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新世界の魁  作者: 黒狼
第二章 海賊同盟編
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第十八話 三方の戦い2 横撃 後編

 今、私はエドワードさんと共に、海上を走る”鞄”の上に乗っています。

 どういう理屈で鞄が海上を走っているか見当もつきませんが、それによって陸地まであと僅かの距離まで来る事が出来ました。

 鞄から大量に吹き出ている蒸気のおかげで、陸地からの攻撃から身を隠せているのも幸いでした。


「さて……この鞄は、中の圧縮蒸気を吹き出して進んでいるんだが…」

「えっと…何か問題でも?」

「まあ、平たく言うと”ブレーキが無い”んだ。 そんな訳で、”岩場に衝突する前に飛び降りて”くれ」

「え? …………ええええええええぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」


 事もあろうにエドワードさんは、驚く私を尻目に『10、9…』等とカウントダウンまでしはじめたのです。


「8……ああ、プリム君? 7…」

「な、何ですか、こんな時にッ!?」

「5…飛び降りたと同時に君は右、私は左に…4。 良いかな? 3…」

「は、はいッ!!」


 こうなると迷っている暇もありません。

 私は、鞄が”岩場に激突する直前に飛び降りる”為に身構えました。


「1………今だッ!!!」


 エドワードさんの声を合図に、私達は前方の岩場へと跳躍しました。

 それと同時に、後ろから岩場に鞄が激突した轟音が響いてきました。


「プリム君ッ!!」

「はいッ!!」


 着地と同時に、私は右へ、エドワードさんは左へと即座に移動しました。


「な…なんてデタラメな上陸して来るんだッ!?」

「ふむ、抜かれましたのぉ……」

「センセ、どうする?」

「海上の二人はロッソ君とヴェルデ君に任せておけば良いでしょう。 我々は、上陸した二人の相手をしましょう」

「へへ、そう来なくっちゃなッ!! お姉ちゃんはオイラが相手するぜ、いいよなセンセ?」

「彼女は手練れですよ。 油断はしない事、それだけは胸に止めておいてくだされよ?」

「了解ッ!!!」


 私達の動きに素早く反応して、”目”と”知恵袋”が私達と対峙するように左右に別れました。

 どうやら個々に相手取るつもりの様です。


「そこまでだ、お姉ちゃんッ!!」


 ”目”は、私の正面20mぐらいの位置に静止すると、素早く矢を番えて弓を引き絞りました。


「”山羊のライデン”の五男坊、”山羊の目 ユリアン”がここから先へは進ませないッ!! 死にたくなかったら大人しく帰るんだなッ!!!」

「こっちも退く訳にはいかないんですッ! 私はプリムラ、貴方を倒しますッ!!」





          ◆





「コイツ等……テメェを鮫か何かだと思ってるんじゃないか?」

「貴様の言う事に賛同するのは癪だが、同感だな。 鬱陶しいな」

「お前の”手榴弾(パイナップル)”でも放り込んでやれば、衝撃で浮いてくるんじゃないか?」

「魚を獲るんじゃないんだぞ、それで上手く行くと思っているのか?」

「まあ、ねぇわな……」

「まったく……」


 双子の魔人”双角”は、二人で船を取り囲む様に泳いでいました。

 ヤオトさんとサンドロさんは、いつ襲ってきてもいい様に身構えていましたが、二人を嘲笑うかの様に”双角”は、手を出しては来なかったのです。


「まあ、姉ちゃんとおっさんが上陸するまでの時間を稼げただけでも良しとするか?」

「そうだな……おい、”エテ公”」

「なんだ、”駄犬”?」

「連中の動きが変わったみたいだ。 仕掛けて来るんじゃないか?」

「お前に背中を預けるなんて本当はやりたくねぇが、場合が場合だ。 仕方がねぇッ!」

「それはこっちの台詞だッ! ……来るぞッ!!」


 二人は船の中央付近で背中合わせに立つと、お互いに武器を構えて周囲に意識を集中させ始めました。


「来たッ!!!」


 周囲を回遊していた双子の片割れが突然泳ぐ速度を速めました。

 一気に速度を上げると、先程の様に”垂直に飛び上がる”のでは無く、”その勢いのまま船上の二人に強襲をかけてきた”のです。


「”野猿”、その首貰ったぁぁぁぁぁッ!!!」




