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12・初めての冒険

 




 ――前略、お兄ちゃん。


 貴方の妹は今、遠い異国の地で旅に出ています。



 幼き頃、兄と一緒に秘密基地ごっこをしたようなプチ冒険じゃない。

これは本物の冒険、木々をき分けて進む挑戦の旅かもしれません。


 ざくざくと……草や枝をき分けて道なき道を行く。

森を抜け、谷に差し掛かり、山に入ってひたすら歩く。

背中に背負ったかばんには、数日分の食料と飲み水、

暖を取る為の毛布に敷物と回復などのアイテム数個。

旅支度と言っても、旅行の時と同じような中身をめて冒険に出ました。


 なぜ、私がこんな事をしているかというと、実は深い訳があるのです。



 ――……それは一週間前の事でした。


※  ※  ※  ※






 先日、お友達になった錬金術師見習いであり、メインヒロインでもあるローディナは、

その後ちょくちょくお屋敷で働いている私の所へ、

合間を見て会いに来てくれていました。


 私の記憶がない上に、他に女性が居ないという職場のせいか、

心配して様子を見に来てくれていたんですね。なんて優しい子なんだろう。



『ここでの暮らしはどう? もう慣れたかしら?』


『はい、お陰様で、皆さんとても優しいので安心して過ごせます』


『そう……良かった。何かここで困った事があったら私に気兼ねなく相談してね?

 お屋敷勤めをしている知り合いが居るから、聞いてきてあげるわ』


『わあ、それは助かります。ありがとうございますローディナ』


『あ、そうそう、貴方にこれを渡そうと思って、これなんだけれどね?』



 そして彼女から、小さな魔石が埋められたペンダントを貰ったんです。



『わあ、可愛い……綺麗ですね……』


 薔薇の形をした銀細工の台座の中心に石が付けられ、

それから揺れるように、ドロップ型の石が使われている。

石はピンク色をしていて、私が触ると七色に変わった。


 不思議な色をしたもので、石の色が変わっていき、

キラキラと輝いて、とても綺麗で……これは一体何の石でしょうか?


 この石は、ローディナが持っていた時は綺麗なエメラルドグリーンだったけれど、

私が持つと紫色になり、どうやら持つ人によっても色が変わるらしい。



『気に入ってくれた? これ、実は貴方用に作った物なの』


『え? 私がこんな素敵なものを頂いてもよろしいのですか?』


『ええ、元々貴方の為に作ったものだし、

 何時も私は良いアイディアを沢山貰ってるから、そのお礼もかねて。

 まだ未熟だから、こんな物位しか出来ないんだけど……貰ってくれる?』



 先日も、ローディナはリファをイメージした抜き型を特別に作ってくれた。


 いつも頂いてばかりなのも悪いなと思って、

私は焼いたお菓子をご馳走ちそうしていましたが、また貰ってしまいました。

なんだか申し訳ないですね。でも、アクセサリーはとても嬉しいな。


(そっか、私こっちでは普通に使えるんだ)


 実を言うと、私の世界に居た時にはアクセサリー類は余り使えなかった。

と言うのも、声優の仕事をやっていると収録の際には高性能のマイクを使うので、

身に着けていたらわずかに動いた時に音を拾ってしまい、邪魔になるからだ。


 写真撮影とかレッスンの時は大丈夫だけど、収録しゅうろくの時は出来ない。


 ジャラジャラと移動する度に、雑音を拾ったら大変ですからね。

もちろん、揺れるタイプのピアスやシンプルなものはレッスンでも駄目。

何よりヘッドフォンを使う時に邪魔になるから着けられません。

もしも機材を壊したり傷つけたら大変ですし。

男の人だと腰からチェーンを下げているのも、音響さんに嫌がられます。


 その為、私はいくら可愛いのでも普段使いで使う事がなくなっていた。


 だから少しだけ、こういうのを身に着けるのは憧れのようなものがありましたよ。

良いのがあっても、使う機会が余りないですからね。



『ありがとうございます。大切にしますね』


『気に入って貰えて良かった~。それ守り石を使っているの。

 ある程度の魔物なら、そのペンダントが守ってくれると思うから。

 私の妹の受け売りで作ってみたんだけどね』



 ローディナには妹さんが一人居て、彼女は錬金術師を目指しているそう。

以前、身内に錬金術師が居ると言っていましたが、妹さんだったとは。


(……はて? でも何処かで引っかかる)


