32・突入! 院長室1
無茶ぶりもここまで来たら、ある意味勇者です。
(うう……アデル様、アデル様~)
心の中でアデル様に助けを求めたいのを必死にこらえて、歩を進める。
レベル15にして、私はたぶんボスクラスであると思われる院長室に突入しますよ。
タイトルを付けるのなら、「無茶ぶりメイド、潜入捜査」と付くのかな?
「グルルル……」
不安がる私を他所に、リファがなんだか、とってもやる気を見せております。
爪をしゃっきーん、しゃっきーんと出したり引っ込めたりしている。
子供(私)に手を出した……かも知れない人に会うんですものね。
そりゃあ、母親としては許せないでしょう。
でもね。これ以上大きくなるとリーディナに怒られると思うから、
また小さくなっておいてね? 部屋がとんでもない事になりそうです。
「いい? 私達の目的は、院長先生の隠し部屋にある黒の書を探す事、
あれは黒魔術に関する事が書かれている禁術の本よ。
黒いカバーの付いている物は、全てそれに関係する本だから」
リーディナが見たという禁断の本を院長室から見つけ出し、
私に関する何か手がかりが無いか、手分けして読んで見て、
必要とあらばその本は私達の手で処分しよう。そうリーディナは言い出した。
確かに争いの種になる物を残す訳にも行かないし、第三者にもしも知られたら、
リーディナを含めたアカデミーの生徒達にも迷惑が掛かるだろう。
何より、そんな物騒な物、悪意のある者に使われたら厄介だから、勿論賛成ですよ。
(もしそんな禁術が実用化されたら、他国と争う事になる可能性がある。
アデル様やラミスさん達が、騎士として戦場に駆り出されるかもしれないもの。
私達も今までのように、平穏に暮らす事は出来なくなるよね)
怖いけれど、逃げてばかりもいられない事はこの世界に来て経験済み。
私達は早速、院長先生の部屋に向かう事にしました。
で、その途中でリファに「巨大化して暴れるのは駄目ですよ?」とお願い。
だって、そんな事したら学校を壊してしまいますものね。
「キュウウ~?」
リファは「(なんで~?)」って顔をして、
何度も抗議をしているようですが、これは切実なんだな、うん。
無事にみんなで戻る事が出来ても、賠償出来る程のお金も無いですし。
大怪獣リファが出てきたら、悪役は私達のような気がしますから。
いえ、私も前回は調子づいて、傍で色々とやっていたりしましたけどね?
(ほどほどに、お願いしますと言っておきますか)
夕方という事もあり、建物の中は思っていたよりも閑散としていて、
たぶん殆どの人達は寮か食堂へと行っているらしい。
でも数人は研究の為に、個室や教室を利用している先生や生徒さんも居るそうで、
私達は出来るだけ人目を避けながら、目的地の院長先生の部屋に向かいます。
えっとね? でも、これだけぞろぞろ歩いていると……目立っていると思うよ?
でも、リーディナもローディナも真剣なのでツッコミは言えませんでした。
対する私……今にも「(アタシ暴れるわよ!)」 と、
別の意味で「やる」気が満々のリファに抱きついて必死に抑え、
ティアルが余所見をしながら鼻歌を歌っているので、それも制止。
……なんだろう、前方と後方で随分と緊張感が違うのですが?
