第十一話 ”地”対”光”
「……”海賊狩り”!!」
会議場にいる誰かがその名を口にした。
”眩い光に包まれた竜”……”海賊狩り”は勢いもそのままに、数人の海賊と会場の壁の一部をなぎ倒して再び上空へと舞い上がった。
「ヴィクター、大丈夫か!?」
「う、うん……”野猿”や副長さんは無事?」
「ああ、とりあえずはな……」
「オイ! アレは何なんだよッ!? 何か光ってるバケモノみたいなのが突っ込んで来たけどよッ!!!」
とりあえず”野猿”の言葉は無視して、俺は周りの状況を確認する。
どうやら負傷者は何人か出たが”七提督”は全員無事な様だった。
「野郎ッ!! 舐めた真似してくれるじゃねぇかッ!!!」
部下を負傷させられた事で怒り狂った”海象”は大きな円形の盾を拾い上げて、腰の剣を引き抜いた。
「”シーギスムンド”ッ!!!」
「何だッ!? わしを止めても無駄だぞ、”荒鷲”ッ!!!」
「お前の自慢の”盾”で奴の突撃を止められるかッ!?」
「ガハハハッ!! わしを誰だと思っておるんだ、”エンリケ”ッ!!!」
「援護はさせる! お前が奴を止めろッ!!!」
「言われるまでも無いッ!!!!!」
”海象”は”荒鷲”の指示に鷹揚に頷くと、不敵な笑みを浮かべながら会議場の天井に空いた穴の下へと進み出る。
「”ジェラルド”、”サンドロ”!! 威嚇射撃で奴を”シーギスムンド”の前に誘い出せッ!!!」
「俺をその名で呼ぶのは久しぶりだな”エンリケ”ッ!!!」
「了解だ、”エンリケ”!! 今こそアンタに恩を返す時だッ!!!」
自らの銃器を手に”黒熊”と”猟犬”は会議場の左右に陣取り、銃口を上へと向ける。
「”フランチェスカ”!! 防壁の魔法で負傷者と非戦闘員を護れッ!!!」
「なるほど、それはアタシにしか出来ない事だね! 荒事の方は任せるよッ!! おら、お前等ッ!! とっとと、怪我人をアタシの周りに集めなッ!!!」
”妖狐”は他の海賊団の部下達にも檄を飛ばし、怪我人を自分の周りに集めさせる。
「”ライデン”と”ヤオト”は俺の後ろに付けッ!! 奴が足を止めた所で同時に斬りかかるぞッ!!!」
「やれやれ、こんな大役が回ってこようとは……ならば、気張らなければなりますまい!」
「いいねいいねッ!! こういうのはオレ様向きだぜッ!!!」
右手にレイピア、左手にマスケットを構えた”荒鷲”が”海象”の後ろに立ち、その両脇にグレイブを持った”山羊”とヌンチャクを構えた”野猿”が続く。
「二撃目来るぞッ!!!」
”七提督”が布陣を整えた所で”海象”が叫んだ。
その声に反応して”黒熊”と”猟犬”が自らの銃器のトリガーに指を添える。
「す、すげぇな……」
「基本的に”外敵相手”だとこんなもんだ。 前に”通商連合”の機動艦隊とやりあった時は、艦隊規模でこれぐらいの連携をやってのけてたしな」
「でも、仲が悪かったんじゃないのか?」
「基本、皆同類なんだ。 荒事が大好きで、身内を大事にして、敵には容赦無い」
所謂、”同族嫌悪”って奴だったのか?
俺達が見入っている目の前で、二挺の銃器が唸りを上げて上空に向けて弾丸を吐き出す。
頭が痛くなるほど響き渡る轟音の中で、床に無数の空薬莢が飛び散って行く。
「よしッ! ”海象”殿、そっちに行きますッ!!」
「おう!」
上空を舞う”海賊狩り”は銃弾の雨をすり抜ける様に”海象”に向かって急降下を始めた。
”海象”は左手の盾を頭上に掲げると、短く呪文を唱える。
すると、盾の表面に無数の”文様”が輝きながら浮かび上がる。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
”海象”の雄叫びと、”海賊狩り”の飛来する風切音の中、両者は激突した。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン
激しい爆音と共に、土煙が舞い上がって周りを包み込んだ。
「ぐ……ま、まともに激突したぞッ!!」
「土煙で良く見え……………ウソッ!!??」
薄れゆく土煙の中に”光の柱らしきものを持ち上げている人影”が見えてきた。
目にも止まらぬ速度で突進してくる光の竜…”海賊狩り”を”海象”は、盾一枚で正面からぶつかり強引に止めていた。
正確には”持ち上げているのではなく”、”力で強引に抑え込んで拮抗している”だけだった。
「ぬうぅぅぅぅぅぅッ!!! このわしの”巨人の帯”を持ってしても、止める事が精一杯とはッ!!!?」
「それで十分だッ!!! ”ライデン”、”ヤオト”かかれッ!!!!!」
「承知ッ!!!」