 ……と思ったら、そういえばその妹さんもヒロインの一人でしたよ。

先日、姉妹で協力してこれを作ってくれたそうで、

試作品と言われましたが、とても嬉しいな。

今度お会いした時に是非お礼をしておかないと。



『そうそう、私ね、明日から新しい素材の調達に出かけるから、しばらく会えないわ。

 最近、もっと効果のありそうな守り石が発見されたそうだから、

 妹の代わりに素材を見に行く事になったの。だから今度会った時には、

 そのペンダントをもっと強化してあげるわね?』



 そう言ってローディナは笑顔で私に手を振り、鉱物探しの為に冒険に旅立って……。


 ――そのまま……連絡が途絶えて、行方知れずになってしまった……。



※  ※  ※  ※



 私はその事をローディナの知人経由で知ると、

直ぐにローディナが向かった先を説明しなければと思った。

冒険に出た人の記録は、ギルドから王都の管轄所に伝わり書いてあるけれど、

事前に出かける話を詳しく聞いていたのは、きっと私だけだったと思うから。



『私ね、いつも妹に背中を押して貰っていたから、

 今度は私一人でも出来るって事を証明したいの』


 そう、別れ際に言っていたローディナを思い出す私。

彼女は妹さんへのサプライズも兼ねてのお出かけだった、


(ローディナ……)


 寄宿舎に駆け込んで、仕事中のアデル様にこの件の事情を説明すると、

直ぐにローディナ達の捜索隊が編成される事になりましたが、

実は彼女が向かった先は、最近レベルの高いモンスターが多く出る区域だと知らされて、

私は震えが止まらなくなった。確かにレア素材とかはハイリスクを伴う事が多いだろう。


 でも其処へ私の知り合いが向かうなんて、今まで思ってもいなかったのだ。



(そんな所にローディナは向かったんだ……)



 アデル様達は、精鋭の騎士達をそろえて旅支度を始め、

私はそれを手伝いながら必死に頼みました。


『アデル様、こんな事になったのは私のせいなんです。

 だから私にもローディナを探すのを手伝わせて下さいっ!!』


 もしも魔物とかにでも遭遇したら、

私が戦闘で足手まといになる事は目に見えていたけれど……。

彼らに任せて、街で大人しく帰りを待っていた方がきっと安全だと思う。

それでも、それでも何かしたくて一緒に行って探したかった。



『駄目だ……君は体が弱いだろう? 捜索には野営もあるから外気に触れる。

 直ぐに倒れてしまう体力では強行出来なくなるだろう。それでは意味がない』


『アデル様……っ!』


『ユリアは屋敷で待っていろ。ローディナは俺達が責任持って連れ戻す』



 私はなぜか体が弱いと思われているようです。否定しても駄目でした。

旅の途中で倒れる可能性が高いなら、この場に居た方が良いとの彼の見解です。

元々戦闘力にもならない娘を連れて歩いても何の助けにもならないから。


(私には怪我の手当て位しか出来ないけれど……でも……)


 ――このまま、他の人に任せて見過ごして……本当に良いのだろうか?


(今は、主人公の方に助力を頼む事もできないし)



 結局、私は連れて行って貰えるはずも無く、

彼らの背中を泣きながら見送ることになった。


『……っ、ローディナ』



 でも……私は其処で大人しく待っている事なんて出来なかった。

ローディナは私の為に、特別な鉱物を求めて危険な土地に行っている。

一応護衛として、知り合いの冒険者を二人雇って出かけたと言いますが……。


(なんだろう……胸騒ぎがする……)


 私がこの世界に来る時、その兆候も勘も働かなかったけど、

今回はそう、人の生死が関わっている可能性がある為か、

悪い予感が私の中で渦巻いていた。


 ふと、彼女のくれたペンダントに手を触れる。

物には作り手の魂が宿っているといわれるそれが、

今はわずかに色が濁っている気がした。


 それはまるで不吉の兆候ではないかと思うには十分で……。


 帰ってくる予定日に戻って来ないという時点で、何かあったのは明白。



(ローディナ……ローディナ……)



 私のせいだ……彼女は一度事件に巻き込まれた私の為に、

せめて自分の身を守れる装飾品を考えてくれていたと、彼女の妹さんに聞いた。


 それを聞かされた私は、彼女から貰ったペンダントを握り締めた。

お守りにと私の為に作ってくれたペンダントを。


(もしもあの時……止めていたら、そんな危険な所だって知っていたら、

 送り出したりなんてしないで止めたのに)



 涙があふれて来る。ローディナが遭難しているのは私と関わったせいだ。

あの子は私の為に、危ない目に遭っているのかもしれない。



「……現実、なんだ」


 もうここがゲームの世界だからと、楽観視なんて出来なくなった。


 ここにはリセットボタンなんて物が無い。

自分の意思だけで「無かった事」にも出来ない。


 正解など誰にも分からず、私だって知らない。


 今、ここにある世界は現実のものとして、自分を取り巻いている。


(ただのゲームだと思ってたら、リセットボタンが押せる立場なら、

 きっとこんな事は思わなかった)



 状況次第では、ローディナが死んでしまうのではないか?

