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新世界の魁  作者: 黒狼
第二章 海賊同盟編
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第十三話 私は貴方の盾ですから

 俺が目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった……。

 って、俺は”また”やっちまったのか……。


「……イチチ、そう言えば…”腹に槍が突き刺さってた”んだっけか……我ながら良く生きていたものだな」


 俺は、恐る恐る槍が突き刺さっていた腹部に触れてみた。

 包帯は巻かれてはいるものの、傷は塞がっている様だった。


 次に左胸に刻まれている刻印を確認した。


「……特に変化は無し。 はぁ……アイツに影響は無いみたいだな……」


 どうやら、俺の無茶でアイツの命を奪う事にならずに済んだようだ……。



 ん?

 ホッとしたのもつかの間、”何かやわらかいもの”が俺に密着している事に気がついた。


「この感触……以前にも覚えが……」


 案の定、俺の”彼女兼婚約者”であるプリムが、俺にピッタリと寄り添うような状態で眠っていた。


 しかも……”全裸”で。


「え……プリム? 裸!? なんで!!?」

「……ん」


 驚く俺の声に反応したのか、眠っていたプリムが瞼を開いた。


「…………」

「お…おい」


 プリムは身を起こすと、無言で俺の身体を触り始めた。

 ってか…お前、自分が全裸だって忘れていないか!?


「傷の具合も、体温も大丈夫そうですね……。 良かった……」

「おいおい、どうしたんだ!?」

「”どうしたんだ”じゃありませんッ!!! カイは腹部の傷と、出血で死にかけていたのですよッ!?」

「そ…それは……」

「私が…私がどれほど心配したと思ってるんですかッ!? 体温が下がって危なかったんですよッ!!!」


 体温が下がって?

