28・冒険珍道中
本日、私はローディナ達と一緒に、水晶の宮カセルティアにて冒険中です。
ここは珍しい水晶が天候によって生まれるという不思議な場所です。
「はあ……それにしても綺麗ですねえ……」
透き通った色とりどりの水晶が、一つのダンジョンになっており、
光に当たる事で七色に光り、暗くなると発光するという事で、
この国の照明器具の材料にも使われているそうです。
また、色別に属性も効果も違い、
目的用途に合わせて、それを採取するようになっています。
(これが加工されて魔石になるのか……)
普通、洞窟の中で水晶は出来るものだと思うのですが、
ここは大きな水晶自体が母体となって、小さな水晶を産み出していき、
それが独自の空間になっています。花も植物も水晶で出来ており、
精巧な作りに見えるそれが、自然に生えているのには驚きです。
鉱物資源が豊富な上、出てくる魔物自体も特殊なもので、
全身が半透明に透き通っており、その体も鉱物を宿しておりました。
その為、禍々しい姿であっても、さほど怖さを感じさせず……。
「ユリア、そっちに行ったわよ! 気をつけて!!」
「わ、分かりました!!」
とと、いけない。今は戦闘中でした。
(よし! 私もがんばろう!)
何度目かの冒険に出てみて、漸く私はレベル15になりました。
(仲間の中では私、最弱である事を何時も痛感しますねえ)
元々この世界で生まれ育って来たローディナ達とは違い、
どうしても差が出てしまうのは当然なんですが……。
少しでも私が危なくなると、いつもリファが私を庇って闘ってしまう為、
余り経験も積めないのが現状ですね。
……ええ、だから私の技量はそれ程上がっているとは思えません。
ただ、リーディナが素早さを強化するカスタムパーツを完成してくれているので、
私達は再びモニターとして実戦経験を積みながら、練習する事が出来ていました。
(上手く行きますように!)
あの、にゃんにゃん事件も役には立っていたのでしょう。
結局これは、私達の分だけと言う条件で、リファの毛を使う事になりました。
リファは緑龍の次に、風属性の効果が強い生き物らしいです。
その為、グルーミングの時にブラシに毛が付くので、
抜けた毛を利用する事にしました。
強化アイテムを使って、私達は通常よりも身軽に動けますが、
風の勢いが強いと転んでしまったりと対応しきれなくなるので、
今はこの素早さに慣れる練習もしています。
「いち、にい、さん!」
私のは靴にストラップとして着けて、決まったリズムのステップを踏む事で起動。
効果が出ると、まるで体が宙に浮いているように体が軽く感じます。
「よし……大丈夫そう。では、本格的に行きます!!」
リファの毛に、戦闘時の行動パターンの能力でも組み込まれているのか、
私は敵の攻撃をひらりと避ける事が出来て、それと同時に短剣を投げる。
練習のおかげで少しだけ、以前よりも動きが良くなって来た気がした。
まあ、早くなりすぎて体が追いつかなくなるという点もありますが、
なんとか役立っておりましたよ。
「ローディナ、私達も行くわよ!」
「ええっ! 分かったわリーディナ」
リーディナとローディナかそろって駆け出して、息の合った連携魔法を繰り出す。
目の前に複雑な魔法陣を形成していました。
「わあ……」
作り出した魔法陣がそれぞれ二人の前で光り、くるくると回転しています。
アイテムで補佐している為、詠唱を省く事が出来るのは、
媒介である装飾具などに、あらかじめ詠唱呪文を仕込んでいるからだそう。
確かに、魔法を使う時にネックになるのは、詠唱時間が長い事だ。
詠唱しながら術式を組んでいると、発動までにタイムラグが生じる為に隙が出来やすい。
魔法が発動するまでに術士を先に倒せば、魔法は無効化されるので、
物理的な攻撃で狙われやすくなる。その為に素早さが勝負の鍵となる。
その悩みを解決したのが、リーディナ達の開発した媒介、
【ロゼッタ・アミュレット】なんだそう。形状は薔薇の形をしたブローチだ。
きっとこれも中に特殊な魔石を使っているんでしょうね。
ブレスレットやイヤリング、ペンダントが共鳴するように光り輝いています。
二人の放つ風と氷の攻撃で、槍のように広範囲を囲い込み攻撃、
魔法が一切出来ない私は、それを避けた魔物に向かって攻撃をしていました。
(大丈夫。怖くない、怖くない。落ち着いて……)
そう自己暗示しつつも、手元はやっぱり震えてしまう。
でも、私にはもう立ち止まっている訳には行かないんだ。
もう二度と後悔しない為にも、出来るだけの事をやっておきたいから。
(ユリアの行方を捜す為にも、行動範囲を広げておかないと!)
