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新世界の魁  作者: 黒狼
第三章 雷龍通商連合同盟編
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第五話 間道の戦い 前編

 この駐屯地へ入って何日か経った早朝、俺達のパーティー『Wild Flower』は駐屯地の外れに集合していた。


「それじゃあ、今回の任務の確認をするぞ。 って……姉さん、二度寝すんな!」

「ふぁぁ……しょうがないのぉ……。 頑張って聞いとるから手短にな」

「まったく……」

「まあ、今に始まった事じゃないしね」

「まあ、いいや……。 ここから北の方にある”五番間道”と、その間道周辺の開拓村の巡回が今回の任務だ。 順当にいけば、夕方には駐屯地に戻れる距離だから、そんなに難しい事は無いと思う」

「やっぱり初回だから、比較的簡単な所を回して貰えたんだろうね」

「だな。 だから今回は慣らしのつもりでのんびり回ってみようと思う。 皆、それでいいか?」

「うん、それでいいと思うよ」


 特に反対意見も無いようだ。


「良し、それじゃ出発するぞ!」


 俺達は車とスキターリェツに分乗すると、ここでの初仕事へと出発した。





          ◆





 俺達は比較的ゆっくりめの速度で車を走らせながら、出来て間もない間道を進んでいた。

 間道に入ってから特に魔物に遭遇する事は無く順調な道程だ。

 これまでに二つの開拓村を通り過ぎ、もうすぐ折り返し地点になる比較的大きめの開拓村が見えてくるころだった。


「しっかし、暇だな。 まあ、暇な方がいいんだろうがよ」

「だったら、運転覚えて俺の代わりにドライバーやってくれよ……。 そうすれば、暇しなくて済むぜ?」

「俺にはそんな”細かい力加減”とかは無理だ。 お前といい、フリスといい、どうやったらそんな”力を入れずに力を籠められる”んだ?」

「そう言っている時点で運転は当分無理だな……。 うん、分かってた」


 これと言ったトラブルが無かった事もあって、こんな感じのくだらないやり取りをしながら森の中の道を進んでいた。


 こうして気が緩み始めた時…………






 ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ






 周囲に何やら”爆発音”の様な轟音が、突如として響き渡った。

 俺はそれに驚いてブレーキを踏み込んで車を急停止させた。


「な、なんだ!?」

「すごい音……一体何処から……」

「あれだ!!」


 轟音に驚いていた俺達にソウヤが正面を指さした。

 指さしたその先、間道の真ん中で濛々と土煙が上がっていた。


「何かあったのでしょうか?」

「ここからだとよく分からないが、ヤバい気がする……」

「ちょっとボクが見てみるよ。 フリス、お願い」


 ヴィクターの言葉にフリスは頷いて、スキターリェツを”人型”に変形させた。

 人型に変形したスキターリェツは3mぐらいの全高がある。

 更にヴィクターは、運転席のフリスの肩の上に立って双眼鏡を覗き込んでいた。


「何か見えるか?」

「えっと……多分、壊れた馬車……かなぁ?」

「それって、開拓村に物資を届けている商人の馬車じゃねぇか?」

「あッ!!」


 唐突に双眼鏡を覗き込んでいるヴィクターが大声を上げた。


「どうした!?」

「魔物だよ! でっかい猪みたいなやつッ!!!」

「でかい猪!?」

「”突撃猪(チャージング・ボア)”だな……。 街道の、それも村の近くで出くわすなんて……」

「ああッ!!!」


 ヴィクターが更に慌てた様子で大声を上げる。


「今度はなんだッ!?」

「壊れた馬車の近くに人がいるッ!!」

「何!?」


 魔物が暴れている近くに人だとッ!?


