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新世界の魁  作者: 黒狼
第二章 海賊同盟編
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第二十七話 弔いと宴

「うぅ……だ、だりぃ……」


 あの戦いから一昼夜経っていた。

 俺は”神の欠片(ゴットピース)”の能力の使いすぎで”荒鷲”の旗艦の船室のベッドの上でへばっていた。

 以前、能力を使いすぎた時は二日間昏倒したものだったが、今回は身体の倦怠感だけなので以前よりマシだと言えた。


 因みに、俺と同じく”神の欠片(ゴットピース)”を所持していたプリムとユリウスはあの戦いの後、気を失って倒れたらしい。

 プリムは半日ぐらいで眼を覚ましたらしいが、ユリウスは未だに意識が戻らないらしい。


 俺達が戦った”山羊”とその子供達の遺体は、既に存在していない。

 魔物と同じく、ある程度以上のEC(エネクリ)をその身体に取り込んだ生物は、死亡してからすぐに身体の分解が始まって最終的には跡形も残らず分解される。


「……結局、アイツ等は身体も残って無いんだよな……」


 まるで心にぽっかりと穴でも開いた様な気分だった。

 姉さん(こうぎょく)師匠シュヴァルツ・ウォルフも”魔人の乱”の後はそんな感じだったのかな……?

