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23・ご主人様への献身




「では、行ってきま~す」



 本日は早朝の市場で、卵の安売りをやっております。


 そんな訳で私、若奥様のようにお買い物バッグを持っていそいそと、

朝の準備を皆様にお任せして、買出しに行く事になりました。


 なぜ業者に任せないのかというと、節約暮らしに慣れ親しんできた私が、

ここでコツコツと行動していた事がきっかけでした。


 まず曜日と時間ごとに分けて、食品や日用品の市場価格調査をしてみた結果、

実は契約していた業者さんに、かなりのぼったくりで取られていた事に気づきました。


(足元を見られていたとは……不覚ですね)


 これは由々しき事態。こう言う事は信頼関係の上で成り立つものです。

長年の使用人不足で屋敷の管理が不十分なのをいい事に、

代金を余分にせしめようとした訳ですからね。ばれないと思っていたんでしょう。


 その為、頼んでいた業者にそれを指摘し、契約を解除し過払い金の返金請求をし、

新しい業者さんが見つかるまで、ローテーションで買出しに行く事になりました。


 私は沢山の重い物を持てないだろうとの事で、(貧弱と思われた事もありますが)

私が買うのは二種類のみだけです。で、私は自分から卵当番になりました。

干し肉や卵は、体を動かすアデル様の貴重なタンパク源ですから、

常に大目に用意しておかないといけないのです。


(まあ、私の腕力では業務用の量は無理ですが……後は小麦粉爆弾が出来ないかですね。

 その為にも余分に粉類も見ておこうかな)



 私が近頃着目したのは、小道具で使う煙幕えんまくに目を付けました。

あれ、手作りで代用が出来ないかなと思うんですよ。ほら、安上がりだし。

……で、身近な物で作れないかなと考えた結果、卵と小麦粉で代用する事に。


 卵を割らずに小さな穴を開けて中身を取り出し、よく洗って乾燥させた後、

中に小麦粉を仕込んでふたをしめると、似た様なのが作れそうだなと。


 私はこれで、お屋敷の防犯対策にどうかと考えたのです。



(小麦粉だけじゃなく、中に香辛料なども加えれば、

 敵に投げつけた時に相手もひるむかと、で、そのすきに逃げる。

 痴漢避ちかんよけでも、唐辛子入りのスプレーとかありますものね)



 おじ様達が防犯する為に、危険じゃなく、安全な品で作れないか……?

そう考えたら、これが思い浮かびましたよ。


(殻の色を染めておけば、普通の卵と間違えませんし、

 問題は、ある程度の個数を集めないといけない事ですよね。

 少しずつ集めて、地道に作っていきましょうかねえ)



 布で作ったエコバッグを肩に掛け、リファを何時もの様にミニマムに。

ティアルはおじサマーズ達と仲良く遊んでもらいながらお留守番です。

私のお部屋を警護してくれるそうですよ。


(私は居てくれるだけで十分満足しているんですが、真面目だよねティアルは)


 あの子は、まだ私に恩返しをするんだと頑張ってくれているようだ。



 白い猫のぬいぐるみを抱っこして、


『みい、イッテラッシャイナノ』


 ……と今日もぽてぽて歩きながら玄関までお見送りしてくれました。

まだ子供ですもの。後になって眠そうな顔で守ってくれる気がするだけに、

眠くなったらいつでも眠っても良いからね? と言っておきました。



 今朝も、お茶の入ったカップを私に持って来てくれたのですが、

ただでさえ体が小さいのに、重いカップを小さなトレイに乗せて、

ぷるぷる震えながら後ろ足で立って、ぽてぽて歩いて、

こちらへ必死に持って来ようとした時なんかは……もう!