ティアルが、頭にハンカチでほっかむりしているのも、
きっと怪盗ごっこのつもりなんだろうな。でも、それ泥棒さんの格好だよティアル。
「――よしよし、人影はなしね……ここよ」
リーディナは私達に振り返って、口元に人差し指を当ててこちらに合図。
「ティアル、リファ、静かにしていてくださいね?」
ティアルはさっと前足で口元を覆い、
他の者達も緊張した面持ちで部屋に入っていく。
「静寂なる不可侵の扉を開き、我が前に道を示したまえ、
我こそは妙なる調べを持つ者、今契約の名の元に我らを導きたまえ……」
先ほどからリーディナは、小さく詠唱呪文を幾度も繰り返している。
きっと前に引っかかったトラップの解除をしているのだろう。
でも、なんだろう……私はその時、何か胸騒ぎのようなものを感じていた。
違和感……そう、なぜか酷い違和感がする。どうという説明は出来ないけれど、
部屋に入った瞬間、その場の空気がかなり重たいものに変わったように感じたのだ。
「……なんだろう? この感じは……」
「何をしているの? 行くわよユリア」
「ああ、すみません。リーディナ今行きますね」
初めて入る院長室は、机の前に応接用のソファーとテーブルがあり、
インテリアは私の世界の学校でも、そう変わり映え無い一室だ。
壁には代々の院長の肖像画、そして……賞状やトロフィーの様な杯状のもの、
一つ違うのは、部屋にむせ返る程の数になる薔薇が生けてある事だ。
「凄い薔薇の量……薔薇の花が好きなのかな」
これだけあると、薔薇から発せられる香りが部屋に充満して、結構きついなあ。
横を見ると、ティアルは目をぐるぐるさせて前足で鼻を押さえているし、
リファも何だか気持ち悪そうで……私達でさえも気分が悪くなるほどだ。
息をするな! 死ぬぞ! と、
おかしな事を言いそうな位に悪臭となっていますね。
「すごいわね……院長先生は鼻でも悪いの? リーディナ?
こんなになるまで部屋一杯に薔薇を置くなんて……薔薇の収集家なのかしら?」
ローディナが聞くと、リーディナは肩をすくめた。
「どうかしらね? 院長先生は昼間この部屋から殆ど出ないのよ。
たまに講義をしてくれる時は、教室でもこんな状態よ。
だから私達は、その日の授業だけ鼻をつまんでやっているわ」
「薔薇好きもここまで来ると……あれ?」
きつい薔薇の匂い……に戸惑いながらも、部屋の中を見渡してみる。
肖像画に描かれた代々の院長先生の顔ぶれを見て、私はある事に気づいた。
「リーディナ……アカデミーの院長先生は、代々一族でやっているんですか?」
壁に並べ立てられた顔は……どれも面差しがよく似ていた。
これだけ似ているとなると、一族でずっと運営してきたのだろう。
現在の院長先生は女性のようだ。それも代々女性が続いているとなると、
女系家族なのだろう。
「そうよ。このアカデミーの創立者が院長先生の先祖に当たる人で、
資金も出して、現在の形にしてくれたそうだから……。
ああ、あった! この本棚の奥に仕掛けがあるのよ」
本棚の一部は、隠し扉を隠す装置になっていたらしい。
だから逆の事をすれば壁が動いて、隠されていた物が目の前に現れるそうだ。
リーディナは壁に手を添えると、再び詠唱を始めてそれを開いた。
簡単な術式を組み込むのは、彼女の得意分野のようですね。
……思ったんだが、錬金術の得意な人なら怪盗にもなれそうだと思った。
手際がよさ過ぎるよリーディナ。
「開いたわ」
「みいみい、リーディナ、スゴイスゴイ」
ティアルは大喜びで、リーディナにパチパチ前足で拍手。
ああ、どうしよう。ティアルの輝く目を見ていると、
あの子が真似をしそうな気がしますよ。
「まあね。さっ、皆行くわよ。ちゃっちゃと始め――」
みんなが部屋に入れた事に浮かれている中で、
私だけ一人、顔を青ざめていた。
「まって、これ……まさか……」
ふと、その時思わず浮んだある考えに、
今ある状況は辻褄が合う気がする。
そんな、そんな事があるのだろうか? いやでも……。
先ほどから感じた違和感は「そういう意味」なのではないだろうか?
