25・真のヒロイン此処に極まれり
えー……本日、ローザンレイツ騎士団本部は、異様な熱気に包まれました。
「ロ、ローディナちゃん握手して貰えますか?」
「ええ、私で宜しいのなら喜んで」
「おっ、俺もお願いします!」
びしっと整列し、右手を差し出したまま頭を下げる騎士団の皆様。
ローディナが、声をかけてきた騎士のお兄さんに微笑んで了承すると、
騎士団の男性陣達からの歓喜の声があがる。
「うおおおーローディナちゃ~んっ!」
……と、騒がしく、辺り一帯は、ローディナコールが溢れ返っております。
(す、すごい人気だ)
な、何という事でしょう、魔法でなく魅了の力があるとは!
メインヒロインであるローディナは、物凄いカリスマ性を秘めていた模様。
一瞬にして騎士団の男性陣の心をがっちり掴み、味方に付けたようです!!
(いえ、味方というよりも、とりこですね)
これはやはり、メインとして起用されているだけの何かがあるという事か。
彼女は役者にとって必須条件の「協調性」と「順応力」が高いらしい。
しかも努力で培って来たものではない「天性」の才能。
初対面でこれ程に仲良くなれるのは、とても珍しい事なんですよ。
ほら、普通の人は初対面の時に緊張してしまうし、
生き物としての本能からか、警戒して身構えてしまうものなのです。
なので、此処まで初対面で仲良くなれるのは、最早、才能以外の何者でもない。
初対面で馴れ馴れしい態度をすると、影で嫌がられますものね。
嫌味や図々しさを感じさせずに好かれるのは、実はとっても大変な事なのです。
(図々しい印象を与えずに、謙虚な姿勢を取って相手を信頼させる。
第一印象が、その後を左右するという事も多いですからね)
会ってものの数分で誰とでも仲良くなれる彼女に、
思わず何処か隅にしゃがみ込んで、一人、いじいじしたくなる私です。
努力で突き進む自分とは正反対という事ですね。
いいもん、私は私のヒロイン道を目指すから。
隠しヒロインのユリアを支持して下さる方達も居ますからね。
(よし! 落ち込むの終了! ローディナの背中を見て学ぼう!
隠しヒロインの鉄則! メインヒロインより出張らず、邪魔をしない事ですよね!)
役者でもこういう時、謙虚な姿勢は大切です。
先輩を差し置いて出張ってはいけませんよね。はい。
と言う訳で私は、ローディナに不埒な真似をする人がいない様にと、
傍で皆様の行動を逐一観察し、リファ達と一緒に見守っておりました。
気分はアイドルを担当するマネージャーか、もといスタッフの気分ですよ。
「はいはいはい、それでは皆さん、並んでくださーい」
しかし、まさかこんなに反響が凄いとは……初対面でこの皆さんの反応ぶり、
ほんわかした彼女の笑顔を見て、男性達は浮き足立っています。
ローディナはリアルだけじゃなくて、此方の世界でも人気のようですね。
人当たりのいい性格ですし、なんだか分かる気がします。
で、こんな状況になったのは、2時間前の出来事がきっかけでした。
※ ※ ※ ※
アデルのお使いで、何時ものように騎士団へ昼食を届けに行く途中、
街中で偶然ローディナと出会いました。
『あら、ユリア。こんにちは、そんなに急いで何処かにお出かけなの?』
『ああ、ローディナ。こんにちは、こんな所で会うとは奇遇ですね。
実はこれからアデル様のお使いで、騎士団本部にお邪魔する予定なんです。
ランチをお届けに行く所で、温かいうちにお届けしようと』
バスケットには、今日もおじ様達と一緒に作ったランチを詰めてあります。
討伐以外の日にも、昼食代の節約も込めて一度ランチを届けて見たら、
喜んで受け取ってくれました。
『今日はアデル様のご要望のお肉料理なんです』
今では騎士団に通うのは日課の様になりましたよ。
最初、アデル様は男性が多い事で出入りを心配していましたが、
みなさんとても優しくて、今では仲良くなった人も何人か出来ました。
リファも傍に居てくれるし、みなさんも何かと気を使ってくれますので、
嫌な思いをした事はないのです。近寄りがたいという雰囲気の騎士団ですが、
話してみれば、皆様とても気さくな方達なんですよ。
『騎士団に……? あの、ユリアはもしかして騎士団に出入りが出来るの?』
『はい、最初は勿論駄目だったので怒られたのですが、
粘り強い交渉と、アデル様の信頼を頂けて――』
話している途中で、私はローディナにがしりと手を両手で掴まれました。
『へ……?』
『ユリア……』
きらきらと輝く瞳で見つめられ、彼女は私にこう言って来たのです。
『お願いがあるの!! 私を騎士団の人達に会わせて欲しいの!』
さあ行きましょう、すぐ行きましょう!