「猪は気がついていないみたいだけど、このままじゃ暴れているのに巻き込まれちゃうかもッ!!!」

「迷っている時間は無いか……。 ヴィクター、すぐにスキターリェツを降りて!!」

「え!?」

「僕が奴を引き付けるから、カイ達は馬車の近くの人を!!」


 そう言ってフリスはスキターリェツの腕でヴィクターを下に下した。


「おい、一人で行く気か!?」

「”君と違って”無茶はしないさ。 僕が引き付けている間に車で横を走り抜けてくれ!!」


 そう言い残すと、フリスはスキターリェツの操縦桿を握りしめる。


「へ、面白れぇじゃねぇか! 俺にも一枚咬ませろ!!」


 そう言って、走り出す直前のスキターリェツの背中にソウヤがひょいと飛びついた。


「ソウヤ!?」

「心配するな、”大型の魔物(デカブツ)”相手には慣れている」

「しょうがないな……」


 ソウヤを背中に張り付けたまま、フリスの駆るスキターリェツは土煙を上げて”突撃猪”へと走り出した。





          ◆





「先ずは奴の気を引かないとな……」


 そうつぶやくと、フリスは”操縦桿から手を放して”座席の後ろからライフルを取り出した。


「お、おいッ!?」

「操縦桿は固定してあるから、まっすぐ進む分には大丈夫だよ」


 冷静に言い放って、フリスは鈍色に輝く弾をライフルに込めて構えた。


「この一発で奴の気をこっちに引き付けるから、構わずそのまま走り抜けるんだッ!!!」


 俺はフリスの言葉に応えるように、スキターリェツの少し後ろに車をつけた。

 俺の車の位置取りを横目で確認すると、フリスは道の向こうで暴れている”突撃猪”に引き金を引き絞った。




 ダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ




 轟音を響かせて、一発の弾丸が”突撃猪”に飛来する。

 それは狙い違わず”突撃猪”の胴体へと命中した。


 自身が攻撃を受けた事に気がついた”突撃猪”は急停止すると、ゆっくりとその視線をフリスの方に向けた。


「ブゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」


 ”突撃猪”は雄たけびを上げると、その瞳に怒気を点らせてフリスへと突進した。


「良し、こっちに来た!」


 フリスはライフルを下して操縦桿を握り直すと、急ブレーキをかけながらスキターリェツを反転させた。


「このまま奴を引っ張る! ソウヤは適当に攻撃して奴を煽ってくれ!!」

「任せろ! さぁて……面白くなってきやがったッ!!!」


 フリスの駆るスキターリェツは、”突撃猪”を引き連れて俺達の乗る車の横をすごい勢いで走っていった。


「うはぁ……でっかい!! あの魔物って、車より大きかったよね!?」

「あんなのにやられたらひとたまりも無いな……」


 走る俺達の後ろから爆発音が響いて来た。

 どうやら走りながら”突撃猪”を攻撃しているらしい。


「よし、馬車のところまで急ぐぞッ!!!」


 ”突撃猪”を攻撃する爆音を背に俺は車のアクセルを踏み込んだ。





          ◆





 車を走らせる事暫し、すぐに半ば破壊された馬車が見えて来た。

 車体の前半分が粉々に破壊され、”突撃猪”に轢き殺された二頭の馬の死骸が転がっていた。

 その馬車の傍には、涙ながらに俺達の方へ向かって手を振る小さな少女と、その傍らで腕を抑えて蹲る母親と思わしき女性がいた。

 俺達はその惨状に顔を顰めながら、車を降りてその少女と女性の元に走り寄った。


「大丈夫ですか!?」


 プリムとヴィクターは泣いている少女の方へと駆け寄り、姉さんは怪我をしていると思わしき女性の方へと向かっていった。

 俺はというと、”この場に居るのがこの二人だけ”という事に何となく違和感を覚えて遠巻きにしながら周囲を警戒していた。


「お、お願いします!! 助けてくださいッ!!!」

「大丈夫ですよ、貴女のお母さんは私の仲間が見てますから……」

「そうじゃないんです!!」

「え……?」

「ま、まだ、”馬車の中にお父さんと弟”がッ!!!」


 ”お父さんと弟”ッ!?


 違和感はそれかッ!!

