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新世界の魁  作者: 黒狼
第二章 海賊同盟編
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第三話 魔導騎士ユリウス

 ”フィーネ列島”最大の島である”カルド島”。

 教皇国”ノルベルト枢機卿”の所領であり、教皇国最大のEC(エネクリ)の産地である。

 また、海洋貿易の拠点にもなっており、西に武王国、東に通商連合にも交易の手を伸ばしている。



「渡航許可書の提示を願えますか?」

「はい、ここに…」


 俺達を代表してフリスが手続きを行っている。


 現在のフリスの恰好は、灰色の背広を着て眼鏡を掛けている。


「一応、確認します。 貴方が”秘書のフリストフォール”さんでよろしいですか?」

「はい、私がフリストフォールです」

「其方のご夫人が”リーザ・グラナート子爵夫人”でよろしいですか?」

「ええ、(わたくし)がリーザですわ」


 紅玉姉さんが、聞きなれない台詞を吐いた。

 外見的には似合っているのだが、普段が普段なだけに俺達には違和感があった。


 姉さんは、大きなスリットの入った青いサマードレス着こんで、ハイヒールを履いている。


「えっと、君が”ヴィクター・ロウ”君かな?」

「うん、そうだよ!」


 ヴィクターは、”設定が男”である以外は普段のままだ。


 被っている帽子はそのままで半袖のYシャツと半ズボンという涼しげな恰好になっている。


「後は…其方のお二人が”切原夫妻”でよろしいですか?」

「…あ、ああ」

「…?」

「すいません、”主人”ってば照れ屋でして……未だに”夫妻”って呼ばれる事が恥ずかしいみたいで…」

「ああ、お二人は”新婚”でしたね。 はは、微笑ましいかぎりです」


 くっ! 何度やっても、このやり取りには慣れない!!


 因みにプリムは、半袖のエプロンドレスを着こなしている。

 流石は、元メイドだ。 違和感が無い。


「はい、結構ですよ」

「お勤めご苦労様です。 では、奥様、参りましょう」

「ええ」


 無事、港での受付を終える事が出来た。

 毎度毎度、偽造の渡航許可書がばれるんじゃないかとヒヤヒヤものだ。


「大分、板についてきたみたいじゃないですか、”奥様”?」

「そのぐらい、”(わたくし)”にかかれば容易い事ですわ」

「ボクとしては、”切原夫妻”の方が心配かな? なんか、ぎこちなくって!」

「あら、ヴィクター。 ”主人”は照れ屋なのですから、これぐらいの方が良いのです。 ね、”あなた”?」

「……本当にお前等、ノリノリだな」


 改めて、コイツ等の”図太さ”がすげぇと思った瞬間だった。





          ◆





 俺達は”フィーネ列島”の島々を巡っていた。

 ”商売の下調べ”の名目で、ヴィクターの親父さんの足取りを追っていたのだ。


 因みに、ヤマトエンパイアの忍者”一文字”は、俺達とは別行動で動いている。


「そろそろお昼時ね。 どこかでお昼にしましょう?」

「じゃあ、あそこのお店が良さそうだよ奥様!! ん~、いい匂いがする!!」

「あらあら、ヴィクターってば! では、あのお店でお昼をいただきましょうか?」

「それでは、私が一足先に席を取ってまいりますね」

「おねがいね、プリム」


 相変わらず、女性陣三人はノリノリで演技していた。

 もはや、こっちが本性ではないかと思い始めて来たぐらいだ。


「おや、浮かない顔をしているねカイ君。 新妻が君の元を離れるのは心配かい?」

「もう、何とでも言ってくれ…」


 女性陣だけじゃなくて、フリスもノリノリだった。

 俺ももうちょっとはっちゃけた方がいいのか?



「離してください!」

「まぁまぁ、悪い様にはしないから俺達と遊びにいこうぜ、お姉ちゃん!」


 俺達がちょっと眼を離した隙に、プリムが地元のチンピラ風の若者三人に絡まれていた。


 どこのどいつだか知らないが、命知らずな……。

 ”神の欠片(ゴットピース)”無しでやれば”俺より強い”プリムにちょっかいを出すとは…。


「カイ君、早く助けに行った方がいいよ?」

「え? だって…必要か?」

「今の彼女の”設定”は”か弱いメイドさん”だよ? ”暴力沙汰は禁止”って取り決めてただろ?」

「あ!?」


 そうだった、すっかり忘れてた!!

 下手に目立たない様にするために、”そういう設定”にしてたんだった!!


