9・引き篭もりメイドが街に出かけました
あれから数週間経って……。
私の制服と、お出かけ用の私服も大体仕上がったので、
アデル様とリファのお許しを頂き、外に買い物に出かける事にしました。
(自活する基盤もできたことだし、次は情報収集していきたいな)
情報は武器になるからね。
「ひ、一人で行かせるなんて、大丈夫かい?」
……すると、どうした事でしょう。
一度おじ様について来てもらって、外出した事もあるというのに、
同伴なしでいいと話したら、おじサマーズに心配されるではありませんか。
私に記憶が無い上にまだ土地勘も無く、更に言えば、
お屋敷の中でも迷子になるので、リファの案内が必要不可欠だったせいか、
あの子は誰か傍に居ないと絶対にまた迷子になるよ?
という認定をされてしまって……。
「なんなら今日も付いて行こうか?」
……と、心配してくれるおじ様が居たり、
「いや、俺が行こう。王都の中は危険だ」
「アデル様はお仕事があるじゃないですか、だめですよ」
アデル様まで仕事休んでついて来ようとする始末。
どれだけ信用が無いのでしょうか? 私、これでも小さい子じゃありませんよ?
入り組んだ路地裏とかでもなければ、流石に迷う事はないと思うんですがね。
ほら、大通りを中心に歩けばいいと思うから。
「もしも迷子になったら、周りの人に聞いて解決しますよ?」
そう言うと、余計心配されました。
「……それでもし、間違った道に連れて行かれでもしたらどうする」
「う……」
アデル様のツッコミに、何も言えない私。
確かに、それはあり得る話だわ。
(世間知らずのお嬢さんと見られたら危険だってことだよね)
「まあまあ、帰り道が分からなかったら、このカードを大人の人に見せてな?
男なんて駄目だよ? 大人の女の人を頼りなさい」
おじ様の一人が、迷子カードを私の為に作って下さったりもして。
いや、其処まで無知じゃないですよ? と言いたいんだけどね。
首から下げるタイプの迷子カードは、白猫さんの顔になってました。可愛い。
このお屋敷の住所と主人の名前、私の名前が書いてあり、
道を教えて下さいと、この世界の言葉で書いてあるようです。
(これを使うのが私って、どうなんでしょうね?)
小さい子ならともかく……とりあえずお気持ちだけいただこうかな。
「いや……ユリアちゃん、本当に知らない人に付いて行っちゃ駄目だぞ?
君は純朴そうだから、悪い奴に騙されそうで心配だよ」
「そうそう、君がまたさらわれたら大変だ。おじさん達泣いちゃうからね?」
「ナンパとかしてくる男が居ても、絶対に無視するんだぞ?」
「お屋敷まで変なのが付いて来るのが居たら、俺達で追い払ってあげるから」
「そうそう、その時は”おじ様助けて”って言うんだよ?
何だったらお父さんでもいいからね? パパ達が守るから」
気分はまるで、小さな娘を心配する父親の心境なのでしょうか……?
すっかりおじ様達と仲良くなった私は、いつの間にか娘認定を受けました。
私が保護された時に、何処かの令嬢と思われている為か、
世間知らずのお嬢さんの上、記憶が無いという状態なので、
何処かのよからぬ人間がそれをいい事に、
下手な嘘で騙してさらわれるんじゃないかと……。
やっぱり私が記憶喪失だという設定が問題ですよね。
怪我の後遺症で、突然記憶が混乱して今の事も忘れてしまうんじゃないか、
無事に帰って来られなくなるかも……とも思われているようなんだ。
つまり、ただでさえ危なっかしいお嬢さんなので、
まだ傍で見ておいてあげないととか思ってくれたらしいね。優しいなあ。
(でもご心配されるのも、無理はないですよね……)
一応、異世界経験は一ヶ月弱なので、世間知らずと言うのは否定が出来ません。
ここの常識はまだ分かってない所も多いですし。
でも、それを言うと、このお屋敷のご主人様も似たようなものではないかな……。
「……飴をくれるからって、付いて行っちゃ駄目だよ?」
と、何度言われた事でしょう。いや、それは流石に無いですよ?