 ギンッ




 強襲を受けたヤオトさんは、”双子の金髪(ロッソ)”が繰り出した短剣を寸での所でヌンチャクを盾にして、その攻撃を防ぎました。


「逃がすかッ!!!」




 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ




 強襲の勢いのまま船の甲板を飛びぬけて海へと逃げる”双子の金髪”の背後から、それを逃がすまいとサンドロさんが突撃銃(アサルトライフル)の引き金を引きました。

 何発かは身体を掠めましたが、”双子の金髪”はその攻撃を掻い潜り、再び海へと潜って行きました。


「チッ!!」

「”駄犬”、前だッ!!!」

「ッ!?」


 逃げる”双子の金髪”に攻撃する事に気を取られてサンドロさんは、”時間差で強襲”をかけてきた”双子の銀髪(ヴェルデ)”に気が付くのが一瞬遅れてしまいました。


「…しまっ!?」

「”猟犬”、殺ったぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


 サンドロさんは、咄嗟に銃口を”双子の銀髪”の方に向けようとしましたが、相手の強襲の方が僅かに早く、その手に握られた短剣がサンドロさんの喉元へと迫って行きました。




 ガッ




「ッ!?」

「何ッ!?!」


 サンドロさんの喉元に短剣が突き刺さった……と、思った瞬間、”双子の銀髪”の目の前からサンドロさんの姿がいきなり消えました。


「これで貸し1だ、”駄犬”ッ!!」

「貴様ッ!?」


 すぐ背後にいたヤオトさんが、”一瞬の躊躇も無くサンドロさんに足払いをして転ばせていた”のです。

 そして、サンドロさんが倒れきる前にヤオトさんは”次の行動”を取っていました。

 標的を見失い未だに宙を舞っている”双子の銀髪”の無防備に晒されている胴にしがみついて船上へと引きずりおろしたのです。


「とっ捕まえたぞ、魚野郎ッ!!!」

「ぐ…”野猿”めッ!! 離れろ、離せッ!!!」

「暴れんじゃねぇッ!! おい”駄犬”、”エサ”に吊られてすぐに”金髪”が来んぞッ!!!」

「分かってるッ!! チッ、余計な事を……だが、お手柄だッ!!!」


 サンドロさんは”双子の銀髪”が、ヤオトさんに抑えられているのを確認するとすぐさま身を起こしました。

 突撃銃を右手に構え直すと、銃口の下に取り付けられてた銃剣の鞘を素早く取り外しました。


「……さあ、来いッ!!」


 身構えるサンドロさんの正面で突然水面が弾け、そこから先程の強襲と同じ様に”双子の金髪”が飛び出してきました。


「ヴェルデぇぇぇぇッ!!!」

「ロッソッ!? やめろ、来るんじゃないッ!!!」


 ”双子の金髪”は怒りに燃える眼でサンドロさんを睨み付けながら、短剣を振り上げて襲い掛かりました。


「”駄犬”ッ!!!」




 ザシュッ




「ぐ…!!」


 ”双子の金髪”が振り降ろした短剣は、サンドロさんが身を護る為に振り上げた左腕に深々と突き刺さっていました。

 腕を貫通した諸刃の先から大量の血が滴っているのを見て、”双子の金髪”は僅かに勝ち誇ったような笑みを浮かべました。


「”猟犬”もらっ…」




 ドスッ




 サンドロさんは”左腕に短剣が突き刺さったまま”、右手に持っている”突撃銃の銃剣をがら空きになっている双子の金髪の腹部に突き入れた”のです。


「ぅがッ!?」

「…………死ねッ!!!」


 そして、その状態のまま思いっきり引き金を引きました。




 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ




「ロッソぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」


 ”双子の銀髪”の叫びも虚しく、突撃銃から放たれた無数の弾丸は”双子の金髪”の腹部に無数の風穴を空け、そのまま”胴体を両断”しました。


魔人(デモン)一人始末するのに代償が腕一本とは……割に合わんな」

「き、きさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 自らの半身を目の前で殺された”双子の銀髪”は、叫びと共に押さえつけていたヤオトさんを跳ね飛ばし、その場を飛び上がりサンドロさんの背中へと踊りかかりました。


