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中の人がヒロインになりました  作者: 笹目結未佳
◆本編後・結婚済み◆
118/119

小さな旦那様と大きな旦那様




「ああ、ユリアちゃんお待たせ。念願のものが出来たよ?」


 居間で王立図書館から借りた本を読んでいたら、おじ様達にそう声を掛けられた。

アデル様と結婚したお祝いに何が欲しい? と聞かれたので、

なら、私は『石釜が欲しいです』とお願いしていたんですが。


(まさか、もう作ってくれたんですか)



 仕事の合間にお庭の一角に石釜のスペースを作ってくれていました。

一緒になって庭に見に行くと、レンガを重ねて作られた素朴な石釜が出来ていた。

作業しやすいように地面には残りのレンガを並べて敷き詰めてあり、

木漏れ日が当たるその場所には、作業台にも使える小さな石のテーブルもあって、

軽く食器を並べたりも出来そうだった。



「わあ、わああ、手作りの石釜! 素朴で可愛いですね。

 こういうのずっと欲しかったんですよ。

 ありがとうございます。大切に使わせていただきますね!!」


 ああ、これで焼きたてのピザや燻製を作る事が出来ますと、

私は背後でにこにこと笑っているおじ様達に振り返った。



「ふふ、いいんだよ。また何か作っておくれね?」


「喜んでくれたようで良かったよ」


「期待しているからね」


「ええ、頑張って美味しいものが作れるようにしますね」


「それにしても、結婚のお祝いがこんなもので良かったのかい?」



 廃材をつかっただけなので、製作費は殆どかかっていないだけに、

おじ様達はこんなものがお祝いになるとは思っていないのだろう。

新婚だから、新しい寝具とかお揃いで使える小物とか色々選択肢はあったけれど、

でも私にはこれが一番いい贈り物だと思うんだ。


 だって皆で使うことが出来るもの。



「ええ、これが一番欲しかったんです。

 とても素敵なものをありがとうございました」



 仕事に戻るおじ様達と別れ、私は石釜を改めて見てにんまりと笑う。


「ふふっ、これでピザ作りを練習できるかな」


 以前、ソースを作るつもりがトマトケチャップになっていた件もあり、

アデル様にお好み焼きの失敗作の物を食べさせて、「美味しい」とは言ってもらえたけれど、

正直……あれは彼の優しさなりのフォローもあると思うんだよね。

その優しさに甘んじていたら女が廃るというか、このままじゃいけないと思うんだ。

ほら、お嫁さんとして旦那様には美味しい物を食べさせてあげたいじゃないか。


「……お嫁さん。か」


 自分で言っていてなんだが、実はまだ気恥ずかったりする。

もう周りに若奥様とか、嫁とか、妻とか呼ばれると今みたいに頬が熱くなってしまうよ。

いい加減に慣れなきゃと自分に言い聞かせたいんだけど、どうしても浮かれています。


 以前は主従関係だったから、最近は若夫婦に見えたりしますかね?



「えへへ……はっ!? いけないいけない、浮かれている場合じゃなかった。

 アデル様に心の底から美味しいと思ってもらえるものを作らないと」



 せっかくだからアデル様に、きちんとしたピザを食べさせてあげたかったんだよね。

うん、お好み焼きソースの研究は今の所は置いておくとしてね。

アデル様の好きな物を沢山ここで作ってあげたいから。


(アデル様が良かったと思うものが、もっと増えるといいな)


 これまで再現しようとする料理は、うろ覚えなレシピや材料の不足、

分量や素材の違いなどから、陰で失敗する事もあるけれども、

今はこの世界の料理も私なりにアレンジを試みていて、

アデル様や私が食べやすいように工夫している所だし。


(後は栄養面も勉強してサポートできればいいな)


 最近はよくローディナがお屋敷に来てくれるようになったので、

私の料理のレベルも格段にアップしていることだし。



「ピザなら、お仕事中でも気軽に摘まめるから……早速焼いてみようかな」


 トッピングは何にしよう? 