もふもふ天国だと言われたら、ぐらっと心が揺らぐかもしれないのは、ここだけの話ですが。
でも、今の所はリファ以上のもっふもっふ感のある子とは巡り会っていませんので、
たぶん大丈夫だと思います。はい。
「大丈夫ですよ! 小さい子だってお母さんのお使いが出来ますし、
私にだってきっと出来ます! ほら、リファも傍に居てくれるから大丈夫ですよ!
いつもアデル様の使い魔をしてくれているんですから、すごい頼りになります」
護衛としてはこれ以上の適任者は居ないと思う。
その辺の不審者なら、リファが「ガウガウ」言って追い払ってくれると思います。
だから街中なら多分……きっと? 安心して行動出来ると思うんですよと説得しました。
ええ、ゲームをプレイしていた時に、
(街の人に紛れて怪盗が居たなあ……)
とか、
(怖い冒険者のお兄さんに絡まれたりする、トラブルとか色々あったなあ……)
とか、そんな事を少し思いましたが、私は主人公じゃない(ここ重要)
一応登場人物の隠しキャラ、つまりは日陰のような存在のヒロインです。
つまりね。私は同じヒロインだとしても、他の人より目立たないはずなんだよ。
もしもそんな状況に陥る事でもあれば、その時はサバイバルゲームのように、
箱や建物の陰に隠れて、ずーるずると行動しようかなと思っていますし……。
(あ、私が不審者で捕まりますか、そうですか)
「確かに変な人が出ないとは言い切れませんが……もし出たら荒ぶるヨガのポーズで、
相手に意表つかせるのはどうかなと考えていますよ」
「ヨガ?」
頭の上で両手を合わせ、そのまま腕を上に伸ばし足を前後に開いて、
はいよおおー! 剣士のポーズ! とか。で、その隙に逃げるとかどうでしょーか?
なんて言ってみたら。
「……やはり、心配だから俺がついて行こうか」
「アデル様……」
ユリア(代役)は説得に失敗した!
(うーん。大丈夫だと思うんだけどね)
ずっとお屋敷の中で、ほとんど引きこもり同然のお仕事をしていたので、
すっかりさっぱりと失念しておりましたが、ファンタジーとかによくある、
錬金術師や冒険者とかもここには実在するらしいんですよ。
それっぽく見える人ばかりなので、区別のつけ方が分からないけどさ。
だから、王都にはそれ用の工房とかギルドとかアカデミーとかもあるそうで、
そういう所でお小遣い稼ぎとか、私にも何か出来ないかなとも思っています。
(情報収集の為には、この世界に溶け込むのが一番ですし)
折角この世界に来たんだからいっそのこと冒険するかって? それは無理無理。
私、怖いのは苦手なので、其方の能力を伸ばす気は今の所は更々ありません。
(それこそガヤ……その他大勢の扱いでいいですよね。そう言うのは熱血系勇者様とか、
冒険者とかの得意分野の方にがんばって頂きたいですから)
で、私はメイドその1として、皆様の活躍を小耳にしつつ、
のんびりとお屋敷で平穏な生活をしたいと思っています。
何を好き好んで、怖い思いをしなきゃならないんだと思いますから。
(あー……でも、展開次第ではあるのかなあ……冒険者ユリアとか?)
アデル様は騎士団長、物語では冒険者のグループに同行する話もありますし、
ユリアもまあ、一応参加が可能なリストには載っているんですよね。
ただ流石に全部のパターンでは、物語をこと細かく網羅してませんし、
多少プレイしたものと、自分の演じた台詞で想定されるシーンのみ位だったので、
他にどんな可能性がユリアにあるのかも分りません。まさに未知数。
(でも、魔物とかと戦うのは……ね。ゲーム画面で見るのと実際に生で見るのは、
きっと印象も感覚も全く別だと思いますし)
今は必要に駆られるような状況でもないし、
私は平和な裏方的メイドさんでいいかなと思います。
元々主人公をサポートするのがユリアの役回りでしたし。
「……とにかく本当に大丈夫ですから。で、では行って来ますね?」
出来たばかりのお買い物用の布バッグを持って、いざ出発。
今日は狙い通り月一で蚤の市がやっているらしいんですね。
ぜひ行かせて頂きたいとお願いしまして、私は今日の日を迎えたんですから。
「じゃ、リファ、行きましょう?」
「クウン?」
「仕方ない……君は俺とは違うし、世間に慣れておくのも必要か」
護身用の武器を持つ事、リファから離れない事など、色々約束させられましたが、
それで休日を頂く事になりました。やったー!!