「ッ!!?」

「やらせるかよッ!!!」


 ヤオトさんは素早く体制を立て直すと、起き上がる勢いのそのままに”双子の銀髪”の背後へと跳躍しました。

 両手に持ったヌンチャクを限界まで引き絞り、”双子の銀髪”の背後に到達した瞬間……




 スパーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ




 小気味のいい快音が周囲に響き渡りました。


「ぐは……」


 ヤオトさんの一撃を”後頭部”に受けた”双子の銀髪”は、”目や鼻から大量の血をまき散らして”飛びかかった勢いのまま、サンドロさんの横をすり抜けて”双子の金髪”の遺骸の上へと転がり落ちました。


「殺ったのか?」

「はぁはぁ……ああ、あの手ごたえは……間違い無く砕いた……」

「世に名だたる”海賊同盟パイレーツアライアンスの七提督”が一人倒すのでいっぱいいっぱいとはな……魔人っていうのは、あんなヤバイ連中ばかりなのか?」

「オレ様が知るかよッ!! ……とはいえ、お前は左腕負傷で、オレ様は疲労困憊と来たもんだ……」

「先に上陸した二人の援護に向かいたいところだが……流石に厳しいか」

「んじゃ、オレ様はちょいと横になるから、”駄犬”の準備が出来たら起こせよ」

「分かった分かった、五分で終わらせるからちょっと待ってろッ!!」






          ◆





「ほっほっほっ、その拳打といい、その身のこなしといい……中々良い腕をお持ちの様で」

「それは”皮肉”で言ってるんですかね、ご老体? 私も割と荒事はこなしている方だけど、”メリケンサックで殴りつけて傷一つ負わない”老人の相手は初めてですよ」

「儂の鱗は”鉄の剣を跳ね除け、鉛の銃弾を弾き返す”。 まるで”伝説に出てくる邪竜の鱗”の様にのぉ」


 そう言い放ち、竜頭の老人”知恵袋”がニヤリと笑みを浮かべました。

 対するエドワードさんは、華麗なステップで翻弄し、”知恵袋”の顔に十数発の拳打を撃ち込みましたが、まるで堪えている様子はありません。


「さて、儂も殴られるだけは飽きましたのでの……反撃させていただきましょうかのぉ」

「そうはさせないッ!!」




 ドコォッ




 ”知恵袋”が動き出す一瞬を狙い、素早く動いたエドワードさんが”知恵袋”の胴体を狙って突き上げる様な拳打(ボディブロー)を繰り出しました。


「ッち……」

「まあ、顔を殴っても駄目だとしたら狙うのは必然的に胴でしょうから、読むのは容易いものです」


 エドワードさんの一撃は、”知恵袋”の鱗に覆われた両腕に阻まれて、胴体までは届いていませんでした。


「ほっほっ、迂闊ですのぉ!!」

「ッチィ!!」




 シュゴゴゴオォォォォォォォォォォォォォォォ




 ”知恵袋”は、動きを止めたエドワードさんに”口から火炎のブレスを吐きかけ”ました。

 咄嗟に察知したエドワードさんは、素早く後方へと下がりましたが、回避が間に合わず服の端々が焦げ軽い火傷を負ってしまいました。


「ほほう、あれを避けるとは……これは手ごわい」

「あつつ……アウトレンジからのヒットアンドアウェイでは威力が足りず、懐に潜り込めば丸焼きか。 さて、どうしたものかな?」