「リーディナ……あの……!?」
直後、みんなに話そうと顔を上げた私の背後で、ふと何かの気配を感じ取る。
はっと私が振り返ろうとした瞬間、
私以外の全員が、隠し部屋の壁に叩き付けられていた。
「「きゃああっ!?」」
「みいい~っ!?」
「ガウウ~っ!?」
「みんなっ!?」
何者かに風の魔法で、背後から攻撃を仕掛けられたのだと気づいた時には、
みんなの体が一気に宙に浮いて、壁へと吹き飛ばされた後だった。
叩きつけられてしまう寸前に、リファが風でみんなの体を包み込み、
衝撃を防いでくれたようだが、それでも少しダメージを受けてしまったらしい。
一人、その場に取り残される形となった私は、
背後に感じた気配にびくりと肩が震え、恐る恐る後ろを振り返ると、
其処には先程まで居なかった筈の老女が立っていた。
「――二度も部屋へ忍び込んで来るとは……呆れたものですね。
リーディナ・ストラティス。あなたはもう少し頭の良い子だと思っていましたが」
「……っ!?」
「う……うう、やば……見つかった」
リーディナが顔を歪めて話しかけてきた老女を見つめる。
「いた……だ、大丈夫? リーディナ? ティアル? リファ?」
ローディナはよろよろと立ち上がると、周りのものを気遣っていた。
呻くみんなの前で、悠然と構える小柄な一人の老女。
黒いローブを目深まで被ったまま、淡々とした声で此方にゆっくり歩み寄ってくる。
だが、なぜかその際に僅かに彼女自身もよろけていた。
そして一瞬、ちらりと私の方を見た気がした。
「…………あなたの事は後ですね」
「え?」
けれど視線は直ぐにそらされた。
(背後を取られていたのに、あのリファが気づかなかったなんて……っ!)
何かの魔法で自分の気配を消したのだろうか。
はっと我に返り、慌てて体制を崩しているみんなの元へ駆け寄った私は、
直ぐにリーディナに貰っていた回復アイテムを、みんなに向けて使った。
「グルルルルッ!!」
そんな中でいち早く体勢を立て直し、攻撃を仕掛けようとしたのはリファだった。
リファが私を庇うように目の前に進み出ると、
小さくなっていたリファの体が、光と共に一瞬にして大きくなる。
でもそれは、以前見た姿よりもふた周りくらい小さい体だった。
「ウオオオンッ!!」
そしてリファの口から出た閃光が、院長の腹部へと目掛けて放たれた。
考えて見ればリファも光を扱えたんだ。ただし、魔法じゃないけれど。
「ぐああっ?!」
今度は院長の方が悲鳴をあげて後方へと吹っ飛ぶ番だった。
彼女の着ていたローブが、リファの閃光によって一部が焼け落ちる。
先ほどの私の頼みを覚えていてくれたのか、
リファはかなり手加減してくれたように見えた。
「リファ……」
その時に院長の着ていたローブが破け、その隙間から見えたのは、
彼女の腹部に幾重にも施された。赤黒い何かの刻印。
遅れて立ち上がった私達は、その姿を見てしまった。
それに気付いたリーディナの口元は震える……そして、思わず口元を手で覆った。
「どうして……どうして院長先生が!?」
「……や、やっぱり、そういう事なんですね」
その意味を、リーディナだけが真っ先に気づき、
彼女の反応を見て、私も浮かんでいた考えを確信した。
この部屋にむせ返るほどの薔薇の香り、代々「同じ顔」をした院長達。
それらは良く見れば見るほど似ている。似ているはずだ。
「院長先生は……最初から”一人だった”という事ですね。
この人はこのアカデミーの創立者であり、初代の院長先生。
薔薇は自身の匂いを隠す為のカモフラージュで、
代々の院長先生の肖像画は、彼女が変装したものだということですか?」
「……例え体の機能が死に絶えていても、先生自体が成功例だったということね。
なるほど、どうりで前の院長が居なくなったと思ったら、
同じ顔の人が直ぐに指名されて来られる訳よね。同一人物なんだもの」
周りに怪しまれないように、定期的に代替わりしたように見せかけ、
実はたった一人で、院長としてこのアカデミーに存在し続けていたのだろう。
院長の体に刻まれたその印は、禁術の本に書いてある印と全く同じだった。
私達はここへ来る前に、リーディナから本の目印にと教わっていたのである。
だが、まさか院長自体が同じものを施していたとは思わなかった。
つまり、院長自身が、アンデッドそのものだったのだ。
「体に……そ、そうだわ! ねえユリア! 貴方、体にあんな刻印はあるの?」
ローディナがある事に気づいて、私の方を振り向く。
もしも私が、本当に禁術で蘇らせられた人間だったのならば、
院長先生と同じ印がある筈だと。けれど、私の体にはそのような物は一切無く、
また、死臭なんてものもしていない。
「いえ、こういう物騒なのは一切無いですよ!