死者を生き返らせる方法など今の自分には分からない。

そんな事は出来ない可能性が高いと思う。


(ローディナは私の友達になってくれた……。

 素性の分からない私を、あんなに親身になって心配してくれて)


 もうあの子は知らない人ではない。もう他人ではない。



『……ユリアちゃん、元気だしてな?』


『そうそう、お友達はきっと大丈夫だよ』


『ああ、俺らのアデルバード様が助けに行ってくれているんだ。

 きっと直ぐに連れ帰ってきてくれるだろうさ』


『はい……』



 お屋敷のおじ様達は、元気の無い私を慰めてくれました。

リファも心配してくれているのに……でも……何も手に付かない。

何も口に出来ずに最悪の考えばかりが思い浮かび、体の震えが止まらない。


 こんな時、ご主人様の言葉を信じてお屋敷をきちんと管理するのが、

彼に仕えるメイドの役目でしょう。ただの使用人ならばきっとそうすると思う。

そう思ったけれど……。


(私は”ただの使用人”の枠には入らない)


 この世界に紛れ込んだ。イレギュラーという存在。

私がここに居る事の影響が、何か現れているのだとしたら?


(あの子は私が出会った事で、今回の事に巻き込まれたんだとしたら)


 今ここで、ただ待っているだけの選択肢は間違いのような気がする。


 ――それに今の私は、サポートをする立場のユリアなのだから。


 私は、最後に見たローディナの笑顔が忘れられない。

何時も私を傍で励ましてくれたあの優しかった彼女の笑顔が、

もしかしたら私が最後に見た姿になるのかもしれないと思うと、

居ても立っても居られない。


 「結理亜ゆりあ」としての自分が、このままじゃダメだと考えている。


(もしも私が事前に、この事を知っていたら……)


 でも、ゲームではこんな展開があったのだろうか……?

だとしたら、それを知らなかった私は悔やんで仕方なくなる。


 これは私の知らなかった部分。やり込んでいなかった私の責任でもある。

もしかしたら「ユリアの行動」で避けられた事態だったかもしれないんだ。


 その先にどんな結末が待ち受けているのかも分からないけれど。



 ――もし、知っていたら……私はローディナを全力で引き止めていたのに……っ!!



(やっぱり駄目だ……無謀だって分かってるけど、馬鹿だって自分でも思うけれど、

 私だけ何もしないで、一人だけ安全な所に居て後悔するなんて嫌だ!)



 ――こんな事している間に、ローディナは苦しんでいるかもしれないのに。



 ああ……こんな事なら、安全なお屋敷の中で引きこもっていないで、

怖い思いを我慢してでも、何か役立つ力を付けておけば良かったと何度思った事か……っ!



「……」



 後悔しても時は進むばかり、私は覚悟を決めた。


(そうだ……ユリアはご主人様も大切にしていたけれど、友人もとても大切にしていた。 

 そのユリアが、友人をこのまま助けようともせずにいられるだろうか?)


 きっと、居られないと思う。私でさえそう思うのだから。

彼女を演じていた私自身が。


(連れて行って貰えないのならば……自分一人で行くしかないよね)



 もしも巻き込んでしまったのなら、私はその責任を負うべきだ。


(ローディナに背負わせるべきじゃない)


 私は部屋のクローゼットの奥にしまわれた物を取り出した。

リュックと皮の鎧、短剣……前にアデル様が私にくれた物。

あの時は、街の外に出るつもりなんて全く無いのにと思っていたけれど、

まさかこんな所で役立つとは思わなかった。もしかしてあれがフラグだったのか?