でも1つここで気になった事があります。それは私の傍に居るリファの存在でした。
リファは私に慣れてはいますが、他の人から見れば獰猛な狼にしか見えず、
更に言えば体が熊のように大きいので、人々の反応が凄いと思うんです。
ええ、お屋敷の中で言えば、配達の人が扉を開けた途端に、
白い熊が出迎えたと勘違いして、一目散に逃げられた事も以前何度かあったそうだ。
(何時もリファを連れ歩いていたアデル様は、自分自身が注目される人だったから、
その事に何も気づかず、相乗効果で周りを怯えさせていたのではないでしょうか?)
いえね? 私が以前初めておじ様同伴で少しだけお使いに行った時にも、
リファが護衛兼、保護者代表として付いて来てくれたのですが、
街中の皆さんは、まるで小波が引くかのような反応で道を開けてくれたんです。
あ、私が人から注目されるカリスマ性があるとか、ヒロイン的な特殊効果があるとか、
そういう事は全くありません。
皆さんの視線の先に居るのは、私の横に並んで歩くリファでしたから。
(確かに私も出会ったばかりの頃はリファが怖かったからなあ……
この子に慣れてもらいたいと言うのは、私のわがままだよね)
だから大きなリファを連れて歩くのは気が進みません。
もしモンスターと勘違いされて、この子が冒険者の誰かに危害を加えられたらと思うと……。
「あの、リファの大きさでは目立ってしまって、
私が連れて行ったらこの子が危険な目に遭ったりは……」
その事をアデル様に相談したら、アデル様は問題はないと言ってのけました。
「ならば、小さくして連れ歩けばいいだろう?」
――無茶だ!!
そう心の中で思いましたが、外見はメイドヒロインのユリアです。
そんな事、「ユリア」は言わないでしょうね。そうですね。
ツッコミは心の中だけでしまわせて頂きました。
危ない危ない……声がよく見知った先輩の声と同じだから、
思わず条件反射でツッコミ入れてしまいそうになったわ。
「リファ」
「クウン」
合図を受けたのか、リファはひと鳴きの後にしゅるんと音を立てて、
小さな子犬の姿へと様変わりしました。
「え?」
……いや、良く見ると犬ではなく子供の狼です。ぽってりふっくらしたお腹が可愛い。
体は小さくても自分を見つめる瞳はリファの顔そのもので。
ちょっ?! 何で早く言ってくれないのですか!!
リファ、体の大きさ変えられたんだね~、知らなかったよ。
「クウン~キュイイ……?」
これでいい? と聞いてきているのかな?
お手、と手を差し出したら、ぽんっと前足を置いて応じてくれました。
「……か、可愛い……ちっちゃい」
余り驚かなくなったのは、この世界の感覚に麻痺されたせいだと思います。
魔法学校とかもあるし、何でもありなんだと思うよ。
空を飛んでいる人も前に見てしまったからね。
体の大きさくらい……そう大きさくらい何でもないのですよ。きっと。
一瞬、アデル様もミニマムサイズになれるのかなと思ったのは黙っておこう。
今の私はまだ正体を知らない立場だからね。
「必要な時には元の姿に戻れるから気をつけて行くといい。じゃあ、俺はもう出かける」
「はい、行ってらっしゃいませ」
「ん……」
アデル様はいつものように、私の頭を撫でてから出勤されて行かれました。
……何だか最近、彼がやたらとフレンドリーなスキンシップをして来るのはなぜでしょうね?
(……ああ、今まで構ってくれる人間の女の子がいなくて寂しかったのかな?)