というか、お泊りで一緒にお風呂に入ったから知っているでしょう?」
「じゃ、じゃあ今回の事とは全く関係なかったのね?!」
「そういう事らしいわ! 良かったわねユリア!」
いや、今の状況は全く良くないからっ! 良くないですよ!
(ひ~アデル様~怖いです~っ!!)
この状況は余りにも不利、流石に無事には帰しては貰えないだろう。
自分達は院長の最大の秘密を知ってしまったのだから。
これは口封じに消さされるのがセオリーでしょうね。
忌々しげに、腹部を手で触れて押さえる院長の顔は、
私達を睨みつけ、よろよろと立ち上がっていた。
その手には、媒介である杖を握り、杖の先をこちらへと向けて来る。
「はあ……こんなものまで見られてしまっては仕方ありませんね。
可哀そうですが、ここであなた達には死んで貰いましょう。
この秘密は誰にも知られる訳にはいかないのです。
例え未熟な、私の可愛い教え子の一人だったとしても。
大人しく諦めるのであれば見逃してあげたのですが……愚かな子」
院長先生は、悪役さながらの台詞に相応しい言葉を言ってのける。
こんな状況下で言うのも何だが、とても勉強になりました!
今度、おほほと笑う時には、こういう事を言って見ようと思います。
だから、だから無事に帰らせて下さい! もう、未練たらたらですので!
「院長先生! なぜですか!? なぜなんですか!!
なぜ禁術を使ってまでこんな事をずっと続けているんですか?
国が法で禁じている事を、院長先生である貴方が、なぜこんな……っ!?」
この術は悪意ある者に渡る事を恐れ、研究自体が禁止されているという。
錬金術は人を助け、生活の役に立てるものだとアカデミーで教えて来た事、
それを創立者である彼女自身が、自ら破っていたのだ。
「禁術は、その全てが悪意ある者が使ったら大変な事になる。
異端技術の中でも、一番やってはいけない事じゃないですか!!」
リーディナには、生徒を導く立場の人がそれを行ったのが許せないのだろう。
自分が目指して来たものは、そんな恐ろしい事に使われるべきじゃないのだと。
「錬金術が忌まわしき文明だと言う人も居るけれど、
きっといつか、今よりも世間に認められ、人を助ける技術に発展するって、
そう仰っていたのは、あなただったじゃないですか……っ!」
「リーディナ……」
ローディナは妹の心痛を思い、傍らに寄り添い彼女を支えた。
けれど……リーディナの必死な訴えは、目の前の院長の心には届かなかった。
「私はまだ……やるべき事がある。こんな所でで終わらせる訳にはいかないの。
肉体を維持する事は出来た。けれど、あの人はまだ……。
私はまだ諦めるわけには行かないのよ。ごめんなさいね」
杖を持ち直し、重々しい声で詠唱を唱え始めた。
その瞳には、人に危害を加える事に何の躊躇いも無い様子だった。
長い年月、魔力をその身に溜め込んできた者と、見習いの錬金術師、
力の差は歴然である。ぐっと私達は意識を集中した。
「みんなっ! 構えて!!」
リーディナの合図で私達は戦闘態勢に入る。
だが、事態は予想だにしない方向へと進んだ。
詠唱を続けていた筈の院長が突如、詠唱の途中で苦しみだし、
呻き声を上げながら、その身から出て来た黒い煙に包まれて行ったのだ。
「ぐが……っ!? まだ……まだ終われない……ぐ……ううがああっ!!
「えっ、な、なに? どうなっているの?」
足元には、禍々しい気配を生じた闇の波動と、
赤い血の色のようにうごめく毒々しい魔法陣。
その魔法陣から、無数の黒い手が彼女の体を捕らえて行く。
「うああああああー-っ!!」
だんだんと、彼女の瞳が赤い色に染まる。
魔に染まる者に見られる時のあの特徴に似ている。
(これ、リファが暴走しかかった時にも……)
爪が伸び、フードが捲れて白髪の髪が広がり、
剥きだしにされる長い牙。
手に持っていた木の杖は、一瞬にして灰になって行く。
強い力に杖が耐え切れなかったのだろう。
黒い闇は院長の体を完全に包み込んでいるようだった。
「い、一体何が起こって……?」
「これまで過剰にその身に掛け続けた魔力が暴走したんだわ。
何てこと……院長先生がここまで後先考えずにいたなんて……っ!
