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新世界の魁  作者: 黒狼
第一章 旅立ち編
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第二十二話 黒狼の長兄

 港町バイアを出発したその日の夕刻、目的地である”慶楼”に到着した。


 四方を高い壁に囲まれた三国志なんかで御目にかかる様な”中華風の城塞都市”だ。


「わぁ…色んな所を旅してきたけど、こんな街は初めて見るよ!!」

「ワシの故郷である”四神乃地”では良くある城じゃよ。 噂では聞いていたが、本当に城ごと落ちてきとったんだのぉ!」

「とりあえず、街に入る時に衛兵に聞いてみるか? この街並みの中なら”銀髪で紫の瞳”って特徴は目立つだろうし」

「そうですね」


 俺達は城門前で止められる。


「む、冒険者か?」

「ああ、そうだ」

「荷物の運搬を請け負ってこの慶楼に訪れました。 これが依頼書の写しです」


 フリスが衛兵に”フリス個人が請け負った”仕事の依頼書を提示する。


「本物の様だな。 一応、全員の身分証を確認したい、提示願えるか?」


 言われた通りに俺達は冒険者証明証を提示した。

 衛兵は証明証の認識番号を素早く控えると、隣の同僚に渡して何事か指示していた。


「一応、冒険者協会の支部の方に確認を取るので数分程ここで待っていてくれ」

「もうすぐ日も暮れるから手短に頼むぞ」

「あの、少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「何かな、お嬢さん?」

「この街で”銀髪で紫の瞳”の十三歳ぐらいの少女を見ませんでしたか? ティリアという名前なんですけど……」


 プリムは待ち時間を利用して衛兵に話を聞いてみる様だ。


「これで知ってたら苦労は無いよねー」

「まったくじゃ」

「もしや……あの少女であろうか?」


 衛兵は思い当たる節があった様だ。


「御存じなのですかッ!?」

「君の探す少女かどうか分からんが、その特徴のティリアという名の少女なら二ヶ月程前にこの街に流れ着いて今はこの街の主である”(ちょう)氏族長”の邸宅に滞在している筈だ」

「二ヶ月前……」

「俺達がこの世界(デウス・カルケル)に来た頃と同時期だな。 これは当たりかもしれないな!」

「あ、あの! 張氏族長にはお会いできますか!? その方は、私の主かもしれないんですッ!!!」


 俺とプリムは、衛兵に事情を簡潔に説明した。


「ふむ、お嬢さんのご主人様か…。 確かにあの少女には何処と無く気品があった様に思えたが、そういう事だったか……」

「さっき言ってた仕事は別件なんだけど、何とかならないか?」

「我等の一存では何とも言えん。 先ずは氏族長に確認を取ってみよう」

「あ、ありがとうございます!」

「では、詰所の方で待っていてくれ。 すぐに確認を取ってくる」


 そう言うと、衛兵の一人は馬に跨り街中へと駆けていた。





              ◆





 待っている間にフリスが依頼の荷物を届けに行って、残った俺達は衛兵の詰所で茶を御馳走になっていた。

 俺達四人と待機中の衛兵三人の合計七人で卓を囲んで俺達が今までしてきた旅の話等をしていた。


「離れ離れになったお嬢様を探して、合衆国から教皇国、そして武王国へ…か。 大変だったんだな、お嬢さん」

「はい。 ですが、私はお嬢様に大きな恩義がありますし、何よりお嬢様をお守りするとお誓い申し上げましたから……」

「おお、大した忠義心だ! 君の様な忠臣に恵まれて、そのお嬢様もさぞ鼻が高かろう」

「そう言っていただけると、とても光栄です」


 話が盛り上がっている所でフリスが返って来た。


「ただいま。 もしかして、待たせてしまったかい?」

「おかえりー」

「いや、まだ戻って来てないぜ」


 もうすぐ日が落ちる頃合いだが、確認に出た衛兵は未だに戻っていなかった。


「流石に今日中に会うのは無理があったかのぉ?」

「まあ、いきなりだったからな」

「んー、じゃあ今の内の宿を取っておいた方がいいかな? おじさん達のオススメの宿屋とかってあるかな?」

「あるにはあるが……まあ、もう少し待って見てくれ」


 それから数分後、確認に行っていた衛兵が戻って来た。


「お待たせして申し訳無い」

「どうでしたか?」

「氏族長は君等に会われてくださるそうだ。 『折角なので夕食に招待したい』とお言葉を預かって来た」

「ほぉ、中々に好意的な御仁じゃな!」

「もう間も無く食事の準備も整うとの事。 準備がよろしければ、(それがし)が氏族長の邸宅に案内しよう」


 なんか、トントン拍子で話が進むな。

 教皇国では、色々とめんどくさかったのに……お国柄か?