 ああ、血を流し過ぎたのか……。


「私が人肌で暖め続けてなければ、死んでいたかも知れないんですよっ!?」

「人肌で……」


 だからそんな格好をしていたのか……。


「俺は、また心配をかけちまってたんだな……。 すまん……」


 俺はそのまま、プリムを抱き締めた。


 ああ、そうか……俺はこの”温もり”に救われたんだな。


「……反省は必要ですけど、御礼なら不要ですよ?」

「え……?」

「だって……”私は貴方の盾ですから”。 守るのは当然です」


 そういって、プリムは誇らしげな顔をする。


 ふう……やっぱり、敵わないな。





          ◆





「おお、小僧!! 無事そうだなッ!!」

「デカブツ、姉ちゃんに感謝しろよ! お前が寝込んでいる間、付きっきりで看病してたんだぞッ!! 畜生、うらやましいッ!!!」


 俺は、プリムの肩を借りて”荒鷲”の旗艦である”グロリア”に設けられた、仮設会議場に来ていた。

 前の会議場は、”海賊狩り”との一戦で半壊していたので使えないのだ。


「どれ……傷の方も問題はなさそうじゃな」

「プリムに肩を借りないと歩くのもキツイんだが?」

「それはそうじゃろう。 何せ、致命傷寸前の傷をワシの術で”強引に再生させた”からのぉ。 再生させた所が馴染むまでに数日はかかろう」

「何はともあれ、カイもプリムも無事で良かったよ」

「ホントホントッ! ボクの目の前で槍をお腹からはやして倒れるんだもんッ!!!」


 姉さんやフリス、ヴィクターにも心配をかけちまったな。


「盛り上がっているところに水を差すようだが、時間も無いのでな。 本題に入りたいのだが良いか?」


 俺達が話しているところに、”荒鷲”が横槍を入れてきた。


「ああ、すまない」


 俺はプリムの手を借りて、手近な椅子に座る。

 俺が席に着いたのを確認すると、”荒鷲”は徐に指を弾いて鳴らす。


「”奴”をここに入れろ!!」


 ”荒鷲”の部下数人に取り囲まれて縄で繋がれた男が部屋に入って来た。

 その姿を見て、隣に立っていたプリムが息を呑む。


 その男には、俺も見覚えがあった……。


「アイツは……何故!?」

「カイは知らなかったのですね。 彼が……ユリウス卿が”海賊狩り”の正体です」

「何だって!?」


 よく見れば、”荒鷲”の部下の一人が一抱えするほどの籠を持っており、その中には”ユリウスの従者”を自称していた白い子竜が入れられている。


 疑い様も無い。

 アイツは間違い無く、プリムの元婚約者の”魔導騎士ユリウス”だった。


 ユリウスは無言のまま、用意された椅子に縛りつけられていた。


「おい、”エンリケ”!! なんでこの野郎をこの場に連れて来たッ!!!」

「”海象(おまえ)”の言いたい事は分かる。 だが、そんな事を言っていられんのも事実だ。 違うか?」

「馬鹿を言うなッ!! この野郎は”敵”だぞッ!!!」


 この場にユリウス…”海賊狩り”が居る事が余程気に食わないのか”海象(セイウチ)”が真っ先に”荒鷲”に食いついた。

 他の提督達も言葉にこそ出さないが難色を示していた。


 ん?


 俺はそこである”違和感”に気がついた。

 提督の数が足りないのである。


 憮然として座る”荒鷲のエンリケ”。

 それに食ってかかる”海象(セイウチ)のシーギスムンド”。

 その光景を呆れ顔で見ている”黒熊のジェラルド”。

 そこには目を向けず、自身の部下に小声で指示を出す”猟犬のサンドロ”。

 そして、俺の様子を見に近寄ってくる”野猿のヤオト”……。


 ”妖狐”と”山羊”がいない……。


「兎も角、この男にも聞かせる話がある。 処遇に関してはその後に行う。 一先ずはそれで納得しろ」


 一方、向こうでは”荒鷲”が”海象(セイウチ)”を何とか言いくるめた様だった。

 ”海象(セイウチ)”は不承不承ながら引き下がった。


「これから話す事を貴様にも聞いてもらうぞ」

「……私は敗者だ。 それを断る権利を持ち合わせていない。 それより、いい加減に私を殺したらどうだ? 今、殺しておかなければ後悔するぞ?」

「そんなに殺して欲しいなら、先ずは話を聞け。 その上でもう一度そのセリフを吐け」


 自身を殺せと言うユリウスを”荒鷲”は冷たく突き放すと、俺達の方に向き直った。


「事情を把握していない者もいるので最初から説明する。 ”裏切り者”が誰なのかが判明した」


 その言葉に俺とユリウスは眼を見開き、他の人々は気まずそうな顔をする。


「それって、今この場に居ない”妖狐”か”山羊”が裏切り者って事か?」

「そうだ、裏切り者は”山羊のライデン”だ。 奴は、自らの直属の部下13名と共に”あの時”の騒ぎに乗じて、奴の旗艦カルキにて逃走した。 他の”山羊海賊団”の団員を置き去りにしてな……」

「じゃあ”妖狐”の方は?」

「”妖狐のフランチェスカ”は、”山羊”の逃走の際に邪魔になったのだろう。 現在は重体で身を起こす事もままならん」

「一応、ワシも治療したのだがな……カイと違って体力がもたない可能性があってのぉ。 命は取り留めたが、完治には相当な時間がかかるんじゃ。 っていうかのぉ、”あれだけ無茶な治療”を受けて”僅か数日”でこの場に来れるお前が異常なんじゃがな」


 異常って……ひでぇ言われ様だな。


「それで、エンリケ提督。 その置き去りにされた団員達はどうしたんですか?」

「奴等は、一ヶ所に集めて軟禁してある。 ”山羊”事について何か知っているか聞き取りをさせている所だ」

「でも、それだと”山羊”が”魔人化”に手を出したって事だろう? なんでそんな事をしたんだ?」

「それについては私から話そう」


 今まで”黒熊”の後ろで大人しくしていたヴィクターの親父さん…エドワード氏が前に進み出る。


「パパは何か知ってるの?」

「知ってるも何も、”その情報をエンリケ提督とジェラルド提督にもたらしたのは私”なのだからな。 まあ、事実確認の為に色々とお膳立てをした事で裏目に出てしまったのだけれどね」


 ッ!? どういう事だ!?