魔物に魂を売り払ったのも同然の事よっ!?」
これまで彼女が自我を保っていられたのは、奇跡のようなものだとリーディナは言う。
彼女は何らかの強い意志で生きながらえて来たようだった。
けれどそれは……この世界の理を無視した事だ。
当然、その分跳ね返った力は本人へと戻っていく。
理性は食いつぶされ、黒く塗り潰されてしまったのだろう。
でもここで食い止めねば、まだ校舎に残っている生徒達に被害が行く!!
行かせる訳には行かない……っ!! でも、でもどうすればいいの?
「院長先生……」
「リーディナ構えて!! 自我を失っているわ!!
あの人はもう魔物に、もう院長先生じゃない!!」
ローディナの声で呆然としていたリーディナが我に返った。
「……っ! 足止めするわよ。まだ生徒が建物に残っている筈だもの!!」
リーディナが私達に号令をかける。
禁術には禁じられているだけの理由があると、リーディナは言っていた。
それを施された者は、以前の状態ではいられない事が多いそうだ。
時間の経過と共に、心身ともに蝕まれ始め、心を黒く染め上げ自我を失い、
魔族の仲間へと変じ……最悪、異形の姿で暴走する。
これまで長い時間、その身に施していた禁術が歪み始めた。
きっと、強い力に手を出そうとして、逆に飲み込まれたのだろう。
彼女の着ていたローブの周りには、
先ほどまで見えなかった無色の透明の鎖が現れていた。
それが黒い煙を出し始め、一瞬にして引き千切られる。
「ああああああっ!!」
あれが、院長自身の暴走を抑え込んでいたのだろうか……?
咆哮をあげながら、院長はその手から闇の波動を出してきた。
部屋が闇へと包み込まれる。それでも尚、闇は広がりを見せていた。
慌ててリーディナとローディナが身構えるが、間に合いそうも無い、
リファが私を覆い隠し、私は短剣を握ったまま悲鳴をあげる。
「――みいみい、みいみい」
「……?」
その時、足元からティアルのみいみいと言う、
この場に似つかわしくない、なんとものん気な声が聞こえた。
「え?」
見下ろした時に、いつの間にかティアルが私達の目の前に立っているではないか。
ぽて、ぽて、ぽて……数歩、院長の方へと近づいていた。
「うそ、ティアル駄目!?」
「みい、オホシサマ、ピーカピカ!」
後ろ足で立ち上がり、前足を合わせてお祈りをするティアル。
危ないっ! 私がそう叫びティアルに駆け寄り手を伸ばすよりも早く、
私達の目の前に、突如、星型の大きな光の壁が出来て院長の攻撃を防いだ。
……一体何が……あれ? ティアルって魔法なんて使えたっけ?
確かまだ勉強中で、何も出来なかった筈だけど?
「みい!」
「ティ、ティアル? どうして……」
呆然とする私達に、ティアルは振り返り、こう言ってのけた。
「み? オホシサマ、タベテ、オボエタヨ~?」
エライ? そう言ってティアルは嬉しそうに、
こちらを見ながら尻尾をフリフリしている。ほめて、ほめてと嬉しそうだ。
(た、食べたってあの星だよね?
さっきの空飛ぶ金平糖みたいなあれ……)
それ食べただけで何か能力備わってしまったの? 覚えられるものなの!?
凄いな……どうやらティアルは、食べるとその能力を使う事が出来るらしい。
「何はともあれ助かりました!」
ティアル、まさか君がこんな所で活躍するとはっ!!
無事に帰る事が出来たら、めいいっぱい可愛がって褒めますからね!
でも、ティアルにはその一回が限度だったのか、
「み~……ティアル、ツカレチャッタ」
……と、くあっと欠伸をしたかと思えば、
その場にころんと寝転がってしまってしまい、
そのまま、すぴすぴと眠ってしまいました。
おお~い!まだ終わってないからっ!!
始まったばかりで戦線離脱ですか、ティアル!