 私は思いつく限りの考えで、旅支度をし、

おじ様達が私を探しに来た時に分かるようにと、

隣家の知り合いに頼み、言伝の手紙を代筆して書いて貰った。


 皆さん、言いつけを守れなくて本当にごめんなさい……。



「クウン……キュウ~……」


「あ……」



 いざ! と玄関のドアノブを握ろうとしたら、

リファがそれを見越したように、私のドレスのすそを口に咥えてきて、

私の事を引き止めて来た。


「リファ……」


「……」


 リファは、この屋敷に居るのが一番安全だと分かっている。

だから、行っては駄目だと目で訴えていた。


 アデルが私をここに引き止めておくようにと、リファに命令していたのだろう。


 でも……今諦めたりしたら、私は絶対に後悔すると思う。

何もしないで後悔するよりも、何かして後悔した方がいい。

友達が大変な時に、自分だけ安全な場所で待っているだけなんて、

私にはどうしても出来なかった。みんなが許してくれたとしても私は自分を許せないから。



『リファ、お願い行かせて……っ!』


『…………』


『ローディナは私のせいでこんな目に遭ってるの、

 私が行った位で、何が出来るかなんて分からないけれど、

 でも、歩けないなら肩を貸してあげる事位は出来ると思う、

 怪我をしていたら、手当てをしてあげたいっ!』


『……クウン』


『お願いっ! このままローディナの帰りを待つだけなんて出来ないっ!!

 あの子は私の友達なの、とっても私に優しくしてくれた。親切にしてくれた。

 ずっと不安で寂しかった私に、あの子は傍でいつも励ましてくれたのっ!』



 彼女が死んでしまったら……もう後戻りなんて出来ない。

この世界では全て現実として起きている出来事だ。



(諦めて行かなかったら、それでもし助からなかったら、

 あの時どうして自分は何もしなかったのか、助けようとしなかったのか、

 後で絶対に後悔する。そうなったら……もう手遅れだ)


 この世界を作ったのが私の世界の人達で、

こんな残酷な現実を突きつけているんだとしても、

私は今、目の前に救えるかもしれない人が居るのなら動きたいと思う。

もう自分は関わってしまった。知ってしまったんだから。


 この世界の人達の優しさを――。


 画面だけでは知らなかったリアルな世界を。



『――待っていてね? 貴方が喜んでくれるような、素敵な物を作るから……』



 ローディナと最後に交わした言葉が蘇る。


 あの子は――……この異世界で初めて出来た。私の大切な友達だ。


 私と出会った事で、彼女が危険にさらされているのなら尚更。



『リファ!! お願い力を貸してっ!! ローディナの匂い分かるよねっ?!』



 ローディナにはリファも会っている。そして彼女にも懐いていたと思う。

だから、匂いだってきっと分かるはず。自分よりも鼻が利くはずだと。

お願い一緒に来て、助けてリファ! 私は泣き叫ぶように頼む。


『リファは野生で生きて来たんだよね? お願いっ!』


『…………』



 リファは逡巡した後、静かに咥くわえていた口を離してくれた。

そして自分の横をすり抜け、尻尾を差し出して来るようにこちらを振り返る。

それは何時も私を案内してくれる時にする仕草で。


 ”付いてきなさい”


 そう言ってくれている気がした。


 私はリファの意図が分かり、思わず首元に飛びついて頬ずりした。

ありがとう、ありがとうリファ……。


 涙を拭って私歩き出す。前に進もう、ローディナがきっとどこかで助けを待ってる。


『さあ……じゃあ行こう? リファ』



 私は首に掛けたペンダントをぎゅっと握り締めた。


『絶対にあの子は大丈夫。絶対に大丈夫だから』


 どうか待っていて、絶対に見つけ出すからっ!

今から行くからね? ローディナ――……。





※ ※ ※ ※




「――で、リファの背中に乗り、現在に至る訳なんですが~……」



 よく考えなくても私は冒険者レベル1でした。


「そうですね~こうなる事は想定済みでしたね~」



 リファの背に乗って、風のような速さで旅立ったまでは良かったんです。

でも私は行く先々で獲物対象として魔物に狙われました。


 強い者が弱い者を狙う。まさに弱肉強食の世界。


 そして、盗賊団にも目を付けられました。


 ペンダントのお陰で、雑魚ざこには会わない代わりに強そうなのがわらわらと……。


 私、不幸属性がきっとEXクラスまであるのだと思います。

旅立ったら即、死亡なんてシャレになりません。



 対する私……護衛を誰かに頼むという事を全く、

ちっとも、これっぽっちも考えていませんでした。


 ええ、お馬鹿過ぎるだろお前……ってなじられても否定も出来ませんとも。

むしろ肯定します!