 こう、すっきりしない感じで……。


 俺は寝ている時以外は、こんな感じで考えに耽っていた。


「……はぁ」




 コンコンッ




 突然、俺の部屋の扉がノックされる音が響いた。


『カイ、起きてますか?』

「プリム? もう起きていいのか?」

『まだちょっと身体が重く感じますが、激しい運動をしなければ出歩いて良いと言われました』

「そうか。 ちょっと待ってろ、今鍵を開けるから」


 俺はベッドから起き上がって部屋の扉の鍵を開けて、部屋にプリムを招き入れた。


「どうしたんだ、一体?」

「カイの様子を見に来ました。 カイは”私との約束”を破って、無茶をし続けていた訳ですし」

「あ……ああ」


 参ったな……こりゃお小言か……。

 しょうが無かったとはいえ、無茶をしまくったからな……。


 俺は観念して、溜息をつきながらベッドへと座り込んだ。


「…………カイ」


 俺が想像していたのとは違い、プリムは俺の頭を抱きしめた。


「プリム?」

「以前、カイも私にこうしてくれましたよね?」

「え?」

「お姉様の事で私がショックを受けた時です」


 ああ……あの時か。


「カイは、まだ無茶してますよね?」

「え……俺は別に……」


 プリムは俺を抱きしめる力を強めた。

 俺の顔に、プリムの心臓の鼓動を感じた。


「……今も”手に感触が残っている”のでは無いんですか?」

「…………」


 俺はプリムの言葉に身体をビクッと震わせた。

 俺の意志とは裏腹に、俺の身体は震えはじめ、眼には涙が流れ始めていた。


「え……あれ?」

「ヴィクターから話は聞きました。 あの子を護る為にした事だって……」

「あ、いや……だって、あの時散々吐いてそれで……」

「あの時は大変な状況でした。 それに、私の経験則で言いますが…………”人を始めて手にかけた”時のショックは、一人では解決しないんですよ?」


 そこで、俺は”あえて思い出さない様にしていた”事が頭に甦った。


 俺はあの日……敵だった”山羊のライデン”の子供を殺した。

 奴は俺達を殺そうとしてて、実際にヴィクターを殺しかけた。


 だから俺の手で”殺した”……。


「あ……ああ……俺……お…れは……!!」

「カイ……」


 俺は、プリムの胸の中で嗚咽を漏らした。


 俺は、人を殺した自分が許せなかった。

 俺は、人を殺す事でしか誰かを守れなかった自分が許せなかった。

 俺は、この手に残った殺した時の感触が許せなかった。


 とにかく、俺が人に手をかけた事を許したくなかった。


 プリムは、そんな俺の頭を黙って撫で続けてくれた。


 ……そう言えば、こんな風に俺を撫ででくれたのは、死んだ爺ちゃんか叔父さんぐらいだったな……。


 俺はその後、年甲斐も無く泣きじゃくった。

 泣くだけ泣いたら、無性に人肌が恋しくなった。


 プリムは、そのすべてを受け止めてくれた。

 プリムは、ずっとやさしく微笑み続けてくれていた。



 俺はまた、プリムのぬくもりに救われたんだな……。





           ◆





 それから二日後、あの日共に戦った者達が”荒鷲”の旗艦の甲板上に集められた。


 甲板からは、戦場になった場所であるカペル島が見えていた。


「よし、集まったな。 これから”奴等”の弔いをするぞ」

「弔いだと?」

「”海で育った者は海に還す”。 俺の居た世界では、そう言う言葉がある。 弔いぐらいしてやってもいいだろ?」


 ”荒鷲”はそう言うと、部下に布で包んだ何かを持ってこさせた。


「これは?」

「”山羊”一党の”遺品”だ」


 ”山羊”の武器の穂先、折れた軍刀、砕けた弓、鉄製の義手の残骸等々……。


「蒸発した遺体の代わりだ。 これを俺達の手でこの海に還す」

「そう言えば、魔人の乱の時もこんな感じで遺品を土の中に埋めたのぉ」


 姉さんは懐かしむ様な、それでいて悲しそうな顔をしながら、魔術師の少女の物であろう髪飾りを手に取った。


「そうか……彼等は戦場で死んでも、こうして弔う事が出来るんだね。 そう言う意味で言えば、まだ幸せなのかもな……」


 元軍人らしい感慨深い事を呟いて、フリスは義手の残骸を拾い上げた。


「てめぇより若い餓鬼を弔うのは、いい気がしないな……。 でも、まぁ……それが剣を交えた者の義務なのかもしれねぇな」


 副長はやりきれない顔をしたまま、少年の物と思われる手袋の切れ端をそっと拾い上げた。



 そんな感じで、一人また一人と”遺品”を掴み取っていった。


「皆、手に取ったか?」


 全員が”遺品”を手に取った事を確認すると、”荒鷲”の指示で俺達は甲板の端へ一列に並んだ。


「御託はいらん。 ただ……”海へ還れ”……それだけだ」


 ”荒鷲”のその言葉の後に俺達は、一斉に”遺品”を海へと投げ入れる。


「「「……………………」」」


 皆が沈黙する中、波と風の音だけが妙に強く響き渡った……。




「……よし、辛気臭ぇのはこれで終いだ!! 野郎共、酒を出せ!!!」

「「「アイアイサーッ!!!!!」」」


 辛気臭い雰囲気を振り払う様に”荒鷲”が声を上げる。


「貴様等、ぼさっと突っ立ってんじゃねぇ!! 気持ちを切り替えろ!!! 戦勝の宴だッ!!!!!」





          ◆




 戦勝の宴は湿っぽい空気を吹き飛ばして、盛大に行われた。


 宴は夜半過ぎまで行われた。

 数多の海賊達は存分に酒を飲み……そして、一人また一人と”脱落”していった。


「いやぁ、久方ぶりの酒は格別じゃのぉ!!! ほれ、もっと持ってこんかい!!!」


 既に数十人の男達が甲板に倒れ伏し、歴戦の提督達ももはや”荒鷲”と”黒熊”を残すのみとなっていた。


「な、なんて姉ちゃんだ……”野猿”、”猟犬”と破り、”海象(セイウチ)”を下すとは……」

「おう、次はお主か。 提督制覇まで後二人じゃ、覚悟せいよ!!!」

「ぐぬぬ……”海賊同盟パイレーツアライアンス”の威信にかけてもこれ以上はやらせんぞ!!!」



 また一人、姉さんの餌食に…………。



「あの女も相変わらずだな」

「アンタの時もあんな感じだったのか?」

「概ね、な……」


 その場所から”逃げて来た”俺と”荒鷲”は、その光景を見ながら話をしていた。


「もう吹っ切れたのか?」

「ん? ああ、何とかな」


 多分、俺が初めて人を殺した事だろう。

 何だかんだで気が回るんだな、この人は。


「お前等には、色々と世話になったな」

「こっちは人探しのつもりで来たんだがな……結局、終わりまで付き合っちまったよ」

「ああ、そう言えばお前等はエドを探しにここまで来たんだよな」


 そう、俺達は元々、ヴィクターの親父さんであるエドワード氏を探しにこのソンブラ群島まで来たのだ。

 その探し人も見つかった。

 後は、連れ帰ればいいわけだ。


「正直言うと、エドと同じくお前等は俺の部下に欲しいぐらいなんだがな」

「よしてくれ、海賊何て柄じゃない」

「なに、冗談だ。 お前等にはでかい恩が出来たからな。 責任もって丁重に送らせて貰う。 ヤオト辺りに言えば、喜んでやってくれるだろう」


 そう言うと、”荒鷲(エンリケ)”は、俺に手を伸ばしてきた。

 それを俺は無言で握り返す。





「礼を言う、”陸の兄弟”」

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