「雪山じゃないけれど、こんな所で寝たら死ぬよティアル!!」
……あ、でも考えて見れば、お昼寝の時間がまだでしたね。
ティアル、ごめんよ? ここで寝かしつけるのは危険きわまり無いのですが、
こんな小さな子供に無理をさせる訳にも行きませんものね。
危なくないように、隅にティアルを隠しておきます。はい。
「そうか付食属性! ティアルでかした! ユリア、ローディナ行くわよ!!」
「ええっ!」
「は、はい、望む所です!」
残された私達はこの好機を利用すべく、一斉に攻撃を仕掛けた。
怖いなんてもう言ってなんかいられないんだ! ここで負けたら一大事。
私は院長の影に向かって勢いよく短剣を投げ、壁に縫いつけ動きを封じる。
リーディナが作ってくれた物は、「影縫い」という特殊効果持ちで、
対象の動きを封じる事が出来ると聞いたのだ。
「よし、みんな今のうちに……助けを」
「グアアアアアッ!!」
「「「えっ!?」」」
でも、動きを止められたまでは良かったけれど、5ターン以内に終わらせる筈が、
1ターン目にしてローディナ達の使う媒介に負荷が掛かりすぎ、
次々と媒介の装飾は砕け散ってしまったのだった。
光属性が使えないと、他の攻撃は殆ど意味が無いのにっ!?
私達は一瞬にして状況が不利になってしまった。
「きゃあっ!?」
パリンと音を立てて割れ、ローディナが悲鳴を上げる。
「ローディナ、大丈夫ですか?!」
「まっず……壊れたっ! 退路は塞がれているし、行かせたら大惨事だし……っ」
「やっぱり相手の魔力が桁違いだわ、リーディナ!
道具で力押ししてごまかすだけじゃ駄目なのかも!!
これだけ強いと、本格的なホーリー系の光魔法が使えないと!!」
私が放った短剣で動きを封じているが、とどめを出来るほどじゃない。
先ほどからリファが閃光を発して、こちらへ近づかないようにしてくれるけれど、
何時までもこんな状況を続けられるわけじゃ無い。
リファが疲弊したら、即、ジ・エンドだ。
其処で私はアデル様の名を呼んだ。
万一危険が近づいたら、自分の名を呼べと言っていたのを思い出したから。
「アデル様! アデル様!」
この声が彼に届いてくれる事を必死に祈る。
すると、その瞬間、何も無い壁から光を纏った何かが現れた。
私達と院長の間に、さっと立ちはだかるように立つその姿。
それはみるみるうちに、光の粒が霧散して人の姿が現れる。
アデル様? そう思っていたが、その顔は意外なものだった。
一瞬だけチラッとこちらを向いたその顔は――。
「――え……?」
金色の髪が印象深いその人……自分の知るあの人にとても良く似ていた。
誰よりもここに現れる筈も無い存在である筈なのに……。
「ルディ……王子様?」
いや、とても似ているが違う人に見える。
ルディ王子様は肩まで届く髪の長さだが、この人は短い、
髪の色や面差しはとても似ているが、この人は髪がウェーブの掛かった髪型をしている。
それにまるで聖職者のような、白い礼装に金色の装飾が施された服を着ていた。
「――……っ」
だれ?……そう言う事も出来ずに、時間が急にゆっくりと過ぎていくのを感じた。
その一方で、空気そのものも何だかさっきより重くなった気がする。
リーディナを見ても、ローディナを見ても、その事に気づいていない、
リファも彼が現れた事にすら気づいていないらしい。
と言うよりも瞬きすらしていない。
其処で漸く、私以外の周りの時間が止まっていたのだと気付いた。
(ま、まさか、この人がやったの?)
みんなは固まってしまったけれど、
私はなぜか動けるようだ……どうしてだろう?
手をにぎにぎと開いたり、閉じたりするが、普通に動かせる。
「困るな。一般人に手を出されては……隠しおおせるとでも思ったのか?
これまでは他者への被害がないから、例え異端技術でも見逃していたんだがな。
だが、考えが甘かったようだ。秩序違反はここで消えて貰おう」
そう言うなり、ルディ王子様に似たその青年は、
光で出来た大鎌を、その両手に出現させたかと思うと、
かつて院長だった魔物へと、容赦無く鎌を振り下ろす。
光の一閃。
すると振り下ろした所から発せられた大きな光の柱が、相手を包み込んで行った――。