「ほっほっほっ、好きなだけお考え為され。 幸いな事に、儂の役目はこの場での”時間稼ぎ”でのぉ、こうして対峙しているだけで目的は果たしたも同然という訳ですじゃ」

「まあ、ご老体の言っている事が真実かはどうかはさて置き、あまり時間をかけていられないのは間違い無い訳だが……」


 エドワードさんは暫し思案し、意を決すると”先程までと変化の無いステップ”を刻み出し臨戦態勢を取りました。


「やはり向かって来ますか? では、致し方ありませんのぉ……」


 ”知恵袋”はそれに相対するように、”口から赤い炎をチラつかせながら”迎撃の構えを取りました。


「申し訳ないご老体」

「んむ?」

「私ではご老体を”楽には殺せない”様だ。 苦しませてしまったら許して欲しい」

「は、なんと!?」


 そう言うや否や、エドワードさんは目にも止まらぬ素早さで一気に距離を詰めて”知恵袋”の頭に拳打を繰り出しました。




 ガスッ ガスッ ガスッ




 目にも止まらぬ三連撃を繰り出しその後、瞬時に数歩分の距離を後退しました。


「ほっほっほっ、その程度の攻撃は利かないとさ…」




 ガスッ ガスッ ガスッ




 その言葉を言い終わる前に”既にエドワードさんは次の三連撃を繰り出していました”。


「ほっ……な、なん…」




 ガスッ ガスッ ガスッ




「何度やっ…」




 ガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッ




「ば…ばかな…」




 ガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッガスッ




 華麗なステップで”知恵袋”の周囲を動き回りながら、エドワードさんは”豪雨の如く”拳打を浴びせかけて行きました。


「ばぁ……」

「終わりだッ!!」




 グキャァ……




 エドワードさんが最後に放った拳打は、今までビクともしなかった”知恵袋”の”竜麟を粉砕して頭部を陥没させていました”。

 その一撃が致命打になったのでしょう、”知恵袋”の膝が崩れ、そのまま力無く倒れ伏しました。


「昔の戦場では、剣を通さぬ強固な騎士の甲冑に対抗する為にメイスやフレイルといった鈍器を多用するようになったそうだよ。 その強固さ故に奢っていた騎士たちは、甲冑が意味を成さない鈍器の登場で文字通り馬上から引きずり下ろされた訳だ」



「そう、”己の強固さに頼り切っていた”ご老体の様にね……」





          ◆





「はぁはぁ……なんてお姉ちゃんだよ!」

「貴方の弓の腕は素晴らしいものですが、素直すぎます。 どこに矢が飛んで来るのかが分かれば、軌道を読むのはそれほど難しくありません」


 私は”目”と一定の距離を保ちながら戦っていました。

 彼が離れようとすれば同じ距離を詰め、詰め寄ってきたら逆に離れる、そうやって”目”が矢を撃ち尽くすまで繰り返したのです。


「はぁ…やっぱ、お姉ちゃんは強いな。 オイラおっさんの方を相手した方が良かったかな?」

「もう、いいでしょう。 そろそろ、勝負を決めましょうか?」

「そうだな……ここまで追い詰められたら、四の五の言ってられないしなッ!!」


 そう言うと”目”は懐から一個の”小石”を取り出しました。


 ……”小石”?

 …………あッ!!!


