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新世界の魁  作者: 黒狼
第一章 旅立ち編
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第二十三話 意外な盲点

 張氏族長…俺の兄弟子、”子破兄者”に連れられて俺達は中庭の庭園へと足を踏み入れた。


「わぁ……」

「こりゃ、凄いな…」


 月の光に照らされた幻想的な光景が広がっていた。

 庭園の真ん中には池まで作られており、池には橋までかかっている。

 そして、その池の畔に石造りの円卓と椅子が用意されており、そこで銀髪の少女(ティリア)は俺達を待っていた。


「子破様、ご足労をかけて申し訳ありません。 プリムラも、来てくれてありがとうございます」

「い、いえ…先程は大変失礼をいたしました。 どうかお許しください、姫様…」

「さ、二人ともかけたまえ。 弟よ、お前もだ」


 俺達が席に着いた事を確認すると、子破兄者は庭園の隅にひっそりと待機していた家宰を呼びつけた。


「仲考、すぐに酒と料理を。 後、中にいるお客人のお世話も忘れぬようにな?」

「は、心得ております。 では皆様、暫しお待ちください」


 家宰は一礼すると、邸宅の中へと戻っていった。


「そういえば、”こっちの”お嬢様とプリムは知り合いなんだろ?」

「はい。 姫様はオニュクス伯爵家の御令嬢で、お嬢様と同い年になります。 お嬢様の御家であるカルブンクルス大公家とは縁戚にあたります。 

同じお名前だった事もあり、お嬢様が”紅姫(ルベル・レギーナ)”、姫様が”白姫(アルプス・レギーナ)”と親しみを込めて呼称されておりました」


 紅白の姫か……


「プリムラには、紅姫様と共に良く面倒を見ていただきました。 幼い頃はプリムラの様なお姉様が欲しいと、両親に駄々を捏ねたものです」

「あ……姫様のご両親は……」

「はい、両親は……」

「確か……領地を敵国に侵攻されて、その時の防衛戦でご両親は亡くなられたのだったな」

「はい、子破様の仰る通りです…。 私は城が落ちる前に、少数の護衛を伴って落ち延びました」

「確か、大公殿下の領地を目指していたと聞き及んでおりますが……」

「その道中、追手に追いつかれて供の者達とは森の中で逸れてしまいました。 そうして森の中を一人で歩いている時です、突然目の前が真白くなって気を失ってしまいました」

「そして、この世界へ……って事か」

「荒野の只中で目を覚ました私は最初、何が起きているか分かりませんでした。 でも、逸れた供の者の事を思い出して……供の姿を探して、荒野を彷徨いました…」

「そんな彼女がこの”慶楼”についたのがそれから一昼夜後の事だったな。 魔物や蜘蛛モドキ(パウーク)に襲われなかったのは運が良かった」

「御苦労をなされたのですね……」


 話が一段落した所で、家宰が中庭に戻って来た。

 まるで図ったかの様なタイミングだ。


「お待たせさせてしまって申し訳ありません」

「おお、来たか。 客人方の様子はどうだ?」

「皆様、楽しんでいらっしゃいますよ? 帽子のお嬢さんが御二人の事を心配しておられた様子でしたので、”今は落ち着いていらっしゃいます”とお伝えしておきました」

「気を使っていただいてありがとうございます」

「いえいえ、これも務めですのでお気に為さらずに…。 では、失礼いたします」


 家宰は一礼するとその場を辞した。


「では、始めようか。 この様に月明かりに照らされた宴というのも良いだろう?」

「まあ、子破様ったら」

「ええ、素敵だと思います」

「意外と風流だな。 師匠(ウォルフじいさん)の弟子ならもっと大雑把なのかと思ったぜ」

「時と場合によるな。 将兵相手の宴ならもっと豪快にやるが、この場にご婦人方もいるのだ。 それぐらいの気遣いはするさ」

「紳士だな、兄者……」

「カイも紳士って言われてましたよね?」

「あれは、からかわれたんだ…」





          ◆





「じゃあ、兄者の時も指導のやり方は変わって無かったんだな」

「む、(それがし)も武芸十八般を自負していたが、師のそれは二十や三十では足りない程であった。 流石に”鎧の重量をも武器にして”格闘戦を挑まれた時には生きた心地がしなかったがな」