『――もういいから! その気持ちだけで十分だからーっ!』



 なんて叫んだほどですよ。見ていてハラハラしてしまった。

結局、上手く歩けなかったティアルは、すぐ転んでしまいましたよ。



 お手伝い所か、忙しい私の仕事を余計に増やしてしまった事で、

怒られるかもと思ったのだろう、お茶でれた体をぷるぷる震わせて……


『みい……ゴメンナサイ……』


 と、しょんぼりして謝ってくるその姿に、

私はきゅんっとなって、頭をなでてなぐさめました。


『いいんですよ、いいんですよ。君は居てくれるだけでいやしですもの。

 私は肉球とか触らせてくれるだけで、十分満たされています。

 それよりも、お茶が熱くなくて良かったですね? ティアルが火傷をしたら大変でした』


 と、そう言うと、


『……っ! みい、ユリア、スキ!』


 と目をうるっとさせたまま、私に抱きついて来るティアルがいました。


 なんて……なんて可愛い子なんでしょう。思わず私も大好きですと言いました。

で、『その代わり、お留守番を宜しくお願いしますね?』と、頼んだんですね。


『みいみい、ハーイ、ティアル、オルスバン~』


 ティアルはこくこく頷いて、それを了承してくれたんです。


 という訳で、お留守番はおじサマーズとティアルに任せて、

私とリファは元気に出発しましょう! と思っていたんですが……。

ここで意外な同行者が現れましたよ。


「……」


「あ、アデル様?」



 隣に歩いて付いて来たのは、アデル様……つまり私の現在のご主人様でした。


「あの……手が……ですね?」


「ん?」


「……えーと?」


 また冒険の時のように、さっきから私と手をつないでというか、

指を絡ませて歩いているんですが。


 本日は騎士団の仕事もお休みの日、数少ない体を十分に休められる貴重な日。

だから、本当ならばまだベッドの中で眠っている時間帯のはずなんです。


(それなのに、なぜ貴方はここに居るんですか、アデル様!)



 ……と、心の中で自分のご主人様に、盛大なツッコミを入れてみる次第です。


(普段のお仕事で疲れているだろうし、眠っていて良いのに……)


 勿論、買出しなどの際も前の日に許可を取ってありました。

なので、報告しなかった事を怒っている訳ではないと思うんですが。

ただ、付いてくるのが至極当然のような顔で、隣に並び歩いているのです。



(――あっ、これはもしかして、お散歩に連れて行って欲しかった……とか?)



 頭の中では龍体のアデル様に首輪を付け、リードを持っている私の姿を想像。

そう、犬の散歩のように、龍も誰かにお散歩に連れて行って欲しいのだろうか?


(そうか、まだ気心の知れている人間はここでは少ないから、

 単独で人間の多い所で行動するのは、まだ怖いのかもしれない)



 ――きっと気軽に散歩に連れて行ってくれる人が、今まで居なかったんだ。



(アデル様……っ! なんて不憫な)


 龍の生態について、詳しい事は未だに分からない私は、

アデル様のこの行動は毎回訳が分からないので、今のように混乱する事がある。

でも動物のお散歩と考えたら、何の不思議は無いだろう。


 ただ、彼の場合は、私の迷子防止にと考えている気もするのだ。

確かにローザンレイツの街並みは、入り組んだ迷路のようになっている所も多い。

でも、もう何度もこの道は行き来していますし、リファも一緒にいるのだから、

万一があっても大丈夫。そう言っても多分聞かないのだろうなあ。



(うーん……こうしてイケメンのお兄さんと、

 仲良く手をつないで街中を歩く事になろうとは……。

 冒険していた時は遭難の恐れもあるから、まだ分かるんですけど……)



 しかも、しかも! これは“恋人繋こいびとつなぎ”という奴ですよご主人様―っ!!



(異性と指を絡ませるなんて、一体何処で覚えてきたんでしょうか……?

 間違った知識を覚えている気がするぞ?)



 背の高いアデル様は騎士団長という役職だけに、

王都の人達には顔も名前も知られていた。つまり、かなり目立つのだ。


 武器持参で、メイドの買い物に付き合ってくれるご主人様なんて、

普通は居ないだろう。そう思うだろう。うん、それが普通だよね?

でも居るんだなここに……そう私の隣に。



「アデル様……」


「ん? どうしたユリア」


「い、いえ、なんでもないです」



 離してなんて言えない……がっくりとうな垂れる。


(うわー……この国の騎士団長様に、家のお買い物に付き合ってもらって、

 しかも主人に護衛して貰っているメイドって、どんだけですか)


 頑張って迷惑かけないように、奮闘ふんとうしているつもりでも、

彼にしてみたら、自分はまだまだ不安材料のようですね。


(頑張っているつもりなんだけどなあ……まだ、頼りないのかな私……)



 朝というこの早い時間でも人の往来は結構多い。週末ともなれば尚更。

だからこの異様な光景は、皆様の目に驚愕なものとなって見えている事でしょう。

ええ、先ほどから此方をじろじろ見られているのは、きっとアデル様のせいです。

アデル様が女の子と街中で手をつなぐなんて事をするからですよ!



「おい、見ろよ……あれ、アデルバード様だぜ」


「ああ、あの騎士団最強と言われた方だよな?」


「女の子と手をつないで歩いているぞ、まさか恋人か?」


「メイド服着ているじゃないか、もしかして口説いているんじゃないか?」


「ええ? あの騎士団長様がかっ!? 

 ま、まずいぞ、あの女の子を助けた方がいいんじゃないか?!」



 散々な言われようですな……そうですね。そうですよね~?

ちまたでは、いまだに若い女の使用人に手を付けまくり、

強くて名声もあるけれど、女癖おんなぐせだけは悪い男とされています。


 本人はなーんにも、これっぽっちもやってないのにね。

むしろ、ご主人様は龍なので、人間の女の子に全く興味がないのですが、

それはそれで、変な目で見られそうなので黙っております。

これ以上誤解されたら、アデル様が可哀相ですよね。



(でも、この状況は困りました……)



 一緒に並んで歩いてみて、ご主人様の印象が悪い事に改めて気づきました。


 これはいけません。仕える者がご主人様の印象を下げる事をしては!!