「えいっ!」
リーディナに加工して貰い、持ち主の手元に戻って来る魔法効果のある短剣、
攻撃した後、ブーメランのように柄の部分が私の手元に返って来るので、
毎回、武器の回収をする必要もなくなったのは助かった。
最初は戻って来る度に怯えて怖がっていましたが、
今は何とか受け取るのも慣れてきましたよ。
「ユリア、少し下がっていろ」
「は、はい。アデル様」
少し危なくなりそうな時は、アデル様とラミスさん達の出番。
そしてリファは護衛担当、風で私達の周りに防護壁を作ってくれています。
その為、背後から敵に回りこまれたとしても風が攻撃を防いでくれている。
徐々にですが私達のパーティにも自然に役割分担が決まり、
仲間意識と言うのでしょうか、そんなものが出来つつありますね。
そして皆のステータスとか、そういうのが分からなくても、
雰囲気で何となく分かるようにもなってきました。
そうそう、ティアルは震えて怖がるだろうから、
この出立の際にお屋敷でのお留守番を勧めたのですが……。
『みい……ヤ……ティアルモ……イッショ!』
『ティアル……』
ぎゅう~っと抱きつき、涙をぽろぽろ流してお留守番を嫌がるので、
現在、木の上に登って貰って避難して貰っています。
(ええっ! つい可愛さに負けて連れて来てしまいました!)
お母さんと逸れた寂しさもあるのでしょうね。
私達が何日も遠くに行ってしまうのが、ティアルには心細いようです。
「みいみい、ガンバレ、ガンバレ」
「ティアル、まだ降りて来ちゃ駄目ですよ~?」
「みい、ハーイ」
ティアルは私と同じく後方支援をする為に、現在は回復魔法のお勉強中なのですが、
まだ使えるには程遠く、基礎となる魔法理論の本等を色々見ては、
前足でページを抑えながら、お祈りしているように眠ってしまうのです。
まあ……子猫だし、眠くなってしまうのは仕方ないですよね。
(私も子猫の時は凄く眠くなったから、気持ちは分かりますし……)
ティアルなりに、何か手伝おうと考えてくれる事はとても嬉しいのですよ。
ええ、後ろで「ガンバレ、ガンバレ」と言ってくれる姿は、
とっても可愛らしいです。
その気持ちだけで、私は十分に満たされているのですよ。
それに……もしかしたらどこかで逸れたお母さんとも会えるかもしれませんし、
こうして一緒に連れて行くのも、また選択の一つだなと思いました。
(……さて、では私も集中しなくては)
一瞬の迷いが、仲間を危険に晒す事になる。
そうアデル様に教えられたのを思い出して、意識を集中した。
魔物を倒す事は、この地の浄化にも繋がっていると聞いたし、
自分で納得して決めた事だ。今更逃げたりなんてしない。
「で……問題は――……」
私の方へ逃げてきた魔物をなんとか仕留めた後、ちらりと後方へ視線を向ける。
其処には、この場に相応しくない者が若干一名、
私達のパーティになぜか加わっていたのだが。
「……」
金色の髪を風になびかせ、視線が合うとキラーン! と、
白い歯を見せて笑いかけてくる。いわずと知れたあのお方。
だが、その彼が持っているのは、この場には相応しくない物。
「雰囲気を盛り上げてあげるよ」
と、そう言って彼は無理やり一人演奏会をはじめ、
戦闘時の音楽を臨場感たっぷりに奏で続けていた。
魔法で……辺りに薔薇の花びらを無駄に振りまいて……。
(貴方は一体何をしにいらしたんですか、ルディ王子様――っ!!)