 開拓民にしろ行商人にしろ、男手が無い事自体が不自然だ。

 その事を失念してるとは……。


「まずいな……くそッ!!」

「ヴィクター、この子の事をお願いッ!!!」


 少女をヴィクターに預けると、俺とプリムは同時に馬車へと駆け寄った。


 俺達はまず、原形を留めている荷台を覗き込んだが、積まれていた荷物が散乱しているだけで人の気配は無かった。

 って、事は……。


「カイッ!! いましたッ!!!」


 すぐそばでプリムの呼ぶ声が聞こえたので、プリムの元へと俺は急いだ。


 そこには馬車の残骸に埋もれた男性が横たわっていた。

 その男性の脇腹には残骸の欠片が突き刺さっており、ひどい出血をしていた。

 そして、その男性の腕の中には4~5歳ぐらいの小さな少年が抱きかかえられていた。


「この出血量……やばいな……。 チンタラ掘り起こしてたら間に合わないかも……」


 このままじゃまずいッ!!!

 人の手で掘り起こすには時間がかかり過ぎる。

 ”(さきがけ)”のランドブラストで残骸を吹き飛ばそうかとも思ったが、それだとこの親子を巻き込んじまう……。

 何か無いか…………。


「私がやります……」

「プリム?」

「”五芒の封柱トゥリス・ペンタクルム”で残骸を押し上げます……! カイは隙間ができたらあの人を引っ張り出してください」


 プリムは残骸の上から男性の身体の位置を確認してから、ゆっくりと片足を上げた。


「行きますッ!!!」



 タンッ



 プリムの足が地面を軽く踏みしめた。



 ボコォッ



 男性の周りから細い五本の柱がせり上がってきて、男性の上の残骸を押しのけていく。


「ち……力加減が……むずか……しぃ……」


 どうやらこの能力は繊細な使い方には向いていないらしかった。

 プリムは顔を歪めながら、”五芒の封柱トゥリス・ペンタクルム”を維持し続けた。


「良し、その場で止めろ!!」

「は、はい……」

「十秒だけ耐えろ、いいな?」


 コクンとプリムが頷いたのを確認した俺は急いで男性へと近づいた。


 出血は気になったが、このまま瓦礫に埋もれさせておく訳にはいかない……。

 俺は意を決すると、男性を抱きかかえたままの少年ごと一気に引っ張り出した。


「う……うぅ……」


 動かした男性が微かにうめき声を上げた。

 よし、生きているな……。


「カ、カイ……どうです?」

「大丈夫だ、まだ生きてる」

「ほ…………よ、よかった……です」


 そう呟くと、プリムはその場にフラっと倒れた。


「お、おいッ!?」

「お……思ったより、力加減が、む、難しくって……」


 疲れた表情でてへへとプリムは笑った。


 どうやら、今回みたいな微妙な力加減で能力を使う場合、普段よりも多量の気力を消耗するようだ。

 だが、命に別状ある訳ではなさそうだ。


「……すみません」

「いや、良くやったよ」


 頭を撫でて労ってやると、プリムは少し恥ずかしそうに微笑んだ。


「やれやれ、こんな状況でいちゃらいちゃらと、良くやるのぉ」


 俺の後ろから突然声がかかった。

 振り返るとそこには何時からいたのか、あきれ顔をした姉さんが立っていた。


「ね、姉さんいつの間にッ!?」

「そんな事どうでもいいわい。 ほれ、そこの御仁を治療するからそこを開けんかい」


 姉さんは男性の横にどっかりと座り込むと、魔法で治療を始めた。





 ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ





 突如、遠くの方から爆音が響いて来た。


「思いの外てこずっているみたいだな……」

「ふむ、加勢に行った方がいいかもしれんのぉ」

「良し、俺が行ってくる。 姉さん、プリムの事を見ててやってくれ」

「おお、任せいッ!」

「カイ、気を付けて……」

「すぐに戻るからな」

「……はい」


 俺は爆音のする方向……未だ仲間達が戦っている場所へと駆け出した。

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