(これは責任重大です。ここで私が嫌がる素振りを一瞬でも見せれば、

 あっという間に目撃した人達によって、アデル様の悪評がまた広がるでしょう。

 うわさを本当にする訳にはいきません。笑え、笑うのよ私!)



 目指すは、「アデル様のイメージアップ大作戦」だ!


 これまでの悪いうわさが、ただのうわさであった事を、

私はユリアとして証明しなくてはいけない。そう、この身を持ってだ。


 使用人の娘に、不埒な真似をするご主人様では決してないという証明を!!

不名誉な噂を払拭するには、「本当のユリア」の存在が必要だった。



(ユリアそのものになりきる……それしかない)



 頭の中で瞬時にユリアを本格的に演じる事を意識する。

結理亜ゆりあという自我の封印。彼女の設定と立場を改めて確認し、

年齢から始まって、立場、経験した台詞せりふによる性格、くせ、行動、

私の中のユリアをイメージし、それを表に引き出していく……。


(経験と知識からなる、私なりのユリアとしての演技)


 本来のヒロインであるメイドユリアは、アデル様を主人としてとても慕っていた。

そう、慕っていたのです。それには少し恋愛感情もあったりしました。


(誰よりも傍に居て、誰よりも見守ってくれていた方だったから)



 けれど、ご主人様の幸せの為にと、

自分の気持ちを押し殺して、女性版の主人公プレイヤーを応援してあげるんです。

つまり、アデル様の恋愛の攻略に関しては、このユリアの協力が必須条件であり、

アデル様はユリアと主人公の友好度の状況いかんによって変わる事になっている。


 それを考えると、本当のユリアとアデル様との主従関係は元から良好という事。


 なので……そう、この展開は「ユリア」として考えるのならば、

とってもとっても嬉しい事のはずなんだ。


 大好きなご主人様と手をつなぎ、二人で仲良くお買い物ですものね。



(ならば……)


 ユリアがする行動は、きっとこれしかない。


「――アデル様、こちらの道が空いているので、歩きやすいと思います」


 人間が苦手なアデル様は、人の多い所は苦手だから人の空いている方を勧める。


「ああ、そうだな。その道から行こうか」


「はい、ふふ、アデル様とお出かけなんて嬉しいです」



 私は遠い目をしたい気持ちを抑えながら、始終嬉しそうなユリアを演じました。

いつもよりも声を弾ませて、収録時に使っていたユリアの話し方、くせ、話題。

間の取り方など、私が知りうる情報から多岐たきにわたって再現してみました。


「先日はローディナ達に、この辺のお店を教えて貰ったんですよ。

 良心的な価格で売って下さるので、重宝されているのだとか」


「そうか、この街には慣れたか?」


「はい、皆さん私が記憶がない事で、色々聞いても嫌な顔をせずに教えてくださって、

 お陰で安心して買い物が出来ます。ここの方達はとても気さくな方達が多いんですね」


 アデル様もそんな私を見て、合わせてくれる気にでもなったのか、

此方を時折振り返りながら、会話に応えてくれる。

そしてわずかにだが、微笑みを向けてくれたのだ。


「……っ」



 それを見た一瞬……視界がぐらりと傾きそうになった……。


(ぐはっ!? ……いかんいかん、イケメンテロに屈する訳にはいかない!)


 ここで倒れようものなら、アデル様が娘を拉致らちしたとか、

使用人の娘に不埒ふらちな真似をして気絶させたとか言われる事だろう。


 足元に力を入れて歩を進め、市場の店で目的のものを購入しなくては。


「す、すみません。こちらを下さいますか?」


「あいよ、まいどあり!」



 よし、後は買った物を無事に屋敷に持って帰るだけだ。

私は「ご主人様は良い人です」アピールを頑張りながら店を出る。

笑顔を始終張り付かせて、時々話題を此方から振って……。

全力で、そう全力でユリアを演じさせて頂きました!!


 体当たりな演技って、こういう事を言うんじゃないでしょうか?



「ユリア、重いだろう? 荷物を貸してくれ俺が持って行こう」


「え? ……だ、駄目ですよ! ご主人様に持たせる訳にはいきません」


「構わない。気にするな……ほら」


「あ、ありがとうございます……」



 メイドの荷物を持って下さるご主人様、貴方はなんて良い方なんでしょうか!

普通、こういう世界の女使用人の立場はとても低く、きつい仕事は全て女使用人の仕事です。

例えば重い石炭をメイドが運ぶのに対し、男性使用人は手紙だけ……とかね。


 そんな状態なのに、まさか重い荷物を主人自ら持ってくれる人が居るとは……っ!

これがヒーローとしての風格と言うものなのですね?