アデル様が好きなのはお肉だから、燻製肉は外せないよね。


 見れば既に石釜は温められているようだ。

私の性格を見込んで、すぐに使えるようにしておいてくれたのかな。

すぐ傍には細かくカットされた薪や小枝も積み上げられており、火の調節も出来そうだ。


 昨日仕込んでおいたパン生地を伸ばせば、簡単なものが作れるかも。

練習もかねてやってみようかな、美味しく焼けるといいな……なんて思って、

エプロンを身に付け、ミトンを付けて出来たばかりの扉の取っ手を開けてみたら……。


 私はそこで予想もしていなかった物体を見てしまった。


 窯の中から覗き見える二つの物体。

獣の瞳がキラーンと暗闇で光っていたのを。



「え゛っ?」


「「……」」


 じっとこちらを見たままで微動だにしないその獣達。

よく見たら、中にうつぶせに寝転がっている二匹の小さな黒い獣だった。



「ひいいっ!?」


「……ユリア?」


「アッタカイネ、ココ~」



 そこに居たのは、なんとぬいぐるみを脱いだアデル様とリオさんの分身達がっ!


「ちびアデル様!? ちびリオさんも!!」


 なぜか、中でちびアデル様達がうつぶせになって寝っころがっている。

下では既に薪がくべられており、火は既にゴウゴウと勢いよく焚かれていて、

もう中はかなりの高温になっているじゃないか、これは温かいどころの騒ぎじゃない。

早く助け出さなきゃっ!


「ちょ、なん……わ、わああああ――っ、大変大変!!」



 私は「水!」とそう叫ぶと同時に駆けだして、

庭にあった水まき用の魔道具をがしりとつかむと、

振り向きざまに中へと勢いよく放り投げた。



※ ※  ※  ※



――5分後。


 一人で大騒ぎをしながら私はちびアデル様達を回収した。



「……び、びっくりした。びっくりした……うう」


「ユ、ユリア、オドロカセタカ? スマナイ」


「ボクモ、ビックリシタヨ」



 水浸しになったアデル様達を無事に救出し、タオルで包み込んで抱きかかえる私。

知らないでちびアデル様達を、こんがりローストしてしまったかと思ったじゃないか。


 あ、焦った、怖かった。もしもこの子達が大火傷していたらと思ったけれど、

アデル様達は蒼黒龍だから、この程度の事では火傷とかにはならないようだ。



「も、もう、なんであんな所で寛いでいたんですか!」


 そうだ。よりによってなんであんな所で寝ているんだこの子達は。

すると二匹は顔を見合わせて、私の方を見上げた。



「……サイキン、キオンガ、ヒクイカラ」


「サムイト、ボクラ、ダッコシテモラエナイカラネ~」



 それは、花嫁や求愛相手が居る彼らにとっては死活問題だそうで。

アデル様達は本来の姿は龍族だから、龍体の時は体温が人間の私達よりも低く、

もしもこのまま寒くなれば私とアンに抱っこしてもらえなくなると、

しいては可愛がってもらえなくなると、危機感を抱いた彼らが考えたのが、

こういう場で自身の体を丸ごと温める方法だったのだと。


(あれ……でもアデル様は、私が触っている時は温かいんだけどな)


 とか思っていたら、あれはアデル様の優しさらしい。

私が体を冷やして風邪を引いたりしないように、

傍に私が居る時は、一時的に自分の体温を高めているそうだ。

これは魔力に余裕のある本体しか出来ないそうで。


 ちびアデル様は本体が嫌われたくないが為にもしている事だから気にするなと、

タオルに自分の体をこすりつけて拭いている。ころころ転がっていて和むな。

拭くのを手伝ってあげたら、喉をゴロゴロして喜んでくれた。


「マエニ、ダンロニイタガ、ススダラケニナッタンダ」


……ああ、あれこの子達が犯人だったのか。

先日、床がやけに真っ黒になっていたから何事かと思っていたけど。



「あそこは、ちびアデル様達を温める所ではありませんので、

 もう利用するのは止めて下さいね? 危ないですし」


「ジャア、アレハナンダ? ユリア」


「えっと、あれはピザとか野菜を焼く石釜というもので、

 おじ様に私達の結婚のお祝いに作っていただいたんですよ」


 決して、おちび龍の専用日焼けサロンとかではありませんし、

アデル様達の遊び場でも寝床でもありませんよ?