「混乱する気持ちも分かるが、順を追って話そう。 事の起こりは私が”旧知の仲”のジェラルド提督の紹介でエンリケ提督の依頼を受けた事からだ」

「旧知の仲ッ!? パパって”黒熊”と知り合いだったのッ!?」

「彼は元々、ホープランドのブリティッシュ帝国海軍の遊撃艦隊の提督で、”元居た世界からの友人”だよ」

「ふむ、そんな繋がりがあったとはのぉ」

「その、エドワードさんが受けた依頼と言うのは?」

「あー……御二方、話しても大丈夫ですかね?」


 エドワード氏に”荒鷲”と”黒熊”が首を縦に振って応える。


「今更、隠してもしかたあるまい」

「ですね……。 私が受けた依頼と言うのは、”海賊同盟パイレーツアライアンスの内部監査だよ」

「内部監査? ”エンリケ”、何でまたそんな事を?」

「ここ、数か月の事だ。 妙に魔物が増えた事を憶えているか?」

「そう言えば、北の海域の方で蟹の魔物が大量発生していたな」

「そのせいで北の方で二月ほど商売できなかったとカイリの親父がぼやいておったのぉ」

「それが監査と何の関係があるんだ?」

「その増え方がな……不自然だったんだ」

「不自然……ですか?」


 増え方が不自然な魔物?


 確か、魔物と魔人(デモン)は同一存在で、魔物はEC(エネクリ)を体内に取り込んだ野生動物……。

 ……もしかしてッ!!


「誰かが、意図的にEC(エネクリ)を使って野生動物を魔物化させてるって事か!?」

「そう言う事だ。 その時、海賊同盟で大きな仕事を抱えててな、万が一にと言う事でエドを雇って内々に監査させていた、と言う事だ」

「大きな仕事?」

「それは今は関係ないから後で話す」


 大きな仕事とやらが気にはなったが、それを気にしてたら話がそれそうなので”荒鷲”の言う通り、聞くのは後回しにしておく事にした。


「私が監査の為に”山羊”殿が拠点にしていた島に”身分を偽って”潜入した時の事だ。 魔物狩りの拠点になっているその島で、私は偶然見てしまったんだよ」

「見たって何を?」

「”山羊海賊団”の幹部数人が人知れず”掌に乗るほどの蟹”にEC(エネクリ)を与えている所をだよ」

「なぜ、そんな事を……?」

「彼等曰く……”体内にどれだけEC(エネクリ)を取り込めば暴走を始めるか”って事のボーダーラインを測りかったらしいね」


 確かに魔人化には、EC(エネクリ)を一定以上取り込みすぎると”暴走”を起こす特性があったはず……。

 それのボーダーラインって事は……。


「それってつまり……」

「彼等の目的は”人としての意志を残したままで限界まで魔人化をする”事です。 先の客船の虐殺事件も被害者の死体に”魔人化の痕跡”が見られる事からも、この事に関連している事である可能性が高い。 恐らくは……ある程度、動物での実験の目途が立った為に”このタイミング”を狙って人体実験に移行したのではないかと思われます」

「なんて事じゃ……。 こんな忌々しい話は、ここ何年も聞かなかったというのに……」

「所で、”このタイミング”っていうのは?」


 その話を持ち上げると、エドワード氏はチラッと荒鷲の方に視線を向ける。

 ”荒鷲”は、溜息をすると”この事は他言無用”と念を押して話し始めた。


「さっき話に上がった”大きな仕事”の事だ。 その内容は……”教皇国のフィーネ列島から来るEC(エネクリ)を積んだ商船に私掠行為を行う事”だ。 ただ、それだけだと事が簡単にばれてしまうので、”適当に他の船も襲って無差別を装う事”も折込んでな。 しかも、当のクライアントは”人的被害は最小限に”という無茶な注文まで付けて来ている始末だ」


 私掠行為(しりゃくこうい)……確か、”国が背後に立って敵対国の船を海賊に襲わせる”って事だったはず……。


「で、”誰が”こんな”無茶な注文”を”何の目的”でしてきたんじゃ?」

「その辺を詳しく話すのは、流石に勘弁しろ。 俺の信用にかかわる。 ……が、紅玉」

「なんじゃ?」

「一応、貴様にも関わりが無いでもない事だからな。 クライアントの名前だけは話しておこう」


 ”荒鷲”の発言に周囲がざわめき出した。

 その様子を見るに、”海象(セイウチ)”や”黒熊”ですらクライアントの名前は知らなかった様だ。


「”通商連合の麒麟(きりん)”だ」

「「「ッ!?!?!」」」


 ”通商連合の麒麟”?