(包容力のあるお方です)


 ええ、こんなに身分の低い娘相手にも良い人、いえ龍なのに、

使用人の女の子が未だに集まらないのは一体どういう事でしょうか?

早く彼の悪い印象が消えてくれることを願う、今日この頃です。



(あっ、そう言えば……)



 ポケットを探り、小ぶりの青い宝石の付いたバッジを取り出してみる。


 ローディナ達に依頼していたアデル様の強い陰の気……。

龍気を抑える彼専用の特別なアイテムの存在をすっかり忘れていたな。


(これがあれば……何とかなるかもしれない)


 これまでも何度かこっそり制服に忍ばせて、テスト実験を行っていたんですが、

その辺の魔石などの素材を使っても、大した効力が無かったのは確認済み。


 元々がレアな龍だけに、それに相応する素材で無いと駄目なのでは……?

そう諦めきっていた時に私の特異体質? が判明した訳です。


(まさか、私がねえ……)


 以前、リーディナが私用のアイテム生成依頼の過程で、

属性を調べてくれたんですね。アイテムにも相性があるらしいので。

でもその結果、属性を知らせる計測器が全く動かないという事態になりました。


『ちょっと、これって一体どういう事なの!? 壊れて……いないわよね。

 計測器が全く反応もしないなんて、こんな事ありえないわよ?

 無機物とかでもない限り、誰にだって属性はあるはずなのに!!』


『えーと、け、怪我をしたとかが理由ですかね?』


『そんな話聞いた事が無いわよ。属性が消えるなんて。

 つまりユリア、貴方は無属性という事よ?』


 そう、リーディナは結論しました。


(私が無属性か)


 無属性。無色透明とでも言いますか……全てを無に変える。とても珍しい体質らしいです。

本来なら、生きている者なら必ずあるという何らかの属性。

それが無いというのは、本来ありえない事との事。


 性格や生い立ちなどから、最低限持つ属性すらないと言う事は、

過去、現在、未来さえも存在しないという事になる。

そして生きていると言う証明も無い。


 つまり――無機物や死者でしかありえないとの事でした。



(私が知っている「ユリア」の属性は水、風、音。属性が無いと言う設定は無かったのに……)



 つまりこれは、「水上結理亜みかみゆりあ」が原因である事は明らかである



 実は私が無属性という事を、アデル様も保護して直ぐに気づいていたそうで、

私の様子から、命に問題はなさそうだと黙っていたとの事。

ただでさえ記憶無いのに、不安がらせても……と思ったんでしょうね。

リーディナは、一応この事は私達の間で秘密にしようという事になりました。



(違和感とかは全然無いんだけどな……)



 リーディナの見解によれば、水の中にインクを垂らす原理で考えて、

インクを他の属性、水を私の無属性として置き換えると、

どちらを強く作用させるかで、二つの効果があるという事になるそうだ。


『水の量が多い中に一滴のインクでは、色は殆ど変わらないけれど、

 それ以上のインクが加われば、どうなると思う?』


『その色に染まりますね……』



 使いようによっては、魔力の配合次第でどんな属性にだって変えられて、

その反対で無の属性が強いと、他の力を無に変える事も出来るのではと……。

つまり、一長一短という事でしょうかね。とても複雑な特徴です。

下手をすれば、味方まで無力化してしまいそうですよ。


 で、普段の私は後者、全ての魔力を無効化している状態だと考えられました。


 そんな事があった後で、私は髪の毛を素材として一本提供していた。

アデル様の様に、私自身がレア素材に近い存在だという事ですね。


 リーディナは目を輝かせて『むしり取っていい?』とか言い出したので、

もちろん、きっぱりと断固拒否させて頂きましたが。この体は借り物ですからね。

個人的な研究材料に、サンプルが沢山欲しいんだろうなとは思いますが、

ハイリスクは選ばないのが私のセオリーですとも!


 そんなやり取りの末に、開発が着々と進んでいるこのアイテム。



(これは、もしかしたら、試してみる良い機会なのかもしれません……)


 周りの人の多さを確認すると、実行に移してみる事にしました。



 ※  ※  ※  ※



 その後、私達は真っ直ぐに帰らずに、予定変更で寄り道をすることに。

買った食材は配達を頼み、王都散策をしていた。


 一緒に雑貨を売っているお店をのぞいたり、焼き菓子を食べてみたり……。

手をつないでお散歩などを。



(龍のお散歩に対しての知識がまだ無いからな~困ったな~。

 こんな感じでいいのかなあ? むしろ王都を少し出て自然のある所の方が?)



 時折、一緒のリファを抱っこさせてみたりして、

動物に優しいご主人様も演出してみようかな。


「クウン?」


「……」


 されるがままのリファと、大人しく従うアデル様の姿。


 そう、これはアデル様にとっていい機会なので、

「アデル様は良い人ですPR活動」を続行する事にしました。


 メイド喫茶顔負けのサービス精神で、私、愛嬌振りまきスマイル0円を展開です。

別に嫌々でやらされて連れ回されている訳ではないと、皆さまに知って貰わなければ!