「ピザ? タベモノ?」



 その言葉にいち早く反応したのは、ちびリオさんの方だった。


 普段、この子にはアデル様のおやつの残り物とか端きれとかあげていたせいか、

私の顔を見るだけで、条件反射でよだれを垂らすようになった気がするんだが。

なんだろう……まるで調教されたわんこのようになってしまったな、この子。



(これが元魔王様の分身だとは、誰ももう思わないだろうな。うん)


 ユリアは元魔王を餌付けするのに成功しました。なんて狙いはなかったんだが。

そんな元魔王の分身、ちびリオさんは尻尾がブンブンと振られて、

これから何か作るのかと、ちびアデル様と一緒に期待の目でこっちを見るけれど……。



「ええ、パンの生地を薄くして焼いた惣菜パン……みたいなものです。

 作ろうと思っていたんですが、先ほど水浸しにしてしまったので、

 今日はもう作るのは出来ないですね。一度掃除をして空焼きしないと」


 その言葉を聞いた途端、腕の中の二匹はショックで固まっていた。



「オ、オレタチノセイカ?」


「タ、タベラレナイノ!?」


 この子たちの行動は結果的に、


 ちびアデル様の場合は「私からの愛情を拒否」した形に。


 ちびリオさんは「私のアデル様への求愛」を邪魔した形になった。



「オ、オレ……ガ……」


「ボ、ボク……アデルニ……」


「だ、大丈夫ですよ私も気にしてませんし、

 本体のアデル様もきっと許してくれると思いますから、ね?」



 がたがたと震え、ショックのあまりに放心状態になる二匹の頭を撫でた。

石釜は後日、改めて使わせて頂く事になりました。可愛いけれど応えられないからね。


 その後、二匹を抱っこして温室へと連れて行き、

日光浴をしていたリオさん本体の方に引き取ってもらうことにした。



「ああ、ユリアいらっしゃい……って、ちょっと湿っているね。分身の僕」


「……ピザ、タベタカッタ」


「えっと一緒にちびアデル様もお願いできますか?

 二匹ともショックで動かなくなってしまって」


「うん、いいよ。事情は分身の中から様子を見ていて知っているし、

 一緒に日向ぼっこをしているから……ピザ、僕も食べてみたかったな」


 ぷらーんと手足を投げ出したまま、微動だにしないちびアデル様も、

リオさんの横に置くと、私は部屋を出て行った。

ああなると、復帰するのは時間がかかるものね。


「さてと」



 他には特にする事もなかったので、

私は気分転換にそのまま王都へ散歩しに行く事にした。


 帽子を身に付けて、人目を意識しながら行き交う人の群れの中を歩く。

近くには護衛の人がピタッとくっ付いて歩いているので窮屈だけれど、

以前のような危険な出来事があったばかりなので、余計に外出の際には気を使っていた。


 そんな私は、こつこつと石畳の上を靴音を立てて歩くのを楽しむ。

この道もようやく歩き慣れてきたな。それだけここでの生活に馴染んだのだろう。


(ふふ、以前はよくつまづきそうになって、アデル様に助けてもらっていたよね)



 その時不意に風が吹いて、帽子が風で舞い上がった。

あっと手を伸ばして拾い上げると――。


「ユリア」


「……へ?」


 振り返ると既に私は声の主に抱き着かれていた。

ひえっ!? と声を上げるが、服から伝わる匂いに私は体の強張りを緩める。

顔を上げるとよく見知った顔、私が誰よりも知っているその顔があった。



「アデル様……?」


「ああ、ユリア……会いたかった。

 今日は買い物か? 外へ出たりして大丈夫なのか?」


「あ、はい。体調もいいので……」


「ん……そうか」


 挨拶代わりにアデル様は私の前髪にキスを一つ落とす。

どうやら彼はちょうど巡回の為に出てきたようだ。


 騎士団長夫人となって、私とアデル様の夫婦生活は穏やか……とは言い難いが、

二人の仲は実に良好な関係を築けているんじゃないかと思います。はい。

でもね? アデル様にちょっと申し上げたい事があるんですが。



「あ、あのですねアデル様」


「ん?」


「――あの、ここ……往来のある、道のど真ん中なんですが……」



 そう、ここは人や馬車などが行き交う王都の街中だ。

朝に玄関先でお見送りをしたはずなのに、まるで数年引き離されていたかのように

感動の再会(と言う状況になるのかな、今)になっているアデル様は、

私を腕の中に閉じ込めたまま、私の腹部を撫でながら私の頬にキスをしてくる始末。


 私達の背後には護衛の騎士の人達も居るし、アデル様は自分の部下も引き連れている。

彼と同行していた友人のラミスさんは私と目が合うと、顔を赤らめて反らされたわ。

あの、誰もこれを止めてくれないって事ですよね? 私に耐えろと?