「おおよッ!!!」
”海象”の後ろで控えていた三人が一斉に駆け出した。
”荒鷲”は、”海象”の脇を抜けて正面から
”山羊”は、”海賊狩り”の巨体を大きく迂回して後ろから
”野猿”は、近くの机の残骸を踏み台にして飛び上がり上から
三者三様で”海賊狩り”に一斉に襲い掛かる。
しかし……
『『させんぞ、海賊共がぁッ!!!!!』』
突然、”海賊狩り”が”妙な言葉”で叫びだして、その巨体から周囲に”衝撃波の様なもの”を放ったのだ。
その”衝撃波の様なもの”で襲い掛かる三人を”海象”諸共周囲に吹き飛ばして、その勢いを使って上空へと再び舞い上がった。
「野郎ぉッ!!!」
即座に”黒熊”と”猟犬”が飛び上がる”海賊狩り”に対して銃を乱射するが、すぐに有効射程範囲外に逃げられてしまった。
「チッ!! 皆、無事かッ!?」
吹き飛ばされた四人の中で、”荒鷲”が逸早く復帰して周囲の状況を確認する。
「あたしの方の障壁は大丈夫だよ! あれが激突でもしてこなけれりゃ破れはしないよ!!」
「いててて……あ、頭を打ったけど何とか……」
「あの程度でどうなるほど軟な鍛え方はしておらんわいッ!!!」
障壁を張っていた”妖狐”や、威嚇射撃を行っていた”黒熊”、”猟犬”は問題無く無事だった。
”荒鷲”と同じく吹き飛ばされていた”海象”、”野猿”も軽い怪我を負っているだけの様だった。
「”ライデン”はッ!?」
”荒鷲”達と一緒に吹き飛ばされていた”山羊”は、壁に寄りかかり腕を抑えてうずくまっていた。
「ぐぬぬ……申し訳無い…。 どうやら、不覚を取ってしまった様で……」
腕からは出血をしている。
素人目で見た限りではどうとも言えないが、重傷を負った可能性が高い。
「”海賊狩り”が旋回したッ!! 次が来るぞッ!!!」
上空の”海賊狩り”の動向を注視していた”猟犬”が声を張り上げる。
「どうするんだ、”エンリケ”!?」
「”ライデン”は下がれ。 その傷では死にに行くようなものだ!」
「こんな大事な時に面目無い……」
「”山羊”のおっさん無しでやるのかよ……。 今だって、三人がかりであの体たらくだったのに大丈夫なのか!?」
◆
”山羊”の脱落により、俄かに七提督に動揺が広がっていた。
流石にこの場から立ち去ろうとする者はいなかったが、決定打を見いだせないのか先程の覇気は見られない。
「カイ、まずいかも……。 こんな状態でさっきのを喰らったら、最悪”死人も出かねない”よッ!!」
「……なあ、”海賊狩り”の標的は、あの”七提督”って事でいいんだよな?」
「え? 本当の所はどうかわからないけど……動きからして七提督を狙っているとは思うけど……?」
”海賊狩り”の狙いは”七提督”なら……アイツを止められるかもしれない。
しかし……また”無茶”をする事になるな……。
「なあ、ヴィクター」
「何、カイ?」
「ちょっと、行って来る。 プリムへの言い訳はお前も考えておいてくれ」
「ちょッ!? カイッ!!!」
うかうかしている間にも、”海賊狩り”が”三度目の突撃”を仕掛けてくるかもしれない。
急がないと!!
俺は背中の”魁”を引き抜くと、ヴィクターをその場に置いて駆け出した。
◆
「貴様、止まれッ!!!」
俺が駆け寄って来る事に逸早く気がついた”海象”が俺に剣を向けて静止を呼びかけてくる。
その声に反応して、”黒熊”と”猟犬”以外の提督達が俺の方に視線を向けた。
「貴様……確か”野猿”の後ろに居た男だな?」
「おい、何しに来たんだよッ!?」
「”荒鷲”……いや、”エンリケ”。 アンタに話があるんだ」
他の提督達が訝しげな視線を向けてくる中、”荒鷲”は前に進み出て俺の前に立った。
「”ジェラルド”、”サンドロ”、僅かでいい、時間を稼げ」
「長くはもたんぞ、手短にな」
”荒鷲”は周りに短く指示を出すと、俺と向き合った。
「待たせたな、”ヤオト”の所の客人だったか? それが何の用だ?」
「俺にも手伝わせてもらいたくてな」
「何が目的だ? まさか、俺達に取り入ろうという話なら無謀も良い所だぞ」
「……”神の欠片”……その一つを”海賊狩り”が持っている」
「なん……だとッ!?」
俺の発した”神の欠片”と言う言葉に”荒鷲”は過敏に反応していた。
ああ、そう言えば”荒鷲”は”魔人の乱”で”神の欠片”の現物を見た事があるんだったな。
”荒鷲”は俺の胸ぐらを掴む様にして顔を寄せて来た。
「なぜ貴様にそんな事が分かる? 貴様は”神の欠片”がどういうモノか分かっているのか!?」
「……どういうモノかは以前”教皇”に話を聞いた。 どうして分かるのかに関しては……」