 決して、けっ……してですね? 屋敷から逃走しようとしたメイドを、

無理やり連れ戻そうとしている、怖いご主人様ではありませんからね!



「アデル様、あの、宜しければ次は船に乗ってみてもいいですか?

 私、一度乗ってみたかったんです。アデル様とご一緒出来るなら安心ですし」


「そうか……君は余り外に出してやれなかったからな。分かった。では乗せてやろう。

 さあ、おいで? 俺が王都を案内してやろう」


「は、はい、ありがとうございます」



 出来るだけ多くの人の目に触れる為に、街の水路を渡る船を選んでみる。


 街中に流れる水路にある小船でゆったりと談笑。

ここでも常ににこやかに、私の中のユリアを精一杯演じます。


「うふふ、楽しいですね。アデル様」


「ああ、余り身を乗り出したら危ないぞユリア」


「はい、気をつけます」


 さりげなく肩を抱き寄せられたわ。余計に勘違いされるのではないか、これ。

内心、顔が引きつりそうになるのを頑張ってこらえる。


 そして次はいよいよ仕上げだ! いざっ!


(気付かれないように……と)


 さり気なく風で崩れたアデル様の服装を直す振りで、

リーディナ特性、バッジタイプの装飾品をアデルの服に仕込み、

街中での反応をモニターテストする事にします。


「ユリアが楽しんでくれて良かった。

 この先少し揺れるから、このまま俺につかまるといい」


「は、はいありがとうございます」


 お! これは早速チャンスだ!


 その間、アデル様が私の頬を嬉しそうに撫でておりますが、

ここは我慢ですよ。我慢。怖がるフリでアデル様にしがみ付き、

そっとアデル様に例のアイテムを着けます。


 私は魔力がないので、どういう風に力が働くのか感じ取れませんが……。

心の中で成功してくれる事を切に願いながら、時を待ってみることにした。


(ん? 何だろう……さっきから女性の視線が……)


 するとしばらくしてから……。女性達の印象が変わっているように感じました。



 周囲の空気ががらっと変わるのを感じる。そんな気配。

船が船着場まで着くと、アデル様が先に下りて手を差し伸べてくれたのですが、

一斉に女性の皆さんの反応が返ってきたのです。

私とアデル様の手が重なると、そこかしこで「きゃああっ!」と言う悲鳴が。


 しかも、アデル様の顔が近づくと、もっと悲鳴が大きくなりました。


 アデル様はその後、私に付き合いながらも花売りから花を買ってくれたり、

出店で私の好きそうな焼き菓子を買ってくれたりとしてくれまして、

行く先々で出会う、花屋の売店の女の子、出店の店員さん、

行き交う若い女の子達に、うっとりとした目で見られておりました。


「あっ、ありがとうございます。こちらはおつりでございます」


「ん」


「……っ、きゃああっ! アデルバード様の手に触っちゃった!!」


「あーん、いいな、いいなあ~」


「って、ああ、気絶しちゃった」



 アデル様と接した女性店員さん達が次々に気絶する。


 まま、これは何時もの事なんです。ただ……今までと違うなと思ったのは、

アデル様を見て頬を染める人が、格段にアップした気がする。

もう、振り返る女の子の多い事多い事……。


(あれ?)


 彼が私に微笑み掛けると、遠くできゃーと再び悲鳴が。


 私の名を優しげに呼ぶと、卒倒する人達がわらわらと……。


(これはやはり効果……あり?)


 そうですね。彼がこんなに機嫌よく微笑んでいるのも珍しい位ですよ。

やっぱり龍もお散歩するのが好きなんですね。勉強になりました。

これまで気付いてあげられなかったのが、本当に申し訳ない位です。


「また、来ましょうね。アデル様」


「ああ」



 ふふ、近寄りがたい人型のアデル様ですが、私の脳内イメージでは、

首輪を着けて尻尾を振る龍姿のアデル様が見えていました。


 悪い所をカバーできれば、鬼に何とやら、もとい無敵のヒーローです。

メイドの女の子相手に、こんなに優しくしている一面を見せる事が出来た事で、

彼の印象操作は、上手く作用していると思えるんじゃないでしょうか?



(リーディナとローディナに、後でたくさんお礼を言わなくてはいけませんね)


 後はこれを常時、この効果が持続が出来るように身につけて貰えばいいよね。



「アデル様、今日はお付き合い下さり本当にありがとうございました。

 みなさんが待っているので、そろそろお屋敷に帰りましょうか?」


「ああ、そうだな。帰ろうかユリア……おいで」



 おおう! 私には無駄に笑顔振りまかなくてもいいですよ!

でも大丈夫、私はまだ戦えるのです! 戦いますから!