「えっと、それは”全身金属鎧”で素手格闘をしたって事ですか?」

「いや、打撃だけではなく”絞め技”、”極め技”もありでだ」

「相変わらず規格外な爺さんだな、俺等の師匠は……」

「子破様程の武人がそれほどまで言われるとは、そのお師匠様は余程すごい方なのですね」


 ふと、何かを思いついたのか、子破兄者が俺の方に視線を向けた。


「このままただ話をしているだけというのも味気無いと思わんか、弟よ?」


 ああ、やっぱりこの人も”師匠(ウォルフじいさん)の弟子”なんだな。


「年若い女の子の前でやる事か?」

「私は元々武門の出ですから、興味ありますよ?」

「私も、子破様の演武を見せて頂いてからですが、興味があります!」

「だ、そうだぞ? それとも兄が怖いか?」


 あー、この女子どもは……


「あんまり期待に応えられないかもしれないぞ。 それでもいいなら、一手相手させて貰う」

「では、しばし待っててくれ。 支度をしてくる。 仲考!」

「お呼びですか、旦那様」


 どこで待機していたのか、いつの間にか家宰が立っていた。


「弟と組手をする。 すぐに支度を整えよ」

「着替えの方は、既にお部屋にご用意してあります」

「うむ、相変わらず手際が良いな。 それでは某が着替えてくる間に弟の武器を見繕っておくようにな」

「御意に」

「では、暫し席を外す」


 そう言うと子破兄者は、邸宅の中に入って行った。


 しかし……本当に有能だな、家宰。





           ◆





 十分程が経った頃、子破兄者は邸宅から出て来た。


「おお、カイ。 何やら面白そうな事をやるそうじゃな? ワシ等も見に来たぞい」


 兄者の後ろから紅玉姉さん達もついて来ている。


「待たせたな、お前の方は準備は良いか?」

「ああ、いいぜ」


 兄者は動き易そうな着物に着替えて長物…師匠(ウォルフじいさん)と同じ武器、”斧槍(ハルバード)を持っている。

 俺の方は恰好はそのままで、家宰に用意してもらった大振の直剣を持っていた。


師匠(ウォルフじいさん)と同じに斧槍(ハルバード)を使うんだな」

「うむ、元々長柄は得手だったからな。 だが、某の斧槍は師のそれとは質が違うぞ。 同じだと思っていたら痛い目に遭うと知れ!」


 俺達はお互いに距離を開けて向き合う様に立った。


「では、始めようか… 張 子破、参るぞ!!」

「手加減は無しだ! 切原 魁、受けて立つッ!!!」



 ガキィィィィィンッ



 俺の振り降ろす剣と、兄者が繰り出す斧槍がぶつかり合って火花を散らす。


「某に打ち負けない…大した膂力だ!!」

師匠(ウォルフじいさん)よりは軽い……が、速いッ!!」


 お互いに一度距離をとって武器を構え直す。


(こりゃ、油断した途端に持って行かれるな…)

「それでは…これはどう受ける?」


 兄者は脚を薙ぐ様に薙ぎ払いを放つ。

 俺はそれをバックスッテプで躱して、更に距離を取った。


武器(えもの)のリーチをよく理解している…。 ならばッ!!)


 俺は横に回り込むように駆けた。

 兄者はそれに反応して突きを繰り出す。


(そこだッ!!)


