? ここで寝かしつけるのは危険きわまり無いのですが、

こんな小さな子供に無理をさせる訳にも行きませんものね。

危なくないように、隅にティアルを隠しておきます。はい。



「そうか付食属性! ティアルでかした! ユリア、ローディナ行くわよ!!」


「ええっ!」


「は、はい、望む所です!」



 残された私達はこの好機を利用すべく、一斉に攻撃を仕掛けた。

怖いなんてもう言ってなんかいられないんだ! ここで負けたら一大事。

私は院長の影に向かって勢いよく短剣を投げ、壁に縫いつけ動きを封じる。


 リーディナが作ってくれた物は、「影縫い」という特殊効果持ちで、

対象の動きを封じる事が出来ると聞いたのだ。



「よし、みんな今のうちに……助けを」


「グアアアアアッ!!」


「「「えっ!?」」」



 でも、動きを止められたまでは良かったけれど、5ターン以内に終わらせる筈が、

1ターン目にしてローディナ達の使う媒介ばいかいに負荷が掛かりすぎ、

次々と媒介ばいかいの装飾は砕け散ってしまったのだった。


 光属性が使えないと、他の攻撃はほとんど意味が無いのにっ!?

私達は一瞬にして状況が不利になってしまった。



「きゃあっ!?」


 パリンと音を立てて割れ、ローディナが悲鳴を上げる。


「ローディナ、大丈夫ですか?!」


「まっず……壊れたっ! 退路は塞がれているし、行かせたら大惨事だし……っ」


「やっぱり相手の魔力が桁違けたちがいだわ、リーディナ!

 道具で力押ししてごまかすだけじゃ駄目なのかも!!

 これだけ強いと、本格的なホーリー系の光魔法が使えないと!!」



 私が放った短剣で動きを封じているが、とどめを出来るほどじゃない。

先ほどからリファが閃光を発して、こちらへ近づかないようにしてくれるけれど、

何時までもこんな状況を続けられるわけじゃ無い。

リファが疲弊ひへいしたら、即、ジ・エンドだ。


 其処で私はアデル様の名を呼んだ。



 万一危険が近づいたら、自分の名を呼べと言っていたのを思い出したから。



「アデル様! アデル様!」



 この声が彼に届いてくれる事を必死に祈る。

すると、その瞬間、何も無い壁から光をまとった何かが現れた。

私達と院長の間に、さっと立ちはだかるように立つその姿。


 それはみるみるうちに、光の粒が霧散して人の姿が現れる。

アデル様? そう思っていたが、その顔は意外なものだった。


 一瞬だけチラッとこちらを向いたその顔は――。


「――え……?」


 金色の髪が印象深いその人……自分の知るあの人にとても良く似ていた。

誰よりもここに現れる筈も無い存在である筈なのに……。



「ルディ……王子様?」



 いや、とても似ているが違う人に見える。

ルディ王子様は肩まで届く髪の長さだが、この人は短い、

髪の色や面差しはとても似ているが、この人は髪がウェーブの掛かった髪型をしている。


 それにまるで聖職者のような、白い礼装に金色の装飾が施された服を着ていた。


「――……っ」


 だれ?……そう言う事も出来ずに、時間が急にゆっくりと過ぎていくのを感じた。

その一方で、空気そのものも何だかさっきより重くなった気がする。


 リーディナを見ても、ローディナを見ても、その事に気づいていない、

リファも彼が現れた事にすら気づいていないらしい。

と言うよりもまばたきすらしていない。


 其処でようやく、私以外の周りの時間が止まっていたのだと気付いた。



(ま、まさか、この人がやったの?)



 みんなは固まってしまったけれど、

私はなぜか動けるようだ……どうしてだろう?

手をにぎにぎと開いたり、閉じたりするが、普通に動かせる。



「困るな。一般人に手を出されては……隠しおおせるとでも思ったのか? 

 これまでは他者への被害がないから、例え異端技術でも見逃していたんだがな。

 だが、考えが甘かったようだ。秩序違反ちつじょいはんはここで消えて貰おう」



 そう言うなり、ルディ王子様に似たその青年は、

光で出来た大鎌を、その両手に出現させたかと思うと、

かつて院長だった魔物へと、容赦ようしゃ無く鎌を振り下ろす。


 光の一閃。


 すると振り下ろした所から発せられた大きな光の柱が、相手を包み込んで行った――。





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