 そうこうしている間にもプリムはチンピラ三人に囲まれていた。


「チッ、しょうがねえな!!」


 俺はプリムを助けるために駆け出した。


 ……いや、駆け出そうとしていた。



「いででででででッ!!!」


 ”フードを被った男”が、プリムの腕を掴んでいたチンピラの腕を捻り上げていた。


「て、テメェ!?」

「こんな真昼間からよくそんな狼藉を働けるな、悪党共が!!」

「こ、この界隈で、俺っち達に逆らってただで済むと…」


 ”フードを被った男”は躊躇せずに腰に差した剣を引き抜くと、腕を捻り上げたチンピラの喉元に剣を突きつけた。


「か弱いご婦人に狼藉を働く事自体万死に値するが、この場を貴様等の薄汚れた血で汚す事もあるまい! 死にたくなかったら、すぐにこの場を失せろッ!!」

「ひ、ひぃぃぃ!!」


 ”フードを被った男”は、チンピラの腕を突き放すように離した。


「目障りだ、失せろッ!!」

「く、くそぉぉぉ!! お、覚えてやがれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「「あ、アニキぃぃぃぃぃ!!!」」


 チンピラどもはお約束通りのセリフを吐いて逃げ去っていった。


 ………やべ、出番盗られた!?


「無事か?」

「は、はい。 あの、ありがとうございました!」

「礼には及ばない。 騎士として当然の事をしたまでだ」


 ……何か、出るタイミングを逃した形になっちまった。


「いいの? ”奥さん”浮気しちゃってるよ?」

「ええい、煽るんじゃない! 第一、浮気でもなんでもないだろうが…」


 いつまでもこうしてる訳にもいかないか…。

 とりあえず、プリムを迎えに行く事にした。


「おーい、大丈夫かプリム!」


 俺の声を聴いてプリムがこっちを振り向いた。


「あ、カイ!」

「……プ、リム?」

「はい?」

「もしかして……プリムラか!?」

「え…?」


 …コイツ、プリムの事を知っているのか!?


「私だ、”ユリウス・ルスキニア”だ!」

「ユ…ユリウス?」

「そうだ! まさか、他の世界に飛ばされて君に会えるとは思わなかった!!」


 そう言うと、”フードを被った男”…ユリウスはプリムに抱き着いた。


 なッ!? このやろぉ、俺の彼女に手を出すとは!!