と私が本当に叫んだとしても、きっと誰も文句は言わないでしょう。
むしろ盛大に同意してくれると思う。
(何しろ、誰一人誘っていないんだもの)
其処には本来ここに居るべきではない人物、居てはいけないと思う人物。
この国の……ローザンレイツの第1王子、ルディ王子様が居たのである。
それも専属の護衛も無しで、一人で勝手について来てしまいましたよ?
いいのだろうか? 彼は一応この国の王位継承権を持った方なのに。
大事な事だが、彼は継承権第1位の人なんですよね。
そう、次代の王様になる人なのに。
しかも、しかもですよ? のんきに音楽を奏でていたかと思いきや、
魔物が無防備なルディ王子様に目を付けて狙って来た時は、
何を思ったか、持っていたビオラに形状が良く似たパルンと言う弦楽器で、
「きえええーいっ!」
……という妙な掛け声と共に、
敵を思いっきり殴り倒す荒業までやらかしました。
ちょっ!? 楽器で殴っちゃ駄目なのです!!
職人さんが丹精込めて作った楽器ですよ!? 罰当たりです!!
(最早、王子様がやる所業とは思えない……)
「ルディ王子様、あの、危険ですからどうか今からでもお戻り下さい。
護衛の皆様が、今頃とても心配していると思いますよ?」
「ああ……可愛い人、私の心配をしてくれるなんて嬉しいね。
大丈夫だよ、私の事は気にしないでくれたまえ。
私の事を大事に思ってくれているのは、知っているけどね?」
「いえ、あのですね……」
「もし万が一、君が生涯残る傷を負ったとしても、君は側室の第1号で、
ローディナ君、リーディナ君も仲良く仲間に入れて2号、3号にしてあげ――」
「ガウウウッ!!」
「ああっ?! リファ駄目!! ルディ王子様は敵じゃありません!!
投げ飛ばしちゃ……っ! ちょっと!! 何でアデル様達まで?!」
「アデルバード! 一時休戦だ!! 俺には今、別の使命が出来たようだ!」
「ああ、俺も同意する。大丈夫だ。今、ここで闇に葬れば全て解決する。
陛下には、運悪く魔物に襲われたとでも報告しておこう。
短い付き合いだったな、ライオルディ」
鞘から抜いた剣を、この国の王子に向けて、
殺気みなぎらせているアデル様達の姿。
あろう事か、龍であるお二人を怒らせてしまったようです。
落ち着いて下さい! 今、ここで龍体になんてならないでっ!!
ローディナ達に正体がバレてしまいますからっ!!
「だ、だだ駄目ですよ!! 流石に不敬罪どころじゃ済まなくなりますよ?!
騎士団長様と副団長様が、そんな不穏な事を言っては駄目です!
……って言うか、今戦闘中ですってば!!」
ええ、勿論これは、私の意志でもアデル様達の意思でもありません。
殿下は「勝手に」私達に付いて来てしまったのです!!
貴方、王子様でしょ、冒険になんて出ている暇があったら公務に励んで下さい。
全国民が泣いていますよ? そう言ってやりたい所です。
彼が私達に付いて来たのは勿論、
パーティの中に年頃の女の子が三人も居たせいでしょうね。
(よく考えてみたら、ヒロインが三人って事になるよね)
ローディナ、リーディナには今回が初対面だったのですが、
二人とも「残念王子、ライオルディ」の話は有名らしく知っておりました。
むしろ、無知な私を気遣って二人が教えてくれる位です。
なので初対面で喜んでいたのは、王子様一人だけと言う事になりまして、
リーディナは、変なのがローディナと私に近づかないようにと、
かなり警戒して睨んでおりました。
※ ※ ※ ※
――出立、2時間前。
『やあ、これはこれは!
