第七話 休暇
間道での”突撃猪”との遭遇戦の後、俺達はその場で助けた開拓者親子を連れて駐屯地へと帰還した。
助け出した父親は重傷を負っていたものの、姉さんの治療が早かった事もあって命に別状は無かったが、念には念を入れて街の病院へと移送される事になった。
「休暇? てっきりあの親子の移送を担当するものだと思っていたけど……」
「はい。 それは本部に報告に戻る班にお任せします。 皆さんはシフトを変更して休暇という事で」
「むぅ……初日からそんなんでいいのか?」
「まあ、いいんじゃねぇか? 今回の戦いで俺等も相当消耗しているしな」
そうなのだ、今回の”突撃猪”との戦いで俺達は”戦力が半減”していた。
”神の欠片”の力をまだ使い慣れていないプリムは、父親を助ける時の繊細操作で大きく気力を消耗して寝込んでいた。
姉さんは駐屯地へ戻るまで父親の治療に掛かり切りだったせいか、疲れ切ってかえって来て早々に部屋に引っ込んでしまった。
”突撃猪”との戦いでスキターリェツに大分無理をさせたフリスは、帰ってからすぐにスキターリェツの足回りの整備を始めていた。
「俺とカイ、それにヴィクターの三人だけじゃ流石に見回りなんてキツイだろう?」
「確かに……」
「そういう訳なので、明日はゆっくり休んで英気を養ってください」
「その……なんか、すいません……」
「いえいえ、皆さんの力を評価したからこその休暇ですから、遠慮せずに」
山本さんに促される形で俺達は急遽、明日一日休みを貰う事になった。
◆
「そんな訳で、俺等は明日一日休みになった訳だが……」
夕食後、俺は食卓に集まった仲間に神妙な顔をして明日の休みの事を話し始めた。
「さて……何をして過ごしたものか……?」
急に休暇になってしまった為、休日の過ごし方など考えていなかったのだ。
駐屯地ではこれといった娯楽も無い。
かと言って、英気を養うための休暇を鍛錬で丸々潰すのもどうかと思われた。
「確かに……ここに来てまだ二日では、掃除も洗濯もあっと言う間に終わってしまいますね」
最初に”家事が趣味”とも言えるプリムらしい意見が飛び出す。
「休暇ならワシは動く気は無いぞ。 酒をかっ喰らってだらだらするだけじゃ」
姉さんは相変わらず惰眠を貪るつもりらしい。
「そうだな……僕はスキターリェツの慣らしで駐屯地周辺を走り回って来ようかな?」
フリスはさっきまで整備していたスキターリェツの慣らし運転をしてくるようだ。
「ん~……俺ぁ、特にやる事がねぇな。 かと言って寝ているだけじゃ味気ねぇし、どうするか……」
「ソウヤって暇なの?」
「ん? 暇っていやぁ暇だな」
「じゃあさ、明日一日ボクに付き合ってよ!!」
「ヴィクターにか? 何すんだよ?」
「ちょっと、教えてほしい事があってね。 イイかな?」
「俺に教えられる事なら構わねぇぜ。 暇つぶしぐらいにはなるだろ」
どうやらヴィクターとソウヤは明日は一緒に過ごすみたいだ。
何をする気なんだ?
「まあ、折角の機会だ。 明日は皆、それぞれでのんびりするって事でいいか?」
「分かりました」「さんせーい」「まあ、いいんじゃねぇか?」
満場一致で明日は各自、自由行動という事になった。
まあ、ソンブラ群島から帰って来てからちゃんとした休みを取れなかったし丁度いいかもな。
◆
「ん……」
俺は窓から差し込む日差しの眩しさを感じて目を覚ました。
太陽が高い……俺はどんだけ寝てたんだ?