(私はユリア、私はユリア、私はユリアだぞ……)


 アデル様のキラキラ光線によって、私の精神力は既に限界値に達しようとしましたが、

ここで倒れる訳には参りませんとも! 名誉の戦死は良くない!

くおおおっ! と心にかつを入れますよ!


 その日、私がアデル様を連れて街中を出歩いた事は、

ちょっとした話題になりそうです。ええ、男女共に。


 なにせ若い女の子と出歩く事は勿論、使用人の女の子と仲良くする騎士団長の姿を、

皆さんがこうして見るのは、きっと初めての事でしょうから。


(なぜ、この事をもっと早く思いつかなかったのでしょうか?)


 ……と思う反響振りですよね。


 そうですそうですよ~アデル様はとっても良い人なんですよ。

声高にして、言ってあげたくなる私でした。



 ※ ※ ※ ※





「あの、このお屋敷で働かせて頂きたくて、おうかがいしました!」


 無事にミッションを終えて、屋敷へ戻ってから数日後……。


 お屋敷で働きたいと言う、女の子達がここに沢山来てくれるようになったのは、

大変喜ばしい事だと思いました。ええ、良いきっかけ作りにはなったのかと。


 ただ、それが全て、「独身で騎士団長という立派な立場のアデル様目当て」だった事もあり、

脅威きょういに取られなくなったアデル様は、有望な結婚相手に見られてしまい、

肉食系の娘さん達にロックオンされ、猛烈もうれつなアプローチが始まりました。


「あのっ、アデルバード様ってどんな女の子が好みなんでしょうか?」


「私、私みたいな子はいかがですか?」


「あたし、ずっとアデルバード様の事が……」


「ちょっと! 抜け駆けは無しって言ったじゃないの!!」


「煩いわね。あんたは黙っていてよ!! 邪魔よ!!」



 仕事所か、ご主人様の世話だけをしたいという、「えり好み」なんぞしたものだから、

アデル様が怒って、寝所に忍び込んできた娘を追い出してしまう事態になりました。


「誰が俺の部屋に入って良いと許可した!? 勝手に入って来るな!!」


「きゃあああ~!!」


 首根っこをつかむように、服の後ろ襟を(えり)をつかんで、

部屋の外に次々と娘達を放り出すアデル様。

頼んだ仕事をせずに皆居なくなったと思ったら、とんでもない事になっておりました。


「あ、あわわわ」


(アデル様のお部屋って内側から鍵をかけていますし、担当の私とおじ様以外は、

 お部屋に入れる鍵を持っていない筈なのに、どうやって侵入したんだろう?)


 ――まさか、外の壁を伝って窓からだろうか? ここ、二階なのに?


 考えただけで身震いがする。女性の必死さを見て私は呆気にとられていた。



「え? え? あのアデルバード様がなんでだ?」


「女の子達に声を荒げているぞ?」


「女癖が悪かったんじゃないのか?」



 ええ、この事にまさか「あの」アデル様が、彼目的でやってきた娘達に、

まさか怒るとは思っていなかったおじサマーズは、

どちらを味方して良いのか分からず、パニック状態に。


 そうですよね。女の子を引き込んでいると思っていたのに、

ご主人様は、来る度に女の子を追い出しているんですもの。


 ええ、おじ様が「タワシ」で闘う必要もない状況なのです。



「あ、あのアデル様は女癖どころか、元々何もされていないんですよ?」


「もしかして、ユリアちゃんはとっくに気付いていたのかい?」


「はい……むしろ苦手と言うか」



 この一件は「女の子に片っ端から手をつけようとするご主人様」

という、かなり不名誉なアデル様の印象を改めるきっかけとなり、

おじサマーズの中で、ご主人様の悪い所は誤解だったのではと、

そう思われるようになりました。


 つまり、女の人から勝手に言い寄っていたんだなという見解です。

で、アデル様に拒否された逆恨みから、悪評をばら撒いていたのではと……。


(うーん惜しい! 半分は当たってますが、半分は外れてます)


 で、一方、私はこうなる度に慌てて彼女達を止めようとしていたのですが、

恋する彼女達には、私の存在は恋路を邪魔する障害でしかなく、

回数を重ねるうちに、『あんたは引っ込んでてよ!』と突き飛ばされてしまって。


 これがきっかけで、アデル様の我慢の限界が来たようです。

普段は女性に言い寄られても、その好意に全く気づかない位ですから。


「いたっ!?」


「ユリア!?」


 悲鳴を上げて倒れた私に、アデル様は彼女達を押し分けて近づいてくると、

慌てて助け出してくれたリファと私の前に、アデル様がしゃがみこんだ。

そして、ぎゅ~っと、皆様の見ている前でアデル様が私を抱きしめてきて……。


「あ、あの……」


 声をかける彼女達を無視し、アデル様は私の頭を撫でる。


「怪我は……怪我はしていないか? 体は痛むか?」


「い、いえ……大丈夫、です」


「そうか……俺の世話の一切はユリアに任せている。

 ユリアはメイド長となって、この娘達を厳しくしつけてくれ。

 もしも彼女の言う事に従えない者達はクビだ。今直ぐにここから出て行け」



 そう言いつつ、アデル様は私の腰に腕を巻きつけて肩にかつぎ上げ、

主人のお部屋にお持ち帰り……ちょっ! ちょっと待って~!!