可愛らしいお嬢さんが三人も揃って、どちらへお出かけかな?』
『あ、こ、こんにちは。ルディお……殿下』
『いやいや、ルディ王子で構わないよ? ユリア君』
『王子……? この方が?』
ローディナが私の言葉に、目をぱちぱちとして反応を示し、
それに応えるように、ルディ王子様はにこやかに微笑み返す。
『ああ、そうだよ可愛らしいお嬢さん。君達は初めましてだね。
”白銀の貴公子”と言う二つ名を持つ、この私に会えて光栄だろう?
そうだろう、そうだろう。私も君達に会えて嬉しいよ。マドモアゼール!』
『『は、はあ……?』』
思わず、双子のシンクロの反応が返ってきました。
『感動に打ち震えて涙を流すなら、特別に私自ら胸を貸してあげよう。
そうだ! 君達も私のハーレムに加えてあげるよ。
どうだい? 嬉しい話だろう?』
……一体どこの誰が、”白銀の貴公子”なんだろう?
会った直後、王子様は遠い彼方のお花畑へと旅立ちました。
延々と語り続けられるルディ王子様のハーレム化計画。
その候補に勝手に入れられて、当然ながら私達はその場に取り残された。
『みい~?』
ティアルが興味深そうにじっと見ていたので、耳を塞ぐように指示した後、
抱っこをして、そっと視界を手で隠した私が居たのは言うまでもなく……。
『ええと……? リーディナ……』
ローディナは、言われている事の半分位が理解出来ていないようで、
困った顔をして、隣にいた妹のリーディナに助けを求めていました。
協調性と順応力の高い彼女でも、流石に受け付けない何かがあった模様。
『リーディナ……あのね……この方……』
『しっ! 今のうちに行くわよ。ローディナ、ユリアも!
二人とも見ちゃ駄目。早くこっちに……リファも相手にしないで行きましょう?』
そう言って、私達は別れたはずだったのですが。
――でも、結局、そのまま付いて来たんだな~これが……。
※ ※ ※ ※
――で、現在に至ります。
彼の中では、私達は既に側室候補にエントリーされており、
妃の為に力を貸すのも王子としての務めとか何とか、
ふざけた事を言ってやがりました。おっと失礼、ついつい本音が。
でも公務どうしたのよ……と、全力でツッコミをしたい私がおりますよ?
いや、その前に私達の意志は完全に無視ですかっ!
(先日作った卵煙幕……試してみるのは無理かな。
あ、でも相手は王子様だからな~流石に塩も撒けないなあ)
そして、ローディナ達と仲良くなったアデル様やラミスさん、
リファでさえも、王子様の女癖の悪さに警戒を見せており……。
私達の相手をしている魔物よりも、敵は王子様の方だと認定したアデル様達は、
あろう事か私達の背後で、この国の王子様をどさくさに紛れて葬ってしまおうとか……。
そんな不穏な事まで同時進行で起きていました。
「俺のユリアに変な虫が付かれては困る」
「誰がお前のだ! そ、それはともかくお嬢さん方を守るのが俺の仕事だな」
「あの、ちょ、何やってるんですか……っ!?」
おちおち、戦闘訓練なんて出来たものじゃない。
そんな殺伐でカオスと化したこの現場に、ティアルのお祈りが続く。
「ガンバレ、ガンバレ、オイノリ、オイノリ……みいみい」
……何をもう頑張ったら良いのか、もう分からずじまいですよ。ティアル。
「一気に行くわよ~っ! ローディナ手伝って!」
「ええ、リーディナ! 補佐するわ!!」
リーディナが持っていた攻撃力を高めると言う【ナギの杖】を高々と掲げ、
華麗なステップと共にとどめの一撃が加わり、戦闘は無事に終息しました。
「わあ、二人とも強い強い」
辺りにあった黒い霧も消えつつあり、静かな時間が戻ってきます。
周りを幾度も見回して安全を確認し、私は仲間の回復を済ませると、
先程まで騒いでいた後ろを振り返ります。
その時、王子様は、アデル様達によって木に縛り上げられておりました。
王子様の額には「人間失格」と書かれた紙が貼り付けられており……。
「……ふう、いっちょ上がり~」
「……だな」
なんか達成感と言うような、晴れ晴れとした表情をしたお兄様方が居ますよ。
(まだやっていたのですか、貴方方は……)
あの~こんな事をして宜しいのですか?
