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19.もふもふ天国ならぬ、もみくちゃ地獄(※イラストあり)

 



 えー……突然ですが、私、にゃんこ生活始めました。




「うふふっ、ユリア可愛いわ~」


「ええ、とっても可愛いわ……ね?」



 前者はローディナ。私の小さな手を持ってニコニコ微笑んでいて握手、

後者はリーディナ、私を見て笑っちゃいけないと思いつつ、

口元に手を当ててプルプル震えてます。


 そんな二人に私は、この現状を切実に訴えるべく、

「(笑い事じゃないのよ!)」と肉球の付いた手で、てちてち床を叩きます。

未成年を、こんないたいけで愛くるしい子猫ちゃんにして、どうするのですか!?



「なんだか一生懸命にお話しているわよ、ローディナ!」


「うふふふ、可愛いわね~リーディナ」



 ……でも効果なし、むしろ余計喜んじゃってるし、

この事態に巻き込んだ人達に玩具おもちゃにされております。

くっ! 何て事でしょう。ヒロイン達に弄ばれる日が来ようとはっ!!


 もふるのは好きでも、もふられるのは抵抗がありますよ。

子猫なら、私が真っ先にその毛並みとか肉球とか楽しみたい所なのに、

よりによって……よりによって私自身がもふもふな対象になろうとは……。

まさか自分をもふるわけにはいきませんもんね。


 何時もよりも低い視線。掴みづらい小さな手にはピンク色の肉球。

全身は真っ白な毛に覆われて……。



「みい……」


 これ程に途方にくれたのも、きっと初めての事でしょうね。

まさか、別人所か人外になってしまうとは、思ってもみない事でした。

こんな事なら、まだ「ユリア」の姿の方がましというものです。



「ごっ、ごめんってば! 直ぐに元に直す方法を探すから」


「に~……」



 諸悪の根源であるリーディナを、私はじとっと恨めし気に見つめる。

それなのに、二人は頬を染めて可愛いを連呼して話にもならないのです。

まあ、にゃんこ語なんて分かるんだったら、私が真っ先に知りたい位ですが。


 でもでも! この姿は私の人生を左右する程の大きな意味合いがあるのです。

これが男の人だったら、肉球ぱんちをお見舞いする所ですよ。もうっ!


(もはや人ではない……獣クラスにジョブチェンジです)


 少々やさぐれモードでお腹を出して、後ろにこてんと寝っ転がりました。

じたばた動いて、未成年の主張をさせて頂きました。

怒っているんですよ。私、これでも!


「み~!」


「ああ、可愛いわユリア。お持ち帰りしたい」


「駄目よローディナ。動物は育った環境に置いておかないと生態系が崩れるから」



 ――うおおいっ!? それ、野生動物の接し方じゃないか!!



(私が野生に返ってどうするんですか、リーディナ!)



 事の発端は今から数分前の事になります。

二人が私を訪ねて来た時に、リーディナによって新作だと言われて渡されたのが、

靴に留めるタイプの蝶のストラップでした。


 戦闘時における強化アイテムを主に考えている二人は、逃げ足の素早さ、

攻撃を交わす俊敏しゅんびんさを補助しようと考えたのが、このアイテムだそうで、

簡単に取り付けて効果を試せるというので、実験体モニターになったのです。


『私自身が試しても良かったんだけど、万一の時も考えると、

 他の人に試して貰った方が対処できると思うのよ』


 ……と、リーディナに頼まれたので。


 私達が強くなろうと修行しても、きっとあまり能力は上がらないと思います。

腕力なんて騎士団の人に比べたら、たかが知れていると思いますし。


 其処で目を付けたのが、アイテムで基礎能力を一時的に向上させようというものでした。

強化型の物を各種作って装備しておけば、基本能力が余り無くてもカバーできる。

その為には、これから沢山研究を重ねていく必要があるとの事。


 要するにカスタムパーツという事ですね。

能力の高い武器や防具を使わなくても、普段持っている物にカスタムする事で、

使う人の能力を上げられるようにとの事で開発されたものでした。



 攻撃力も大事ですが、こういう素早さは戦闘を有利に運ぶには役立ちます。

それに、力が無い私達でも何かあれば、退路を確保出来る様にして置いた方がいい。

その為、リーディナはデザインをローディナに頼んでアイテムを軽量化する事も試み、

工房にこもって新しいアイテムの開発を始めたのです。


 ……で、結果は大失敗。なんでも動物の毛を使って、

その能力を使おうとしたんだそうだ。それで私こんな姿なんですねー?