まあ、いいか。
「んん~~~~……」
俺は身を起こすと大きく身体を伸ばす。
「ぐ……身体がバキバキする……。 マジで疲れてんかなぁ……」
俺はぼやきながらベッドを這い出した所で自分が”服を着ていない”事に気がついた。
「あれ……? なんで裸? ………………あ」
あぁ……そういえば、昨晩は”久々にプリムと致したんだった”。
って……事は、俺は昨晩ヤル事やって、今まで爆睡こいてたって事か……。
「ん……あれ?」
昨晩、床に脱ぎ散らかした俺の服が無い?
シャツやズボンはおろか、下着すら無かった。
「ま、マジかッ!? このままじゃ俺、部屋から出られねぇじゃねぇかッ!!!」
やべぇ……どうしよう……。
……とりあえず、ベッドの中に戻っておくか……。
さて、どうしたものかとベッドの中で悶々としていた時……
コンコン
『おはようございます。 カイ、起きていますか?』
「プリムか?」
『入りますね』
扉を開けてプリムが部屋へと入ってくる。
その手には綺麗に畳まれた”俺の服”があった。
「おはようございます。 とは言っても、もうすぐお昼なんですけどね」
「ああ、俺はそんな時間まで寝てたのか……」
「私が起きた時は熟睡していたみたいでしたのでそのままにしておきました」
気を使ってくれてたみたいだな。
「そうそう、カイの脱いだ服を洗濯しておきましたよ」
「ああ、だから無かったのか……って、事は…………パンツも?」
「はい、全部洗って干してあります。 あ、カイの荷物の中から着替え持ってきました」
「あ、ああ……」
俺は顔を引きつらせながら着替えを受け取った。
「そんな顔して、どうしました?」
「いや……きっと、駐屯地の”奥様方”にからかわれるんだろうな~ってな……」
「はぁ……?」
ああ、よく分かっていない顔だな。
「それよりもそろそろお昼ご飯ですから」
「ああ、着替えたら行く」
着替えを置いて部屋から退出するプリムを見送ってから、俺は手早く服を着こんだ。
◆
俺が部屋を出て食卓に行くと、そこには”二人分”の昼食が並んでいた。
「あ、もう準備終わりますよ。 座って待っててくださいね?」
「俺等の分だけか?」
「はい。 フリスさん、ソウヤさんとヴィクターは外で食べるとの事でしたので、お弁当を持って行ってもらいました」
「ああ……皆、出かけてるのか……あれ? 姉さんは?」
「紅玉さんは……」
そういって苦笑いを浮かべながら、プリムは”ヴィクターと姉さんの部屋の扉”に視線を向けた。
「……まだ、寝てるのか……」
「先程、お手洗いで一度起きたのですけど、『眠いからもうしばらく寝る』とだけ……」
俺が言えた事じゃないが、どれだけ寝る気だ!?
「前に”治療術には体力を消耗する”と言っていましたし、今日は寝かせてあげましょう?」
「いざって時以外、寝てるか酒飲んでるイメージしか無いんだがなぁ……」
そういや、治療術の使い過ぎでぶっ倒れていたこともあったっけか?
それを考えると、あんまり多様させるのはまずいのかもしれないな。
「カイ、準備できましたよ」
考え込んでいた俺にプリムが声をかけて来た。
まあ、その辺の事は後で姉さんに聞いてみるか。
それよりメシメシ……。
「んじゃ、いただきます」
「はい、召し上がれ」
俺はそういって出された昼飯に手を付けた。
「あ、そうでした」
「ん?」
「カイ、この後なのですけど、夕方ぐらいまでお出かけして来てもらえませんか?」
「別に構わないけど、何かあるのか?」
「折角のお休みなので、この後じっくりと各部屋のお掃除をと思いまして!」
眼をキラキラさせながらプリムはそう宣言した。
なんて言うか……すげぇ楽しそうだ。
「んじゃ、そこらを散歩でもしてくるかな?」
「何か、追い出すような事言ってしまってごめんなさい」
「いや、どうせ俺が居ても大して役には立たないし気にすんな」
さて、出かける事になった訳だが……どこに行ったものかな?
そんな事を考えながら、俺は昼飯を平らげていくのだった。