曲がりなりにも、その人はこの国の王子様なんですよ?
……と、心の中で言いつつ、全く助けようとしない私が居ます。
ええ、気持ちは分かりますもの。ローディナ達に何かされても困るので、
私は見なかった事にしました。安全第一ですものね。
ティアルはルディ王子様達が変な遊びを始めたと思ったのか、
王子様の足元へ近づき、「タノシイ?」と聞きながら、
ぺちぺち彼の足を叩いて、顔を覗き込んでいました。
……後でティアルには、真似しないように教えておかないとですね。
「よし! じゃあ今日はこの辺にして、テントを張ろうか?」
「そうだな……俺は周りに魔物除けの結界を張ろう」
「はははっ! 君達のスキンシップはいつも過激だな?
だが考えても見てくれ、私がハーレムを作るのは後の事を考えてだな。
この国の秩序と繁栄、そして存続の為にも是非ユリア君達には私の子を――……」
言っている途中で、ルディ王子様のみぞおちにアデル様の拳が入りました。
「ぐほあっ!?」
ルディ王子様は叫び声を上げた後、流石に喋れなくなったらしい。
それでも彼は名俳優のごとく、ぴくぴくしながら必死に話そうとしております。
だが悲しいかな……どう見ても、コントにしか見えなかったりしますよ。
えと……でもあれ? 気のせいでしょうか?
一瞬、アデル様の瞳の色が金色に変わったような……?
「俺のユリアに関わるなと何度言えば分かる!!
貴様、縄を解いたら、ユリア達のテントに忍び込むつもりだろう?!」
(……いつ、私がアデル様のものになったんだろう?)
……と、当事者の私は内心ツッコミを入れますが、相手は龍のお兄さんです。
ペットとか、非常食とか、色々な意味合いで言っているのでしょうか?
専属メイドという意味合いである事を切実に祈りますよ。
非常食はやだなあ……ぱっくんはされたくない。
「ローディナ達も、俺達が責任持って親御さんから預かった大事なお嬢さんだ。
その彼女達を、勝手に殿下のお手付きなんかにされたら困るんですよ。
幸い、他に人徳のあるご兄弟もいらっしゃいますから、
ここは、この国の女の子達の安全の為に、迷わず昇天して下さい」
おいおい殺すな。流石にそれはまずいよラミスさん!
私はそれだけはと二人を止めました。ここで犠牲者を出す訳にはいかない。
曲がりなりにも相手は王子様だし、ティアルの大好きなご主人様なのですよ?
ここは皆さんに、大人の対応をですね……?
「ユリア君~男達が冷たいよ。やっぱり私は君の優しさが……」
そんな時、リファとティアルのお腹が一斉にくるくると鳴り出す。
私の意識は一瞬にしてリファ達へと集中した。
「!?」
なんて事だ! 私の愛しきあにまる達がお腹を空かせているではないか!?
これは緊急事態です。残念王子様の生死なんかに構っていられません。
今、私はリファ達に美味しいごはんを提供するという、
とてもとても重大な使命が出来たのですから!!
「クウン~……」
「ユリア……みい」
ああっ! うるうるした目でこちらを見ています。
待っていて!! 食べ物を直ぐに用意しますので!!
「食事、お食事ですね!? お腹が空いたんですね!