俺はその先を言う事を一瞬、躊躇すると、”荒鷲”の胸ぐらを掴み返して顔をギリギリまで寄せた。
「この先は誰にも言わないでくれよ……。 俺も……持ってるんだ。 ……アンタの言う”神の欠片”を……」
「ッ!?」
「持ってるから分かるんだよ。 ”海賊狩り”を放置するのはヤバいってな……」
俺達にも、海賊同盟にも、この島の人々にも……そして、これ以上力を行使し続ければ”海賊狩り”自身も……。
「……どうやって止める気だ?」
「信じてくれるのか? 正直に言うと、俺なら訝しげに思うけど?」
「貴様の言う事は、嘘を付くにしては”違和感が有り過ぎる”……。 それに……形振りを構っていられる状況でも無い」
もっとプライドの高い男かと思ったが、思ったよりも冷静だな。
「じゃあ、”さっきと同じ状況を作ってくれ”。 ただし、攻撃は俺一人でやる」
「ふむ……”目には目を”という奴か?」
「って言うか……”実戦で使うのは初めての技”なんでな……。 あれだけ早く動いている標的に当てられる自信が無い……」
◆
「で、その小僧は信用できるのか!?」
「分からん」
「はぁ!?」
「だが、嘘を付けるような器用な奴じゃ無いのは確かだ」
「何を根拠にそんな事言うんだい?」
「根が”シーギスムンド”と”同じタイプ”だ。 ”馬鹿正直”で”自分より周りの事を第一と考える”。 まあ、反面他を見て無い所もあるのが玉にきずだな」
「えぇいッ!! 外野は黙っとれッ!!!」
俺の前に盾を構えて立つ”海象”が吠える。
まあ、こんな緊張する中でああも弄られたら、キレたくもなるよなぁ……。
「来たぞッ!!」
光の尾を引きながら、先程よりもやや低い角度で”海賊狩り”が突っ込んで来ていた。
「小僧ッ! 来るぞッ!!!」
「……ああッ!!」
俺は”海象”の後方5mぐらいの位置に立つと、”魁”を逆手に持って”地面に突き刺した”。
これから使う”能力”は、折を見て以前から練習していた”炸裂”…地面を炸裂させて剣を勢い良く振り上げる技…の改良技だ。
もしかしたら、こっちの方が本来の能力な気もしない訳でも無いが、今までの俺にはその”発想”が無くて使えなかった技だ。
要は”イメージできるか”と、”気力がもつか”の問題だと言う事らしい。
「来やがれ”海賊狩り”ッ!!!!!」
俺の目の前で、盾を構えた”海象”と突っ込んで来た”海賊狩り”が再度激突する。
激しい轟音を響かせながら、両者がその場で拮抗した。
「グッ……!!! 今だ、小僧ッ!!!!!」
”海象”の声を合図に俺は地面に突き刺した”魁”に気力を絞りつくさん程のありったけの念を込めた。
その念に反応したのか、俺の足元が僅かに鳴動し始める。
『『ッ!!!!! き、貴様はッ!!!??』』
”海賊狩り”の意識が俺の方に向いた。
恐らく、先程の”衝撃波”を繰り出そうとして来るのだろうが、俺の方が一歩速いッ!!!
俺は”魁”に溜めこんだありったけの念を込めて、その”能力”を”海賊狩り”の”真下の地面”に解き放った!!
「くらえ、”ランドブラスト”ぉッ!!!!!」
ドコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ
”海賊狩り”の真下の地面が盛大な音を立てて弾け、その反動で大量の土砂が”真上に吹き上がった。
『『”地属性魔法”だとぉッ!!?』』
吹き上がった土砂が真上で動きを封じられている”海賊狩り”に激突する。
その衝撃で今まで”海象”と拮抗していた”海賊狩り”が大きくグラついた。
「おっさん、今だッ!!!!!」
「だぁれが”おっさん”だぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
一瞬の隙をついて”海象”が攻勢に出る。
グラついて勢いが弱まった”海賊狩り”を盾で力任せに押し返し、押し出されて動きが止まった一瞬に”海賊狩り”の頭部に向かって渾身の”盾攻撃”を打ち込んだ。
”海賊狩り”は、土煙を巻き上げながら”海象”に押しつぶされる様に地面に叩きつけられた。
「ガハハハハハハハッ!!! 思い知ったか、”海賊狩り”めッ!!!!!」
「”シーギスムント”、ソイツには色々と聞きたい事もある。 殺すんじゃないぞ!!」
「わかっとるわいッ!!!」
どうなる事かと思ったが、何とかなったか……。
まあ、初めて実戦で使う技を使った割には上々だな。
…………最後でしくじらなければ……な?
今、”俺の腹”には、”海象”に殴り倒される直前に”海賊狩り”から放たれた”光の渦の騎槍”が突き刺さっていた。