私が返事をする前に、ローディナは私の手を引いて歩き出しました。
『みい?』
『クウン?』
はいはい、なんですか~? 何事ですか~? と思いながら、
一緒に居たティアル達と目を合わせて首を傾げていると、
ローディナは、最近とても困っている事を話してくれました。
『実はね。今私とリーディナで作っているもので悩んでいて……』
武器や防具に強化パーツとして付けるアクセサリーを考えていた彼女は、
出来るだけ多くの戦闘経験のある人のモニターが欲しいという事に気づき、
その最も良い対象とされるのが、国一番の戦闘能力を持つとされる騎士団の存在。
この国で一番の強さを誇る騎士団だったという事だ。
でも、ローディナには騎士団に出入りできる資格はないし、人脈もない。
と悩んでいた所に偶然にも私が通りがかった……というわけである。
『ああ、先日の一件の事ですね』
『そうなの』
ローディナが魔物に襲われたあの一件で、私達は大きな危機を感じた。
その為、今後を考えて彼女はリーディナとお金を出し合って工房を手に入れたとの事。
いずれ絶対に必要とされる事態になるのではないかと思うから。
今ある武器や防具が役に立たないと気づいたからこそ、誰かがやらなければ。
街はまだ平穏だが、それが何時まで続くか分からないと気付いたのは、
あの時関わった私達だけ、だから今からでも出来る事をやっておこう。
そう言って二人は、今も勉強の傍らで新アイテムの開発をしていました。
私も何かお手伝い出来たら良いのですが、残念ながら専門分野ではないので、
試作品を試すぐらいしか、力が出来ませんでしたよ。
『私……彫金師を目指しているから、鉱物やアクセサリーの方はともかく、
鍛冶師のような武器は流石に作れないから……。
今は持っている武器にカスタム出来るのを考えているんだけど、
ほら、私達じゃ、あまり実戦も出来ないでしょう?』
『そうですね。時々、街の外で魔物退治している人達よりも難しいですね』
『そうなの、だから騎士団の人に頼めないかなと以前から思っていたんだけど、
私、その辺の知り合いとかは居なくて……でも、よく考えてみたら、
アデルバード様とラミルス様って、騎士団長様と副団長様だったわね。
人脈が無いと思っていたけど、ついうっかり忘れていたわ』
それでも、近寄りがたいのが騎士団である。
最近では冒険をよく共にしているが、
それは私が同行し、仲介しているからであって、
ローディナが彼らに会いに行けるような身分ではないらしい。
一方私はアデル様の傍付きのメイドだから、会いに行っても変ではない。
(――あの二人なら、別に身分とか気にしないと思うけどな)
……と思うのだが、他の騎士団の皆様も、とっても気さくで優しい方ばかりだ。
会いに行っても嫌な顔をしたり、怒られたりはしないと思う。
でもそう気づけないのは、彼らを余り知らない市民としての見解なのだろう。
一応ローディナはずっとこの世界で暮らしていた街娘の一人ですからね。
『なるほど、そういう理由ですか……』
『ユリア、いきなりこんな事を頼んで本当に申し訳ないのだけれど……。
お願い……出来ないかしら? 皆さんを私に紹介して欲しいの。
出来れば沢山の方の使用した感想が欲しいのよ。
やっぱり実戦経験を積まれている方は違うと思うし』
『……うーん』