挿絵(By みてみん)


 子猫ちゃんそのものになってどうするんだい。



「みい」


 これが他の人に起きた事だったら、私も二人みたいに喜ぶかもしれないけれどさ。



「本当は、リファにも協力して貰おうかと思ったのよ。風の属性がある子だし。

 でもその場合、量産する時になったらリファに負担がかかるでしょ?」


「そうねえ……ぶちぶち引っこ抜いたら、リファが可哀相だわ」


「に~! にににににい!!(だからって! 失敗していたら意味が無いのです!)」



 その結果、身軽さのある子猫に協力を頼んだそうだ。

猫ならローザンレイツでも沢山居るから、素材には困らないとの事。

街中で喧嘩けんかしている猫の傍には、抜け毛が沢山あるからなんだって。

で、なぜかそのせいで変身アイテムになってしまったらしい。


 小さな小さな子猫。生まれて2、3ヶ月位の白猫ちゃんになっていた。

こんな姿じゃ、お屋敷を掃除できないしアデル様のお世話も出来なくなってしまう。

ちくちく内職も出来ないし、料理だって作れない。



 メイド生活をしていた私は大ピンチです。

住み込みで働いているのに、働けなかったらただのごく潰しですよ!!

それにそれに! 歌も歌えないし、発声練習も出来ないじゃないか?!

夢どころか、お嫁にも行けない体になってしまいました。



「(うあああんっ! 戻して、戻してよおーっ!!)」



 ……と、にいにい泣いていると、後ろからリファが私の後ろ首の辺りをくわえてきて、

自身のお腹にダイブさせてくれました。


「み?」


 ふわふわの毛並みに包まれて幸せですが、リファもなんか喜んでいる気がする。

ぺろぺろ顔をめてきて、寝転んだリファは私を前足で高い高いしてくれました。


「クウン~キュウキュウ」


「みい……」


 気分はリファの子供です。いえ、以前からそんな感じで扱われてはいましたが、

今は更にそう思います。かなり体格差があるし、毛も白いしで、

こうして一緒に居ると、リファの子供かと思うんじゃないでしょうか?


 まあ、こっちは狼じゃなくて子猫ですけどね。

リファはそんな事、全然気にしていないようですが。

なんだかリファがとっても幸せそうなので抗議ができません。

毛の中でもお腹の毛は一番触り心地がいいんですよ。

なんだか良い匂いもします。だから思わず前足でぽふぽふとリファの毛を触る私。


「みにゃーにゃー」


 にゃーにゃー言いながら、リファに甘えてなぐさめて貰いました。

毛皮の絨毯じゅうたんですよ、ひゃっほう!



(でも気のせいかな~? この姿になってからというもの、

 なんか、余計リファが私の世話を焼きたがっている気がする)



 リファはずっと私の毛並みを整える為にぺろぺろめてきますよ。

うはっ、くすぐったいから! ちょっと加減して下さいな。

私としては、もふる対象はリファであって自分じゃないんですが……。


 まさか私が、もふられる時代がやって来るとは思いませんでしたよ、ママン。


 以前、お茶目で猫耳を着けようかな? なんて思っていてごめんなさい。

猫はふわふわで可愛いけれど、そのものになるのは嫌です。

既に私は別人そのものになっているんで、それだけで許して下さいな。

ネコネコライフでニートな生活は、少し魅力的にも感じますが、

やっぱり人間生活を過ごしてきた私には抵抗があるわ。


 リファの反応を見て、ローディナは私にこんな提案をして来た。



「ねえ、ユリア……リファも凄い喜んでいるみたいだし、しばらくその格好でいる?」


「にい!!(いやですっ!)」


「それにしても困ったわ。ねえ? リーディナ?」



 ローディナ……全然、困った顔をしてませんよ!?