と言うか目の前で皆さんそろって悶えているよ。



「往来? 分かっているが?」


「いや、分かってないですよ。あの、ちょっと!?」


 こんな人前でと顔を赤らめていると、

案の定、周りの知らない人達にヒューヒュー言われてしまったではないか。


 彼と結婚してから、陰で嫌味を言ってくる人もまだいたけれども、

こうして王都で私達の仲睦まじい姿を見せつけることで、

他者の割り込む隙はない……と思わせる目的もあるから強くは言えない。



「ほら、周りの迷惑にもなっていないようだぞユリア」


「だ、だめです恥ずかしいです。アデル様」


「番が仲睦まじいのは良い事だ」


 最近は素知らぬ顔をしているが、アデル様の手の動きがまた怪しいな。

なんだかただならぬ執念があるように、私の腹部に触れてくるんですよね。

……そう言えば、ちびアデル様とちびちびアデル様も、

隙あらば撫でてきていたよね……朝。


(今朝は目が覚めたら、私を取り囲んでいたし)



 まるでこれから何かの生贄になるのかと思ったわ。

気になって聞いてみても教えてくれなかったけどね。

たぶん、龍族のまじないみたいなものをしているのではないか。



「えっと……まだ誰も居ませんからね?」


「ああ、そのようだな……まあ、いずれな」


 ああ、やっぱり子供を期待されていた訳か。娘を欲しがっていたものね。

本当なら番になって直ぐに子供を作る為に巣穴に数か月も籠るらしいから、

龍の世界の習性で行くと、私達はかなりのんびりとした生活をしているようだ。

それもこれも、私が人間で体が弱い為と思われているせいだろう。


(い、いつかはアデル様との子供を……なんて思いますけど、

 まだそこまで気持ちが追い付いていないですし)


 何しろ結婚できる歳だとしても、私はまだ中身共に子供ですからね。

夫婦になった事自体がまだ気恥ずかしくて、

こういう触れ合いも慣れていなくて頬が火照ってしまいますよ。



「こうして会えたことだし、おいでユリア」


「へ? あのどこへ……いえ、その前にアデル様の巡回は?」


「もう主要の所は回ってあるからな、後はこのまま部屋へ戻って書類整理だ。

 ユリアが安心して外を歩けるように、不穏な事をやらかす所は、

 この俺が片っ端から潰しているからな」


 以前の一件でアデル様は仕事に火が付いたようです。主に私案件で。


「はあ……ありがとうございます?」


 仕事の優先順位すら、私が最優先ですか。

言っているのが不穏すぎるのだが、ツッコむべきなのかなこれは。

 

 で? なぜそれで私は抱き上げられているのでしょうかね?

ほら、周りの人も驚いて……というか、なに? ああまたかって顔をしているのはなぜ?



……そう言えば前にも似たような事があったなと思いだす。


 彼の仕事は不規則で、帰宅後に突然呼び出される事もあったりするんだけど、

さも当然のように、出勤の際の荷物の数に私が含まれていたんだよね。

あの時は早朝だったから、寝ぼけていた私はされるがままに、

彼が選んだドレスで着替えさせられて、髪も整えてもらい、

そのまま屋敷から連れ出され……目が覚めた時は騎士団にある彼のベッドの上だった。


 ちょっと見慣れた素敵な天井を見て、『なぜ私がここに居るの?』と、

なんだかデジャヴを思い出しつつも横を見たら、

机で熱心に仕事をするアデル様が居たんだよね。


(そのままアデル様と一緒に寄宿舎で朝食を食べたり、訓練の見学をしたり、

 き、キスしちゃったりとかで問いただす事もなく、流されましたけどね)


 ええ、私が他の荷物と同じ扱いで、持ち出し項目に入れようとしているようだ。



「……アデル様、いくら結婚して私の身分が保証されたからって、

 用もないのに私が頻繁にお仕事現場にお邪魔するのは良くないですよ? 