 あの時は旅に出る事に必死で、考える余裕もありませんでした。

でもなぜか、私はまだ無事で怪我もありません。


 リファ、私の傍でいつもゴロゴロしていたので分かりませんでしたが、

物凄く……そう、物凄く強い子でした。


 アデル様が、この子を私の護衛にと言っていた意味を理解するには充分です。

襲い来る獣や人間を、ばったばったと返り討ちにしてくれちゃうんですからね。



「うああああーっ?!」


「わああああっ!! たっ、助けてくれーっ!!」


「グウウウ……ウオオオンッ!!」



 あ……今、リファの口から何か閃光のような何かが飛び出しました。

全身に紫色の炎を纏わせたその姿は……。


(え? リファこんな子だったっけ?)


 なんて思うほどに、獰猛どうもうな獣姿へと変貌しております。


 牙は鋭く伸び、目は赤く染まり、宙にふわふわ浮いていたかと思えば、

クリティカルヒットを打ちまくり、敵が逃げる隙も与えずに口から光を放つ……。



「リファ、リファ、君って凄く強い子だったんですね!!」


 いつも私に、もっふもふさせてくれる歩くぬいぐるみが、物凄く頼もしく感じます。


 光が飛び散った先には、大きな爆風と共にクレーターが出来ていました。


「うわあああ――っ!?」


「たっ、助けてくれえええっ!!」


「腕! 足がああっ!?」



 そしてその周辺に居たガラの悪いおじさん達は、

悲鳴と共に一気に吹っ飛ばされていきます。

何というか、力の差も歴然と言うものでしたよ。ええ、圧倒的な強者です。


「ウオオオン!!」



 リファ……凄く頼りになるけど、何だろう……?

悪役は私達のような気がしてきました。


 こんなにもリファが相手を攻撃するのは、実は私のせいでもあります。

私の進む先、進む先に敵が現れ、そして盗賊にまで遭遇してしまい、

逃げるように森を抜け、山に差し掛かった頃に私は進行をリファに任せました。


 で、リファの野生の勘を頼りに近道を進んで貰った結果、

今度は盗賊のアジトにたどり着いてしまい、このような事態になりました。


 ええ、今は盗賊の殲滅(せんめつなんて、

みじんも考えてなどいませんでした。むしろ邪魔。


 私の目的はローディナです。盗賊なんてアウトオブ眼中がんちゅうです。

だから本当はね? 直ぐに立ち去ろうとしていたんですよ。


 でも最初、リファの大きな姿を見て、びびっていた彼らでしたが、

一緒に居たのが実に弱そうな私だったのを見て、舌なめずりをして……。

この先の行動は分かりますよね?