ローディナは素性も知れているし、信用できる子だと思う。
アデル様とも数回の冒険で面識もあるし、彼が嫌がっている素振りもなかった。
あの事件をきっかけに、私の友人という事で気を使ってくれている事もある。
『あの職場は本来、関係者以外は余り入ってはいけない場所だそうなので、
私の一存では簡単に決められないのだけれど、一応アデル様に伺ってみます。
だから入り口で少し待っていてくれますか?』
そう話してみた。断られる可能性も付け加えて。
『ありがとうユリア! ええ、駄目で元々だもの、お願いするわ!』
彼女だったら大丈夫だとは思うけれど、勝手に私が手引きするわけにもいかないし、
ここは騎士団長のアデル様に事情を話し、きちんと許可を貰ってからだと思った。
私はティアルに、『ローディナを守っていてくれますか?』とお願いし、
彼女の腕にティアルを渡して、一緒に出入り口の門の前で待っていて貰う事にした。
ティアルは、こてんと首を傾げた後、その意味が分かったのか……。
『みいみい、ローディナ、マモル! ティアル、ガンバルノ!』
ティアルは右前足を上げて『マカセテ!』と言ってくれました。
頼られるのが嬉しかったのか、みいみい言いながらしっぽが揺れています。
『みいみい、ティアル、ナイトナノ』
まあ、騎士団本部の前で危険な事なんて、そうならないとは思いますが、
ティアルがとてもやる気になっておりますので、黙っておりましたとも。
この子は、小さいながらに頼もしいですね。
で――……一足先にアデル様に会ってランチのバスケットを手渡して、
ローディナの事情を相談し、騎士団長である彼から許可を貰った後、
関係者である事を示す赤い腕章を手渡されました。
急いで出入り口に引き返して、ローディナを迎えに行き、アデル様の元へ案内する。
そしてローディナの口から改めて頼み、直接アデル様の許可を貰った。
その後、私とローディナの姿を見て騎士団の皆様方が騒ぎ出したのだ。
『……俺、疲れているのかな? 女の子達が歩いているぞ?
こんなむさ苦しい場所に女の子が歩いている訳無いのにな~?』
『ああ……って、一人はユリアちゃんじゃねえか。
アデルバード様が居なければ気軽に話せるんだけど』
『だよなあ、団長は変な所で勘がいいからな。
俺達が近づいた直後に、いつの間にか俺達の背後に立っているし……。
傍にはリファも威嚇していて……ガードが固いよな』
『おっ、俺なんか、挨拶しただけで団長に剣を投げつけられた……っ』
『何いっ!? 抜け駆け禁止だって言ったじゃねえか!!
しかし羨ましい奴だな、お前。俺なんか全然話せないぞ』
『一緒に居る子は誰だ? ユリアちゃんのお友達かな?』
『うおおお、可愛い子の友達も可愛いとは……っ!! 神の領域だな、お前ら!!』
なぜか分かりませんが、騎士団の皆様達の士気は高まったようです。
アデル様が出した訓練を凄い勢いでやり始めていますよ。
現場を指揮、監督していたラミスさんは、
『お前ら……分かりやす過ぎだぞ』
……と呆れておりましたが。そう言えば私がアデル様にここへ来るのを許されたのも、
みなさんのやる気を上げる為だとか何とか言っていましたね。
モチベーションを持続するのに色々工夫するのは大切な事です。
日々の訓練も、少し変化を持たせて見たという事でしょうかね?