「まあ、このままだとユリアが困るわよね。本当にごめん。

 今のユリアじゃ、アデルバード様に事情を説明出来ないだろうから、

 私達から説明しておくから」


 リーディナはそう言って私の頭を撫でて、ローディナもそれに続いた。


「私達は解決法を探してみるわ。リーディナと一緒にアカデミーの先生に相談してみる。

 だから安心してね? ユリア。きっと元に戻れるようにするから」



 そうですね。事情を知らないアデル様が私を見て、

下手をしたら野良猫が迷い込んだと思って、つまみ出されるたら嫌ですし。


「みい」


 こんな姿じゃ、次の住み込みの職場を求める事も無理ですよね。

だとしたら私は、街中で誰かにえさをねだる位しか出来ないのかな。

万一そうなったらリファにおねだりするわ。そしてローディナ達のお家にも泊めて貰おう。

なんて事も考えておりました。


 今回は緊急事態だから、ローディナ達のお家に泊めて貰う方が良いと思うんです。

直ぐに戻す方法が分かったら試せるし、私も居心地悪く過ごす必要ないですからね。


 流石にこの猫足でほうきけません。

アデル様達のいやし担当になって、愛嬌を振りまく位ですよ。


 その後、アデル様が仕事を終えて帰宅した時に、

二人は私を彼の目の前に差し出して、代わりに事情を説明してくれました。

一方私は猫語で、「おかえりなさいませご主人様」と言いながら頭を下げてみる。

周りには、にゃごにゃごしか分かりませんけれども、一応日課なので。



「……ユリアが?」


「「ごめんなさい」」



 ……と二人がそろって私を巻き込んでしまった事に頭を下げて、

必ず解決策を探すと話してくれたんですが、流石に予想も出来ない事態だった為、

アデル様は私の変わり果てた姿に一瞬固まった後、じいい~っとこちらを凝視。


「これが……ユリアなのか」


 やがて、そろそろと私の頭を撫でてきて、最初は恐る恐るといった感じでしたが、

慣れてきたのか私の耳元、あごを撫でてくるようになり。


 最後には子猫の私を抱き上げ、自分の肩にちょこんと乗せました。

そのまましきりに頭を撫でられます。なでなで、なでなでと。


「み?」


 ……おやおやおや? アデル様、どうしたとですか?



「……ユリアの事は分かった。どうかよろしく頼む。

 解決策が分かるまで預かってくれるとの話だが、ユリアは俺のメイドだ。

 流石に外泊は許可できない。ユリアは一応事件の被害者の可能性もある。

 万一ユリアに何かあった時に、俺の目が届かない所だと動けないからな」


「あ……そ、そうですね」


 ローディナがこくりと納得したように頷き、


「分かりました……そっか、そうですよね」


 リーディナもアデル様の言葉に頷きます。


「にい~みいみい(ちょっとお泊りしたかった~)」



 三人そろってユリアが事件の被害者の一人かもしれないと言う事、

保護されていたという身だという事を、すっかりさっぱりと忘れきっておりました。

私も明るくしているせいですかね~……。


 折角、口実をつけて、お泊り会その2が出来そうな予感でしたが、

あえなく却下されてしまいました。ざーんねん。


 その後、ローディナ達はもう暗くなるから、そろそろ帰った方が良いと、

アデル様に言われて二人は家に帰る事になりました。

私はアデル様によってまたリファに託されます。


「クウン!」


 リファは目を輝かせて、私を背中にぽいっと投げて上に乗せました。

そしてアデル様とリファ、私は一緒にローディナ達を家まで送ります。

私だけの時はここまでしませんが、アデル様は騎士様です。

騎士道精神には若い女性を気遣うのが当然なので、夜道を彼女達だけで帰せないと言い、

家路まで守ると、頼まなくてもしっかりエスコートしてくれました。


 

「……」


「み?」


 でも無言、殆ど無言、何か話しかけられれば答えてくれますが、

基本アデル様はクールビューティです。二次だけなら許されますが、

実写リアルでこんな事していると何考えているのか分かりませんよね。

別に青柳あおやなぎ先輩のように、お笑いネタを炸裂させなくてもいいので、

もう少しだけ、にこやかに笑っていて欲しいものです。


 ――あ、何もしゃべらずに、一人でにやけていたら気持ち悪いか。



「にい~みい」



 一方、私はリファから落ちないように、がしっとつかまっています。

リファは体が大きいから、動いていると左右に揺れてしまうんですよね。

下手すると、すってんと滑って落ちてしまいそうだわ。



(ん~それにしても、こうふかふかだと……)



 温かくて、ふわふわの毛並み、そして適度? な振動。


 ローディナ達の家に着く頃には、私はすっかりうとうととして眠ってしまいました。

子猫ですもの、どうやら体質も子猫のままになってしまうようです。

その為、襲い来る眠気には勝てませんでした。





※ ※ ※ ※





「――……リファ、大人しくユリアをこちらに渡すんだ」


「ガウ!! ガウガウ!!」



 その後、私が眠りから目が覚めたのは、

アデル様とリファの言い争いの声がきっかけでした。


 どうやらあれから、ローディナ達を送って屋敷へと帰って来たようですね。

で、今現在、玄関先で言い争っている二人……いえ、二匹がいらっしゃいます。


 喧嘩なんて珍しい事もあるもんだ。そんな事を考えていると、

リファは母猫の様に子猫姿の私を守ろうと、アデル様を威嚇いかくしているようです。


「みい~?」


 だから私は、寝ぼけた頭のままで立ち上がり、

リファの体を前足でぺちぺちして「何をしているの?」と訴えてみた。


 するとリファは起きて来た私に気付き、またも幸せそうに私の世話を焼き始める。

顔をぺろぺろめて、毛づくろいだ。


 ころんと転がった私は、されるがままである。

ふわあああ! くすぐったいのですーっ!