『うへへへ、お嬢ちゃん、こんな所までどうしたのかなあ~?』


『怪我をしたくなかったら、大人しく言う事を聞きな!』



 皆さん剣を引き抜いて、私達に襲い掛かって来たんです。

そう、悪い意味での大歓迎でした。


 直ぐに私は危険を察し、用意した煙幕を盗賊の集団に投げつけて、

リファの背に乗って逃げたんだけど。


 ……でも数が多かった。相手も移動用の獣に飛び乗って、

直ぐに追っ手に追いつかれてしまった。



『リファ、ごめん、ごめんね……っ!』



 凄く怖くて、体はがたがたと震えて、とても戦闘なんて出来ない。


 せめてリファだけでも、巻き込んでしまったのでこの子だけでも隙を作って、

逃が――そうとしていたら、とんでもない事になりましたよ。



『ウオオオオン!』



 たけびと共に……リファは突然巨大化しました。

その瞬間、私は地面に転がり落ちた。


 ただでさえ大きかったのに、さらに大きくなるとは……。

まあ、こんなに大きくなって、お母さん嬉しいわ。

……じゃなくて、まさか小さくなるだけじゃなく、大きくなる事も出来るとは。


 大怪獣リファVSゆかいな盗賊集団。


 ……という構図が出来上がっておりました。



※  ※  ※  ※



「そして現在に至るわけですが」


 皆さん。凄い格好で飛ばされていきます。

ええ、アドリブなしのコントのようです。



 私は最初、おろおろして武器を片手に泣きそうな顔をしていたのですが、

見ているうちに飽きてしまって、さっきの緊張感もなんのその。

リュックからお茶を取り出して、街で買ったお菓子の袋も取り出して、

手ごろな木の幹に座り込み、ぽりぽり食べ始めて見学することにしました……。


「あ、これ美味しいな、後でリファにもあげよう」


「うぎゃあああ――っ!!」


「ひいい――っ!!」


「ウオオオンッ!」



 それでもまだ続いているので、ストレッチをして発声練習を始めました。

こんな大自然の中で発声練習ができるなんて、きっと滅多にありませんよね。


 悪役の立場になるなんて思っても無かったので、これも演技経験になると思い、

人間観察もして悪役の女ボスのように「さあ、やっておしまいなさ~い」なんて、

決めポーズとかもして遊んでみました。ええ、ノリノリで。


 悪役は罪悪感がわく一方で、ストレス発散にもなるよ? と、

以前、先輩に聞かされたのですが……本当ですね先輩。


(ちょっと元気出てきたかも)


 ちょっと調子に乗って「おーほほほほ!」と、手を口元に当てて、

お決まりの笑いもしてみる。……そうしたら、慣れていないからちょっとむせた。


「けほっ、けほっ!」


 ……が、まだ終わらない。

対抗する盗賊団も結構粘るんですが、その度にリファに返り討ちです。

私がやる事と言えば、頃合いを見てリファに回復用のポーションを使う事のみです。



「おい、先にあの女を捕まえればいいんじゃねえか?」


「ああっ!!」


「よし! お前らは裏から回れ!」



 じゃあ、弱っちい方を先に狙えばいいんじゃね? と思い至った男達は、

私にターゲットを絞って人質に取ろうとしたわけなんですが、


「リファ、右斜みぎななめ方向から来る。今度は左後方」


 と指示をしてリファをけしかけ、その隙に反対側の相手に香辛料を投げつける。


「ウオオオン!!」


「うぎゃあああ――っ!!」


「駄目だ!! 近づけねえ!!」



 えーと……このままで行くと、

私はリファを使役するビーストマスターですね……。


(あ、なんかカッコイイ感じがします!)


 ……なんて、私がのん気に思っている間に、

リファは盗賊団を次々となぎ払って行きました。赤子の手をひねるとはこのことか。

それでもママンであるリファは容赦しませんでした。

彼らが私を売ろうとか何とか、いろいろ不穏な事を言っていたせいですね。


 先ほどから盗賊の人達はされるがままです。流石に泣いてます。


 それじゃあそろそろ……リファ、もう止めてあげて~っ!



「リファ、私の為に争わないでっ!」


 なんて、お決まりの台詞せりふを「今更ながら」言ってみる私。



 それでもリファの怒りは収まりません。牙をむき出しでえてた。

私をいつも子供の様に可愛がって守ってくれている。心優しい狼さん。

これは子供を取られそうになったオカンの逆襲といった所でしょうか……。


「アタシの子に何すんのよーっ?!」って言っているように見えるのは、私だけですか?


 そんな中、私は気絶して地面に転がっている盗賊の皆さんから武器を取り上げました。

なんか、ぴくぴくしながら私の足を捕まえようとした人には、

正当防衛として短剣の柄で殴る。放っておいたら復帰しそうなので。


 あ、一応、手加減はしておりますよ? 

「こんな物騒な物は取り上げましょうね~?」と頂いて、

そしてそのままリファの閃光の中に投げ込んで、どろどろに溶かして頂きました。


 それにしても……凄い力ですね。焼き芋とか一気に作れそうですなあ。

――今度リファにお願いしてみようかな? ちょっと力の加減して貰って……。



「……っと、あれれ? なぜかな? 」


 私なーんにもしてないのに、レベルアップしている気がする……。

さっきから、私とリファの体がきらきら光っているんだもん。

これ、確か冒険の時とかにレベルアップする時になる状態だよね? ははは……。


 これはお約束の勝利の決めポーズも、考えておくべきでしょうか? なんて。



 さあ、そろそろズラか……いえ、立ち去ろうかなと思っていた矢先、

私達の居る方めがけて、複数の足音が近づいて来るのに気づく。


(あ、いけない! すっかり忘れていた。

 さっきまいた(ゆかいな)盗賊の仲間が追っかけてきたのかも)



 私がわたわたしてリファを連れて逃げようとするよりも早く、

その足音はこちらに着いてしまうようだ。


「……っ、何?」


 なんて素早さだ。もしかしたら、ここに居たのよりも強いのかもしれない!

せっかく助かったのに……そんな私が顔を青ざめて振り返ると。



「――……こんな所で何をしているユリア!!」


「あ……」



 其処には先に旅立ったはずの、アデル様率いる救助隊の皆さんの姿がありました。






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