どうして来るだけでやる気が出るのかは、私には良く分かりませんが……。
(ちなみに私のやる気は、スーパーもふもふタイムですが何か?)
『みい?』
『ふふ、ティアルの毛はふわふわですね~』
私が判断するに、ティアルのチャームポイントは胸元のふっくらとした毛。
その場所だけ他よりも毛が長くてですね。触り心地がいいのです。
そして、黒い毛並みにピンクの肉球という、これまた素敵な組み合わせ。
黒い柔らかな毛にピンク色の肉球のよく映える事!
時を忘れて肉球を触り続ける私の幸せ……お分かり頂けますでしょうか?
そして、ふわふわと言えば、リファです。リファの毛並みの綺麗な事といったら!
あの全身を覆う白銀の毛は、私を優しく包み込み、愉悦の世界へと私を誘ってくれる。
リファにもたれかかってティアルをなで、リファをなで、
それだけで至高の至福! 日々の苦労も吹っ飛びますよ!!
……はっ!? いけないいけない。思わず悦に入ってしまいましたよ。
『皆さーん。頑張ってくださいね~!』
私が声を掛けると、皆さん満面の笑顔で手を振ってくれました。
中には調子に乗って、此方へ投げキッスをして来た人も居て、
アデル様とラミスさんが、突如、そろって部下に長剣を投げつけるという、
大変騒がしい状況が繰り広げられておりました。
『おお、あれが俗に言う連携攻撃というものですね?!』
相性と親密度の高い組み合わせでしか出来ないという、特殊攻撃です。
凄いな、普段から何処から剣が降ってくるか分からないという、
とても危険極まりない状況を自ら作り、緊張感を持って訓練に励んで、
それを顔にも出さない様にして、騎士団の方々は頑張っているのですね!
確かに戦時下で精神を保つのは、とても大変だとは聞いた事があります。
その後、休憩時間になった途端に皆様は私達の元へ駆けて来たので……。
『ぜんいーん。止まれ!』
思わず号令を掛けてみる。はい、学校でのノリですね。
私が言うと、騎士団の皆さんが一斉に動きを止め、
整列して並びました。うはあ……なんだか気持ちいい!
司令官にでもなった感じですよもう!
ここはキリッと、素敵な台詞を言えたら面白いんですが、
急な事なので何も思い浮かばなかったわ。残念です。
もっと私の中の引き出しを増やすべきですね。
今度命令をして居るアデル様の姿を、こっそり参考にしてみようと思います。
さてさて、今日は初対面の女の子も傍に居るので、
このまま皆様のノリで怯えさせる訳にもまいりません。
私はにっこりと、
『この子が驚くので気をつけて下さいますか?』
とお願いしておく事にしました。
しかし、何でしょう? やたら皆様の目が血走っているような……?
『あ、あの……ユリアちゃん。その子はユリアちゃんの……?』
『はい、私のお友達です』
『俺達に、しょ、紹介して貰っても良いかな!?』
『はい勿論ですよ』
そう応えた途端。またも一斉に歓声が……。
地響きでも起きているんじゃないかという雄たけびまで聞こえます。
何かむせび泣いている人まで現れる始末です。
そんなに……そんなに女の子の紹介が嬉しいとは思わなかった!!