 前足と後ろ足で「(ふんがー!)」と抵抗するものの、喜ばれるだけだ。



「リファ、俺はお前の主人だぞ!?」


「ガウ! グルルルルッ!!」


「にい?」



 えー……ただいま、アデルお父さんとリファお母さんによる、

子供(という立ち位置なんだろうな私)の取り合いが始まっています。


 これは世に言う「親権争い」と言うものでしょうか?


 リファは必死になって私をかばい、アデル様が手を伸ばすと前足で払いのけ、

アデル様も諦めればいいのに、リファから私を取り上げようと何だか必死です。

そんなに君達が子猫好きだとは思いませんでした。どんだけだよ。


(やっぱり小さくて可愛いものを愛でる文化は、この世界にも共通であるんですね)


「グルルル……ウオオオン!!」


「みっ!?」


 リファは牙をいて、先日見た大怪獣になろうとしたので、

私が慌てて、にゃーにゃー言って制止する。

屋敷、お屋敷が壊れるから!! ここではやっては駄目ですよ!!


「この俺に逆らうか! いい度胸だ!!」



 すると今度は、アデル様の方がドラゴンアイズによる束縛効果を発動。

あの、いつの間に戦闘態勢に入ったんですか?

こんな所でラスボス戦とか本当に止めて下さいよ? お願いしますから!


 ちょっと大人気おとなげないアデル様が、

リファをあっけなく動けなくさせ私を奪取。

私は傍に居たけど、その効果はありませんでしたが、

リファは完全にそれに掛かってうめき声をあげていた。


 この子に本気でそんなものを掛けるとはっ! なんて容赦ない!


(な……何て事をしてくれるのでしょうか、この人は! いや龍か)


 傍で動けなくなってしまったリファを心配して話しかける私。



「み、みい、みいみい(リ、リファ、大丈夫?)」


「グ……グウウウ……」



 うなり声を上げながらも、まだ動けないリファ、

アデル様に抱き上げられたままリファを見下ろす私。

そしてアデル様は、主人に盾突たてついて来たリファを冷めた目で見ていました。

プルプル……小さな私の耳はへちょんと下がり、尻尾しっぽもたらんと下がりました。


 私に対する束縛効果はなくても、こんな事するアデル様がちと怖いです。

でも、私の頭をなでくり回しているんだよな~この人。


 一方リファは、瞳に涙を浮かべておりました。


 ああっ! リファを、もふもふなお母さんを泣かせては駄目なのです!!

私がみいみい抗議するも、アデル様は聞いてくれませんでした。

ちょっと! おたく獣の言葉が分かるんじゃないの? 無視ですか!?



「リファ、主人の言う通りに出来ないのならば、俺の使い魔でいる資格など無い」



 そう言ってアデル様は私を拉致らちしていきました……主人の私室に。


「キュウウ……ウオオオ~ン!!」


 遠ざかっていくリファの声、まるでアテレコをすると、


 ”返して、私の子~っ!!”と言っているかのようです。



「みい~……」


 ああ、気分は母から引き離される子供の気分です私も。


 部屋に鍵を掛け、机に向かい椅子に座ったアデル様は、ひざに私を座らせて、

私の背中をなでたり、耳をくすぐったり、頭をなでたり……。

私の毛並みを楽しむように、うっとりとした顔で私を撫でておりました。


 ……もしかして、ローディナの家に外泊を許してくれなかったのって、

こういう事を独り占めしたかったからじゃないのかな?

其処までアデル様が猫好きだとは……はあ、でも困ったな。



「ウオオオン!!」



 カリカリ、カリカリ……ドンドン! と、

数分後、束縛効果の解けたリファが、アデル様の部屋まで追いかけてきたらしく、

反対のドアから必死に引っかいて、子供の返還要求をしているようです。


 そして、その威力はどんどん激しくなり、

今度は体を打ち付けてドアを壊そうとしています。

けれどドアが壊れないのは……きっと何かドアに細工でもしてあるのかな。


 これだけリファが体当たりしているのに、びくともしない辺り、

何か特殊な魔法でも仕込まれているのかも。流石は主人の部屋ですね。


 何となく「私の子、私のやや子を返して下さいっ!」と、

アテレコを付けたくなる状況です。


 ドア越しでの様子から、リファは、号泣しながら訴えているんじゃないでしょうか?