 ほら、士気も下がりますし」


 私がアデル様と結婚したことで、私は正式に彼の家族として認められた。

と言う訳で私はメイドから騎士団長夫人という立場に落ち着き、

彼の妻として、ある程度の保証と権利が与えられている。

なので、メイドの頃みたいに主人が不在時には出入りが許されないということはないが、

だからと言って、妻を同伴なんてするのもどうかと思うよ。



「ライオルディには許可を貰ってある。俺の騎士団での公私混同は大歓迎だとな」


「え゛っ?」


 アデル様の満足げな顔を見て、嫌な予感しかしないじゃないか。



「せっかくユリアに求愛して番になれたのに、

 今の仕事のせいで俺が花嫁と過ごす時間が減ってしまったり、

 子を設けられなくなってしまったら、俺に恨まれて大変だからとな」


「……ルディ王子様」


 番に関わる恨みを買いたくなかったんだろうな、それは。



「だからいつでも時間と都合が許す限り、俺の花嫁を同伴しても良いそうだ。

 良かったなユリア。これで君を寂しがらせないで済む」


「え? え……ええええええっ!?」



 いえ、確かに最近は名声も上がった事もあり、戦後処理もあるので、

いつもアデル様は仕事で忙しいから、たまにはデートとかしてみたいな……。

なんて思っていましたけど、いましたけどね。さすがにそこまでは求めていないと言うか、

今のままでも十分だと言いたいんですが。


 逃げ出そうとしたが、がっつりと私の腰はアデル様につかまえられてて、

傍に居た騎士様達はラミスさん含めてお手上げ状態だ。

ちょ、誰もこの方の暴走を止める人が居ないと!?

国家公認の職権乱用がまさに成立しちゃいけないと思うよ。


 つまり白昼堂々と嫁を旦那様が騎士団へ拉致るのは、合法になるってことだよ?



「あ、あああアデル様!?」


「……ユリアは人間の娘だし、アレの影響もあるからな。

 ラミルスの母の話だと、もうこの位で子が出来ていてもおかしくないそうだが。

 やはりユリアの体調を気づかい、手加減していた事もあるし、

 俺達の婚姻は特殊だからな。子が授かる準備は整えておきたい」


 その結果、私は騎士団宿舎へ拉致られるというわけですか。アデル様。

すたすたと、城下街から離れて王城へと向かうこの道が憎らしい。

障害物なんてどこもないし、アデル様が歩くだけで皆避けていくしさ。


 確かにお仕事は忙しいですし、遠征で留守になる事も結構ありますけど。

なかなか子供が作りにくい環境なら、出来る環境にしてしまえとしなくても。


「そ、そんなに焦ってませんから、ええ、せめてあと2、3年位は余裕をですね?」


「それでなくても俺は花嫁を傍に置いておきたい。

 さっきもユリアはちび達と楽しくやっていたようだしな」


 

 またかー!



 って!? 気づいたらすっかり進んでいるじゃないか。

もう城下街じゃなくて、騎士団の門の方が近くなっていますよ。



「アデル様ぁ……」


「……早めに報告を済ませて、部屋の中でデートと言うのをしよう。

 今度一緒に出かける場所を二人で決めるのもいいな。

 あと、たまには夕食を外で食べないか? 部下に良い所を教えてもらったんだ」


「え?」


 それは……ちょっと嬉しいかも。なんて。



「えっとお休み……取れるんですか?」


「ああ、俺の所の団員達もだいぶ育ってきたからな。

 もうすぐラミルスも団長に就任するそうだし」


「そうなんですかラミスさん」


「あ、ああ……親父がな、早めに引退してお袋と旅行にでも行きたいって事でさ。

 来年の春からは、俺が紅蓮騎士団を率いる事になるよ」


「わあ、おめでとうございます。じゃあ皆でお祝いしないとですね」



 物語が前倒しになって解決したからか、ラミスさんの出世も早かったのかな。

照れくさそうに笑うラミスさんと、仲良くにこにこと微笑み合っていたら、

私の腰に回っている腕が僅かに強まった。



「……ユリア」


「……え?」


 あ、まずい。これは確実にやきもち焼いているわ。


 私はそれから部屋に連れ込まれると、アデル様と追いかけっこをした。

それも全力だ。ここで気を許したら後が怖い。確実に別の意味で喰われる。


「おーいお前ら……そういうのは外でやれよ?」


とかラミスさん達には言われて、

私の事はアデル様に任せて、ぞろぞろと出て行かれた。


そ、外!? 何てことを言うのこのお兄さん! 

アデル様が本気にしちゃうじゃないか!!


 ラミスさん達は私達が「捕まえてごらんなさーい」な様子に見えたんだろうけど、

意味が違うよ!? 別にいちゃついているんじゃないよ?

捕まった後が怖くて逃げてるんだよ?


 けれど龍の体力にはやっぱり叶わなかった私は、

頼みの綱だったちびちびアデル様まで取り上げられて……。


「そんなに元気があるなら大丈夫だな」



 と、不敵な笑みを向けられたアデル様によって、深い口づけを受ける事になり。

まあ……後はお察しくださいな状況へと追い込まれましたよ。はい。


こんな感じで私達の夫婦仲は良好です。

強制的に良好すぎて、もう少し落ち着いた生活をしてみたいというのは贅沢ですか?

なんて思いつつ、アデル様の束縛から尚も必死に逃れようとしている私が居ました。まる。





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