待っていて下さい。リファ、ティアル、 直ぐに用意しますから!!」
ぎゅっと二匹を抱きしめて、私はこの子達に誓う。
美味しいご飯づくり、頑張ると。
「ユ、ユリア君? ユリア君~っ!?」
そんな訳で支援系ヒロインは、
王子様の救出を早々に放棄して持ち場へと戻ります。
直ぐに鞄から食材を取り出して、献立を考えなくては!
(こういう時、メイドヒロインとしての活躍の場だと思いますし)
冒険者用に開発された冷却器の中には、所狭しと食材が詰め込まれ、
しかも、かさ張らない、重さが軽減されるという魔法効果付きです。
リファが居るから、食材が多く必要なので助かりますよ。
「うーん……でも何にしたらいいでしょうか?
私が作れる範囲の料理ならいいのですが……」
「そうね~とりあえず。テントとテーブルを先に用意しましょうか?」
悩む私にローディナが提案してくれる。
「あっ、ユリア、私こないだ作ってくれたクラムなんとか食べたいわ」
「クラムチャウダーですね。分かりました。リーディナ。
ティアルが玉ねぎ駄目なので、それは別々にして用意しておきますね~、
あ、にんにくも抜かないと……具だくさんにすれば野菜も取りやすいですし」
「皆、私に対して冷たくは無いかい!?」
何とでも言うといいのです。私達は冒険を有意義に過ごしたいのだ。
アデル様はなかなか街の外に出る事を許してくれない為に、
少ない期間で私は、経験を積まなければいけなかったのですからね。
それに戦闘面では足を引っ張ってばかりの私でも、
ちょっとした食事の支度なら出来るもの。
少しでも役に立てる事を増やしていきたいのです。
皆と役割分担して用意した夕食は、
野菜ときのこたっぷりのクラムチャウダーと簡易パン、
それにチーズ、ハムと野菜を挟み、作ってきたソースを付けて、各自食器に盛り付けた。
勿論、王子様を食べさせない訳にも行かないので、ご一緒に……。
万一の破損をした時の為に、余分な食器を用意しておいて良かったですね。
皆さんは戦闘でお疲れなので、配膳は私が重点的に働かせていただきます。
「わあ、美味しそう……ユリアは本当に料理が上手ね。手際もいいし、凄いわ」
「そうね。珍しい料理をよく作れるわよね。あ、このソース美味しい」
「あ、あはは……ありがとうございます。ローディナ、リーディナ」
ここの世界の人のお口に合うようで良かった。
料理はいずれ自活出来るようによく作る方でしたが、
秀でて上手いと言う訳ではないと思います。
でもこちらの世界の人からすると、私は料理上手なレベルになるらしい。
味付けはシンプルな物が多いですからね、ローザンレイツは……。
(どちらかというと、塩漬けとか、乾パンみたいな保存出来るのが多くて)
ただ、私が食い意地が張っている余りに、妥協したくないだけなんですよ。
食べる楽しみは大切だと思いますから。
(何より、アデル様が頑張った分……喜んでくれるし)
私の世界では、タレやドレッシング専門のレシピとかも出回っています。
こちらへ来る前に、少し覚えていた配合を元に色々作っているだけですし、
給料で食材を買って、陰で試行錯誤して出来上がったものなんですね。
それにきっと、私の世界に居る人がこちらに来たら、
皆、料理上手という扱いになるんじゃないでしょうか?