(騎士団の方達って格好良い人が多いのにね。優男って感じじゃなくて、
健康美あふれる男らしさと申しましょうか)
日々、鍛え上げられた均整の取れた体付きをしていますし、
精悍なお顔立ちに性格も普段は朗らかで、
そして、いざという時はとっても凛々(りり)しいのです。
なのにモテないのは、一日中、騎士団で過ごすせいだと思います。
普段から出会いが少ないから必死なのかも知れません。
私が出入りを始めた時も一斉に見られましたからね。
そう、まるで珍獣レベルの動物を見たかのような反応でした。
『こちらはローディナ、王都で彫金師の見習いをしておりまして、
本日は皆様にお願いがあるとの事で、一緒に来てもらいました』
すると、ざわっと騒がしくなった。
『ロ、ローディナちゃんっていうと、王都で毎年発行の美少女図鑑にも載っている』
『あのローディナちゃんか!?』
そんなものが出ているのか、ローディナ有名人だね。
『み、皆さん初めまして、ユリアのお友達のローディナといいます。
今日は突然お邪魔して、訓練を中断させて申し訳ありません』
『いやいや!』
『遊びに来てくれるだけでも嬉しいよ!』
『敬語なんて気を使わなくていいよ~』
ふんわりとしたお日様の陽だまりのような印象のローディナ。
『皆さん……ありがとう……ございます』
申し訳なさそうにする仕草も可愛らしくて……私も一瞬ふらっと来ました。
一瞬にしてローディナは騎士団の皆さんの心をつかんだようです。
流石はメインヒロイン……と感心せずにはいられません。
これこそが私が欲しい「ヒロインのカリスマ」でしょうとも!
ああっ! 私も欲しいです! 切実に欲しいですよ!
カリスマと言うのは、努力しても手に入れられるものじゃないからね!
『実は私、武器を強化するアイテムを開発していまして、
それにお付き合いくださる方を募ろうと……』
彼女が言っている途中で、皆さんが一斉に名乗り出たのは言うまでもありません。
ローディナは街娘の個人的な話だから、断られても仕方ない。
そう思って緊張した様子でお願いしたのですが……。
『俺が!』、『いやいや俺が!!』なんて言ってくれるのを見て、
感動でうるうると涙まで浮かべて、皆さんにお礼を言っておりましたよ。
ローディナ……よっぽど悩んでいたんだね。
連れて来て良かったな、少しでもお役に立てたようだ。
『ありがとうございます……皆さん。
出来れば、私とお友達にもなって下さると嬉しいです』
彼女のこの言葉は、皆さんの何かを動かした模様。
若い娘さんと知り合いになれたと小躍りする方や、
いつの間に作ったのか「ローディナ命!」と書かれた鉢巻なるものを額に結び、
歓声をあげる方までいらっしゃいましたよ。
(ちょっ!? いつの間に用意したんですかお兄様方!)
一人遠い目をしていたのは私です。アイドル会場ですかここは……。
ローディナはサービス精神が旺盛の方ですから、
ここで頼んだら、気前良く歌を披露するぐらいやってくれると思います。
収穫祭でローディナは、リーディナと一緒に歌っているそうですからね。
そして……今に至ります。
※ ※ ※ ※
「――それにしても、こんなむさ苦しい俺達の友達になってくれるなんて!
俺……ローディナちゃんの研究を応援するよ」
「俺も俺も応援する! ああ、でもユリアちゃんも俺は応援するぞ。
何時も俺達を応援してくれるものな」
「よし! この際だ。二つの応援団を作ろうぜ!!」
「あ……ちなみにローディナには、そっくりな双子の妹さんが居らっしゃいますよ。
彼女も今後来るかも知れませんので、宜しくお願いしますね?」
いつか、妹のリーディナも一緒に来ると思いますので、
今のうちに知らない人にも情報を流しておこうと考えました。
ええ、もう十分パニック状態に陥っていますので、
今後を考えて事前に話して置きますよ。
すると案の定、先程よりも一層高い歓声が辺りに響き……。
建物の中に居た人達は、何事だと窓を開けて此方を見下ろして見ています。
気分は見世物の動物の気分でした。恥ずかしいっ!!
「うおおお! ユリアちゃんとローディナちゃんだけでも幸せなのに、
もう一人! もう一人もこんなに可愛い女の子が!?」
「ユリアちゃんは天使かっ!? こ、こんなむさ苦しい男所帯に女の子を。
真面目に生きて来て良かった……神様は見ているんだな……」
「ああ、さあ、お前ら一緒に拝もう。
俺達にこんな可愛い女の子と出会うきっかけをくれるなんて……っ!」
“ははーっ! ユリアちゃーん!!”