 俺は突きを最低限の動きで躱して、一気に間合いを詰める。


「もらったぁ!!!」

「甘いわッ!!」


 斬りかかろうとした俺の横にあった斧槍の柄が横に薙ぎ払われた。



 ガコーーーンッ



 柄で薙ぎ払われて、地面に転がる。

 地面に転がった俺の首に斧刃が突きつけられた。


「勝負ありだな」

「速さだけじゃ無かったんだな…。 見通しが甘かったぜ」

「師の教えを受けたのだぞ? この程度の膂力が付く位当たり前だ」

「はは、違いない!」


 兄者は俺に手を差し伸べて起こしてくれた。


「この程度では物足りぬだろう。 もう一手どうだ?」

「いいぜ。 今度は負けないぜ!!」


 俺達は、再び向き合って武器を構え直した。





            ◆





「荒削りだがいい腕をしている。 師が気に入るのも分かるな!」

「そういえば、ウォルフさんは”見どころがありそうな若者を見るとしごきたくなる”癖があったんでしたね」

「ああ、厄介な癖だよな……」

「そのおかげで強くなれているのだ、文句を言うものじゃないぞ?」

「ふふ…そういう子破様も、カイ様の事を大層お気に召されたみたいじゃないですか?」

「む、某は兄弟姉妹がいなかったのでな、本当に弟が出来た様で嬉しかったのかもしれぬな」


 俺には兄も弟もいたが、兄弟との関係は冷めていたからな。

 子破兄者の様な兄がいたらどれほどよかっただろうと、思ってしまうな……


「おお、そうだ。 弟よ、良かったら武王国に”仕官”してみる気は無いか?」

「まぁ、そうしたら御兄弟一緒にいられますね!」


 仕官……この世界(デウス・カルケル)に居残って、武王国に根を張るって事か……


「だが、俺には…」

「分かっている、やる事があるのだろう? 何も答えを急ぐ事では無い」

「それなら、今はやらなくちゃならない事に専念させて貰う。 その事についてはそれから考えて見るよ」

「そうか、ならばそれ以上は言うまい」


 その内、俺の身の振り方も考えないとな…

 でも、その前にやる事がある。

 その話は、それが終わってからでいいだろう。


「そういえば、兄者はどうして武王国に仕える事になったんだ? 兄者の腕前と人柄なら引く手数多だろう?」

「師と旅をしている時期に武王陛下に謁見した事があったのだ。 その時に陛下に気に入られてな、是非にと誘われたのだ。 陛下とは妙に気が合ってな、師の許可をいただいて仕える事になったのだ」

「今では子破様は、”武王国五将軍”の一人に数えられているのですよ! 確か渾名は……」

「”銀騎将 張 子破”…。 他国でもその武名は轟いているね」


 ”五将軍”、”銀騎将”……

 なんか、凄いな。 子破兄者は…


「い、いやいや、某等どたかが知れている。 武王陛下の武勇や、陛下からお聞きした師の過去の武勇に比べれば、某の武勇等児戯に等しき事」

「ウォルフ爺の過去の武勇のぉ。 あの爺はあまり過去の事を話さんかったから興味あるのぉ!」

「確かにそうですね。 私達が以前過去についてお聞きした時、”所詮老人の戯言じゃ、気にするな”とはぐらかされてしまいました」


 そう、俺もプリムも師匠(ウォルフじいさん)の過去を殆ど知らない。


「確か、師は”今は無き”辺境の王朝の末王子だったとか。 幼い頃は”妾腹の末子”と言う事で色々辛い目に遭わされたそうだ」

「武王だけじゃなくて、そのお師匠様も王子様だったんだ」

「”今は無き”と言う事は、ウォルフさんの国は滅んでしまったのでしょうか?」

「そうらしいな。 師がこの世界(デウス・カルケル)に来て”五十年程後の時代”に内乱で弱り切った所を他国に滅ぼされたらしいな」


 え……? 何だって!?


「五十年後に滅んだって? なぜそのような事が分かるのじゃ?」

「それは、武王陛下が”師の生きていた時代より百年以上後の時代から来た”からだそうです」

「へぇ…”同じ世界から来て、時代がずれている”なんて事があるんだね」


 同じ世界から来て、時代がずれている……


 もしかして……


 ”同じ時代から飛ばされて、この世界(デウス・カルケル)の違う時代…時間に現れる”って事も?


「あーーーーーーーッ!!! ま、まさかそんな事が……」


 俺は思わず叫びだしていた。

 皆、驚いて俺の方を振り向く。


「ヴィクターッ!!!」

「な、何ッ!?」

「お嬢様の調査情報を纏めたメモ張持ってたよな? ちょっと貸してくれ!!」


 俺はヴィクターが慌てて出したメモ張を引っ手繰ると、ページをめくり始める。


 探す項目はかなり最初……”合衆国内での調査報告”だ。


「カイ、一体どうしたんですか?」

「もしかしたら…もしかしたらだけど、俺達はとんでもない見落としをしていたのかもしれないッ!!」

「見落とし…ですか?」


 合衆国内でティリアという名前の女性は戸籍上で五人。

 皆、”年齢が合わない”という理由でスルーしていたけど……



 もし、”プリムよりだいぶ前にこの世界(デウス・カルケル)に来ていた”としたら……


 そして、俺の指はある一点で止まった。


「スターズ合衆国 オレルアン州オレルアン在住 元冒険者 ティリア ………に、二十二歳……」

「そうか!! もし、プリムのお嬢様がプリムより九年前にこの世界(デウス・カルケル)に来ていたとしたら……現在、二十二歳!」

「え……で、では?」


 呆然としている皆の前で、俺は興奮気味に言った。


「俺の仮説が正しければ……”この”ティリアって人が”プリムのお嬢様”かもしれないッ!!!」

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