「やめてくださいッ!!」


 プリムは、抱き着いてきたユリウスを引き剥がした。


「なぜだ!?」

「貴方と私は、そういう関係ではない筈です”ユリウス卿”!」

「だって君は、私の…」

「それは…もう、終わった事です!」


 プリムは、ユリウスに背を向けると俺達の所に戻って来た。


 ユリウスをその場に置き去りにして……。





          ◆





 私の事を気遣ってくれたのか、今日の所は早めに宿を取りました。

 皆、私が話すのを待っててくれているのか、昼間の話は出来るだけ話題に出さない様にしているみたいでした。


 その夜の事です。



 コンコン



 私が部屋に一人でいる時に”窓”が叩かれる音がしました。

 不審に思いながらも、私は”自身の武器”を手に窓に近寄りました。


『こんばんは、レディ。 お初にお目にかかります』


 窓の外には、”流暢”に言葉を話す”小さな子供の(ドラゴン)がいました。

 白い鱗で蒼いくりくりとした瞳の可愛い子でした。


『プリムラ様、貴女にお伝えしたい事があってきました。 入れていただいてもよろしいですか?』


 私は少し躊躇しましたが、この子を部屋に入れる事にしました。

 少なくとも、この子には”悪意”を感じなかったからです。


「それで…私とあなたは初対面だと思うのですけど?」

『はい。 ぼくは”主”の命を受けて、貴女の元に参りました。 申し遅れました、ぼくは”ロード・ユリウス”の従者で”ソール”と申します』

「…ユリウス卿の?」

『プリムラ様、どうかぼくと一緒に来ていただけませんか? 主が貴女にお会いしてお話をしたいと申しておられるのです』


 話……私にはユリウスが私に”何を話したい”か、が分かっていました。

 正直な所、気が進みませんでしたが、彼に会いに行く事にしました。


『主は、港の桟橋でお待ちになられてます。 ご案内しますので行きましょう』

「ちょっと、待って貰えますか? 身支度を整えたいので…」

『では、部屋の前でお待ちしています』


 私は、念の為にヴィオレッタさんから貰ったいつも着ていた服に着替えていく事にしました。

 何かあった時に戦えるように備える為と、ユリウスに”今の私”を見て貰う為です。

 服を着替えて、最後にお姉様からいただいたマフラーを首に巻いてから私は部屋を出ました。


『は、離してください!!』

「何なんだコイツは!? 喋るトカゲ? いや、多分ドラゴンか!?」


 ”部屋の前で待っていた”ソール君は、部屋に戻って来たカイに捕まっていました。


『あ、プリムラ様! 助けてください!!』

「ん? プリム、その恰好はどうしたんだ?」

「はは……とりあえず、その子を離してあげてください」


 カイの手を離れたソール君は、ビクビクしながら私の胸に飛び込んできました。

 私はソール君を宥める様に頭を撫でながら、カイに部屋であった事を説明しました。


「昼間あった奴の所へ?」

「はい。 一応、元居た世界の知り合いなので……色々と話を聞いておきたい事もあるんです」


 カイは渋い顔をしました。

 恐らく、昼間にあった事を思い出しているのでしょう。


「俺も行く」


 カイならそう言うと思いました。


『しかし、主からは”プリムラ様だけ”をお連れする様に言い遣っておりますので…』

「そんなのしらねぇよ! こっちには”ついて行かなきゃいけない事情”だってあるんだよ!」


 ついて行く事情……私達の呪いの事を言っているのでしょう。


「ソール君、ユリウス卿には私が取り成しますからこの人の同行を許して貰えませんか?」

『プリムラ様……。 分かりました、貴女がそこまでおっしゃるなら…』


 ソール君の案内の元、私とカイは港の桟橋へと向かいました。





           ◆





 海風と波の音が響き渡る中、その人…ユリウス・ルスキニア卿が待っていました。

 綺麗に整えられた金髪、琥珀色の瞳、そして均整のとれた体躯。

 カイと比べるとやや低めの背丈…。


 私の知る”ウェールス帝国、魔導騎士ユリウス・ルスキニア男爵”に間違いありませんでした。


『ロード、プリムラ様をお連れしました。 …ロード?』


 ユリウスは私達の姿が見えた瞬間から苛立ちを浮き彫りにさせていました。

 原因は……恐らく、カイが一緒にいるからなのでしょう。


「ソール、私は”プリムラだけ”をこの場に連れてこいと申しつけた筈だぞッ!!」

『も、申し訳ありません……』


 私の目の前で、ソール君が目に見えてしゅんとしてしまいました。


「私がソール君に頼んで同行してもらったんです。 ソール君を怒るのは筋違いじゃないですか?」

「ぐ……まあ、いい。 おい、そこの”木偶の坊”! これは”私と彼女”の話し合いだ! 余計な口は出すなよッ!!」


 カイは、ユリウスの暴言が頭に来たのか、その手を背中の剣に伸ばしていました。

 カイが怒るのも無理は無いと思いましたが、ここは私が制して下がっていて貰いました。


「それで、お話とは何でしょう?」

「それは言わなくても分かっている筈だ。 そうだろう、プリムラ?」

「……さて、存じ上げません」


 正直に言いますと、私には彼の言いたい事が分かっていました。

 ですが、私はユリウスの”自分の考えている事は、相手も承知してて当然”という態度が気に食わなかったので知らないふりをしました。


「そんな筈は無い。 何故なら、君は”私の婚約者”なのだからな」

「なッ!?」


 私は”自分の婚約者”なのだと、ユリウスは勝ち誇ったかの様に言いました。

 そして、その言葉に反応して、私の後ろで”怒気が湧きあがる”感触を感じました。


「婚約者…”親同士が決めただけの許嫁”の間違いでは? 少なくとも、私は承諾した覚えはありません」

「親同士が決めた縁談に君の承諾が必要なのか? 君は”今でも私の婚約者”、その事実に変わりはあるまい?」

「……それも十五歳の誕生日までです。 その日にその縁談は”破棄”されている筈です」


 私が”奴隷堕ち”した時点で縁談は破棄されている筈です。

 何故なら、貴族の子弟の婚約者が”奴隷”に身をやつした事実など、貴族の家門にとっては”汚名”以外の何物でも無いからです。


「それに……今の私にはお慕いしている人がいます」

「…なんだとッ!?」

「その方とは、”生涯を添い遂げる”事を誓いました。 私の婚約者です」

「馬鹿なッ!!? プリムラ、私を裏切ると言うのかッ!!!」


 裏切る……それは”貴族としての体面”に関しての言葉の筈です。

 ですが、ユリウスの言った”裏切る”は違う意味を持っていた様です。


 『お前は私の”物”』


 私にはそう聞こえた気がしました。


「そんな事…そんな事は断じて許さんぞッ!!」

「すまねぇ、プリム。 もう我慢できそうにない!」

「カイ!?」


 腰の剣を抜こうとしたユリウスの前に、カイが私を押しのけて立ちふさがりました。


「どけ、木偶の坊!!」

「さっきから黙って聞いていりゃ、好き勝手に言いやがって!! プリムはてめぇの”所有物”じゃねえぞッ!!!」

「貴様には関係の無い事だ、下がっていろッ!!!」

「関係ならある!! 俺がプリムの”婚約者”だッ!!! てめぇの様な”自己中野郎”が”俺のプリム”に粘着してんじゃねえよッ!!!」

「き、貴様の様な木偶の坊にプリムラが……!?」


 暫しの沈黙の後、二つの鞘走りの音がその場に響きました。


 なぜ、そうなってしまったのか……。

 


「”俺のプリム”に手を出した事を後悔させてやる!! この”自己中野郎”がぁッ!!!!!」

「そうか…貴様が”私のプリムラ”を誑かしたのか!! この”木偶の坊”がぁッ!!!!!」


 私が見ている前で、二人は”真剣”で斬り合いを始めたのです。

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