いくら安眠を守る為とはいえ、この対応はいかがなものでしょうか?!


「え? あ、あのアデル様!?」


「邪魔するなよ」


 そう言い、内側から鍵をかけるアデル様の姿。


 そんな事をするから、私と恋人同士だとかのうわさが立つんですよ? ご主人様。

否定所か肯定に取られるような発言は絶対に良くないと、何度申し上げた事でしょうか。


(なんか押し切られているし、私グレますよご主人様!)


 面倒だから結婚するかとか、冗談でも私に言っちゃ駄目ですってば!!



「女の使用人は良く働くと友に聞いていたんだがな、やはり個体差はあるのか。

 張り合いが出るから、ユリアも仕事がはかどるんじゃないかという話だったが。

 ライオルディめ、よもや俺を騙したのではあるまいな?」


「い、いえ、あの子達は働く意欲が元々なかったようです。申し訳ありません。

 採用した私どもの落ち度でした。こんな事になるなんて……」


「なぜユリアが謝るんだ? 働かないのはあの女達の責任だろう。

 義務を怠り、権利だけを主張するものを擁護ようごする必要はない」


「アデル様……」


「本当に怪我はなかったか? 傍にいたのに守ってやれなくてすまなかった」


 人間の女達の匂いを無理やり付けられた事で機嫌が悪いのか、

彼は部屋の鍵を掛けた後、カーテンを閉めて私を抱えたまま、

ドラゴンフォームになってイライラしておりました。



 尻尾しっぽがびったんびったん床に叩きつけられております。

その様はぬいぐるみを抱える犬か猫のようでした。


「あんまり、あんまり勢いがあると床が抜けますよ?」


 ……としがみ付いたら、渋々止めてくれましたが……。

まだ、グルグルうなっておりますね。



 私やローディナ達とのやり取りで、大分人間嫌いも改善されたかに見えましたが、

やっぱり本人の許可なく、あんなにべたべた触られたら不快ですよね。

私は世話係をしていますし、彼の正体も知っているから距離感を守れていますし、

気心が知れている仲なので、こうして触れるのは問題なしですが……。


 彼女達は初対面で相手のテリトリーに土足で踏み入れた訳です。

そりゃ、怒りますよね。ろくに礼節も無しでそんな事されたら。


(独身の騎士団長様、それもイケメン……とどめに王子様が後見人。

 そしてお屋敷、使用人持ちとあって、普通に考えたら好条件の男性です。

 女性が必死になってアピールしてきても、おかしくなかったですね……)



 困りました。ここまでの反響振りとは……。


 これで、アデル様の人嫌いが酷くなったら大変だ。

人間の欲深い負の感情に、彼は誰よりも敏感びんかんな方ですから。


(ですが、これはアデル様が本来持ち合わせていた。もう一つの問題だったという事だよね)


 いずれは必ず発覚するであろう、アデル様自身の特性。


 ……生き物が優れた遺伝子を残す為に、

強いもの、能力の高いものに惹かれやすい傾向がある。

彼女達はいわば、その生き物本来の本能のままに行動したのかもしれない。

そう、フェロモンだ。これがきっとアデル様が女性に与えていた影響なのだろう。


(魔道具を使わずに、アデル様が自分の力で念を抑えられたとしても、

 この問題に必ずぶち当たる様になっていたという事ですか)


 それはまるで、体に刺さった呪いのとげを一つずつ取り除くという、

気の遠くなる手作業だ。好意もまた、別の害となる可能性があるとは。


 彼は野生で暮らしていた生活の方が長いために、人の世界では苦労の連続だろう。

そしてそれは……ユリアが屋敷に来る前からずっと続いている。


(何とかしないと……)


 けれど、今はもう対処策が見つからない。

仕方ないので、せめてこの痛みを少しでも和らげるべく、

うろこを撫でて、大きな体をさするようにした。


 一応、私は触れる事を許されているし、私が無属性という事で、

彼に触れていると苦痛も軽減されるようで表情が安らいでいくのが分かる。

だから、具合の悪い時は、出来るだけ彼の傍に居るようにした。



(ごめんなさい、アデル様。無理をさせてしまいました……。

 み嫌われ、迫害される要素を、少しでも無くせればと思ったんですが……)



 誇り高い龍は、自ら助けを他者に求める事が出来ない。

それが気高いとされる蒼黒龍そうこくりゅうで、

恨みの念の元凶となっている人間が相手ならば尚更である。


 けれど、この問題は人間の力が介入しなければ解決しない事案だと思う。

そして解決しない限り、時間を追って悪化していくだろう。


(彼の正体を知る誰かが、そうこちらが動かなければ、近い将来……。

 アデル様はその念に飲み込まれ、押し潰され自滅してしまうのに)