ローディナそっくりの女の子がもう一人居ると知って、ますます皆さんは大喜び。
「えっ? あの、ちょっと……?」
皆様私に向かって手を合わせて拝むので焦りました。
拝まないで下さい! 何もご利益なんてないので!!
今回のは偶然、本当に偶然ですから!!
その後、ローディナへの質疑応答、握手会などを済ませ、
私達はアデル様に連れられて、本部の出入り口まで送って貰う事になりました。
「うふふ……皆さん楽しい方達だったわね。
こんなに気さくな方々とは思わなかったわ。
ユリアにお願いして良かった。本当に本当にありがとう」
「ふふ……ふふふ……いえ、ドウイタシマシテ」
乾いた笑顔で遠い目をする。
友達のお役に立てたのは嬉しいけれど、まさかここまでとは。
一気に騎士団のマドンナ化を果たしたローディナの凄まじさを感じ、
ヒロインの真髄を学んだ私でしたとさ。
(あ……そう言えば)
以前から気になっていた事があるんですよね。
ローディナとリーディナは、何時も冒険に付き合ってくれていますが、
二人ともアデル様の事は怖くないのかな? と。
というのも、今まで、他の女性達のような反応を見せていないんですよね。
(そう、同じ作品の”登場人物”という枠組みのよしみなのか)
もしかすると彼女達はヒロインだから、何かあるのでしょうか?
普通に話している姿を見て、少々疑問に思ったんですよ。
(気になった事はすぐ自分で調べる。知りたい事も自分で調べる。
即決断、即行動は役者としての基本中の基本ですね)
その為、一人だけ帰る振りをして、一歩、二歩と私だけ後ろに後退してみる。
演技経験で鍛えたマイクワーク歩行で、靴音も立てずに下がります。
すすっとな、すすっとな……ふんふん、さ~て、どうなるでしょうかね?
(ローディナも大丈夫なら、他のヒロインの人もみんな大丈夫なんじゃないかな?)
実験には最適な環境なんじゃないでしょうか……ねえ?
現在、アデル様の念を抑えるあのアイテムは身に着けておりませんし。
下がった所にしゃがみ込んで、じいいい~っと観察して見る。
「……」
アデル様とローディナは、横に並んで入り口を目指して歩いて行きます。
その後ろには、ティアルを背中に乗せたリファがぽてぽてついていく。
今の所は特に異変は感じられない。
(ああ、なんて事無いか~……流石はメインヒロインだなー……)
もしかすると、登場キャラになっている人には効果が無いのかな?
ゲーム本編では、知り合った人なら好きにパーティ組めるものね。
(あ、なら、大丈夫な人と駄目な人の差を探せば良いんじゃないかな?
ローディナは正真正銘、こちら側の世界の住人ですもん。
私よりも、ちゃんとしたデータが取れるんじゃないでしょうか?)
効果のある相手は、ローザンレイツに住む女性限定という事もありますし、
エセヒロインじゃなく、ここは本物のヒロインにご助力を……。
そんな事を思い始めた矢先、ローディナはおろおろと辺りを見回し始めました。
おや? 私は首をこてっと傾げてこの反応を分析する。
(……えっと、待って? もしかして……もしかしなくても、これは時間差?)
直後、ぶわっと涙を浮かべたローディナが、こちらを振り返ります。
ぎょっとして、私は慌てて彼女に駆け寄りました。
「ユリア、ユリアーッ!!」
「えっ? ええっ? は、はい?」
何という事でしょう、離れただけでローディナが号泣する事態に陥りました。
そう言えば、冒険の時やお屋敷に居る時は、何時も私が傍に居ましたよね。
私は慌てて駆け寄ると、ローディナにがしりと抱き付かれました。
「置いて行かないで、一人にしないでーっ!!」
えーと……つまり、アデル様のあの効果はローディナ達にも影響があると。
それでもって、私が傍に居ると気にならないようです。なんで?