親権をめぐって夫婦喧嘩はよくない!

親をつなぐのは子供です。つまりは私!


「みい!」


 だから私は後ろ足で立ち上がり、アデル様にお願いのポーズをしてみました。


 私の世界で、ネコ動画を見た時に、

一瞬でハートを打ち抜かれた魅惑みわくのポーズ。

動物、猫好きには堪らない仕草の一つでございますよ。

肉球と肉球を合わせて、みよ!! 悩殺! おねだり・ポーズ!



「……ドアを開けてやれと言うのか?」


「にい、みいみ、みみみ(はい、ご主人様)」


「開ければ、リファはお前をまた束縛するぞ?」


「みいみいみ!(今と変わりません!!)」


「…………」



 一瞬の沈黙、その間の私は悩殺ポーズを繰り出し続けます。


(おねがい、おねがい、おねがい……)



 リファがあんなに泣いて動揺するのは初めてなんですよ。

いつも私の面倒を見てくれて、守ってくれる心優しき狼さん。

だから、あんな状況のリファを放っておけません。


「……はあ」


 アデル様は溜息を吐いた後、私の頭をポンポンッと撫でて、

私を再び肩に抱き上げ、部屋の入り口に近づきドアを開けてくれました。

その途端になだれ込んでくるリファの姿、直ぐにアデル様から私を取り上げると、

顔をすり寄せて来ます。きっと「感動の再会!」に胸を震わせているのでしょう。


「クウウン~キュウキュウ」


「(心配しすぎですよ? リファ。幾ら子猫でも数分の別れで弱ったりしません)」


 その後、なぜかアデル様とリファは協定を結んだらしく、

交代で私を所有すると決めて、無事に仲直りをしました。


 ……はい、私の意見はー? なんて聞きませんでしたよ。

さっきの攻防を続けていたら、本気で戦うかもしれませんし。

職場と住処を失くしたくは無いので、大人しく従っておりました。



「みいい……」



 寝る時はアデル様の部屋に、リファとアデル様、そして私で眠りました。

ぎゅうぎゅうに抱き付かれて、凄くうっとう……いえ、窮屈きゅうくつだなと思って、

5日後にリーディナが、元に戻る薬を急ピッチで作ってくれた時には、

私は彼女を思わず拝まずにはいられませんでした。


 だって、それまで子連れ出勤しようとするアデル様とか、

移動する度に私の首元をくわえて移動するリファに、ぷらんぷらんとさせられるわで、

色々と居心地が悪かったんですもん。


 おじ様達も騎士団の皆さんも、私を見て可愛いと言ってくれましたが、

それは獣としての可愛らしさです。嬉しくありません!

下手をしたらなで繰り回されて、ふらふらになるし本当に大変でした。



「リファ、ねえ、泣かないで……?」


「クウン……キュウウウ……」



 でも、私が無事に元の姿に戻った事で弊害へいがいが……。


 リファは小さな私がお昼寝で眠っていた時に使用していたかごの前で、

しばらく落ち込んでいたし、無事に元に戻った瞬間には大泣きしていました。


 あの大きさは、リファにとってジャストサイズだったんだろうな。

子供として私を連れ歩けるのに。じっとしていたら、ぬいぐるみですものね。



「…………」



 アデル様も声には出さなかったけれど、

何か訴えられるような目で始終見つめられました。

でも彼らの要求には応じられません。私も苦労しましたからね!


(子猫ライフは、もう、こりごりですとも!)


 ええ、だから私にそれを求めないで下さいな?


 一時的にでも、ご主人様達をいやすのには成功したらしいですが、

その反動は大きかった今日この頃です。


 あ、そう言えばリーディナが、

今回の副産物で、変身アイテムの指輪を作ってくれました。


『今回のおびの品としてあげるわね』


 何かスパイ活動に役立つかも知れないよ? との事で貰いましたが、

私は敏腕スパイになど、なるつもりは毛頭ございません。

そんな能力もありません。至って普通すぎる人間ですし。


 それと当分の間、子猫にはなる気はありませんからね。


 ……リファ! うるうるした目で見ないで下さい!!





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