 そして人間の敵となり、

自らが持つ闇属性の魔力が暴走して自我を塗りつぶされ、支配される。

自分はその「シナリオ」を知っているのだから……。



(何もしなければ、彼をバッドエンドにさせてしまう……)


 人の世で生きるのならば、人の生き方もこれから学ぶ必要がある。

助け合い、補い合って生きて行く事が出来なければ、

この地で、人の輪の中で暮らしていくのは辛いだけだろう。

いずれは、アデル様自身がそれを自覚し、譲歩して生きて行かなければならない。


 それには、誰かの手助けが必要で、もう少し時間が掛かりそうだった。


 だから、まず、彼の誇りを傷つけずに解決策を考えるならば、

この事情を知る誰かが、代わりに動かない限り解決しない。

今は人の力を借りてではなく、自力で解決したと見せた方が良いと考えた。

それに完成品が出来ない以上、変に期待させて落ち込ませる訳にもいかない。


(実は期待外れだった。……なんて事になるなら、

 黙って影でフォローするのが一番良い方法だろう。

 アデル様を落胆させるのが目に見えているもの)


 禍々(まがまが)しい念が抑えられたなら、害となる問題自体は取り除けた事になるし、

後は女性の反応を対処することを考えて、それが出来たなら……。

本来の彼自身の良さを知って貰えるだろう。


 彼が迫害される可能性を未然に防ぐ、それがアデル様の側近であるユリアの本来の役目だ。



(うーん……リファみたいにアデル様の体が小さく出来たのなら、

 抱っこしたり、お風呂に入れたりしてさしあげられるんだけどな。

 流石にこう大きくなっていると、むずかしいよね……)



 何より、さっきから尻尾しっぽが私の腰に巻き付いてて動けませんが。


 自分が傍に居る事を許されているのは、本当にありがたい事なんだけども。

これ……どう考えても傍から見たら人質に取られているように見えるんじゃないでしょうか?



「アデル様、私離れたりしませんから」


「グルル……」



 しばらくの間、私は不本意ながらアデル様の女避おんなよけに利用され、

人型の彼のひざの上で、じっと無心の心で仕えている状況になりました。

そうすると今度は、おじサマーズからアデル様に抗議の声が上がりましたよ。


「アデルバード様! いくらお気に入りだからってそれはまずい!」


「んだんだ。それに俺らも一緒に働く時間が減っているじゃないですか!」


「……」


「これは修行、メイドとしての修行、無心になるのです……」


「ああっ!? 俺らのユリアちゃんの目が遠くを見ている!!」



 いくら専属でも、ここまでのご奉仕はしないですよね? うん、知ってる。

でも一応私のせいでもありますので、大人しく責任をとる事にしていました。



 ※  ※  ※  ※



「――残留者、ゼロ……かあ」



 結局、アデル様の奥様の地位を目当てで屋敷へ来た女性達は、

相手にされないと分かるや、次々に見切りをつけて辞めて行き、

お屋敷の中はがらんと静かになり、また何時もの日常に戻っておりました……。


 やはり、お手つきから正妻にのし上がろうと、

ようは婚活目的での接触だった模様。


「私の必死な努力は何だったのでしょうか……」


 ですが、何時までも落ち込んでいても仕方ありません。

落ち込んでいても、何も解決なんてしないのだから、

今出来る事から、一歩ずつ前に進むしかありません。


 自分の仕事をこなす為、気を取り直して今日も買出しに……。


 そう思っていたんです……が……。



「……アデル様」


「なんだ? ユリア」



 すっかり、私とのお散歩を気に入ったアデル様は、

私がお出かけをする際に、ちょくちょく付いて来るようになりました。

それも、あの指をからませた恋人つなぎで!!


 これは流石に不味いと何度か説明したんですが、

アデル様はマイペースで「俺は気にしない」と言ってのけましたよ。

いや……其処に私の意志はないのでしょうか? ご主人様……。


(一緒に行きたいって事ですよね。これって)



 もしも、私が嫌だと反応を見せたら、悪い事しか待っておりません。

それにせっかく私になついてくれた龍のお兄さん。

アデル様を私の我侭でしょんぼりさせてしまうと思うと、

ぐっと堪えてお付き合いするのが、「ユリア」としての務めだと思いました。


(アデル様のお散歩係という裏のお仕事というわけですね!)

 

 だから、ご主人様とお出かけ、わーい嬉しいなと心の中でイメージトレーニング。

まだまだユリアとしての役柄をつかむには、試練があるようです。


 ですが、このままで行くと、私の存在がアデル様の恋の妨げになるんじゃないかと、

内心ひやひやしている私がおりましたよ。絶対に誤解されますよね?





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