「それはッ!?」

「もう遅いよッ!!」


 私が気が付くより一瞬早く、”目”はその”小石”……”小石大のEC(エネクリ)”を素早く口の中に放り込んで呑み込んでしまいました。


「なんて事をッ!?」

「しょうがないだろ? だって、”こうでもしないと”お姉ちゃんに勝てそうもないからな」


 EC(エネクリ)を呑み込んですぐ、”目”の身体に変化が起き始めました。

 身体は全体的に膨れ上がり、身体のあちこちから体毛が生え始めました。

 口からは大きな鋭い犬歯が生え、顔の形も大きく変わって行きます。


 その変化した姿は、サンクトゥスでは”凶暴な亜人種”として知られる”狼人(リュカントロプス)”そのものだったのです。


「んー……やっぱすげぇやッ!! 力が漲ってくるぜッ!!!」

「あ、貴方は……そんな姿になってまで、私に勝ちたいのですかッ!?」

「うん、勝ちたいね。 だって、勝たないと”山羊(とうさん)”も”兄弟姉妹(かぞくのみんな)”も”オイラの今後”も全部無くなっちゃうんだからなッ!!!」


 ”狼人”と化した”目”は、その手に持った弓を投げ捨てると、身を屈めた体勢で私の方へ駆けだしたのです。

 私は素早く身構えると、向かって来る”目”を待ち構えました。


「流石お姉ちゃん、瞬時に反応して来るなぁ……けどッ!!!」

「ッ!!」


 身構えていた私の前から、唐突に”目”の姿が消えました。

 ”目”が私の目の前で”跳躍して私を飛び越えた”事を気が付いた時には、その鋭い爪が私に振り降ろされようとしていました。




 ヒュンッ



 ガキーンッ




「くっ……」

「おお、すげぇすげぇ!! オイラのあの一撃を止めるなんてッ!!」


 その強烈な一撃を何とか受け止めた私は、たたらを踏みながら後ろに下がりました。


 私が動きを追えなかった……。

 弓を使ってた時とは比べ物にならないほどに動きが早くなっている!!

 これが魔人の力……。


「お姉ちゃん、今からでも退いてくれないか? 海賊同盟の提督連中と違って、お姉ちゃんは部外者だろ?」

「……」


 確かに彼の言う通り、私には彼等と”命のやり取り”をやるほどの縁故なんてありません。

 本来なら避けて通れる道なのですが……。


「それは……できませんッ!!」

「なんでだよ? 所詮は”海賊共とオイラ達の戦い”なんだぜ?」

「ここで逃げてしまっては貴方は…貴方達は”この先きっと不幸になる”!! それを見過ごす事は、私にはできませんッ!! それが…」


 そう…魔人になってしまった者は”元に戻る事が出来ない”。

 今の所、救われる道は……一つ!!


「それが、貴方を殺す事になったとしてもッ!!!」

「それがお姉ちゃんの答えか……。 残念だよ」

「私も残念です。 他の出会い方が出来ればどれほどよかったか……」


 私と”目”は、お互い距離を取りました。

 恐らくは、この勝負は一撃……お互い狙うは”必殺”。


 ”目”は先程と同じく低く身を屈めて、飛びかかろうと構えました。

 対して私は、守護棍(スクトゥマ・マルクス)を前面に突きだして防御の構えを取ります。


 それは果たして、一瞬の事だったのか、それとも何十分と向かい合っていたのか……。

 その沈黙を破って動いたのは”目”の方でした。


 ”目”は”地面を這うかの如く低い姿勢”で駆け抜けて一気に距離を詰めてきました。

 恐らく、彼の動きを眼で追えば、先程の様に眼にも止まらぬ跳躍でその見失う事になるでしょう。

 私は”彼の実直な所を信頼して”、構えを崩さずそのままで待ち受けました。

 ”目”は”私の信頼”に応えるかの様に、正面から私に目掛けてその爪を振り上げました。


「ガァァァッ!!!!!」


 爪を振り上げた事により、”目”の姿勢が持ち上がった所を見計らって、私は”一気に身体を落として、全身を捻りながら足払いを放ちました。




 ガッ




「何ぃッ!?」


 ”目”の体勢が崩れて行くのを横目に見ながら、私は”身体の力を振り絞って上空へと飛び上がり”ました。

 そして……瞬時に身を起こそうとしている”目”の”後頭部に目掛けて、私の全体重を乗せた膝蹴り”を放ったのです。




 ゴキャッ




 私の膝に”骨が砕け、肉が潰れる”嫌な感触がしました。

 後頭部に乗ったままの私を引きずり落とそうと、”目”の両手が蠢いていましたが……それもしばらくすると”糸の切れた人形”の様に急に力を失って地面へと落ちました。

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