 そう言えば、東の”雷龍(レイロン)通商連合”には、”幻獣の名を冠した五人の大商人”がいると聞いていたけどその一人って事か。


「あの……フリスさん、その”麒麟”って誰の事だが分かりますか?」

「はは…これは、思った以上に大物が出て来たね。 カイやプリムも名前だけなら聞いた事がある人物だよ」

「俺やプリムでも……?」

「何を考えておるんじゃ、あの”狸”め……。 それに”麒麟”じゃと!? 流石に盛り過ぎじゃろうにッ!!」

「そこに関しては同感だな」


 何か、姉さんと”荒鷲”が微妙な表情だな……。

 それに俺達でも知っている人物?


「”麒麟”……通商連合設立の立役者、”紀伊国屋 ジェイコブ”だよ」

「”紀伊国屋”ッ!? ”六英雄”のッ!!?」

「まったく……あの狸親父は、何を考えておるんじゃ!?」

「この話は、これからの話にはあまり関係ないから、とりあえず横に置いておくぞ」


 ”荒鷲”が今までの話を打ち切って、話を元に戻した。


「今、我々が為さなければならないのは”裏切り者”である”山羊のライデン”とその配下十三名……いずれもそれ相応の力を持つと推測される”魔人(デモン)”を討伐する事だ。 取り逃がせば、我等”海賊同盟”の名誉失墜だけでなく、”魔人の乱”や四年前に現教皇国東部で起きた”魔王戦役”の二の舞になりかねん」


 ”魔人の乱”クラスの惨事になりかねない……予想以上に大事だな。


「現在、”荒鷲”、”黒熊”、”猟犬”の各海賊団を動員して”山羊”の捜索と封じ込めを行っています」

「まあ、部下共の報告によると……奴らは、威嚇以上の手出しをする事無くソンブラ北東部の”カペル島”に籠ったらしいな。 現状、三海賊団合同で四方を海上封鎖している状況だ」


 ”猟犬”と”黒熊”が現在の”山羊”一味の状況を報告する。

 どうやら既に追い込んでいる様だった。


「今なら、俺の艦隊のアームストロング砲の一斉掃射で島ごと粉砕できるがどうする?」

「”魔人(デモン)”は非常に高い”魔法防御”を有している。 この世界(デウス・カルケル)では、”砲弾の爆炎や爆風も魔法扱いになる”」

「あー、そうだったそうだった……。 地道に鉛玉をぶち込まないと効果が薄いんだったな」


 一応、ビームやレーザーの類が魔法扱いになるとは聞いていたけど、爆炎や爆風まで魔法扱いなのか……。


「故に、奴には俺達が直接手を下す!! ”シーギスムンド”、”ジェラルド”、”サンドロ”、”ヤオト”、覚悟があるならついて来いッ!!!」

「「「「応ッ!!!!!」」」」


 現在動ける提督四人は、迷う事無く席を立ちその意に応えた。


「流石に、そこの男には無茶はさせられんが……此方は”妖狐”をやられて人手が足りん。 お前達にも助力を要請したい」

「まあ、事態が事態じゃからな……ワシに異存ない」

「紅玉さんだけ行かせる訳にもいかないでしょう? 僕もお供しますよ」

「後方支援しか出来ないと思うけど、それでも良ければボクもッ!!!」

「娘も行くのなら、行かない訳にもいかないでしょう。 私がただの探偵ではない所をお見せしますよ」


 く……この流れで戦いに参加できないのは、心苦しいな。


「大丈夫ですよ」

「え?」

「私がカイの分まで戦います。 今回は大人しくしててください」

「い、いや……しかし……」

「ご自分の”盾”が信用できませんか?」


 そう言って、満面の笑みでプリムは俺を”睨み付けた”。


「わ、わかったよ。 ”万が一”の時以外は、絶対に無茶をしない。 それでいいか?」

「はい」


 うぅ……なんだか、周りの視線がイタイ気がする……。


「さて、最後に……」


 そう言って”荒鷲”は、今まで黙って話に聞き入っていた”椅子に縛られたまま”になっているユリウスに視線を向けた。


「………」

「色々と思う所があるだろうが……先ずは貴様と取引がしたい」

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