妹的なノリ、もしくは娘的な意識で、愛でようとしているのかな。
まあ、そんな訳で……。
彼と会話をしたお陰で、リファはぬいぐるみみたいだ。
小さいと移動するのが大変そうなので、抱っこして連れて行く事にしました。
何時もと逆ですよね~。私の方がリファに抱っこされる事が多かったので、
とても新鮮でうきうきする。
「じゃあおいで~リファ」
「クウン、キュウキュウ」
「~~!! か……か・わ・い・い!!」
椅子に座って居たリファは、くりくりした目を輝かせて、
前足を此方に伸ばしてきます。こっ、これは「抱っこして~」という事ですよね?
そのつもりだったけど、おねだりしてくれるとは!
その可愛らしさといったら……思わず、ふらりと足元が揺らぎました。
このまま出かけないでもいいかな? なんて思ってしまったり。
「……はっ?!」
(いかんいかん)
――私を魅了するとは……リファ、恐ろしい子!
ですがこれぞ、ふわふわのお供でしょうとも! 思わずぎゅっと抱きしめました。
今度からは、私が膝の上に乗せて抱っこするのもやりたいと思います。
私はうきうきとお手製バッグ片手に買い物に出かけました。
「何かレアのアイテムとかあるといいな~可愛いのあるかな~?」
今後、生活の足しになるかもしれないお助けグッズとか、
普通に買ったら、高い品が安価で買えるかもしれない。
おじ様達に手を振って、いざ元気に出発です!
※ ※ ※ ※
とことこと慣れない石畳で整えられた街並みを歩いて、
お洒落な建物を見上げながら王都の道をたどる。気分は上京したばかりの娘の心境だ。
国の中心街は行商の馬車が通りやすいように、比較的きれいに整備されており、
レンガや木組みの家が建ち並ぶ、落ち着いた雰囲気をしている。
王都の所々には大きな水路も発達していて、この街の隅々にまで行き渡った作りになっています。
とても澄んでいるので不思議に思っていたら、近くで湧き水が使われているんだそうな。
(ここは水源も豊かなんですよね~水がとても綺麗だな)
心は未だに海外旅行をしているような気分なんですが、
歩いている皆さんの格好は、ファンタジー要素があふれているんだよね。
(むしろ……仮装行列)
この世界の人とかなら、きっと何て事無い光景でも、
現代日本を生きてきた女子高生には刺激が強いですね。
毎日が文化祭をやっているような、ドキドキわくわくした気持ちになります。
「……やっぱり、私だけ浮いている気がするなあ」
一方で、こうして歩いていると……ああ、日本じゃないんだなとしみじみ思ってしまう。
知らない町並み、知らない人ばかりで行きかう人達の群れにポツンと立っていると、
自分の事さえ見失ってしまいそうだ。
……この世界は、ユリアを必要とはしても、”結理亜”は必要とはされていないから。
「ええと……あの人だかりがそうかな?」
蚤の市は、市街地広場の噴水の辺りでやっているそうだ。
普段は馬車が乗り降り出来るように、広く用意されているんですが、
今日ばかりは印象も違うようですね。もう所狭しと沢山の小さなお店が並んでいました。
「うわあ……もうこんなに人が……」
かなり広いので参加者も多く、もう朝から大賑わいの様子。
良い物は直ぐに売り切れてしまうそうなので、本当はもっと早く来た方が良かったのですが、
私はアデル様のお出かけ準備のお手伝いをしなければならないので、
予定よりも少し遅く現地に到着しました。
……迷子、迷子にはならなかったからね?