(私が失敗した! と思うものですら美味しいと言ってくれる辺り、
何だかそんな気がするんですよね)
いや、もしかして、気を使われているだけと言う可能性もありますが……。
「皆様、お待たせ致しました。どうぞお召し上がり下さい」
皆で火を囲みながら、仲良く夕食タイム。
ルディ王子様は、食べながら皆さんとコミュニケーションを取っておりましたが、
ローディナ達は、しっかりラミスさんとアデル様を盾にするように座り、
アデル様達はルディ王子様を始終監視しておりました。
一方、そんな中……私の方はと言うと……。
(ふふ、ふふふ……可愛い、本当に可愛いなあ。
あむあむ食べている姿がもう……凄く可愛いです)
私はリファとティアルが食べている姿に夢中になり、
アデル様とラミスさんが、龍体でご飯を食べている姿も想像してみたりして、
一人、悦に入っていたのは言うまでもありません。
(いつか、本当に龍体姿で食べている所を見てみたいなあ)
とっても心和む素敵な光景だと思うのですよ。
動物達が寄り添って、同じご飯を食べる光景は……。
ルディ王子様が、なにやらこちらにも話し掛けてきておりましたが、
右から左へ流されて、私はじっと愛くるしい動物さん達を眺めておりました。
※ ※ ※ ※
さて、それからというもの、
王子様は時々私達の冒険に、気まぐれで参加するようになり……。
ええ、どこからその情報を仕入れているんだろうと疑問になりつつ、
彼は満面の笑顔で付いて来ておりました。
(まあ、お陰でいろいろ融通してくれるようになりましたね)
新密度でも上がっているのでしょうか?
王子様権限で立ち入れる場所も増え、有力な情報や素材の提供、
王室にある図書室へも入室を許可してくれた事で、
誰も彼が参加する事に不満を言う者は居なくなりました。
(使える食材の知識が増えれば、アデル様やリファ達も喜んでもらえるし)
以前のローディナの一件があるから、味方が多いにこしたことはない。
連携体制を築く上でも、王家の後押しは私達の目指している事に役立つだろう。
そう思ったのですが、えーと、ですねえ……。
ここで一つの弊害が起きました。ええ、「私だけ」限定で、ですがね。
私はその時、アデル様によって肩に担ぎ上げられていました。
「アデルバード、なぜユリア君と一緒に寝るんだい?」
「俺以外の雄の匂いが、ユリアに付かないようにする為だ。
ユリアに手を出したら、お前でも首を落とすからなライオルディ」
「――って事は、王子様見張るのを俺にやれって事か? アデルバード!?」
「ラミルス、お前も束縛位は使えるだろう? 寝る間だけ強めに掛けておけ、
何なら縛っておいてもいい。ティアル、ライオルディを見ておけ」
「みい~? ミルダケ?」
「ああ、何かあれば騒げ」
「みい、ワカッタ!」
早速、ティアルは足元からルディ王子様を見つめている。
じいい~っと見つめている。その前足にはしっかりとビスケットが……。
小さい子をお菓子で釣るのは良くないのですが……ご主人様。
「みい?」
これが一体何を意味するのか、ティアルはよく分からないらしく、
首を傾げながらも、素直に言う事を聞いているようだ。
ぽりぽり、ぱりぱり食べながら……。
「あの……ところで私の意志はどこへ? う、動けない」
テントをもう一つ用意して、アデル様が私を毛布と外套でぐるぐる巻きにし、
私、リファ、アデル様で一緒に寝る事になりました。
ええ、私の意志は、やっぱり相変わらず完全に無視されましたとも!
がっちりとアデル様に抱え込まれて脱出は最早、不可能に近かったです。
人間てるてる坊主のいっちょ出来上がり! ですな。
そんな状態で、食べる時はアデル様の膝の上に座り、
寝る時もアデル様の腕の中と言う状態で……。
「ほら、ユリア……口を開けろ」
何だか、甲斐甲斐しく面倒を見られて、
私は幼女かい! とツッコミたくなる状況に……。
ローディナは、「仲がいい親子ね」と、のほほんとしているし。
リーディナは、「ねえ……あんた達、本当に付き合ってないの?」と疑われるし。
ラミスさんは、顔を真っ赤にして助けようとしてくれるものの、
アデル様によって動きを止められてしまうし。
(うう……何と言う事でしょう……)
後見人となってくれたご主人様は、保護者としての責任からか、
冒険中は私の行動を制限し、腕に囲い込む事が増える事になりました。
えっと……おかしいな? ユリアってこんな立ち位置でしたっけ?
台本読む限りでは、アデル様に可愛がられているなとは思っていたんですが、
流石にここまで来ると、何だか私の知る設定とは違う気がしました。
取りあえず誰か! 助けて!!