        ◆





「ようこそいらっしゃいました。 私は当家の家宰を務めさせていただいている”(よう) 仲考ちゅうこう”と申します」


 氏族長の邸宅の前で”楊”と名乗る初老の男性が出迎えてくれた。


「これはご丁寧に……」

「かさい?」

「”家宰”というのは、言うなれば”執事”じゃな。 家の使用人を取り仕切る者のことじゃ」

「どうぞ中へ、既に主が支度を整えて皆様のお越しをお待ちになられています」


 家宰に案内されて俺達は邸宅の中の部屋へと通された。


 部屋に入ると一人の長身の男性が俺達を出迎えてくれた。


 歳の頃は20代後半ぐらい、黒髪で口髭を生やした偉丈夫だった。

 直垂(ひたたれ)という礼装を着込み、腰には見事な意匠の直剣が下がっていた。


「よくぞ参られた、お客人。 (それがし)は、姓は”(ちょう)”名は”(かい)(あざな)は”子破(しは)”と申す。 この慶楼の太守にして、”慶楼氏族”を束ねる長だ」

「えーと、あざな?」

「字とは、表向きに使われる名の事じゃ。 ワシの故郷の世界では、”本来の名を他人が口にするのは失礼にあたる”事なので注意せいよ?」

「この度はお招きいただきありがとうございます。 プリムラと申します」

「一応、この連中のリーダーをやっている切原 魁だ」

「ボクはヴィクトリア・ロウ。 愛称はヴィクターだよ」

「僕は冒険者兼運び屋のフリストフォールです。 お目にかかれて光栄です、張氏族長」

「ワシは紅玉じゃ。 今宵はよろしく頼むぞ」

「おお、貴女が”仙女”紅玉娘々か。 噂は師より聞き及んでおります」

「ん? ”師”じゃと?」


 まさかここでも紅玉姉さんと繋がりがあるとは……


「ええ、”魔人(デモン)”を討伐し人々を導いた”六英雄”が一人”黒狼シュヴァルツ・ウォルフ”。 それが我が師です」

「ほう、ウォルフの爺にこの様な立派な弟子がいようとはな!」

「シュヴァルツ・ウォルフというと、紅玉さんの昔の仲間だったってあの?」

「うむ、尤も現在はその名を捨て、他の名を名乗っている。 その名は……」


 あー……そんな気はしてたんだが……


「……”古狼(アルト・ウォルフ)”か?」

「あッ!!」

「む? 君は我が師を存じているのかね? 確かに我が師は現在”古狼(アルト・ウォルフ)”と名乗っているが…」

「って事はだ……」

「つまり……カイと張氏族長は、”兄弟弟子”という事ですか!?」


 まさかこんな所で”兄弟子”と巡り合うとは……世間(デウス・カルケル)は意外と狭いのかもしれない。


「おお、では君は某の弟弟子になるというのか!」

「まぁ、そうなるのかなぁ? 一月程しか指導は受けて無いけど……」

「”あの”師の指導を一月耐えられたのなら大したものだ! 話によれば大半の者は三日と持たないと聞いていたからな!」


 いきなり基礎無しで、あの化け物爺(ウォルフじいさん)相手の実戦形式の組手”だけ”だからなぁ……

 思い出しただけでも何十回叩きのめされた事か……


「おお、こんな所でいつまでも立ち話も何だな。 ささやかながら宴の支度をしてあるので、酒でも酌み交わしながらゆるりと話そうではないか!」

「い、いや…それよりも!」


 そう、俺達はプリムのお嬢様を探しに来ているはずだ。


「うむ、ティリア殿も其方に居られる。 宴を始める前に引き合せよう」

「あ、ありがとうございます、張氏族長!」






            ◆





 俺達は張氏族長に誘われて、宴の支度が整っているという大広間に入った。


 部屋の中央に、女性物の中華風の着物を着た長い銀髪の少女が立っていた。


「……ティリア様? ティリアお嬢様ですかッ!?」


 プリムの声に少女は此方に振り返る。


「ッ!? ……貴女は……」

「カルブンクルス大公閣下の御息女、ティリア様の傍使いの奴隷”プリムラ”ですね? 私を覚えておられますか?」

「……オニュクス伯爵の御息女、ティリア・オニュクス姫……」