ローディナの先ほどの順応力の高さを見て、もしやと思ったのですが……。
流石に彼女のヒロイン能力でも、アデル様の念には勝てなかったようです。
どうやら私以外の人で平気な人はまだ居ないという事が分かりました。
(やっぱりこれも、私が無属性と言うのが関係しているのかも)
リーディナがアデル様の念を消すアイテムを作るのに、私の髪が使われましたし、
私の体質が何か関係しているのは、これで判明しましたよ。
もしかすると……私自身がアデル様を平気なのもそのせいですかね?
ほら、私は素材そのもの100パーセントですから。
「だっ、大丈夫ですか?」
実験結果はわかったのですが、まさか泣くとは思わなかったので、
ごめんねとローディナの背中をなでて、私が慰めていると、
彼女の顔色は、すぐにぱっと晴れました。
「あ、あれ……? 私ったらごめんなさい、急に泣き出したりなんかして……。
一体どうしちゃったのかしら? 何だか急に不安になってしまって」
うん、たぶんそれは肉食獣の傍に居たのを、本能で察したせいだろうね。
「いえいえ、私の方こそ本当にすみませんでした。
お詫びにこれから何処かのお店でお茶をしましょうか。奢りますよ?」
「え、本当に? じゃあじゃあ、ケーキが美味しいって噂のお店があるの。
其処に行っても良いかしら? 前からユリアと一緒に行ってみたくて……。
あ、でもお詫びって何のこと?」
「いえいえ、気にしないで下さいね。ええ、じゃあ行きましょう」
どうやら、私が傍に居ると恐怖は無くなるようですね……。
けろっとしたローディナの様子を見ると、一種の催眠状態な感じでしょうか?
今後は気をつけようと思いました。アデル様も嫌な思いをさせてごめんなさい。
これも確かな情報を得る為なので、お許し頂けるとありがたいです。
「後でご主人様の分のお土産も、買っておきますからね?」
「ああ」
属性は属性でも、隠された「ヒロイン属性」と言うのが、
ヒーローにも対抗出来るのではと閃いたのですが……残念です。
メインのヒロインとヒーローだから、どうかなと考えたのが甘かったようですね。
これは良いアイディアだと思っていたのですが。
ローディナが平気ならば、ありのままの彼を受け入れてくれる。
そんな人が私の他にも居るのは、彼の心の支えになると思ったのですが……。
(やはり、あのアイテムの開発を頑張って頂くしかないようで、
私にも何かお手伝いできると良いんですが……)
アデル様と別れて、早速人気の喫茶店へ向かう私達。
「みいみい、ティアルモ、ティアルモ」
「クウン、キュウキュウ~」
「はいはい、ちょっと待っていて下さいますか?」
ティアルとリファが甘いものに反応して目を輝かせておりましたので、
オープンカフェエリアでお茶をする事にしました。
良いアイディアを貰う為にも、気分転換は大切ですよね!
ローディナには何時もお世話になっているので、
心置きなく好きなものを選んで頂きました。
いえ、でも食べ過ぎると困るからと、程ほどの量でしたけどね?
とても喜んで貰いましたよ。私もお詫びが出来てひと安心です。
※ ※ ※ ※
「あ、おいあの子だろ? 噂の……」
「ああ、聞いた聞いた。拝んでおこうぜ」
それから暫くの間……一体何処から噂を聞きつけたのか、
街中で私は「拝むと可愛い女の子と出会える娘」として、
見ず知らずの人にまで、必死に拝まれる事になろうとは予想もしなかったのだった。
結婚相談所に就職してみたら? とか言われた事もありますが、
私はメイド道を極めている最中なので、全く考える気はありませんよ!
本当にあれは偶然の事だったんですからね?
だからだから! お願いだから拝まないで~っ!!