「ええと、まずは何処から行こうかな?」
「クウン」
その為、既に着いた頃には人もあふれ返っておりました。
でも部屋に飾れそうな可愛い動物の置物、お洒落な文具用品、手作りの洋服もあるし、
手芸の材料や家庭用品もあります。レトロ感がある食器類とかも……。
アンティークな雰囲気って好きなんですよね。私、
一つずつ手に取って見ているうちに、悲しかった事も忘れ、
うきうきと気分が向上してきました。
「リファ、いっぱい良いのがあるね~?」
「クウン……?」
「あはは、リファには分からないかあ……。
――あ、これ可愛い。ちょっと裾上げしたら私にも着られるかも……」
古着も何点か良いのが見つかりました。状態を確認した後、
少しまけて貰えないか交渉して、サイズの合いそうな服を安く入手することに成功。
このまま着るのもいいですが、シンプルなものが多いので少し手を加える事にします。
「これを型紙代わりにも出来そう」
染料を売っている店があったので、材料を買って服を染めてみましょうかね。
色あせているのならば染めればいいですから。
手編みのレースやビーズ、釦も可愛いのがありました。
それも安い! 聞けば試作品で作ったものだから状態は少し落ちるとのこと。
いわゆるアウトレット品という事ですね。本場の価格より安く売っていました。
勿論、此方も買わせて頂きます。髪飾りとか服のアクセントに大活躍ですよ。
こういうレースって編めるのかあ、凄いなあ……流石にレースは編んだ事が無いよ。
一言で言うのならば、今日の市は「当たり」だった。
なんか傍で「勇者の剣」とか、「幻のツボ」とか、
そんな怪しげなのも当然のように売っていたりもしますが……。
「へえ~こんな物も……」
「クウン? キュウキュウ!」
うん、私には全く関係無いので気にしない! 見るからに怪しそうだし。
リファが、「あれは呪われてるから触っちゃ駄目よ?」って、
アワアワして私に訴えてるみたいだし。この子にはそういうのも分かるのか。
「そうだよね~うん、やめとく」
まれに、レアアイテムが紛れ込んでいたりするものだけど、
そんなに簡単には手に入らないよね。今はリセットボタンも無いわけだし、
こういう時は簡単に信じてもいけないと思うよ。
本物なら、装備するだけで能力値が底上げしたりするらしいけど、
もしも外れたら、えらい目に遭うものだからね。
街の外は出る気がこれっぽっちも無いので、興味は無いのですが……。
(アデル様が喜びそうな物とか売ってるかなと思ったんだけど)
別に彼の好感度を上げたいなとか思っている訳ではないんですが。
ただ、彼には何時もお世話になっているし、私の命の恩人だもの。
だから何かの形でお礼をしたいなと、以前から思っていたんだよね。
リファは人の装飾品とか物とかには興味が無いので、お菓子にするとして、
アデル様にも……ここで何か買おうと思いついた。
「よし! そうと決まったら、自分のものを探すついでに探してみよう。
良いのが見つかるといいな」
それから私は行き交う人の流れに任せるように、方々を見て歩く。
そして見ている途中で、お菓子の型が沢山売っている店を見つけた。
あ、可愛い……と足を止めて一つを手に取った時だった。
「いらっしゃいませ、どうぞごゆっくり見て行って下さいね?」
「はい、あ……」
其処で、若草色のワンピースを着た同い年くらいの女の子に声を掛けられた。
茶色の長い髪を両サイドにふんわりと結い、薔薇の髪飾りを付けたとても可愛らしい子、
瞳は服と同じ淡い緑で、微笑んだ姿は親しみやすそうな印象を受けた。
(あれ……この子……)
何処かで見たような……そう思った時、私はその子が誰だかを思い出した。
ふっとゲームをしていた時の断片的な記憶が蘇る。
そうだ……この子もゲームの登場人物の一人じゃないかっ!!
それも、パッケージデザインにも大きく出ていた。あの。
「……っ!?」
「ええと? あの、どうしました?」
その少女の名はローディナ。彼女もまたゲームで役柄を与えられた人物の一人だ。
ユリアと違い、隠しキャラでなく正規で登場しているメインヒロイン。
選択肢で、生産系のお話になると登場する子だったと思う。
自分を含めてこれで三人目……これはもう否定どころではない。
(私、やっぱり……)
やはりここはゲームの世界なのだろう。「似たような世界」ではないと確定された。
そして、この時出会った彼女との出会いがきっかけで、
私に待ち受ける運命が動き出していたなんて、
その時の私は、まだ知る由も無かったのだった……。