 オニュクス……どうやら人違いだった様だ。


「ごめんなさい……がっかりさせてしまいましたね」

「いえ…いえ、そんな!! ティリア姫様もこちらの世界(デウス・カルケル)に来られていたのですね。 御無事で何よりです……」


 そんな言葉とは裏腹に、プリムの肩は震えていた。


「はあ、しょうがねぇか……。 すまんが宴の方、先に始めててもらっていいか?」


 俺はそういうと、プリムの手を取った。


「あー、”そっちの”お嬢様も気を悪くしないでくれ。 アンタは悪くないから」

「は、はぁ…」

「カイ、どこ行くの?」

「”吐き出させてくる”!」


 ヴィクターの言葉にそれだけ答えると、プリムの手を引いて庭へと出た。


 本当はこういうのは、ヴィクターか紅玉姉さんに任せた方がいいんだろうけど、”バイアの一件”もあってか放って置けなくて身体が勝手に動いていた。





          ◆





 俺はプリムを庭の隅まで連れて行くと、俺の正面に立たせて向かいあった。


「……カイ?」

「ったく……痛々しくて見てらんないんだよッ!」


 そう言って、プリムを抱きしめて顔を胸に埋めさせる。

 奴隷市の時の様に……


「……今なら誰も見ていない。 弱くなっても大丈夫だ」

「で、でも……カイがいます……」

「俺はお前が弱いの知ってるから問題無い。 ……いいから、な?」

「カイ……ぅう……」


 俺の胸にプリムの嗚咽が響いてくる。


 まったく、コイツはどんな無茶してるんだ……

 本来ならあの場で泣き崩れててもおかしくないのに…



 俺はプリムが落ち着くまで、そのまま抱きしめ続けた。





           ◆





「あー、落ち着いたか?」

「は、はい……あの、ありがとうございました… 胸、貸してくれて……」


 ま、まずい……気まずくて顔が見れない…


「でも、結局見つかりませんでした……」

「なに、まだ見つからないと決まった訳じゃ無い。 また手がかりを探して旅をすればいいさ。」

「カイ……ありがとうございます…」

「気にするな。 好きでやっている事だ…」

「はい! ……所で、何でそっぽを向いて話しているのですか?」

「気にするな、何でもないから」


 気まずくて正面向けないとは、とてもじゃないが言えない…


「おや、お邪魔だったかな?」

「ッ!?!」


 不意に後ろから声がかかり、俺は慌てて振り向いた。


「あ、張氏族長…」

「心配になって様子を見に来たがどうやら杞憂だったようだな」

「御心配をおかけしました……」

「う、宴を放り出して悪かった…えっと、氏族長」

「気にするな、某もお前と同じ立場なら同じ事をしていた。 それから、我等は兄弟弟子なのだ。 肩肘張らずにもっと自然体で話して良いぞ、弟よ」

「お、弟?」

「うむ、弟子にとって師とは、親も同然。 ならば、我等は兄弟と言えよう」

「なるほど…それなら……”兄者(あにじゃ)”かなぁ? それが一番しっくり来る気がする」


 何というか、世話焼きな兄だな。


「プリムラ殿、よろしいかな?」

「はい、何でしょうか?」

「ティリア殿が貴女にお話ししたい事があると言っているのだが、話を聞いていただけるかな?」

「あ、そうでした…。 姫様にも失礼な事をしてしまって……私からもお詫びをさせていただきたく思います」

「む、そう言って貰えると助かる。 先程から気が気で無いらしくてな、落ち着かない様子だったのだ」

「そうでしたか、それは申し訳ない事を……」

「ああ、いやいや。 そこから先は、当人に言ってやってくれると助かる」

「はい、分かりました」

「では、二人ともついて来てくれ。 向こうでティリア殿を待たせてある」


 俺とプリムは子破兄者に案内されて中庭の庭園へと足を踏み入れた。

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